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其の四 怪盗は予告状を出さない

「それにしても、予告状って何のために出すんですかね」

探偵助手は、素朴な疑問を口にした。


 調査報告書を纏めながら、ココアを啜る優雅な昼下がり。

 まあ、報告書を絶賛作成中である以上は普通に仕事中なんだけど、そんな中でもこういうティータイムじみた時間を取れるというのも悪くはない。


「サクラギさん! サクラギさん! 郵便受け! これ!」


 悪くは無かったんだ……。

 おのれ自称助手。どこまでも私を邪魔する気か。


「はあぁ……。アンドウ君、君はもっと風情というものを楽しみたまえ。もしくは空気を読むスキルを身につけたまえよ」


「そんな場合じゃないんですって! サクラギさん、大変ですよこれはもう事件ですよ!」


「何がだい?」


 えーっと、郵便受け? ってことは依頼か何かなのだろうか。アンドウ君が好むような殺人事件を私に回されても嫌だなぁ。もしそうならいつものように警察に丸投げだ。


「見せたまえ」


 アンドウ君が手に持っていた封筒をひったくる。中に入っていたのは一枚の便箋と二枚のチケット、そして一枚のカード。

 とりあえずカードの方は置いといて。ちょっと見たくないものが目に入ったけど見なかったことにして置いといて。便箋の方に目を通す。


「なになに、『招待状。名探偵サクラギ様、及びその助手のアンドウ様。この度は、名探偵として名を馳せるサクラギ様御一行を私の主催する船上パーティに招待したく存じます。同封したカードを見れば興味を持って頂けると存じます』……何これ、悪戯?」


 便箋をアンドウ君に押し付けて、チケットとカードに目を向ける。

 チケットの方は、便箋にもあった通り船上パーティの参加券。偽装でもないみたいだ。悪戯にしては手が込んでいるというか、金がかかり過ぎている。

 次に、カード。残念ながら改めて見直してもさっきチラッと見えたものは間違いなかったみたいで。


『船上パーティーにて展示される伝説のダイヤを頂きに参ります。怪盗R』


「そうなんですよ怪盗からの予告状なんですよ! サクラギさんの活躍を世に知らしめるまたと無い機会ですよ!」


 予告状、と言われてもねぇ。

 怪盗Rなんて奴はさっぱり知らない。面識がないどころか話題になっているところすら見たことがない。

 ま、聞いたことがある奴だろうとどうでもいいけれど。


「バカバカしい。行きたいなら勝手に行きたまえ、私は止めないよ」


 その間アンドウ君が事務所にいないというなら願ったりだ。


「あれ、サクラギさん興味ないんですか?」


「興味も無いが、それ以前に出向く必要が無いさ。だって事件の犯人はもうわかっているのだし」


「え、そうなんですか!?」


 こんなもの、少し考えればすぐに答えは出る。名探偵がいなかろうとすぐに警察の手で解決するだろう。

 まあ、でも。私をダシに使われるというのは癪だな。


「そうだね、アンドウ君は荒事は大丈夫だったかい?」


「あ、はい! バリツを習ってます!」


 何やら変なワードが出たが、スルーだスルー。


「なら、このパーティ参加してきたまえ。それで、犯人から目を離さないようにして欲しい」


「犯人って誰なんです?」


「何かが起こった時は、それを起こすことで得をする人間を疑いなさい。この()()事件の犯人は──」


 そう言って、チケットをヒラヒラと振ってみせる。


「この招待状の、送り主だよ」






 さて。

 怪盗からの予告状。その通りに窃盗が行われたとしよう。

 犯人は誰か? 言うまでもない、怪盗だ。

 事件が起こった後最終的にどうなる? 怪盗が姿をくらまし、ダイヤが無くなる。


 ……ということに、なってしまう。


 怪盗というキャッチーな話題によって誰もが忘れてしまう。

 差出人の姿を見られずに予告状を用意することも。警備と共謀してダイヤを盗み出すことも。初めから存在しない怪盗の姿を消すことも。

 主催者なら簡単にできるということに。

 その上で窃盗事件が起きた時に得をするのは誰か。ダイヤを手元に残したまま保険金が手に入る主催者だ。


 故に。名前を見忘れたから彼か彼女かわからないけれど、主催者その人がこの詐欺事件の犯人なのである。






 ……と、思ってたんだけどなぁ。


「……マジか」


 あれから数日。その日の依頼を片付けて、何の気なしにテレビをつけた時だった。


『そんな、僕大したことしてないですよ! すごいのは事件が起こる前に全てを見抜いていた名探偵のサクラギさんです!』


 テレビのスピーカー越しに聞こえてくるアンドウ君の妄言が耳に入らないくらいに、ニュース番組のテロップに意識を奪われる。

 海外で世間を騒がせていた怪盗R逮捕。それが、今やっているニュースの概要である。

 少し冷静さを取り戻してからニュースの情報に耳を傾けたところ、どうやら数日前に届いた招待状の送り主……()便()()()()に扮していた彼が怪盗の正体だったそうで。届けられた日に彼とすれ違ったアンドウ君がその顔を覚えていて、船上パーティに紛れ込んでいた同じ顔を捕らえてみせたとか。


 怪盗の実在だとか、本当に何もしてないのにニュースで大々的に報じられてる私の名前とか色々言いたいことはあるけれど。


「アンドウ君、すげーなぁ」


 何故そのやる気と記憶力と行動力と胆力と体力と幸運を普段から活かせないのか。




 怪盗とアンドウ君の考えてることはわからん。


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