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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第七一七話 クオのプレゼント

 かつて世界を震撼させた、大厄災級魔王。

 その第三形態とこれからやりあおうというのだ。そう考えると、何だか現実味が酷く薄く。

 まぁ、ここが現実とはかけ離れた仮想空間内だからっていうのもあるかも知れないけどさ。

 それより何より、自分たちがそんなものを相手に出来るほどに力を付けたんだっていう、その事実が未だに信じ難いと言うか。

 私でこれなのだから、皆はきっともっとふわふわしているに違いない。

 さながら夢の中の出来事めいている。


 それこそ、目の前に聳える悪魔を象った禍々しき巨像が如き、その異形に見下されているこの状況なんて、正しく悪夢っぽいじゃないか。

 昨日、イクシスさんを破ってみせた強敵。最凶のモンスター。人類が一丸となって当たった大厄災の元凶。

 肩書は無数にあり。それだけ聞くと、とても私たちで対処できるような相手には思えないのだけれど。

 しかし事実、私たちチームミコバトは既に第一形態、第二形態を苦もなくやっつけた上でこれと対峙しているわけで。

 そう考えると、事実として自分たちがとんでもない所まで来てしまっているんだと、否応なく理解させられてしまう。

 まぁ、すごく今更な話かも知れないけども。

 何なら、キーパーソン探しを行ってる時なんかには、Aランク冒険者さんと一緒に行動する機会はちらほらあったのだ。

 そこで尽く驚かれた時点で、ある程度察するべきだったのかも知れない。


 今の私たちは、冒険者ギルドに於いて一般的に最高ランクとされる、Aランク冒険者がドン引きするほどの力を持っているんだって。

 しかも、そこから更にミコバトを経て、飛躍的に実力を増したわけだ。

 それの意味するところを、私は今の今まで失念……とまでは行かずとも、リアリティを持って自覚出来てはいなかった。

 こうして実際に魔王を前にしてようやっと思い至るとは、我ながら呆れもする。

 しかし、だ。それ程なのである。


 大厄災級魔王、その第三形態が誇る迫力たるや、これこそが魔王。これこそがラスボスであると。

 言葉にして語らずとも、その圧倒的な気配で知らしめているようだった。

 故にこそ、それと対峙している現在の自身を顧みてしまったわけだ。


 そして、そんな今の私たちはといえば。

 最終局面に備え、【身具一体】を発動した私。

 オルカはスーパーオルカから、ハイパーオルカへ。

 ココロちゃんはココロさんへ。

 クラウは変わらずブレイブクラウを維持。

 ソフィアさんはまじかる☆ちぇんじで幼女となった。


 蒼穹の地平も、いつの間にやら本気モードと呼べるようなスキルや能力を獲得しており。

 リリは自身を中心に幾本もの魔創剣を浮かべた、『万象ノ剣』を発動。

 聖女さんは、聖女ジョブの最高位スキルに当たる【神聖】を行使。神聖女モードへ。

 アグネムちゃんは固有魔法【負荷】を最大限に振るうための、圧殺モードへ移行。

 クオさんは固有スキル【個毒】の力を極限まで引き出す、【プレゼント選び】を開始。


 レッカは焔ノ化身を発動し、スイレンさんは二重奏を準備。

 そしてイクシスさんは、変わらず神気顕纏を維持している。

 話によるともう一つ、とっておきがあるにはあるらしいのだけれど、今は使いたくとも使えそうにないとのことだった。


 対する魔王も変身を終えており。

 絶望を体現するかのようなその威容が、心做しか忌々しげに私たちを見下ろしていた。

 相変わらず顔だけは整った人間のような形をしており。それが何とも不気味さを引き立てて見える。



 そうして、私たちも魔王もいよいよ第三ラウンドに備えたなら、これと言った合図もなしに戦闘は再開されたのである。



 先に動いたのは魔王だった。

 心眼による予見に続き、魔力の大きな揺れ。魔法の前触れをはっきりと私は見て取る。

 イクシスさんを追い詰め倒してしまうほどの、凄絶な魔法行使が奴の武器であることは既に知れている。

 故にこそ、対応は必須かつ迅速であり。


 応じるように動いたのは、私たち魔法を得意とするメンバーだ。

 遠隔で行使される術なら私が魔力のカタチを強制的にかき乱し、魔法の形成を妨害することで対応する。

 ならばとその身より直接放たんとする術は、ソフィアさんやリリ、聖女さん等が魔法をぶつけることで阻止や相殺を行った。


 これにより、第三形態に於ける最も厄介で警戒するべき奴の攻撃手段を封じたことになる。

 そこへ躍りかかるのが前衛組だ。

 事前の打ち合わせ通り、先ずは第三形態と同等の大きさまで巨大化したココロさんが鋭く奴へと殴りかかった。

 とんでもない迫力。えげつない風切り音。さりとて、その巨体に見合わぬ素早さは発揮され。

 紙一重にてココロさんの拳を躱した魔王は、それと同時に見事なカウンターを繰り出したのである。

 前腕を軽くぶつけてからの、背腕による強力な一撃が本命なのだろう。四本腕ゆえのファイティングスタイルだ。しかもその巨体でやられては、感嘆すら禁じえない。


 が、それには水を差させてもらうことになっている。


 タイミングを見極め、開いたのはスペースゲート。

 流石の反応速度にて、慌てて急制動を掛けようとする魔王だったけれど、残念ながらそれは間に合わず。

