第七四八話 ミコトのわくわく工作
今回開発する必殺技のテーマとして、私は『究極の貫通力』を取り上げることとした。
しかも目標は高く、オメガポロックを一撃で貫き仕留められるほどの威力だっていうんだから、まぁ生半可で足りるものではない。
正に究極。オメガポロックを貫けるっていうんなら、大抵のモンスターは一撃で行けるだろ、ってレベルの貫通力が求められるはずだ。
我ながら偉大なテーマに挑まんとしたものだ。どうしてこうなった。全部ゴルドウさんのせいさ、この野郎!
さて。
「それで、どうしたものだろう。一先ず、『貫通力の何たるか』について考えてみようかな」
何事も先ずは基本から。基本と言うか、定義付けが肝要である。
定義が正しく、そして真っ直ぐであるならば、それに乗っ取り突っ走ることでゴールに辿り着けてしまうわけだからね。
なので最初は、貫通力の何たるかをなるべくしっかり解る必要がある。
とは言っても私、別に物理学者ってわけでもないしな。
適当に思いつくことをつらつら論って思考することくらいしか出来ないわけで。
学校で習った知識? ゲームに役立つこと以外覚えてませんけど。や、記憶のどっかにはあるはずだけどさ、膨大なゲームの記憶に埋もれて化石になってるよ。誰だってそんなものでしょう?
結局関心のあること、つまりよく使う知識しか記憶の浅い部分には無いんだ。
学校の授業で学んだことなんて、大まかに言えばそんなもの。
だけどそれが結果として、今私を苦しめることになってるわけだから、人生何が役立つかわかんないものだよね。
まぁそれはさておき。
貫通力の何たるか、ね。
「ざっくりと言えば、運動エネルギーを狭めたもの、とかかなぁ?」
貫通力と言えば、この世界でいうと弓矢とか、前世なら銃とか。その辺がパッと思い浮かぶわけだけど。
それらの共通点を鑑みるに、『すごい勢いで撃ち出される』ことと『先が尖ってること』が挙げられるんじゃないかな。
すごい勢いで撃ち出すのは、単純に運動エネルギーを矢だか弾だかに乗せることを意味しているとして。
先が尖っているっていうのは、衝突面を小さくしようとした結果、と考えることが出来る。
突き刺さったり貫通したりっていうのは、そうした工夫の結果である、と。
かと言って、闇雲に先端を尖らせたら良いとかいう問題じゃなくて、恐らく大事なのは運動エネルギーを狭めること。
だってせっかく鋭くした先端も、衝突に伴って潰れてしまえば意味が薄れちゃうものね。
だからつまり。
「よりでっかい力を、より細く小さく、バラけないようにまとめる……取り敢えずはこの方向でやってみようか」
そうは言えども、異世界の物理法則が果たして、私の思うような結果をすんなり出してくれるのかっていうのは甚だ疑問っていうか、疑って掛かるべきところなのかも知れないけどさ。
そこは良くも悪くも素人知識。それっぽいと思ったことをやってみるだけである。
ダメならその時また考えるだけ。
ってことではい、定義づけ終わり。次だ。
「となると、用意するべきは二つ。『べらぼうに大きな運動エネルギー』と、『細くまとめる方法』だね」
前者はまぁ、言っちゃなんだけど簡単。
ひたすら力を求めればいいだけの、脳筋バンザイ理論だ。それこそトレモちゃんに協力してもらって、より強力な衝突ダメージを追求していけば良い。
問題なのは後者だ。
何せ、運動エネルギーが大きくなればなるほど、比例して細くまとめるのが大変になっていくだろうから。
なので、後者の問題は後回し。未来の私に全部丸投げ。
最初はとにかく、ひたすら強力な運動エネルギーを追求しようじゃないか。
「よし、やることは決まった。早速実験だー! トレモちゃん、よろしくお願いします!」
助手のトレモちゃんにヘコっと一礼。
そうして私は、しこたま彼女をド突き回したのである。
一時間ほどが経過。
