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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第七〇八話 切磋琢磨

 激突するは、白と紅の極光。

 織りなす幻想的な光景に闘志を燃やしながらも、さりとて何処か他人事のようにそれを眺める私も居て。

 白と紅だなんて、元日本人の感覚からすると、何ともおめでたい配色ではないか。

 あるいは運動会かな? 私が白組で、オルトメルトが紅組。

 そう考えると、何だか不思議と負けられないって気持ちが湧いてくる。白組代表として、押し負けるわけには行かない! みたいな。

 まぁ、白組も紅組もメンバーなんて一人しか居ないんですけどね。大会参加者が二人だけだから、勝ったほうが優勝、っていう。

 そう見ると、途端にテンションが下がってくる。捉え方の妙というやつか。


 なんて、とてつもなくどうでもいい考え事をしている間にも、決着は成ろうとしていた。

 結果は必然。相性の差が歴然なんだ。


 オルトメルトの吐き出した真紅のブレスは確かに恐ろしいものだ。それは疑いようもない事実。

 直撃どころか、掠っただけで跡形もなく消し飛ばされそうな力を感じる。

 事実、衝撃波だけで周辺の地形は跡形もないほどに崩れ、様変わりしており。何とも傍迷惑を極めたような攻撃である。

 けれど、だ。

 対する私の、【身具一体】を経た光の白枝はその出力も然ることながら、相手にとっては滅法たちの悪い特性を有しており。

 分解、吸収、増強のサイクルを在り方とするこの枝は、葉っぱもないくせに光を受けてすくすくと育っているわけだ。


 白と紅がぶつかれば、爆ぜたエネルギーは私の元へとやって来て。

 その力は枝を成長させる強力な糧として、片っ端から利用されるわけである。

 するとどうだ。拮抗だなんてのは最初の一瞬だけ。

 魔力残量に限りのあるオルトメルトに対し、こちらは相手の力を喰って出力を上昇させ続けるものだから、正面からの激突になった時点で結果は見えていたと言っていい。


 無論、状況のマズさにはすぐさま気づいたオルトメルト。

 さりとて、ここから逃れる術などは既に無く。肉体の損傷も甚大。

 とどのつまり、詰みである。


 そして。


 白枝の出力が完全にブレスとの拮抗を許さぬ値に達したその瞬間、勝負は一瞬で決した。

 無論、逆転の余地などはなく。彼女は白に呑まれ、その身を分解され尽くしたのである。

 けれど、そうは言えども四天王最強。

 ここから更にもう一波乱あるのではないかと、気を抜かず身構える私。

 が、どうやらそれは杞憂に終わったようで。


 目の前には、私の勝利を証明する文字が、展開されたウィンドウにしかと表示されているではないか。


 それを認め、ようやっと構えを解き緊張をほぐす私。

 更に【身具一体】を解除したなら、途端に装備から白銀が失われ。

 と同時、全身に伸し掛かるずっしりとした疲労感と言うか、虚脱感。さながら細胞の一個一個がおしなべて疲れを訴えているような感覚。キャラクター操作を使った後とやっぱりよく似ている。