 拳は空間に開いた穴を抜け、その先にある自身の脇腹を刺したのだ。

 凄まじい激突と衝撃音。歪に曲がる魔王の巨躯。

 けれど、本命はここから。

 腕を突っ込んだままのスペースゲートを強制的に閉じることにより、腕を断ってやろうというのである。


 試みは即座に成された。が、なんと。

 驚いたことに、魔王のあまりの耐久力と再生能力の前に、空間の穴が閉じ切れずにいるではないか。

 空間は魔王の腕に深々とめり込んでいる。しかし切り落とすまでには至らず。

 その様子は、さながら穴に手を突っ込んで抜けなくなった子供のよう。

 大丈夫、想定の内。と言うより、狙い通りである。


 そんな魔王へ向けて、次に襲い掛かったのはアグネムちゃんの負荷。

 ただでさえ自重の凄まじい第三形態に、それは殊の外大きな効果を及ぼしたようで。

 床が堪えきれず、盛大に破損。ダンジョンの修復能力が働き、魔王の脚へダンジョンの床が底なし沼の如く纏わりついたのだ。

 片腕を空間に挟まれ、脚を床に沈め。正しく奇妙な光景。

 隙と呼ぶにも大き過ぎるそれを晒した魔王へ、いよいよ皆の攻撃が殺到する。


 障壁の展開すら私が妨害したなら、無防備にココロさんのラッシュを受ける魔王。

 レッカの焔とリリの魔創剣が踊り狂ったなら、ハイパーオルカのマフラーが巨大な獣の顎門が如く変じて魔王へと喰らいつき。

 クラウとイクシスさんの母娘は疾風怒濤の勢いで斬撃を迸らせれば、聖光と灼輝が奴の身体を絶え間なく焼滅させんと大暴れする。

 スイレンさんの奇妙で見事な二重奏が、そんな皆に爆発的な力を与えたなら、ここでとっておき。


『贈り物が決まったよ』


 なんてクオさんの念話が届いた直後である。

 打ち出された弾丸は、見事魔王の傷口が一つへひょいと吸い込まれ。

 かと思えば、直ぐに解説が届いた。


『彼のために生成された毒の名は【耐性反転】。状態異常に対する耐性を反転させる効果の毒だよ。即ち、完全耐性を有している魔王は────この上なく、無防備を晒すことになる』


 述べつつ、その場に膝をつく彼女。どうやら代償の重たいスキルだったようだ。よく見たなら、MPが枯渇しているようである。

 それでも彼女は、魔王を真っ直ぐに睨んだまま、告げるのだ。


『やっちゃいなよ、リリエラ!』


 これを受け、リリの周囲に新たな剣が数本生成された。

『まったく、状態異常の付与はあんたの仕事でしょうが。肝心なところで息切れ起こすんだから、仕方ないわね!』

 なんて憎まれ口を叩きながら、生じたる剣を次々に魔王へ向けて発射。

 すると、結果は劇的であり。


 リリエリリエラの二つ名は、『百剣千魔』。

 即ち、それほどまでに変幻自在な剣技と、多彩な魔法を使いこなすという意味である。

 その名に違わず彼女は対象に状態異常を付与するための魔法も、当然のように持ち合わせていた。

 そしてそれは今、魔創剣へと姿を変えて魔王へと撃ち込まれたのである。

 用いられたのは麻痺に始まり、混乱、HP・MP継続ダメージ、衰弱、沈黙、暗闇、鈍足、回復阻害……などなど。


 リリの繰り出したそれらの魔創剣は、ものの見事に片っ端から効果を示したようで。

 バッドステータスのオンパレードである。本来であれば、魔王にあり得べからざる状態。正しく異常。

 これに表情を引き攣らせたのはイクシスさんだ。何せ彼女も状態異常を無効化するスキル持ちだもの。耐性反転は見事に刺さるだろう。

 そして、ここまで弱ったならさしもの第三形態も恐るるに足らず。


 すっかり動きを止めた魔王めがけ、一層苛烈になる皆の攻撃。

 魔法すら状態異常の影響で封じられているため、後衛組も参加してのフルボッコだ。

 何せ的が大きいため、渋滞するようなこともなく。

 クラウとイクシスさんが背腕の巨大な石をズバンと叩き斬ったなら、いよいよ魔王から感じられる力も大きく減衰し。

 状態異常の効果により、再生能力の低下した奴はダメージを蓄積させる一方。

 絶好の好機とはこの事だ。出血大サービスと言わんばかりに、大技をしこたま叩き込む皆。目減りしていく魔王のHPが目に見えるようだった。


 そうして、皆でワッショイワッショイとラッシュを掛けまくっていたなら、いよいよその時が訪れた。


 ズルリと、突如として奴の顔面が奇妙に動いた。

 表情が変化したわけではない。さながら、仮面がズレたかのような不気味な動き。

 かと思えば、それは加速し。第三形態の顔面が、まるで穴から這い出すミミズが如くズルリズルリと零れ落ちていったのである。

 事前に聞いていた情報どおりとはいえ、それは酷く怖気を掻き立てる光景で。

 私たちは一様に顔を引き攣らせながら、その様を観察したのだ。


 ぼとりと、本体より抜け出し床に落ちた顔面。

 さながら寄生虫のように、ウゴウゴと蠢く様はとにかく不快で。

 さりとてそれは、やがて別の形へと変貌していくのである。それも、急速にだ。

 原点回帰、とでも表するべきか。それは元の魔王、即ち第一形態に近い、シンプルな人型であった。


 イクシスさん曰く、これこそが第三形態の核。

 たとえ魔王とて例外ではない、モンスター最大の弱点にして、力の源。

 それが今、ようやっと姿を見せたのだ。


 いよいよ、決着の時である。

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