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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第七一話 お別れと報告

 街からほど近い草原の只中に、気づけば私達は立っていた。

 つい一瞬前には小石混じりの土を踏みしめていたというのに、今足元に広がっているのは背の低い草花。

 緑の匂いが鼻をかすめ、本当にまるで異なる場所へ来たのだと実感を与えてくれる。


 ものの数分前、私達は間違いなく鬼のダンジョン第三階層にいた。

 それがどうだ。たった二つのスキルを駆使したことで、ダンジョンからの脱出に留まらず、街の直ぐ側まで戻ってきてしまったではないか。

 移動系スキルと言うと、私が渇望した実用性の高いスキルの最たるものである。

 思わぬ形にはなったが、それを無事に得られたことは棚から牡丹餅的に嬉しい。


「す、すごいですわね……本当に転移してしまいました……!」

「さ、さすがココロが見込んだお姉ちゃんなだけあるのだ!」

「うぅ……それにしても、やっぱり消耗が大きいなこれ……」


 確かにこのワープというスキルはすごい。

 マップウィンドウと組み合わせて使用することで、細かな転移先の指定まで出来るスグレモノだ。しかもどうやら、自分だけでなく他者を連れての転移も可能なようで。

 ストレージと組み合わせて使えば、交易でガッポガッポなのではないだろうか。もう冒険者引退しても生きていけちゃうよ。

 まぁ、当面そんな予定もつもりもないけどね。


 しかしそんなワープにも、いやそんな便利スキルだからこそと言うべきか、代償もそれなりのものを求められるようで。

 ワープの使用に際し、どれくらいMPを持っていかれるか不明だったため、事前にMPを引き上げることの出来る装備セットに換装しておいたわけなんだけど、それでも現状残りMPが半分を下回っている始末。一気に持っていかれた印象だ。

 ただのゲームであれば、ワープ系の魔法なんて消費MPはそれ程食わないはずだけれど、やっぱりそううまい話はないのだろう。


「MP回復薬とか、大量に仕入れておいたほうがいいかもなぁ。それでお腹チャプチャプになっちゃう未来が見える……あ、いや待てよ……」

「? なんですのミコトさん、またおかしなことでも思いつきましたの?」

「っていうか、早くその人運んだほうがいいのだ」

「おわっと、そうだった!」


 ちょっと試したいことを思いついたけれど、ココロちゃんに指摘されてわざわざ大急ぎでここまで戻ってきた理由を思い出した。

 私が背中に縛り付けている、モンスターパレードから逃げ回っていたこのお姉さん。それを街に連れ帰ることが目的だったのだ。


「とりあえずこの人も冒険者だろうし、ギルドに連れて行こうか。事情説明とかもしなくちゃいけないだろうし」

「そうと決まれば、急ぎましてよ」

「走るのだー」

「っていうか、二人はいつまでそのキャラクターを演じるの?」

「「あ」」


 すっかり役が馴染んでしまっている二人は、放っておいたらいつまでもこのままな気がして、つい疑問を投げかけてしまった。

 オルカもココロちゃんも、冒険者としては結構有名人だ。その実力も美貌も相まって、知名度はなかなかのものだろうに、それが別人のような立ち居振る舞いをしていては、いい話の種になってしまうだろう。

 当人たちは、指摘を受けて急に慌てているが、もしかしてどの時点で演技をやめるか決めていなかったのだろうか?

 まぁ、往々にしてこういうのって、始めるタイミングは決めておいても、終わるタイミングなんていうのは失念しがちなものだからね。その例に漏れなかった、ということだろうか。


