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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第七七話 山姥?

 考えてみたらおかしな話ではある。

 異世界なのに、鬼だなんてものが存在していることが。

 いや、流石にこの世界で和服を見たとかそういうことは、今のところ一度もないわけだから、単に鬼っぽいモンスターにそれっぽい名前がついているだけなのかも知れないけれど、果たしてそんな一致があるものなんだろうか?

 どうにも、どこかしらで日本の……いや、地球のファンタジーイメージってものを引っ張ってきているような、そんな感じを覚えるんだ。

 ついでに言えば、異世界だったらこう、人間ってものが当たり前のように幅を利かせている事自体不思議ではある。

 それこそ宇宙人みたいに、星どころか世界が違うんだから、別の生き物が覇権を握っていても何ら不思議じゃないだろうに。

 一体全体そこら辺、どうなっているのやら。


 そしてそんな不思議が目の前にまた一つ。

 私たちは現在、岩壁に身を隠しつつ通路の先を伺っている。

 視線の先には一体のモンスター。名を『人喰姥』と言うらしい。

 人型で小柄。やせ細っており、薄汚れた灰色の髪はボサボサ。体にはボロ布を纏っており、その手には質の悪い包丁を握っている。

 そしてその顔は、狂気に歪んでいるように見えた。眼光はギラギラと荒々しくあり、深い皺が幾重にも刻まれた顔面は、しかし獰猛な獣のようでもある。

 資料によると、人喰姥の動きは素早く、目にも留まらぬ挙動で迫っては包丁で急所を狙ってくると言う。かなり厄介な部類のモンスターらしい。

 だが、そんなことよりも私には、あのモンスターがどうにもとある妖怪に見えて仕方がなかった。


「あれ、山姥じゃないのか……」

「山姥?」

「日本の怪談に出てくる妖怪、かな」

「妖怪というと、確か日本にいるモンスターのようなもの、でしたよね?」

「まぁ、いるかも知れないし、いないかも知れないっていう、人々のイメージとか物語、文献なんかに住まう存在……みたいな」

「あ、わかった。中二病っていうやつ」

「違う、そうじゃないんだ……でも説明がややこしいから割愛!」


 異文化コミュニケーションの難しさを感じながら、私は思考を戦闘モードへ移行させる。

 情報によると人喰姥は、動きも勘も鋭い素早さに秀でたモンスターだ。正直タフネスを売りにしているやつより戦いにくくはある。

 安全策を取るのであれば、気取られる前にさくっとオルカにでも仕留めてもらうのがいいのだけれど、今回は奴の動きを見ておきたい。


「とりあえず私が正面から挑んでみてもいいかな? オルカは死角に潜伏。ココロちゃんはいつでも援護できる位置をキープして、優位性を確保しつつ警戒を分散させてもらいたい」

「正直心配だけど……わかった、リーダーを信じるのも仲間の務めだから」

「何かあれば即座にココロが仕留めますけど、構いませんか?」

「うん、それでよろしく」


 作戦会議をぱっと済ませると、すかさず行動に移る。

 私とココロちゃんは岩陰より飛び出すと、一気に人喰姥へ突っ込んでいった。

 オルカは気配を殺し、奴の背後にある物陰へ身を潜める。

 私達の接近を素早く探知した人喰姥は、迎え撃つ構えではなく、寧ろ向こうからもこちらへ駆け寄り、飛びかかってきた。かなり獰猛な性質を持つようだ。

 私は換装で、素早く盾を身に着けると包丁での一撃をパリィ。刃を立てさせず、角度をつけて叩きつけるように凶刃を逸らす。そして間髪入れず、死に体に蹴りを繰り出した。

 が、柔軟な体捌きでそれを躱した人喰姥は、バック転を決めた後背後へ大きく跳躍し距離を取った。

 一瞬空中で無防備を晒している奴をオルカに射抜いてもらうかとも思ったけれど、まだ早い。もう少し動きを見ることに。


「うーん、身軽だな。反応もいいし、コレはもしかしてCランク冒険者じゃ対応がきついんじゃない?」

「ですね。CランクPTないし、Bランク冒険者級の実力は必要になる相手でしょう」


 軽くココロちゃんと意見を交換しているが、勿論警戒を怠りはしない。

 人喰姥は姿勢を低くして、こちらの隙を注意深く探しているようだが、どうやら見つけあぐねているようだ。私の構えも今や単なるマスタリー任せのそれではないからね。そう易々とチャンスを与えたりはしない。与えるとするなら、それは誘いだと知るべし。

