其の三 殺人は連続しない
「やったのは俺じゃない」
殺人犯は言い逃れをするかのように真実を口にした。
「最近、物騒だねぇ」
新聞の三面記事を見ながら、そう呟く。
そこに掲載されているのはとある殺人事件の記事。探偵じゃなくて警察が、絶賛捜査中の事件だ。
「何があったんですか?」
「殺人事件だよ。今月に入ってこれで三度目だ」
被害者は共通して、何やらアートじみた方法で遺体を加工されているらしい。ちなみに、この記事に加工前の姿で写真が載っているのは、今抱えている依頼の対象者であった家出人。ああ、悔やましい。
「ふむふむ。連続殺人犯『アーティスト』……つまり、名探偵であるサクラギさんの出番ってことですね!」
「嫌だよ危ない。それに、そんな三面記事に騙されるものじゃ無いよ。そりゃあ、週刊誌よりは信憑性あるだろうけどね」
新聞を丁寧に折りたたんで、机の傍に寄せる。
「そうだね、アンドウ君。君はさっきの記事を見て……どんな犯人だと思った?」
「どんなってそりゃ……頭のおかしい自己陶酔野郎ですよ!」
「四十点。まあ新聞もそう報じているし、考え自体は間違いじゃ無いだろうね」
「そんな、赤点ギリギリじゃ無いですか」
本当は新聞に書いてあったことをそのまま口に出したアンドウ君には赤点を付けたいところだけど、情報を見つけるのも記憶するのも立派な技能だ。そういうことにしておこう。
「じゃあ、アンドウ君は『何で』だと思った?」
あえて、何をとは言わずにそう聞く。
「何でそんなことしたかって……頭のおかしい奴の考えてることを僕がわかるわけないじゃないですか」
君も大概頭のおかしい奴だよ。まあそれはさておき。
「違うよ、アンドウ君。そこじゃない。君は……『何で、時間を開けて連続で殺人事件を行なって、あるいは行えている』と思ったんだい?」
「犯行方法が似通っているって書いてあったじゃないですか」
カンニングを白状しちゃうのは減点一。おめでとう、これで落第だ。
「そうだね。時にアンドウ君。君は年間で交通事故がどれくらい起きているか知っているかい? 飛行機とかそういうのは除外して、自動車が赤信号を直進して起こったものだけに限定していいよ」
「いやいや、知りませんって。調べれば出るんでしょうけど……まあ、すごくたくさんってのはわかります。……まさか、遺体を加工する殺人事件が、そんな普遍的なレベルのものだって言いたいんですか?」
「それこそまさか。今のは別に同一犯じゃなくても似たような事件は起こりうるってだけの例だよ。少しわかりにくかったかな」
いや、だいぶわかりにくかったな。反省反省。
「じゃあ、サクラギさんはこの事件の真相はどうだって考えるんですか?」
「答えを言うのはまだ早いよ」
壁掛け時計の長針に目をやって、そう言う。指し示しているのは11の文字盤。あと五分くらいは時間を潰さなくては。
「アンドウ君は、連続殺人って何で起こると思う? 現実じゃなくて、君の好きなミステリーの話でいいよ」
「それは……複数の人間に恨みを持ってって言うのがメジャーですかね」
「そうかい? それじゃあ……それらの犯人は、どうして一網打尽にしようとしないんだい? 犯行を隠して殺人を続けるよりもよっぽど難易度は低いだろうに」
「それは……そういうものだとしか言えないですよ」
「そ。それはあくまでミステリーだから。現実では殺人は連続しないよ。衝動的な犯行は隠せないし、理性的ならわざわざ複数回に分けたりはしない。もしくはそもそも犯罪なんて手段を取らない。何より日本の警察は優秀だよ」
さて。そろそろ頃合いかな。
「アンドウ君、テレビをつけてくれるかい?」
「そりゃいいですけど……何でです?」
「いいからつけなさい。君の失敗は開いてる記事しか見ないで、一面とテレビ欄を見ようとしなかったことだ。もっと新聞を読みたまえよ」
渋々と言った様子で、アンドウ君はリモコンのボタンを押し込む。
ちらりと壁掛け時計に目を向ける。秒針が指したのが文字盤の11。ちょうどいい。
「そういえば、さっきアンドウ君はこの事件の真相を知りたがってたね。それは、多分だけど……」
秒針が頂上を回る。それと同時に、ニュース番組のロゴがテレビの画面に大きく映し出された。
「模倣犯、なんじゃないかな?」
帰り際に、古新聞を一纏めにする。
積み上げられた新聞の一番上。つまり、一番新しい物の一面。その記事がふと目に入った。
トップにデカデカと書いてあるその記事は、猟奇殺人犯が捕まったというもの。
「……多分筆者が違ったんだろうけどさ」
同一犯じゃないことはこの新聞が発行された時点で既に確定していたのに、あの三面記事はどうにかならなかったのか。
模倣……の前に、まず先人のものを確認しなさいな。




