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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第七六六話 最強装備お披露目その三

 アーマーの腰の辺り。

 位置にして体の左側面、およそ太ももの付け根に当たる部分には確かに、鞘と思しき細長い筒が一つ備え付けられており。

 リリの指摘によって、皆の視線は次々にそこへと集まったのである。

 背中の副腕や尻尾のインパクトがあまりに大きかったこともあり、見逃すということこそないものの、つい後回しにされたそれ。

 しかし、よくよく見たら奇妙で。


「あれ? 鞘だとすると、あそこに収まる剣は何処に?」


 アグネムちゃんが疑問を口にしたならば、応えるように開発チームの視線がゴルドウさんへ集中。

 彼は勿体つけるように一歩前に出ると、やれやれと言わんばかりに口を開いたのである。

「どうやら、漸くワシの番のようじゃな」

 なんて、ともすれば億劫そうなふうに言ってのけるものの、心眼にはそれと裏腹の心情が見えており。

 やっとこさ自慢の作品を皆にお披露目できるからだろう。胸の内にはウズウズとしたものを溜め込んでいた様子。

 って言うかオレ姉が作品自慢をしてるのを見て、密かに対抗心を燃やしてるっていうんだから、まったく大人気のないおじいさんである。


 ズンズンと、満を持して前に出てきたゴルドウさんに、皆より注がれるは期待の視線。

 世界的に有名な鍛冶師であるところの彼が、私のために打った武器。

 しかも、ここまでまだ登場していないオメガポロックの心命珠を思えば、きっとそれに使われているに違いないと。

 期待値は青天井が如く高まっていく。

 さりとてそれらの注目を受け止めてなお、緊張の素振り一つ見せないエルダードワーフ。


 彼はゆったりとした足取りで、設置されたテーブルへと歩み寄っていくと、その上に置かれた木箱をじっと見下ろし。

 かと思えば、彼の視線が私の方を向いた。


「ミコト」

「! 珍しい、ちゃんと名前を呼ばれた!」

「要らんことは言わんでいい。こっち来い」


 顰めっ面で手招きするゴルドウさん。

 天の邪鬼を発揮するでもなく、てってけと小走りにテーブルを挟んだ向かい側へ立つ私。

 するとどうしたことか、周囲を取り囲むメンバーたち。特に圧が強いのがイクシスさんだ。って言うか近い!

 彼女も皆も、この如何にもな箱の中身が気になって仕方がないのだろう。

 イクシスさんは概要くらい知ってるくせにね。まぁ完成品を目の当たりにするのは、これが初めてになるわけだけれど。


 そうして、テーブル越しに対峙した私へ、暫し黙って視線を寄越すゴルドウさん。

 何を勿体つけているのかと思えば、どうやら私を眺めつつ過去に思いを馳せているようだ。浅く広い心眼では、その詳しい内容まで見ることは出来なかったけれど。

 彼なりに、何かしら感慨のようなものを抱いているのだろう。

 そんな時間も、数えてみたなら数秒のこと。

 徐に紡ぎ始めた言は、意外なほどにシンプルなもので。


「約束通り、ワシの『最強』を拵えた。持って行け」


 誰かの、息を呑む音。

 それはそうだ。堂々とそう言い放った彼の言葉は、つまるところ『最高傑作』という意味にすら捉えられる、とんでもないものだったのだから。

 一切濁さず『最強』と。名匠ゴルドウがその様に言ってのけた一振りが、この箱に収まっている。

 そうと分かればこそ、皆は言葉すら失い、ただ黙してその時を待った。

 私が箱を開いてみせる、その時を。


 なんか……なんか……雰囲気に呑まれて、私まで緊張してきたんですけど!

