第七四三話 君なら出来る
ゴルドウさんによるとんでもない無茶振りに、堪らず頭を抱える私。
曰く、これまで一度も倒されたことのないとされる、伝説に謳われるようなモンスターを倒してこいと。
しかも心命珠狙いで。
そのオメガポロックというモンスターが、具体的に如何なる相手かはまだ聞かされてこそいないものの、恐らく仲間たちの力を借りて挑んだなら倒すことくらいは可能だろう。
何せこの時点で、私以外の皆は四天王を凌駕していたほどだもの。
そんな彼女たちが居れば、伝説級のモンスターも何するものぞってなものである。
けれどゴルドウさんの求める心命珠を得るには、私がソロで挑む必要があり。
しかもオメガポロックを圧倒できるような、強力な装備っていうのは控える必要まである。
何故なら、心命珠はジャイアントキリングボーナスを成立させなければ、ドロップを狙えないものだから。
さらに言えば、そこまで条件を整えたからと言って、確実に落ちるわけでもないし。
戦いの中で対象と何かしらの絆を築いたりだとか、強いインパクトを与えたりだとかして、どうにか自身を認めさせた上で核を撃ち、勝利する必要があるのだと言う。
普通のモンスター相手ならともかく、伝説のユニークモンスター相手にとか、無理難題……って言うか無理ゲーである。
でも、無理ゲーって聞くと疼き出す反骨精神もあり。我ながら厄介な性質だ。
まぁとは言え、反骨精神を抜きにしても、この難題をクリアしないことにはゴルドウさんの言う最強武器が作れないっていうんなら、避けて通るわけにも行かない。
もしもここで「無理です! 無茶です! 無謀です!」なんて匙を投げようものなら、せっかくの最強装備も妥協したものになってしまいかねない。
そんなものが、果たして真の最強と言えるだろうか?
勿論否。断じて否である!
脳裏をふんわりと横切ったのは、ソシャゲの在り方。
最強のキャラを育てるために、資材の限りをたった一人のヒロインに貢ぎまくる、とんでも育成。
高難度のクエストを何度も何度も何度も、馬鹿みたいに周回したり、何ならより効率的な周回方法を研究したりして。
そうやってやっとこさかき集めた素材を、惜しみなくつぎ込む。現代の苦行めいた執念のプレイング。
そうまでして、皆が競うように高みを目指すのである。本当に恐ろしいこだわりだ。
正直ソシャゲに関しては嗜む程度だった私だけれど、そこで攻略最前線を駆けるプレイヤーたちの、その妥協しない姿勢には、いち職人として共感を覚える部分もある。
ゲーム風に言うなら今回は、『最強武器』を完成させるために素材を集める必要があり、それをドロップするヤバいモンスターをソロで狩ってこなくちゃならないってわけだ。
それで言うと寧ろ、ソシャゲというかモン◯ンに近いだろうか。周回の必要はないわけだしね。
「……そう考えると、ちょっとやる気出てきた」
「どう考えたかは知らんが、それならば話を続けるぞ」
続いて語られたのは、オメガポロックの特徴や能力に関する内容だった。
なんでも件のモンスターは、とてつもなく厄介な能力を持っているそうで。
「オメガポロックは、攻撃を受ければ受けるほど頑丈になっていくらしいのじゃ」
「ああ、その話は私も聞いたことがあるな。一撃で倒しきれなければ瞬く間にダメージは回復し、損傷は消え失せ、あまつさえより頑強な身体を得ると。更には扱う魔法すら強力になったとの噂も耳にしたな」
「つまり攻撃を受けるほどステータスが強化され続けるモンスター、ですか……?!」
「そりゃまた、無茶苦茶なやつも居たもんだね」
「その強化は一時的なものなのかしら?」
「いや、永続らしい」
『ミコトにそんなのと戦えって!? ダメダメそんなのダメに決まってるじゃん!!』
「えーと、つまり……私はそのオメガポロックよりも格下、つまりステータスが低い装備で挑んで、どうにか一撃でそいつを倒さなくちゃならない……ってコト??」
「うむ。そうなる」
「バカタレか!!」
何が「うむ。そうなる」だ。聞けば聞くほど無理なんですけど! 芽生えたやる気もどっか行っちゃったんですけど!
ほらモニター向こうではモチャコたちもプンスコである。
ちなみにリモートと言いつつ、妖精師匠たちの姿が見えているのはこの中で言うと、私とゴルドウさん、それにゴルドウさんの血を引いてるチーナさんくらいのもの。
なのでオレ姉たちには、時折チーナさんが翻訳のようなことをして、相互のやり取りを円滑に進められるよう気を遣ってくれている。
そんな健気な彼女の傍ら。
師匠たちの怒りっぷりを見ても、顔色一つ変えないゴルドウさん。あまつさえ、
「何じゃ、やらんのか?」
だなんて挑発的なことを言うのである。
助け舟を求め、取り敢えず隣のイクシスさんへコメントを求めてみる。
「なんかあんなこと言ってるけど、イクシス先生的にはどう思う?」
「ミコトちゃんなら何とかなると思う」
「何とかって?」
「知らん。知らんが、なんやかんやあって最終的には最強武器が完成すると信じている」
「さては目が眩んでるな!?」
ダメだこの勇者様、全然当てにならない!
