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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第九九話 黒盾の力

 眠くなりそうな昼下がりの下、穏やかな空気にそぐわぬ弾むような声で、彼女は盾自慢を始めた。

 しかしながら嬉しそうに語った彼女の一言目は「見てくれ、この洗練されたフォルムを!」であり、特殊能力の説明が始まるまで些かの時間がかかってしまった。

 あまりにクラウが嬉しそうに語るものだから、いいから早く本題に入ろう、だなんて言い出せるはずもなく。

 皆の生暖かい視線を一身に受けながら、クラウによるさながら早口オタクトークの如き発表は半刻と言わず続いた。

 私たちがそんな彼女の熱いレビューを、飽きるでもなく聞き続けられたのは、彼女があまりに嬉しそうに語るものだから、それが微笑ましかったのと、単純にそのレビューが聞きやすく面白いものだったこともある。これが地球なら普通に動画投稿で食べていけるんじゃないかと思えるような語りだった。

 後は単純に、私たちも同じ冒険者であるため、ココロちゃんのような半イレギュラーなAランクではなく、Aランクガチ勢が何を是として装備を選んでいるか、という話は参考になったのである。


 そうしてようやっと特殊能力の話題に触れてくれたのは、優に小一時間ほど経過した後であった。

 流石に怠くなったので、私たちは適当に椅子に腰掛けてクラウのはしゃぎっぷりを見守り続けていた。


「さて、それでは最後にこの素晴らしい盾が秘めた特殊能力について説明したいと思う」

「よっ!」

「まってました」

「気になりますー」


 合いの手もだいぶ慣れてきた。

 こうするとクラウはますます嬉しそうにするのだ。その綺麗な容姿も相まって、やたらキラキラしていらっしゃる。かわええ。


「まず、一口に盾と言ってもその種類は様々、という件は先程説明した通りだが、見てのとおりこの盾の大きさでは我が身を守るのが精々。それとて全身をカバーできるような代物ではない」


 確かに。クラウの持つその黒盾は精々大きめのトレイと言った程度の大きさであり、大盾と呼べるほどのサイズもない。

 仲間をかばうような運用と言うよりは、取り回しの良さと防御性を両立させたような、良く言えば幅広い用途を見込める盾。悪く言うなら、中途半端なサイズ感と言ったところだろうか。


「とは言えど、こればかりは仕方のない問題だ。もっと大きければ、もっと小ぶりなら、などというのは盾を選ぶ者の戦闘スタイルや好みで評価が大きく変わるものだからな。かく言う私にとて好む盾の大きさもある。例えばそう、この盾がもう少しだけ広ければ、と。そう思ったりもしたのだ」