 何度体験しても慣れないその感覚に辟易としながらも、ジワジワと湧いてくるのは実感だ。

 独力で、四天王最強オルトメルトを撃破したのだという、実感。


 じっと手を見る。

 ぐっと拳を握り込んでみる。


 ふと、我ながらなんて速度で成長しているのか。なんて、すごく今更なことを思う。

 この世界でミコトとして活動し始めてから、約二年の私である。

 プレイヤー補正の凄まじさ。否応なく脳裏には『チート』だなんて言葉が浮かんでくる。

 私は、力に見合うだけの努力が出来ているのだろうか。未だにその点に関しては不安を拭えずにいる。

 それでも、私は今回頑張った。いや、特に頑張った。

 皆に差をつけられ、感じた焦燥感。

 それを払拭するべくたくさん考え、試し、相談もした。

 そうしてやっとこさ得られたのが、この結果なんだ。


 私は、オルトメルトに一人で勝ったんだ。


「……よし……っ!」

 思わず、小さくガッツポーズ。

 久々に感じる大きな達成感を、私は強く噛み締めたのである。



 ★



 目を開けて、先ず感じられたものが二つ。


 一つは体の軽さ。身具一体の反動が嘘みたいに消えているのだ。何故ならスキル行使は仮想空間内での出来事だから。

 全ては『再現』でしか無いため、反動が現実世界に及ばないだなんて言うのは当然といえば当然の話。

 なので、身具一体の検証や練習を行うのにミコバトはとても都合が良いわけだ。勿論、身具一体以外の反動の大きなスキルにも同じことが言えるわけで。

 皆がミコバトにのめり込む理由の一つは、もしかするとその辺にもあるのかも知れない。


 そして、仮想空間より帰還した私が真っ先に感じたもう一つのもの。

 それが、音だった。

 拍手の音だ。それも随分と賑やかじゃないか。

 徐に体を起こしたなら、目に飛び込んできたのは興奮気味の皆の表情である。


 そうだった、みんな観戦してくれてたんだ。

 だとすると、身具一体を初めて目の当たりにしたメンバーも居たかも知れない。

 であれば、なるほどこの空気にも得心が行くというもの。

 私はなんだか照れくさくなって、後頭部を撫でつつヘコヘコと皆へ会釈を返したのである。


 拍手が落ち着いたなら、次はチラホラと感想が飛んでくる。

 皆好き勝手喋るもんだから、聞き取りは出来ても返事が出来ない。

 やれ、アレが凄かった、コレが見事だ、大したものだと。面映いったらない。

 そんな中、徐にイクシスさんが口を開いたなら、自然と皆は発言を控え。


「いやはや、まいったな。【身具一体】、凄まじいスキルだ。あのオルトメルトと正面から打ち合って圧倒してしまうとは……しばらくおとなしかったかと思えばコレだ。これでは私も、いよいよ何時追い越されるかも分からなくなったな……本当に見事な一戦だった。スランプ脱出おめでとう、ミコトちゃん!」

「あはは、スランプか……うん、言われてみたら似たようなものだったのかもね。けど、おかげさまで一皮むける事が出来たよ。ありがとうイクシスさん。みんなも!」


 改めて謝意を述べれば、再度拍手が起こり。

 かと思えば。


「ぐぬぬ、忌々しいわね。せっかく差をつけたと思えばコレだもの。いいわ、もう一回突き放してあげるんだから!」

 などというリリの言を皮切りに、皆もやる気を漲らせ。

 こうしては居られないとばかりにベッドへ横たわっては、さっさと仮想空間へ飛び込んでいってしまったのである。

 つい今しがたまでの騒がしさが嘘のように、静まり返る鍛錬室。胸中には奇妙な感慨。

 思わず苦笑が湧いてくるも、さりとて皆がまた走り出したというのなら、私も負けてはいられない。


「よし、この勢いで四天王制覇だ!」


 差し当たっての目標を声に出すと、私もまた皆同様自身のベッドへ身を横たえ、CPU対戦モードの設定を整えたなら、早速仮想空間へとダイブを行うのだった。

 これも一つの切磋琢磨というのだろうか。

 伸び悩み、苦しかった先日までの自身が夢に見ていた、理想的な皆との関係性だ。

 それを思えば、今この時間がとてつもなく尊いもののように感じられて。

 私は喜びを深く噛み締めながら、意識を彼方へと飛ばしたのである。



 ★



 翌日。

 外はまだ肌寒いけれど、季節はいつの間にやら春だ。

 多分、今世の私が生まれたのと同じ季節。って考えると、やっぱり二歳になったってことかな。

 四天王を単独撃破できる二歳児。うん。まぁ……うん。深くは考えないでおこう。


 時刻は午前九時。

 まだ暖房魔道具が程よく仕事をこなしている、ここは馴染みの鍛錬室。

 昨日に引き続き、何故か今日もこの部屋へ集合している私たちである。

 ミコバト常連の全員が集い、ワイワイと雑談を交えている。

 が、際立った話題はと言えばやはり、招集が掛かった理由に関してだろう。


 それというのもつい先程、食堂で朝食を頂いていた時のこと。

 何時になくおっかない雰囲気をしたイクシスさんが、この後鍛錬室へ集まるようにと皆へ唐突に告げて来たのだ。

 ただ事でないのは明らか。

 それでいて会議室でなく鍛錬室だというのだから、招集理由にも自然と察しが付こうというもの。

 現に皆は、あっちこっちでそうした意見交換を行っており。

「ミコト、どう思う?」

「うーん、まぁやっぱりそうなんじゃない……?」

 なんて、私もオルカと軽い遣り取りをする。


 と、そこへ。

 扉の開く物音がしたかと思えば、やはり張り詰めたような緊張感を纏ったイクシスさんが、無言のまま入室してくるではないか。

 皆の話す声がピタリと止む。

 柔らかい絨毯を踏む幽かな彼女の足音が、いやに大きく聞こえた気がした。


 そうして、イクシスさんのベッドとして既に周知されたそこへと至ったなら、彼女は腰を下ろすでもなく暫し佇み。

 そして、言ったのだ。


「……魔王が、アンロックされた」


 静かな驚きが、鍛錬室を駆け抜けていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 真っ正面から撃破=イクシスさんも驚くレベルのオルト女史撃破を経て、漸く表のラスボス(で有ろう)魔王降臨ですか。無論オルト女史たち強豪の様に本気モードはあるでしょうが、…
[良い点] ミコト頑張った! さて、いよいよ魔王。四天王を単騎討伐できるメンバーで挑んだらいくらか余裕ありそうだけど……クラウとイクシスさんにとっては因縁の敵。 ミコバトのCPUで会話は出来ないかも…
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