第七七四話 決戦SH魔王 その二
スーパーハード大厄災級魔王、その第四形態。
それは、モンスターにあるまじき異様なる成り立ちをしていた。
だってそうだ。第三形態にて、魔王の核は破壊されているのである。
しかし、魔王は滅びることなく存在を留めており。あまつさえ次の形態へと移行するのだから、実質反則のようなもの。レギュレーション違反も甚だしい。
主人公補正ならぬ、やけくそ気味のラスボス補正を感じる。
とは言え、理屈はどうあれ実在するのだから仕方がない。
そんな第四形態の姿はと言えば……なんと、まさかの霊体であった。
半透明の魔王には足がなく、何なら皮や肉すら無い骨の姿で空中を漂っては、強力な魔法なんかをゴリゴリに放って来るっていう、魔法戦特化仕様となっている。
中でも特に危険なのが【即死魔法】だ。
まともに貰えば、肉体と魂を切り離されて即死。とんでもない魔法もあったもので、初めて目の当たりにした時のソフィアさんときたら、それはそれは大興奮。
例によって私の宿題も増える増える。
って言うか、そんな調子でアレコレ覚えてみせろと要求されるものだから、習得予定ないし習得済みスキルのラインナップは今や大変なことになってたり……。
しかしまぁ、そんなおっかない第四形態魔王も、聖女さんの展開した聖域の中では可哀想なほど弱っており。
繰り出す魔法も、本当にスーパーハード? って疑いたくなる程度のものばかり。
殊更即死魔法なんて、発動することすら叶わない様子。
であるならば、第四形態など恐るるに足らず。
聖域展開の効果により、玉座の間全体を清らかな光が包む。何処か息の詰まるようだった空気もガラリと一変。
不思議と心が落ち着くと言うか、穏やかな気持ちになれる。そんな、清々しい朝の空気を思わせる領域の中。
もともと半透明だった魔王は、更にその存在を薄くし、忌々しげに聖女さんめがけ魔法を撃ち放たんとする。
が、これに先んじて突っ込んだのはクラウやイクシスさん、それにココロちゃんである。
聖剣や聖魔法を駆使し、容赦なく魔王めがけて攻撃を叩き込んでいく。
悪足掻き的に撃ち出した魔法も、しっかりと後衛組で対処。聖女さんへは指一本触れさせない。
そうして息つく暇も与えず、さりとてやりすぎて倒してしまわない程度の計算された手数を奴へと浴びせたなら、予定通り次なる形態変化へ取り掛かる魔王。
即ち、第四形態も滞りなくクリアである。
攻略フェイズも4までを消化。順調だ。
順調だが、別段喜ぶほどのことではない。
何故なら、こんなものは既に今まで、幾度となくこなしてきたプロセスに過ぎないのだから。
寧ろこんなところで躓くほうが問題である。
大きなダメージを受け、形を維持できなくなる魔王。
かと思えば奴は、ギュッとその身を凝縮させ、一粒の石ころとなって床に転げ落ちた。
ともすればドロップアイテムかと見紛いそうな、へんてこな変化である。
けれど、私たちは既に知っている。
それが、それこそが、第五形態であると。
通称『石ころ魔王』。またの名を、『魔王の卵』。
見てくれは、黒を基調とした指でつまみ上げられる程度の石塊。
まるで血管のように走る赤や紫の筋が、何とも禍々しい。
それでこの石ころ。第五形態ということもあり、当然無害な存在だなんてことはなく。
謂うなれば、そう。ポロック系モンスターのようなもの。
魔法は撃つわ、弾丸のように飛び回るわで、なかなか厄介。
初めて相対したのはベリーハードの時だった。ベリーハードの最終形態がコレって言うんで、正直強い肩透かし感を覚えたものである。
で、この第五形態だけど。これまでの例に漏れず、時間を掛ければ掛けるほどに成長し、力もサイズも増していく。
よって、この後に控える第六形態の力を極力抑えるためにも、なるべく早い段階で撃破することが求められるわけだ。
が、べらぼうに厄介な性質として、この石ころ……あらゆるスキルの影響を無視するという、まるで精霊の真似事のような事が出来るのである。
勿論、魔王は精霊なんかではない。それとは別の、固有の能力を有しているらしい。
なので、撃破するためにはシンプルな物理攻撃が必要で、それが地味に大変なのだけれど。
しかしここで手間取っていたのも今は昔のこと。
繰り返し戦い、数多の作戦会議を重ねた末に、私たちは適切な攻略法を見出したのである。それも、非常にシンプルな策だ。
事前準備としては、クラウの陰に皆で隠れるだけ。
後は第五形態魔王が形態変化を終えて動き出す、その直前に……。
ハンマーオブトッツォくんをストレージから発射するだけである。
それも、対オメガポロック戦の折にやったアレを応用する形で。
用いるのはハンマーオブトッツォくんを二本。いや、二体。流石にメテオリットトッツォくんは過剰なので、今回はお休み。
片や石ころ魔王の直上から。
もう片や、奴の足元から。即ち、上下からの挟撃である。