 ゴクリと一つ生唾を飲み、微かに震える手を目の前の木箱へと伸ばしていく。

 長さにして一メートルを超える細長い箱。なかなか迫力のあるサイズだ。

 高級感のある良質な木製の蓋は、どうやら金具なんかで留められているわけでもなく、所謂かぶせ蓋になっているらしい。

 持ち上げたら簡単にかぱっと外れるのだろう。扇子とか巻物とか、そういう和風の品をしまっておくのに似合いそうな箱だ。

 

 皆に見守られながらかぶせ蓋に手を掛けると、私は慎重にそれを開いていく。

 くいっと持ち上げ丁寧に外したなら、思わず呼吸すら浅くしつつそれを脇に置く。

 ゴルドウさんをもってして、『最強』であると自信満々に宣う逸品。その全貌が、ついに明らかになろうというのだ。

 蓋が退き、とうとう箱の中身が日光のもとに晒されれば、呼応するように周囲からは小さな声が上がった。


 こぞって覗き込む面々。

 だがしかし、まだである。目当ての品は布に包まれており、見ゆるは未だシルエットばかり。

 いよいよ皆の期待感も最高潮。何なら焦れったさに苛立つ者まで出始めたため、私は意を決して布を取り払い、その中身との対面を図ったのである。

 はらりと、斑もなく染まった青い包の布が払われたなら、ようやっとそこに現れたるは……。


 一振りの、刀であった。


 刃渡りにしておよそ七〇センチ程。綺麗な反りの入った片刃の剣。

 私にとってはツツガナシに続く、二本目の刀である。

 いや、ここは敢えて『カタナ』としておこうか。

 何せ、日本刀と呼ぶにはあまりに似つかわしくない、デリケートさとは無縁の頑丈な代物だもの。

 切れ味だって純粋な刃物としての力だけでなく、ファンタジーな力も相俟ってのもの。

 なればこれは、いやツツガナシも含めて、刀ではなくカタナと。その様に称すが相応しいのではないだろうか。

 オルカが忍者ではなくニンジャなのと似たような理屈である。


 と、まぁそれは良いのだけれど。

 しかして、その刃を目の当たりにした皆の反応である。

 彼女らは現れたその一振りを前に、しかし感嘆の声を漏らすでもなく。むしろ、飛び出たのは困惑の混じった声音。

 それもそのはず。何せ、彼女らの前に現れたその刃は、どうにも妙ちきりんに見えてしまったのだから。


「まさか、これも灰色とは……」

「鍔も柄も、全部灰色一色だね……」

「ちゃんと斬れるんですかね、コレ」


 ソフィアさんの失礼な発言に眉をピクリと動かすゴルドウさん。カチンと来たらしい。

 とは言え、あからさまに怒り出さないのには理由があった。

 何てことはない、皆のその反応は想定の範囲に収まるものであるためだ。

 そうさ、この灰色のカタナは、ぱっと見然程強そうには見えない。

 何なら、樹脂か何かで作った模型だと言われても納得しそうな、チープさすら漂って見えるくらいである。

 刀にはあって然るべき綺麗な刃紋なんかも見当たらないし、迫力にも乏しい。

 ただし、漠然と異様な、ただならぬ気配は漂っており。

 それを感じてか、皆は気圧されたかのように顔色を悪くしては、ただコメントに窮するばかりだった。


 解説を求めてのことだろう。一頻りカタナを眺めた面々が、ゴルドウさんの方へと視線をやる。

 けれど、多くを語るつもりのないゴルドウさん。口を一文字に結んでは、じっと黙ったままで居る。

 そのくせ心眼には、さながらいたずら小僧が如きワクワク感が丸見えなんだから、私は笑ってしまわぬようそっと視線を逸らすばかり。

 すると。


「何をしとる」

「へ」

「勿体つけとらんで、早う握って見せんか」

「む」


 なんという言い草! 自分だって勿体ぶってたくせに! 遺憾なんですけど!