 私と人喰姥が睨み合っていると、手筈通りココロちゃんがテケテケと移動を始めた。奴は警戒対象が二手に分かれたことで、見るからにやりにくそうである。

 これで優位性は盤石。後はヘマを打ちさえしなければ、負けることはないだろう。つまりは私の実力次第だ。


「さて、やろうか!」

『ギエ!』


 私が盾を構えたまま飛びかかると、一瞬人喰姥は呼応するように飛び退ろうとした。が、ココロちゃんが奴の背後へ回っており、警戒心を煽ったせいで動きを中断。壁から遠い右へドッジロールを行うと、そのまま跳ねるようにこちらへ突っ込んできた。

 が、予想の範囲を出ない。

 私は奴の出頭に拳を合わせると、地面へ叩きつけるよう思い切り下へ向けて振り抜いた。見た目は小柄な老婆なので、ちょっと心が痛い。

 どうやら耐久力は低いのか、その一撃はなかなかのダメージだったらしく、人喰姥は一拍遅れて転がり起きた。が、ふらついている。

 形勢は圧倒的。さぁ、ここからどう動くか。なにか手札を隠していたりするのか。

 これまで以上に注意深く奴を観察するも、包丁を悔しげに握りしめて後ずさるのみ。

 またしても睨み合いの姿勢になり、ともすれば無駄に時間を食いそうだ。

 なので敢えて、私はほんの微かな隙を晒してみせた。さぁ気づくか。そしてどう動くだろう。

 果たして人喰姥は、見事に私の隙を察知してみせ、すかさず逃亡を選択したのである。なんと、奴は逃げるタイプのモンスターだったのか。


「光球。そして影踏み」

『ギェ?!』


 鋭く奴の進行方向へ飛ばしたのは、何の変哲もない光の玉。光属性の魔法だ。

 これにより、眩しく照らされた奴は咄嗟に腕で目を守ったが、別に目くらましが目的で放ったものではない。

 人喰姥の目の前で停止した光源は、結果として奴の影を濃く長くした。そう、私の足元にまで優に届くほどに。

 そして発動するのは、かつて闇属性の魔法を習得しようと頑張った結果、失敗して覚えた影属性の魔法が一つ。

【影踏み】というそれは文字通り、影を踏むことで相手の動きを縛るというシンプル且つ強力な魔法だ。

 こうして光と組み合わせると、尚更に使い勝手も良くなるわけで。こうなってしまっては最早人喰姥はまな板の上の鯉も同じ。

 私は軽く二本指を立ててクイッと振ってみせた。

 瞬間、人喰姥の心臓を穿つ一本の矢。オルカによる急所への一撃だ。見事に合図を見逃さず、反応を返してくれる辺り流石である。


 光球は消え、そして人喰姥もあっけなく塵に還った。

 ぽろりと地面に転がったのは、包丁が一本。コアを射抜いての討伐だったため、これがレアドロップなのだろう。

 特に感慨もなくそれをストレージにしまうと、二人へ振り返って軽い感想会だ。


「どうだった?」

「ちょっと狙いづらいかも。弓より短剣で仕留めたほうが確実」

「ココロも、素早い相手はちょっと苦手ですね。群れで出遭うと厄介かもしれません」

「じゃぁ現状、一番警戒するべき相手ってことで考えておこう。もし遭遇したら、しっかり連携をとって対処したいね」


 簡単に意見をまとめると、それからはすぐさま移動を再開した。

 ナビを駆使してマラソンすることしばらく。あれよあれよと下り階段を見つけることが出来た。

 矢印の導きでそこに至れば、晴れて第五階層クリアである。体感時間にして、二時間くらいだろうか。まだタイムを縮められそうな気がする。

 階段前で一息ついた後、すぐに次の第六階層へと足を踏み入れたのだった。



 ★



 小休憩を挟みながら駆け足での進行を続けること数時間。

 流石に疲労も溜まり、今日はここで休もうということになったのだけれど、驚くべきことに現在地はなんと、第一〇階層へ降りる階段の前である。

