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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第七〇話 グロッキー

 よく、自動車は運転していると酔わないけれど、同乗していると酔うって人がいる。

 思うにそれは、運転手による操車の意思と車の挙動がリンクしていることで、操縦している人間は体に掛かる負荷を予め予測でき、心身ともに最適な姿勢でその負荷をやり過ごすことが出来るからではないだろうか。

 他方で同乗者に関しては、どうしても受動的な負荷への対応となってしまう。

 その差が、運転手と同乗者の間に酔いやすさの差というものを生じさせているのではないだろうか。


 なんてあてずっぽうな事を考えながら、私はダンジョンの第四階層を弾かれるように移動していた。

 その挙動は、傍目に見ればおそらくスーパーボールを思い切り床や壁に叩きつけたときのそれに近いだろう。

 床か、壁か、或いは天井か。私は目まぐるしく迫ってくるそれらを、一々空中で姿勢を変えては足で弾き、マップウィンドウ由来の視界に表示されている矢印方向へ向けて、勢いよく体を飛ばしているのだ。

 一つのステップから、次のステップへの間隔はまちまちで、しかし確実に空中姿勢を整えるべく体はグリングリンと回り続ける。さも意地悪に緩急でも付けているかのように。


 たまったものではないと。もはや悲鳴すら上げず、舌を噛まぬよう歯を食いしばっているのはオルカとココロちゃんだ。

 私が彼女らを両脇にガッチリ抱え込み、決して離さないため、二人の三半規管には甚大な負荷がかかっていることだろう。

 それに不規則な挙動でブンブン振り回すものだから、身体にかかるGも大変なことになっているに違いない。宇宙飛行士の訓練でもさせられているかのようだ。

 しかも、ぶん回される度にお腹に回された私の腕一本へ自重が集中するので、彼女らは終始鳩尾辺りを強烈に締め上げられているような苦しみにも耐えているわけで。

 その顔色はすっかり真っ白だが、これも良い経験になるだろう。っていうか、私自身もこの動きにはまだ慣れていないためちょっと気持ち悪いくらいだもの。


 それでも、自分含めて四人分の重力を軽減するというのは結構MP的にしんどいのだ。

 ノロノロ移動していたのでは、私がMP切れで戦力を大きく落としてしまうことになるからね。身体が軽い内に一気にダンジョンを脱出しなくちゃならない。

 何、まだまだ移動は始まって間もない。たかが数分である。その割に進行ペースはかなり順調であるため、この調子なら脱出まで問題なく持つことだろう。


 そうして暫く移動を続けていると、体感で二〇分足らず程だろうか。第三階層へ続く上り階段へたどり着くことが出来た。

 階段を僅か一飛びで昇ってしまうというのは、なかなかに痛快な体験だった。癖になりそうだ。

 なんて私が小気味よさに機嫌を良くしていると、それとは対象的に右脇から亡者の如きおどろおどろしい声が、かすかに聞こえた。


「と……とま……て……」

「じ……じぬぅ……」


 あ、左からも。

 どうやら、両脇に抱えた二人が限界を訴えているようであった。

 私は仕方なく重力魔法を解除し、ウサ耳もしまって地に足をつけると、がくんと身体がやたら重くなったのを感じつつ二人を解放した。あと、背中にくくりつけているお姉さんも。

 オルカとココロちゃんは、私の腕を放れるやいなやフラフラと通路の隅っこまで移動し、そして同時に……。



 ★



「二人とも、顔色ヤバいけど大丈夫?」

「だ、だいじょうぶに、見えますの……?」

「ごはん、たべなくて、せいかいだった、じょ……」

「うーん、まだ三階層分あるんだけどなぁ」

「「こ、ころさないで……」」

「命乞い!?」


 げっそりやつれて、生気を感じさせないような青白い顔をした二人が、もう勘弁してくれとついに泣き出してしまった。

 そんなにダメだったか……。ココロちゃんはともかく、身軽なオルカなら大丈夫かと思ったんだけどな。

 そして眠らせてあるお姉さんに関しては……うん、大丈夫そうだ。安らかな表情で眠っている。

 ……生きてる、よね? 一応確認してみるが、呼吸も脈もえらく弱い。ちょっとヤバいかな……治癒魔法をかけておこう。


「うーん、まさかここまで皆が弱るとは……どうしようかな」


 予定では、ノンストップで脱出までこぎつけるつもりだったんだけど、そうは問屋がおろしてくれないらしい。

 これでは、何か別の手段を講じるか、或いは二人を眠らせて無理やり運んでしまうかの二択じゃないか。


「ミコトさん、今なにか、物騒なことを考えて、いましたわね……?」

「こ、ころされるのだ……」

「そんな事考えてないよ! 安全な運搬方法についてちょっと思いを馳せていただけで」

「その、運搬っていうの、やめてくださいまし……」

「物じゃないんだぞー……」

「おっと失敬。口が滑っちゃった」

「「…………」」


 二人から熱烈なジト目を向けられつつ、私は改めて思案する。さて、どうしたものだろうか。

 なにか役に立ちそうなスキルはなかったかと、一先ずステータスウィンドウを開き、スキル欄を注視してみる。

 すると、不思議なことに見覚えのないものが二つほど追加されているではないか。

 あれ、いつ覚えたのだろう? 可能性があるとするなら、先程久しぶりにマップウィンドウを開いた時だろうか。見落としていたとしても、それなら不思議じゃない。

 まぁそれはいい。それはいいんだが、問題はそのスキル名よ。


 新たに獲得していた二つのスキル。その名も【フロアスキップ】と【ワープ】である。

 これ、絶対壊れ性能のやつじゃん‼

 私のジョブはプレイヤーという謎の多いものだが、このゲームっぽい世界でプレイヤーだなんて言ったら、それはもうゲームプレイヤー以外に考えられない。

 ただ、この世界でゲームというととてもアナログチックなものしか無く、当然のようにコンピューターゲームなんてものは存在していない。

 そんな世界でゲームプレイヤーだなんて、あからさまに不可解な話だろう。

 だが、とりあえずそれについては置いておこう。今大事なのは、私のスキルはそうした、ゲームプレイヤーに馴染みのあるゲームの機能が、スキルという形で実装されていっているみたいだ、ということ。