「……ん?」


 瞬間、違和感を感じた。

 今少しだけ、クラウの盾が……。


「ほほう、流石はミコト。気づいたみたいだな! ココロはどうだ?」

「???」

「ふふ、オルカはどうかな?」

「……その盾、少しだけ大きくなった……?」

「ご明察!」


 クラウは勢いよくその黒い盾を、天地を分かつ天井のごとく頭上に構えると、「はっ!」と一つ気合を入れる。

 その途端である。


「「「なっ!?」」」

「はっはっ! どうだ! すごくないか? すごいだろう!」


 私たちの頭上どころか、クラウを中心にざっと半径三〇メートル程はあるだろうか。盾が一瞬にして広がると、正しく黒い天井となって私たちの頭上を覆ったのである。

 その様は、まるで巨大な鉄板をクラウが一人で支えているような、何とも異様な光景に見えた。

 かと思えば。


「そして逆にっ!」

「おお!」


 もう一つクラウが気合を入れると、盾は一瞬にして収縮を見せ、先程よりも随分と小ぶりな、取り回しに長けているであろうサイズにまで収まったのである。


「すごい……これってつまり」

「そのとおり! この盾が持つ特殊能力、それは自在な大きさの変更が可能な【拡縮】なのだ!」


 おおおと、三人で手を叩いて驚きと感心を伝えてみせる。クラウは心地よさそうにそれを受け、ウンウンと満足げ。

 だがしかし、彼女のターンはまだ終わりではなかった。


「そしてもう一つ!」

「まだあるんですか!?」

「あるんです!」


 そういうと彼女は不意にキョロキョロとあたりを見回し始めた。

 何事だろうと皆で様子をうかがっていると、少し困り顔になったクラウがオルカへと声をかける。


「すまないオルカ。この近くにモンスターはいないだろうか? もう一つの特殊能力を実演するのに、相手がほしいんだ」

「む……それなら私より、ミコトに訊いたほうが良い」

「? そうなのか?」

「あー……まぁ、うーん。とりあえず手頃な相手のところに案内するよ」


 クラウの問には、全く悪気がない。そも、悪いとかそういう話でもないのだけれど。

 オルカは斥候能力に長けている、本来であればPTで重宝されるべき能力の持ち主だ。

 だというのに、私のマップウィンドウというスキルがその辺りの役割を大きく奪ってしまっていて、ちょっとデリケートな問題だったりするわけだ。

 ことモンスターの位置を把握することにかけては、マップウィンドウに分があると言わざるを得ない。

 例えばそれは、足で探し人を捜索するのと、GPSを利用して見つけ出すくらいに違いがあるのだ。

 私としても得意分野を荒らしているようで、オルカに対してはなんだか申し訳ない気持ちがあるし、オルカもオルカで気まずく思っているに違いない。

 微妙に不穏さを孕んだ空気を察知し、クラウはパンと手を一つ打って注目を集めた。


「それでは早速移動しよう。盾とはそも、攻撃を凌いでこそ価値がある。であればその特殊能力も、そこにこそ眠っていて然るべきだと私は考えたんだ」


 私の先導で移動を開始する。その道すがらもクラウの話はテンポよく続き、そうして程なく目的としたロックリザードの姿が確認できた。


「それではまず、その目で見ていてくれ。この盾が持つもう一つの特殊能力を。その勇姿を!」


 クラウは五〇メートルほど先にいるロックリザードへ向けて元気よく駆けていった。

 その途中、ふと彼女が何かしたのに気づく。この感じ、私の心眼が教えてくれているのかも知れない。


「クラウが何か、スキルを使ったみたいだね」

「あ、ロックリザードが突然クラウ様めがけて突っ込んでいきましたよ!」

「多分、挑発系のスキルだと思う。タンク職が得意とするスキルによくある」


 タンク職というのは、主に耐久力に優れ、モンスターの攻撃的意識、つまりはヘイトを自身に集めて、味方を動きやすくしてくれる。そういう役回りが得意な者たちを、盾職ないしタンク職と呼んだりする。

 クラウが今使ったスキルは、ヘイトを自らに集めて敵の攻撃を誘うような、いわゆる挑発系スキルの一つなのだろう。

 まんまと釣られたロックリザードが、すごい勢いでクラウめがけて突進を仕掛ける。勢いのまま体当たりをかます気なのだろう。

 対するクラウも、どういうわけか駆ける足を緩めることはなく。むしろ正面衝突を受けて立つ構えだ。

 瞬く間に双方の距離は縮まっていき、激突のほんの一瞬手前で、心眼がクラウの行動を捉えた。

 盾にMPを注いだのだろう。呼応するように、全身を覆えるほどの大盾へと化けた黒盾は、真正面からロックリザードの突進を受け止めた。

 その、瞬間であった。


「「「!?」」」


 黒い盾から無数の鋭い棘が飛び出し、ロックリザードを穴だらけにしたのである。その岩のごとく硬い鱗も何のその。無数に伸びた黒い棘たちは、一瞬で相手を刺し貫いたかと思うと瞬時に引っ込み、そうして黒き壁の前に岩トカゲは崩れ落ち、塵へと還るのだった。

 私たちは揃って口をぽかんと開けたまま、その凶悪な性能に背筋を寒くした。


「しょ、初見殺しすぎる……」

「あれはズルいですよ……接近戦に於いて、とんでもないアドバンテージです」

「しかもクラウは、剣術も超一流だって聞いた」

「無敵かよ!」


 無邪気にホクホク顔で駆け戻ってくるクラウ。その表情は、どうだ見たかと褒めて欲しそうな子供のようであり、私たちは口々に感想を述べたのである。

 彼女はそれらを満足気に聞いた後、ようやっとまとめに掛かった。


「というわけで、この盾の持つもう一つの特殊能力とは即ち、鋭い棘による【反撃】だ。シンプルな効果ではあるが、だからこそ強く厄介だろう。守って良し、攻めて良しという強力な装備であることが分かってもらえたと思う」 

「それはもう、これでもかというくらいにね」

「私たちは、とんでもない人にとんでもない装備を与えたのかも知れない……」

「クナイに続いて、とってもすごかったですね」


 ココロちゃんは、ぐっと金棒を握る手に力を込めた。

 今は目覚めぬ彼女のそれにとて、きっとすごい力が眠っているに違いないだろう。同シリーズと思しき装備たちの力を目の当たりにしては、期待が高まるのも当然のことである。

 早く自身も、金棒の力を解放してやりたいと意気込む様がよく理解できた。


 クラウの発表はこれにてお終い。一礼した彼女へ、私たちは惜しみない拍手を浴びせた。

 さて、思いがけず時間がかかりはしたものの、ようやっと私の番である。

 昼食時に、ココロちゃんの金棒は条件を満たせていないためか、特殊能力が発揮できない状態にある、という旨は皆に共有済みであり、彼女による発表は行われない。即ち、私がトリを務めることになる。

 ニコニコと嬉しそうなクラウと入れ替わるように前へ出た私は、クラウのパフォーマンスによる余韻が些か落ち着くのを待った上で、声を上げた。


「それじゃ、最後に私の刀、そしてこの仮面の力を紹介させてもらうね」


 そう言って、換装。

 何せ得物が大振りであったため、昼食前から通常装備に切り替えて、太刀と鬼の仮面は引っ込めていたのだ。

 それをパッと出現させてみせた。それだけで、場の空気が切り替わるのを感じた。

 彼女らの興味が、黒盾の余韻から私の装備へ切り替わった気配。

 私はそれを認めると、語り始めたのである。

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