第七六九話 命名
「というわけで、最強装備お披露目会午後の部の開始だよ!」
トレモに集いしは、午前に見た顔ぶれがそのまま。オレ姉の宣言に、ワーと手を叩いて盛り上がる面々である。ノリが良い。
かく言う私も既に最強装備を着込んで、スタンバイはバッチリなのだけれどね。
武器七本持ちの攻撃形態はドン引きされるので、現在副腕は四本ともフリー。
何ならオメガポロックのカタナすら納刀し、黒状態の私である。
観客として一塊になっているチームミコバトに対し、開発陣は自由奔放な師匠たちを除いて横一列になっており、さながらどこぞの舞台挨拶のよう。
そんな中私の立ち位置はと言えば、開発陣から一歩出て司会っぽいことを務めるオレ姉の隣となっている。
ちなみにイクシスさんは、出資者兼アドバイザーという何とも言えないポジションゆえか、それとも装備を正面から見たいからか、チームミコバトの面々に交ざっている。
チームミコバトメンバーも開発陣も、午前に引き続き熱量は高く。
何なら昼食の最中も、イクシス邸では最強装備の話題で持ちきりだったくらいだ。念話を介して開発陣に直接質問をぶつける者もあり、近頃では珍しい賑わいを見せていた。
何せ最近のイクシス邸は、SH魔王に連敗を続ける私たちのせいで、何とも空気がどんよりしており。
食事の時間だってまぁ、ずんと重苦しい雰囲気が蔓延していたほどである。
それが一変してこの騒がしさなのだから、使用人さんたちも思わずと言った具合に目を丸くしていた。ほんと、毎度お騒がせして申し訳ない限りだ。
「さて、それじゃ早速実戦テストの方を始めていこうと思うんだけど、その前に!」
「その前に?」
「ミコト、あんたに出してた宿題があっただろう?」
「ゔっ」
唐突に水を向けられ、思わず顔を逸らす私。
すると、宿題とは何のことかとチームミコバトより当然の如く質問が飛んできて。
これに答えたのはハイレさんだった。
「ミコトちゃんには装備に命名をお願いしていたのよ。いつまでも『最強装備』だなんて味気ないものね」
「まぁ、ダサい名前は認めんがの!」
「おじいちゃん、変にハードル上げないの!」
「はう!」
「副腕っていうか、白九尾にもやっと名前が付くんでしょ? アタシたちも楽しみにしてたんだ!」
「ゔゔっ!」
ぐんぐん上がるハードルに、何だか胃が痛くなる私である。仮想空間ってストレス性の胃痛まで再現しちゃうんだね。すごいね。
まぁ、それはともかく。
名前、名前ね……。
「まさか、考えてないってんじゃないだろうね?」
「いやいや、考えては来たさ! うん。ほんとほんと」
なんて、疑わし気なオレ姉の確認に、私はスイスイッと目を泳がせる。
や、うん。ちゃんと考えてきた。それは本当だ。
「でもさ、まさかこんな大勢の前で発表することになるとか思わないじゃん! それに、気に入ってもらえるかも分からないっていうかなんていうか……」
「大丈夫よミコトちゃん。だってミコトちゃん専用装備なのだもの! ミコトちゃんが親しみを感じられる名前ならそれが何よりだわ!」
「ハイレさん……!」
たまには良いこと言うじゃない!
お陰様でぐっと下がったハードル。発表するなら今しかないという好機である。
私は意を決すると、オレ姉へと目配せをした。果たしてアイコンタクトは成り、話を続ける彼女。
「それじゃ、先ずは防具一式の名前から聞いてみようかね。ああちなみに、ミコトには防具類一式を一纏めにしたシリーズ名に加えて、尻尾、カタナ、白九尾の名前をそれぞれ考えてもらったよ」
「いっぱい考えたよ……」
「ってことで、教えてもらおうか。ミコト専用最強防具シリーズに、あんたは何て命名したんだい?」
ハイレさんをはじめ、皆の注目を一身に浴びる私。何これ! やたら緊張するんですけど!
しかし溜めを作れば作るだけハードルもまたグイグイ高くなってしまうため、思い切って発表することに。
「えー、私が防具一式に名付けた名前は……『カイゲン』。カイゲンシリーズと呼ぶことにしました!」
おー! と、皆からは何とも言えないリアクション。
「カイゲン……名前の由来を訊いてもいいかしら?」
と、早くもハイレさんから質問が返れば、顔を火照らせながら返答する私である。
「カイゲンの“カイ”は、灰っていう意味。“ゲン”は限るって意味だね」
「なるほど。カタナを装備してない状態の灰色を現した言葉ね?」
「そうだね。あとは、『開眼』って意味も込めてる」
「良いわね! カタナを装備したり、抜刀することで変化する様を開眼に見立ててるってわけね! 素敵よ!」
「気に入ってもらえたなら何よりだよ……」
第一関門は、どうやら突破できたようだ。ハイレさんは本心からお気に召してくれたようで、満足げに口の中でその名を何度も転がしてはニヤニヤしていた。
その様子に、ホッとしたのも束の間。
「流石、良いセンスしてるじゃないか。なら次は、私の担当した尻尾になんて名付けたのか聞かせてもらおうかね!」
と、目を輝かせるオレ姉である。
再びドキドキと緊張の高まる私。軽い深呼吸を行ったなら、返答を行う。
「この尻尾に付けた名前は、『アラカミ』だよ。意味は、“食い荒らす”と“噛み付く”をかけ合わせた言葉。あとは尻尾自体が別の恐ろしい生き物じみてるから、“荒ぶる神”なんて意味も込めてみたり」
「ほぉ、良いじゃないか! コイツの能力を思えば、確かに大袈裟とも言い切れないさね。実際生き物でこそないけど、自分の意志も持った武器だしね……うん。気に入った!」
「よかったぁ……」
第二関門突破。オレ姉も満足そうに尻尾を眺めている。
尻尾に宿っている蛇さんもまんざらじゃないみたいだし、一安心である。
しかし問題はここからだ。ダサい名前はやだ! と宣った気難しいゴルドウさんと、長い付き合いの白九尾。モチャコたちも期待の眼差しを向けてくるし……うぅ、大丈夫かなぁ……?