各種計測結果を記すウィンドウとにらめっこし、唸る私。
「うーん……不満。この程度じゃ全然足りない」
そう、思いつく限りのこと、というほどではないにせよ、結構色んな攻撃手段を試してみはしたものの、それでもオメガポロックを貫くための運動エネルギーを叩き出せるかと言われたなら、首を傾げたくなる程度でしかなく。
私のイメージする、絶大な威力とはかけ離れて思えたのだ。
「完全装着を鍛えて、地力を上げるっていうのも手ではあるけど、それで爆発的に威力が上がる技なんてそうないしなぁ」
大事なのはやっぱり発想。
筋肉で銃弾に勝つのが困難なように、発想は時として威力を飛躍させるのである。
でも、発想。発想なぁ……。
「例えば、強力な攻撃って言ったら……それこそドリルと並んでロマン武器に挙げられる『パイルバンカー』とか。良いよね、めっちゃ強そう……ああでも、アレって実際はそんなに威力出ないんだっけ。フィクションでこそ力を発揮するタイプの武器だものね……」
ネットで調べた時は、地味にショックだったなぁ。
でも冷静に考えたら、アレって強い力で打ち出した杭を至近距離、何ならゼロ距離で対象にぶっ刺すっていう仕組みだもの。
その杭が果たして、打ち出しに際して発生する摩擦だの何だのって言うロスを補って余りある威力を出せるのかって言われたら、確かに疑問のある話で。
例えるなら金槌で釘を打つようなものだろうか。釘が刺さる力を鑑みれば、もっとシンプルに先の尖った金槌を打ち付けたほうが、単純な『刺す力』は強力なんじゃないか、と。
であるならば、威力がそんな微妙っぽいのに、加えて取り回しも悪いロマン武器とくれば、ここで再現してもあまり意味はないのだろう。
でも、ロマンはやっぱり捨てきれない。
「魔法式パイルバンカー……オレ姉に相談してみよう。また今度ね……あ、パイルバンカーで思い出したけど、そう言えばそれに似た名前の兵器に『バンカーバスター』なんてものがあったっけ」
確か概要は、空から落っことして地面にぶっ刺し、地中を爆破する強力な爆弾……とかだった気がする。
物騒極まりないね。誰だそんなの考えて運用し始めたやつは。引いちゃうよ。
でもこれ……使えるかも?
何せ『落下』っていうのは、想像以上にヤバいんだ。過去に何度か、そのヤバさを思い知る機会があった。
厄災級アルラウネにだって大きなダメージを与えたもんね。スペースゲートを応用した、無限落下。
アレこそ強力な技だし、もっと多用しても良いかも。
あと、そこに重力魔法とか、それに爆発系とか噴射系とかの魔法で勢いを加速させたら、もしかしてもっと強力になるのでは……。
「いや、待って。そう言えばまだやってない試みがあるじゃん」
私はついと天を仰ぎ見る。
真っ白な空。トレモの空。
流石にここには見えないか。でも、リアルにならあるはず。
「空から落とすと言ったら、やっぱりアレだよね……『メテオ』」
ゲームで何度ツッコんだかもわからない、狂気の技。「いやそんなの落ちて、その程度のダメージで済むわけ無いじゃん! っていうか周辺被害大丈夫なの!?」ってね。
もしもリアルで起こったら、ダメージどころか大災害である。下手すると星が壊滅しちゃうよ。
だからかは知らないが、あまたある私の習得済みスキルの中にも、それらしい名前のスキルはない。練習した覚えもないのだから当然だけど。
でも、無いからと言って再現できないってわけではない。
「成層圏にまでミノタウロスを移動させたこともあるし、頑張ればやってやれないことはないよね。問題は大気摩擦で燃え尽きないよう、魔法でどうにかしなくちゃならないって点だけど……ああ、イクシス号とかココロ号の技術を応用したら良いのか。ほんと、何が役に立つか分からないものだねぇ」
腕組みをし、一人うんうんと脳内シミュレートを繰り返す私。
そうして、一応ざっくりと手順をイメージできたところで、私はふとトレモちゃんに向かって言った。