「そ、そうですわね、それではこの試験を開始した場所に立ち寄りませんこと?」

「そこをゴールにするのだ!」

「なるほど、了解」


 幸いそれなら距離も近い。ものの数百メートル圏内だ。

 お姉さんを早く休ませてあげたいので、私達は小走りで目的地へ向かった。正確な位置までは流石に覚えていないため、そこら辺はまぁアバウトだったが。

 オルカとココロちゃんがここでいいと言ったので、そこがゴールとなった。


「さて、それではミコトさん。数日がかりの護衛、ご苦労でしたわね」

「五階層にはいけなかったけど、すっごく楽しかったのだ!」

「わたくしもでしてよ。次があるのなら、是非五階層まで行きたいものですわね」

「うん。その時は、必ず」

「ふふ、楽しみにしていますわ」

「それじゃぁお姉ちゃん、またねなのだー!」


 ぐすん。

 なんだ、演技が終わるだけだっていうのに、お別れムードじゃないか。涙腺がまた破壊される。


「うぉーん! 行かないでくれぇ!」

「ちょ、ミ、ミコト」

「大袈裟ですよ、ミコト様」

「ああ、ああぁぁ……」


 令嬢オルカと、わんぱくココロちゃんの霊圧が……消えた。

 数日前、ここで初めて二人に出会ったときのことが、フラッシュバックする。

 最初は先が思いやられると、頭を抱えたものだ。

 それがいつしか段々、愛着が湧いてきて。手のかかる子ほど可愛いっていうのは本当だったんだな。

 そんな二人が、いなくなってしまった。

 ああ、心に、隙間風……ひゅるるー……。


「ミ、ミコト様が泣き止みません!」

「そっとしておこう。ミコトは情に弱いところがあるから……」

「そ、そうですね……ですがそれだと、彼女が」

「仕方ない……。ミコト、ほら行こ?」

「うううぅぅぅぅ……」


 デフォルトオルカに手を引かれ、街門へ向けて歩く。

 私の涙はしばらく、止むことはなかった。。



 ★



「――と、いうようなことがありまして」

「ぐすん……」

「……とにかくその方を、医務室まで運んでいただけますか?」


 久方ぶりに冒険者ギルドを訪れた私達。

 時間帯はお昼ということもあり、こんな時間に依頼を受けに来る冒険者もそうはいないため、ロビーはいつもよりずいぶん広く感じられる。

 未だ感情の整理をつけかねている私は、オルカに手を引かれたまま、担当受付嬢であるソフィアさんが受け持っているカウンターへ足を向けた。

 そうして、色々訊きたそうな彼女へ一先ず、ココロちゃんが大まかな経緯を語って聞かせたのである。勿論、スキル云々という話題は避けつつ。


 私が背負ってきたお姉さんは、とりあえず医務室で休ませることになり、あとのことはギルド側へ丸投げすることとした。

 その頃になれば、流石に私も落ち着きを取り戻す。

 そうして私達は、詳しい事情を説明するべくソフィアさんに連れられ、ギルド奥の個室へ。もう何度目だろうか、ここを利用するのは。

 ソフィアさんには試験結果の報告と、あのお姉さんがモンパレに追われていたこと等を語った。

 しかし、流石は目ざといソフィアさん。私達がお姉さんを見つけたのがダンジョン四階層であり、そこから急いで戻ってきたという話を受けて、それはおかしいと首を傾げたのだ。

 彼女は私達が試験を開始した日を知っている。そして試験の内容も。

 即ち、一般人に扮するどころか、張り切って足を引っ張りまくったオルカとココロちゃん。その二人を連れてダンジョン四階層への往復を行うには、流石に辻褄が合わないというのだ。帰ってくるのが早すぎる、と。

 しかしそこはソフィアさん。私達が虚偽を述べているなどとは思わず、彼女はこう考えるのである。


「さては、なにか移動に役立つスキルを得ましたね?」

「……な、なんのことですかな?」

「言いなさい! 白状するまで帰しませんよ‼」

「平常運転すぎるよソフィアさん!」


 結局今回も、ガックンガックンと肩を掴んで揺さぶられ、物理的に吐かされそうになった。

 でも、私はこみ上げる吐き気と戦いながら彼女に一つ、条件を突きつけたのである。


「教えてもいいですけ……うぷっ……ど、私の要求を呑んで下さい!」

「む……なんですか。聞くだけは聞きますよ」

「すぐさま再試験を受けたいです。何だったらこの後、取って返してダンジョンへ向かっても……」

「却下です!」

「そ、それならスキルについては内緒ですよ」

「ぐぬ……いえ、それに関しては時間をかけてでも聞き出しますし、最悪どんな手を使ってでも調べますから……」

「恐い! 恐いんですけど!」

「ともかく、担当として再試験には、最低でも一日の休養を挟んでから挑んでもらいます」

「ぐ……っ、そこをなんとか!」

「なんともなりません。これが最大の譲歩です」


 あのスキル大好きソフィアさんが、スキルの情報よりも私達の休養を優先させた。

 驚くべきことだが、それが彼女なりのプロ根性、担当の矜持ということか……。


「スキルホルダーであるミコトさんに何かあっては、新しいスキルの情報が聞けたところで意味がなくなってしまいますからね。優先順位はスキルの安全が上ですよ」

「そ、そうきたか……」


 感心した私がバカだった。どうやら合理的な判断に基づいての却下だったらしい。

 こうなると流石に、ぐうの音も出ない。

 私は落胆を隠せず、話も終わったためそのまま個室を辞した。

 買取カウンターに立ち寄って、今回の獲得素材を売り払い、十分なお金を受け取ってからギルドを後にする。

 一連の成り行きを見守ってくれていたオルカたちが、不本意な休暇を言い渡された私をドンマイと慰めてくれるけれど、ここに来ての足止めはなかなか辛いものがある。

 こうしている間にも、どこぞのAランク冒険者は鬼のダンジョンに潜り続けているのだろう。それを思うと、気が気ではないのだ。


「ミコト、決まったことは仕方がない。ソフィアだって意地悪で言ってるわけじゃないんだし」

「そうですよミコト様。それに、ダンジョンに行けないのなら、街にいる間しか出来ないことをやればいいのです!」

「街にいる間しか……」

「そう言えば、さっきなにか思いついてたみたいだったけど?」

「はっ、そうだった! よし二人とも、薬屋さんに寄っていこう!」


 言われて思い出した、もしかすると画期的かもしれないアイデア。

 一瞬で落ち込んでいたことも忘れて、私は二人を引き連れ街の薬品店へ急ぐのだった。

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