その際に生じる衝撃波は凄絶で。ぶっちゃけ初投入の際はコレをまともに浴びて吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて皆仲良く即死したことがある。
ミコバトでも屈指の、凄惨な事故であった。当然皆からはメチャクチャに叱られた。
なので今はこうして、トッツォくんの威力調整も事前に行ってあるし、衝撃対策としてクラウを盾にするのだ。
威力調節をしたとは言え、第五形態魔王の頑丈さは尋常なものではない。
四天王アゴスの耐久力を極端に強化したような、デタラメなタフネスを有するのがあの石塊なのだ。
よってぶつけるべき火力も、当然生半可で済むはずもなく。
二つのハンマーオブトッツォくんが、さながら怪物の顎門が如く獰猛に喰らいつき、石ころ魔王を噛み潰す。
瞬間、トッツォくん同士の衝突に伴う巨大な衝撃波が、玉座の間を鋭く席巻。
クラウの盾に護られ、難を逃れる私たちである。
一方の魔王はと言えば、予定通りの大ダメージ。
これ以上攻撃を受けては、変身を待たずして滅ぶことになるという状況。
故に、奴の取れる選択肢は一つだけとなる。即ち、恐らくは最後の形態変化。
ここからが、いよいよ本番である。
SH魔王第六形態。
付いた呼び名は、『転生魔王』。
第三形態で肉体を失い、霊体となり、卵を経て再誕する。
そうして生まれ直したのが第六形態であり、私たちが今日に至るまで一度として勝利を収められずにいる、最強形態でもある。
ここに至るまで、出来得る限り奴の力を削ぎ落としてきた。
角を折り、核を抉り、無理矢理に自爆させ、聖域結界で弱らせた。卵だって未成熟なままに破壊し、早々と最後の変身を促した。
それでも、転生魔王はこれまで私たちを圧倒し続けてきたのだ。
これぞSH。別格。負けイベントそのもの。
性懲りもなく、私たちはこれよりそいつへ、決戦を挑もうっていうんだ。
卵が砕け、禍々しい闇が溢れ出す。
紫の稲妻が迸り、聖女さんの展開する聖域を侵食せんと、互いの領域が衝突を始めた。
だが、そんな再誕演出は既に見慣れて久しく。
私たちは私たちで、目前に迫った激突へ備えるべく、作戦通りに行動を開始したのである。
『さぁ、ここからだ。気合を入れろよ皆!』
イクシスさんの飛ばす檄に、皆で『応!』と念話で返したなら、早速発動するはへんてこスキルが一つ、【シェアリング】。
皆へシェアするスキルはと言えば、ソフィアさんイチオシのスキルだ。
魔王が転生を行う傍らで、私たちも声を揃えて唱える。
「「「まじかる☆ちぇんじ!」」」
瞬間生じたる変身エフェクトが、一二。
そう、一二だ。ソフィアさん以外の全員が魔法少女へと変身を始めたのである。
ならばソフィアさんはどうしているのかと言えば、彼女は一人フィニッシャーの役割を果さんと魔術を展開。時間の掛かるチャージに取り掛かった。
そうして私を含めた皆が、揃って幼女の姿へと変わり。
そのくせエゲツない能力増加を果たしたなら、魔王の変身完了に先んじてリミテッドスキルを構える。
奴が変身を終えたその時、一気に攻撃を叩き込もうという寸法だ。
私たちが殺気を漲らせて睨みつける先。
迸る闇が、徐に一つの形を象っていく。
そうしてとうとう、濃密な黒い靄より姿を見せたのは、色の抜け落ちたかの如き長い白髪を携えた──
……妖艶なる美女であった。
生まれたままの姿とは正にで、初見では正直ドキッとしたものである。
転生して、まさかの性転換。そう来たか! って感じ。
けれど、今となってはただただ憎たらしいその姿。攻撃に躊躇いなど、あるはずもなく。
奴が再誕を果たしたその瞬間。
私たちは魔王めがけ、準備しておいたリミテッドスキルを一斉に解き放った……いや。
解き放とうとしたのだった。
けれど。案の定、それは叶わなかった。
発動したのは権能。そうさ、魔王が『禁則』を強いたのだ。
転生魔王の権能は、たとえブレイブゴッドイクシスさんであっても跳ね除けることの出来ない、絶対の命令となる。
これにより私たちは、忽ちの内に大きく力を削がれることとなった。
そう、即ち。
ソフィアさんは用意していたフィニッシュ技は疎か、攻撃魔法そのものを禁止され。
その他のメンバーは押し並べて、まじかる☆ちぇんじを禁止されてしまったわけである。
強制的に元の姿に戻される私たち。
そして、瞬殺。それが今までの流れ。
圧倒的なステータスにより、抵抗もままならぬまま全滅させられるのだ。
だが。
手始めにと、聖女さんを屠るべく繰り出された、魔王が拳の一振りを、私は辛うじて受け止めてみせた。
ここから、皆が立て直す時間を稼ぐ。
それがこの場面に於ける私の役目。越えるべき最大の難所。
最強装備の力が今、いよいよ試される……!
あああ誤変換! 誤字報告感謝です! 適用させていただきました!