「ごめんねトレモちゃん。今からあなたに疑似隕石を落とすことになったから。痛いだろうけどよろしくね!」
まさかこんな言葉を吐く日が来ようとはね。びっくりである。
勿論トレモちゃんは何も言わない。驚きも悲しみも怒りもしない。
でも私は恐いよ。何時の日か彼女が助走をつけて殴りかかってきそうで。
そうならないことを切に祈るばかりである。取り敢えず礼儀だけは尽くさねばね。あ、舞でも捧げておこうかな。
「あらよっと!」
トレモちゃんへ捧げる「隕石落とすけど許してねの舞」である。
さて。
それが済んだなら、いよいよ準備に取り掛かる私。
先ず用意するべきは、肝心要の疑似隕石本体。当然なるべく頑丈なものが良い。
でも、ストレージから高価な鉱物を取り出して運用するっていうのも、貧乏性から抵抗がある。お金は大事なんだから。
ってなると……
「重力魔法でその辺の地面をギュウギュウに固めて、めっちゃ堅い泥団子を作るイメージでどうかな? オメガポロック以上に硬く出来たら最高なんだけどなぁ……あ、上手く作れるようならストレージに予備の弾としてストックしておくのも良いかも」
ストレージも地味にレベルアップしてるし、そのくらいは余裕である。
今回は取り敢えずトレーニングモードの地面をごっそり拝借。地魔法を利用して地面から切り離したなら、それを重力魔法や地魔法、風魔法や水魔法と、とにかく圧縮に役立ちそうな魔法やスキルを総動員。
全力を用いて疑似隕石の作成を行った。
そうして、結果的に出来上がったのは……。
「……ちょっと欲張りすぎたかな?」
直径にして一〇メートルはあろうかという巨大な球体であった。
我ながら見事な球体を作ったものである。全方位からしっかり均一に力が込められていればこそ、これだけ綺麗な形になるのだから自画自賛も禁じ得ないってなものだ。
って言うか。
「なんか、すごい勢いで地面に沈んでいってるし。まぁzipファイルもびっくりな勢いで圧縮したからね、それでこそって感じではあるんだけど」
莫大な質量を持った球体。これがズガンと頭上から降ってきたら、それだけで大ダメージは必至。
「よし、ちょっと試してみようかトレモちゃん!」
ウキウキで球体をストレージにしまおうと試みる私。
幸い成功。なれど、扱いとしてはこれかなり特殊で、このトレモに限り存在を保つことが出来る、特殊オブジェクトってことになる。
以前検証で、トレーニングモードの地面を切り取ってストレージに入れ、現実ではどうなるかと試してみたことがあった。
結果は、当然リアル世界へ持ち帰ることなど出来ず。私がトレモから出た瞬間、ストレージ内のそれは消滅してしまった。
ならばとソフィアさんを誘い、PTストレージを駆使した検証も行ってみたけれど、トレモ側で収納したそれは、しかし現実側では確認できない、という結果。
逆に現実でPTストレージに入れたものは、一部例外を除いてトレモ内で利用可能という事も判明している。
例外となるのは、人間とか生き物なんかがその代表例だ。
まぁとは言え、トレモ内でストレージに収納したものを、トレモ内で排出する。
この行動自体には特に支障がないため、早速収納した巨大な球をトレモちゃんの頭上一メートルほど上に排出。
自然落下的に、ストンと落ちる巨大球。
トレモちゃんの頭部にごっすと乗っかり、そのまま彼女を押し潰し地面に埋没していった。
「なんか今一瞬、尋常じゃないダメージポイントが見えた気がするんだけど……」
地面には小規模なれどクレーターまで出来ちゃってるし。
これは、何だか期待が持てそうじゃないの!
私は巨大球をストレージにしまい直すと、地面へガッツリ埋没していたトレモちゃんを慌てて助け出すのだった。
ふぐぅっ!
き、今日はなかなかの量が届いたものですね……誤字報告感謝であります。
適用させいていただきました……!