「それじゃミコト、次は……そうさね。カタナの名前でも聞かせてもらおうか!」
「カタナ。うん、カタナね……」
ちらりとゴルドウさんの顔を覗う。いつもの仏頂面……に見せかけて、めっちゃ気になってる様子。
また怒鳴られなきゃ良いけど。まぁ、その時はその時だ。
「この刀につけた名前は『月日』。シンプルに月と日を意味してるよ。黒と白から夜と昼をイメージした他、月日が経つにつれて何処までも成長していくぜ! っていう意味も込めてる。あと、月も太陽もまん丸だし、オメガポロックを連想しやすいかな、とか」
「ほぅ……悪くな──」
「ああでも、月日だけだとシンプルすぎるかなと思ったから、正式名称は『マゾヒス刀月日』ってことで」
「要らんわ! 嘘じゃろ!? なんでそんな見え見えの蛇足を付けた!?」
「え。でも、打たれるほど強くなるっていう特性を表現するにはピッタリかなって。寧ろこの上ない妙案かなって……」
「妙すぎるじゃろ!! そんなもん外せ外せ!」
ってことで、シンプルに『月日』で決定してしまった。
良かれと思ってつけたのに、なんかめっちゃ怒られたんですけど。ちなみにオメガポロックからも抗議が来た。解せん。
いい調子で来てたのに、なんだかみんなの目が急に胡乱げになってしまった。
それもこれも、難癖をつけてきたゴルドウさんのせいに違いない。これだからヘンクツ爺さんは。困ったものである。
「それじゃぁ最後は白九尾だね。何せ長い付き合いだし、さぞ素晴らしい名前を付けたんだろうね?」
「ちょっと、なんでここに来てまた余計なこと言うのさ!」
「お、いよいよ白九尾の名前を発表するの!? 聞きたい聞きたい!」
「きっと素敵な名前に違いないわ!」
「楽しみだなー」
「モチャコたちもこれ見よがしにハードル上げないでくれる!?」
首元のチョーカーからも、白九尾の期待する思いがひしひしと伝わってきて、何だか辛い。
とは言え、一生懸命考えたことに違いはないし、事ここに至っては最早発表するだけ。人事を尽くして天命を待つってやつだ。
深く息を吐き、そうして意を決した私は徐に口を開いた。
「私が白九尾に付けた名前。長らく一緒におもちゃ作りをしてきた、相棒とも言えるこの子のために私が一生懸命考えたその名前は……」
ゴクリと、誰かが固唾を呑む音がした。
モチャコたちも、ワクワクとドキドキの入り混じったような顔でこちらを見ている。
私は無性に乾く喉を震わせ、発表した。
「『アヤツカミカゼ』」
言って、恐る恐る皆の様子を見てみる。
……なんか、しんとしてるんですけど。しんとっていうか、しーんとしてる。もしやこれは、またやらかしたやつ……?
なんて一人不安がっていると。
「これまた不思議な響きだね……意味を聞かせてくれるかい?」
と、オレ姉から水を向けられ、それに答える私である。
「えっと、意味っていうか由来は、“操る”“掴む”“神風”を組み合わせて作った名前で、意味もそれに準ずる感じかな」
「ほぉ、面白い発想じゃないか!」
「確かに白九尾は、念力で何でも操れるもんね!」
「重たいものでも、掴んで持ち上げるみたいに軽々と動かしちゃうわね」
「手も触れてないのに、風が吹いたみたいにスイスイ動くよねー」
モチャコたちが何やら、補足めいたコメントをしてくれてる。どうやら納得を覚えてくれているようだ。
しかしチームミコバトからは。
「それにしても長いわね!」
「リリエラちゃんの名前も大概でしょ!」
「なにぃ!? あ、あんた喧嘩売ってんの!?」
「ならあだ名をつければよくない?」
「ふむ。アヤツカミカゼか……ならばアヤちゃん」
「カミカゼですね!」
なんか揉めてるね。物議を醸しているとも言う。
けれど流れからして、どうやらあだ名は『カミカゼ』で定着しそうな予感である。
そして何よりも、だ。
「白九尾はどう? この名前」
と、首元のチョーカーへと問いかけたなら、直ぐに返事はあり。
「なるほど、『神風』がカッコいいから好き、と。そう言ってくれると信じてたよ!」
私たちと過ごす内に、若干中二病が伝染しつつある白九尾である。
そしてこの一言が決め手となり。
斯くして白九尾の名は、『アヤツカミカゼ』、そしてあだ名を『カミカゼ』とすることが決定したのだった。
誤字報告感謝です。適用させていただきました!
油断大敵ですな……またもや見落としたか!