 とは言え、その一言で一気に皆の注目はこちらへ。こうなっては弁明も見苦しいか。

 私は小さく一息つくと、気持ちを整え。そうして徐に刀の柄へと手を伸ばした。

 何せ皆で話し合い、アイデアを練っては試行錯誤し、丁寧に丁寧に形を作り上げていった一振りである。

 私だってコレがどういうものかはよく知っている。だからこそ、ドキドキもワクワクもしているんだ。イクシスさんなんて顔がヤバいことになってるし。


「皆、よく見ておけよ。目覚めの時だ……!」


 思わせぶりに彼女がそう呟くのに合わせ、いよいよ私は灰のカタナの柄を。

 がしりと、確かに掴んだのである。

 その瞬間だった。


 私の握った手元より順に、まるで波紋でも広がるかのように劇的に、美しく色が付いていくではないか。

 基調は白。差し色は青。色一つでここまで印象が変わるかと驚かされるほどに、カタナは忽ち凛とした空気を放ち始め。

 殊更その刀身には、皆吸い込まれるように視線を集め、あたかも何かに引っ掴まれたかの如く目が離せなくなった程だ。

 刃の美しさも然ることながら、そこに浮かぶ幾何学模様は千変万化。常に形を変え続け。

 正しくそれは、オメガポロックの体表にて躍ったものと同様の模様であった。

 そうさ、つまりは。


「この剣は、私が装備して初めて目覚める。オメガポロックを宿した、意思あるカタナ」


 今度こそ、ざわりと。皆が一斉に言葉にならぬ声を漏らしたなら、小さくないどよめきとなって場の空気を一変させた。

 つーっと、静かに落涙するイクシスさん。下手をするとそのまま意識を手放しそうな勢いの彼女である。

 それほどまでに、彼女の目にはこの一振りが素晴らしいものに映ったようだ。

 他の皆にしても、なかなかどうして上手く感想が言葉にならないらしく。

「すごい」「ヤバい」「鳥肌が立ちました」「ふつくしい……」

 などなど、誰も彼もが語彙力を失くしたのだった。


「ふん」


 と、ご満悦な様子のゴルドウさん。

 しかし私とて、それをどうこう言えないくらいには感動している。

 想像以上の出来だ。他でもない完全装着持ちの私だからこそ、それがよく分かった。

 アイデアもデザインも纏まって、あとは実物を拵えるだけ、という段階までは私も知ってるのだ。

 けれどいざ出来上がったこの一振りは、正に私の思い描いていた完成像を遥かに凌駕する仕上がりで。

 まだ試し斬りどころか、振ってすらいないっていうのに、よもやここまで驚かされるだなんて思ってもみなかった。


「ぐぬぬ……なんか、出来が良すぎてちょっと腹が立ってきた……!」

「分かる。分かるよミコト……!」


 共感してくれたのはオレ姉。

 彼女にとって、ゴルドウさんはいつか越えるべき大きな目標だものね。それがこんな代物を出してきたってんじゃ、心穏やかで居られないのも仕方ないだろう。

 翻って私のはって言うと、モノ作りに携わる者としてのジェラシー。あとはまぁ、オタク気質から来る発作のようなものだ。


 そんなこんなで、改めてカタナを掲げ、皆してその出来栄えに惚れ惚れしていると。

 そこにふと、声を掛けてくる者があった。

 ハイレさんである。


「ちょっとちょっと、気持ちは分かるけどそこで満足してもらっちゃ困るのよねぇ」


 見れば、彼女だけではない。開発陣の皆が、ニヤリとしてこちらを見ているではないか。

 何事かと不思議そうにするチームミコバトの面々。

 そんな中、私とイクシスさんの心持ちはと言えば、無論開発陣側と同様だ。

 チームミコバトの皆が一層驚く様が、既にありありと想像できてしまう。


「ミコトちゃん、いいかしら?」

「了解。いよいよ、これを身につける時が来たんだね……!」


 ハイレさんに促され、早速スタンバイに取り掛かる私である。

 そうさ、ここからは楽しい楽しい試着の時間。

 皆の反応を思えば、堪らなく心が躍った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サイドアーム、テイルときてメインウェポン…! しかも刀ではなく「カタナ」! デザインもオメガポロックで完全SF(笑) っもうサイコーですね! これまでの兵装から全レンジ対応してるのは確定…
[良い点] 更新お疲れ様です。 オメガちゃんは刀···いやカタナになりましたか!『刀の骸』が所持していた刀とは違う色合いが、今のミコトと彼女との『差』みたいなモノというか『歩んできた人生の色』みたい…
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