 まさか僅か一日で九階層分もかっ飛ばしてこれるなんて、流石に私も驚いた。

 ふと見るとオルカとココロちゃんが、なんだか真面目な顔でコソコソ話をしている。


「えっと、二人ともどうかした?」

「ココロ、マップウィンドウについてはトップシークレットにしよう」

「そうですね、こんなスキルの存在が明るみになったら、ミコト様の御身が危険です。危険が危ないです」

「ああ、またいつもの大袈裟なやつか」


 私個人としては、比較対象が少ないせいでああ言う話をされても、まるで実感が湧いてこないのだ。どうせ冗談か何かに違いない。定番のやつだ。

 モンスターの特性上、どうやら階層を移動することは滅多に無いらしいので、階段付近というのは自ずとモンスターが近寄りにくい場所として休憩場所に適しているとされている。

 ということで、真剣な顔で何やら話し合っている二人を放っておいて、私はちゃっちゃとキャンプの準備だ。

 結界を張り、アラートを張り、寝床や食事の準備をバババッと済ませていく。物はストレージから取り出すだけなので一瞬だ。

 あっと言う間に快適な空間を作り上げると、オルカに声をかける。


「オルカ、料理お願い」

「! あ、うん。任せて」


 修行期間中、オルカはオルカでキャンプごはんを作る練習を繰り返していた。

 もともとやたら器用な彼女は、ギャップでメシマズ……なんてこともなく。普通にレシピ本片手にレパートリーをもりもり増やしていった。結果、今では我らがシェフである。

 指示された食材を適宜取り出し、魔法で火や水を生成。ココロちゃんは有り余るパワーで果実を絞ってジュースを作ってくれるし、あれよあれよと美味しそうな品々が食卓に並べられた。


「もう、ミコトなしの冒険者生活には戻れない。戻らない」

「ですね。ココロも、ミコト様と別れるくらいなら冒険者を辞めます」

「なるほど、これが胃袋を掴むっていうやつか!」


 なんてわいわいと食卓を囲んだ後は、順番に睡眠をとる。

 三人交代でのローテーションは、睡眠時間もしっかり取れるので有り難いなと、先日の試験を思い出しながらしみじみと思った。

 それにしても、未だにAランク冒険者らしき人は見かけないままだ。

 ソフィアさんからの情報によると、どうやら有名なソロ冒険者らしいのだが、こっちにだって有名なソロAランク冒険者のココロちゃんがいる。

 ココロちゃんの場合はAランクと言っても些か特殊で、凄まじいパワーと再生力、それに強力な治癒魔法が使えるためAランクとして活躍できているが、その性質故にAランク相当のパフォーマンスを発揮するのであれば、自らの負傷を顧みない特攻を仕掛けることになる。それこそが、彼女本来の戦闘スタイルなのだから。

 けれど私もオルカも、ココロちゃんにそんなことはして欲しくないので、実質今の彼女はAランク相当の力を発揮できないと言うか、自制してもらっている形になる。

 それを思うと、先行しているAランク冒険者は十全に実力を発揮して、快進撃を続けているに違いない。

 本来のAランク冒険者というのは、斯くもすごい力を持っているのだなと思い知らされたような気分だ。


 けれど私達はそれに追いつき、そして追い越さねばならない。

 明日もしっかりと頑張れるように、私は静かに意識を眠りの中へ沈めていく。

 このダンジョンが何階層まで続いているかはわからないけれど、次は節目の一〇階層。何が待ち構えているとも知れない。

 幾ばくかの緊張を胸に、私はそっと意識を手放すのだった。

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