きっとオメガポロックと聞いて、その心命珠から作られる最強武器に思いを馳せてしまったんだ。
筋金入りの武器愛好家である彼女には、ちょっと刺激が強すぎたようである。
ならばとオレ姉に視線を向けるも、彼女も彼女でオメガポロックの心命珠が気になり始めた様子。心ここにあらずだった。
一応ハイレさんにもコメントを求めてみようかと試みるも。
「それってむしろ防具にこそ使うべき心命珠なんじゃないかしら? ミコトちゃんとの組み合わせなんて最高じゃない! ぶたれる度に強くなるミコトちゃん! ああ、ダメよ! 新しい扉が開いちゃう!!」
「開かんわ!!」
私をぶっていいのは可愛い女の子だけ! それ以外は返り討ちだから!!
って違う、そうじゃない!
「師匠ズ~!」
『大丈夫だよミコト! アタシたちはミコトの味方だからね!』
『そうよ! そんな大男の言うことなんて聞くことないわ!』
『何だったらー、妖精の技術の粋を集めたミコト専用スーパー破壊兵器の開発もやぶさかじゃないよー』
「おっふ……」
そうだった。
師匠たちに泣きつくのだけは、一番やっちゃいけないことだった。
下手すると、洒落にならない物を用意しかねない。
って言うかそれ以前に、そもそも私は師匠たちに武具の類を作らせたくないもの。
プロジェクト最強装備に関しては、私が身につけるものだからって言って半ば強引に手伝ってくれてるけども。
だけど本当なら、師匠たちには子供を喜ばせるおもちゃだけ作っていてもらいたいんだ。
だから、師匠たちの前で弱音は吐けない。
「う、うん、気持ちだけ受け取っておくね」
仮面の下で顔を引き攣らせつつ、遠慮の言で妖精師匠たちの暴走を抑制。
さりとて事態は一切好転したわけでもなく。一応最後の砦たるチーナさんに視線を投げてみるも。
「あはは……」
返ってきたのは乾いた苦笑い。それはそうだ。彼女がゴルドウさんを窘めてみたところで、オメガポロックが弱体化するわけでもないのだもの。
かと言って、ゴルドウさんに無理だから諦めろというのも……それはそれでなんか嫌だし。
業腹ではあるものの、やっぱり最強を生み出そうっていうその心意気に、他でもない装備の持ち主となる私が水を差すのはダメだろう。
それにである。
皆が一生懸命開発を頑張ってくれているのに、私は他所で自分のための鍛錬ばかりっていうのも違う気がするんだ。
私もプロジェクト最強装備に携わる者として、師匠たちの手伝い以外にも何かしたいじゃない。
そして今、この上ない大役が回ってきたわけだ。
なれば、無茶振りだろうと応えずして何とする!
と、モチベーションはあるのだ。モチベーションだけは一応ね!
でも実際、オメガポロックとかいう伝説モンスター……どうにかなるものなんだろうか?
イクシスさんの予言通り、なんやかんやあってどうにかなるなら良いのだけれど……まぁ、やる前から後ろ向きで居ても仕方ないか。
私は一度、大きく息を吐き。
そうして、ゆっくりと気持ちを整えた。
姿勢を正し、ゴルドウさんへ向き直る。
「分かったよ。まぁ、やるだけはやってみる」
「うむ。それでいい。なに、どうしても無理じゃった時は、ワシの最強がお前さんの手に余っただけのことよ」
「ぐぬ、煽ってくるじゃん……!」
私、煽り耐性にはあんまり自信が無いんですけど。
そういう事言われると、つい意地でもクリアしたくなってくるじゃん!
仮面の目の部分を光魔法で赤く光らせ、分かりやすくゴルドウさんを威嚇する私。
すると、見かねてチーナさんが口を挟んでくれた。
「それでおじいちゃん、そのオメガポロックって居場所は分かってるの?」
「勿論じゃチーナたん! 特級危険域のどっかにおる、とされておる!」
「なんて曖昧な……」
がっかりである。何処が「勿論」なのか……。
なんて肩を落とす私に、ふんと鼻を鳴らすゴルドウさん。
「なんじゃ、検索すればいいじゃろうが、検索を」
「はっ!」
「ミコトちゃん、もしかして【失せ物探し】も役に立つんじゃないか?」
「はっ!!」
ショックである。私より早くそこに思い至られるなんて!
ドヤッとしつつも呆れた表情をするゴルドウさんの何と憎たらしいこと……。
しかし、悔しいけれど二人の言う通り。
名前が分かっているのなら、検索か失せ物探し、どっちかには引っかかるに違いない。
釈然としないものを感じながらも、早速私は検索機能を立ち上げては、入力欄に『オメガポロック』と打ち込みつつ、同時に失せ物探しのスキルも発動。
すると。
「……あ、ほんとにヒットした」
果たしてどっちが機能したのか、或いはどっちも機能してのことか。
パッと自動的に起動したマップウィンドウには、特級危険域のとある場所が示され、見事にマーカーが刺さっていたのである。
これがきっと、オメガポロックとやらの居場所を示しているに違いない。
さて、どうしたものかな。
あぁ……今回も誤字報告感謝です。そろそろ嬉し恥ずかしゲージがまた溜まってまいりましたよー。
ご報告いただいた内容は、確認の後適用させていただきました。ありがたやぁ……!