 今回覚えたこれら二つのスキルも、その法則に則るならきっと、私の想像した通りのものなのだろう。

 即ち、フロアスキップとはダンジョンのフロアを飛ばして移動できる、転移系のスキル。

 ワープは、フィールドを転移するためのスキルと言ったところだろうか。

 そして恐らくだが、こういうのには使用制限があるんだ。一度行った場所じゃないと飛べないだとか、クリア済みの階層しかスキップ出来ないとか。


 今すぐにでも実験してみたいところだが、まだオルカたちの顔色は悪い。かくいう私も、ちょっと気持ち悪い。

 ということで、逸る気持ちを抑えて先に口頭で説明だけしておく。


「――と、いうようなスキルを覚えたみたいなんだけど」

「そ、それはすごいですの……これで、もうあの地獄を味あわなくて済むのですわね……」

「う……ぐすっ……ありがどう、フロアズギッブぅ」

「そんなにか! そんなになのか!」


 移動時間にして、ほんの二〇分に足るかどうかという程度だったのに、ここまで嫌がられるとは……。

 いつもならもっとこう、またとんでもないスキルを覚えたな! みたいなくだりがある場面じゃないの?

 そんな余裕もないってことか。今回はやりすぎたと、素直に反省するべきなのかも知れない。


 そんなこんなで二人が回復するのを待つこと半刻ほど。

 快癒には程遠いが、少しは顔色がマシになったオルカとココロちゃん。まぁ、乗り物酔いの辛さは分かる。それに長引く人は長引くしね。

 ともかく、もう大丈夫だと気丈に振る舞う二人の心意気を無下にせぬためにも、私は未だ眠ったままのお姉さんを背負い直した。その必要があるかどうかは知らないが、身体が触れていれば一緒に転移できるというのはよくある話だからね。

 そのためオルカたちにも触れようと手を伸ばすと、しかし二人は身体をビクリとさせて後ずさってしまった。

 これが拒絶反応というやつか……ちょっとショックなんですけど。


「そんなに怯えないで。フロアスキップを試そうっていうだけだから」

「そ、それでなぜ手を伸ばしてきますの!」

「また酷いことする気なのだ!」

「酷いことて……」


 半べそをかくココロちゃんを宥めながら、どうにかこうにか二人の手を取ることには成功した。こんなところで一苦労することになるとは……。

 しかし本題はここからである。果たしてフロアスキップというスキルは発動してくれるのだろうか。発動したとして、私の予想通りの効果をもたらしてくれるのか。

 なにはともあれやってみなくちゃ分からないので、私はダンジョン出口に移動したいのだと念じながら、スキル名を唱えた。


「それじゃ、いくよ。フロアスキップ!」


 瞬間、視界に映る景色が一変した。そして襲い来る虚脱感。これは、MPを消費した時の感じだ。

 しかしそれより何より、どうやら実験は大成功らしい。私自身をはじめとし、オルカもココロちゃんも、更には背中のお姉さんも問題なく、この突然切り替わった景色の中に存在している。

 そしてこの場所がどこかと言えば、そう。ダンジョンの出入り口に間違いなかった。洞窟を一歩出た場所に、私達は佇んでいたのだ。


 さながら、ギャルゲーで唐突に背景だけがぱっと切り替わったような、そんな呆気なさでフロアスキップは完了した。

 時刻は正午を過ぎたくらいか。今回のダンジョンアタックでは、休憩等もかなり不規則だったため、時間の感覚なんてものは早々に手放していた。そのため太陽の位置一つ見ても、ちょっとした関心を覚えてしまう。

 それにしてももっとこう、転移の際には浮遊感があったり、強烈な乗り物酔いのような感覚に襲われたりするものかと思っていたのだけれど、そんなことはなく。

 ただパッと、景色が切り替わっただけだった。それはまぁ確かに、空気の匂いが違ったり、足元の土質が少し変わったり、気温や気圧の変化を感じたりというのはあるけれど、転移に伴う負荷などは驚くほど感じなかったのだ。

 幾らかのMPと引き換えに、こんな事が出来るだなんて……やっぱり壊れ性能じゃないですか!

 普通に歩いて移動しようとするなら、急いだとて丸一日以上かかっただろう。それを短縮できたというのはとても大きい。


「す、すごいですの……本当に一瞬で出口まで……」

「び、びび、びっくりしたのだ……」


 オルカもココロちゃんも、ようやくちゃんと驚いてくれたらしい。

 だが、更にもう一驚きしてもらわねばなるまい。そうさここからは、ワープで街まで一気に戻るのだ!

 問題はMPが足りるのかということなのだけれどね。何せフロアスキップはダンジョン限定なので、使用用途も限られてくる。

 が、ワープは恐らくフィールドで使える転移スキルだろう。多分。名前的に。

 その予想が当たっているとするなら、そんな便利なスキルの発動に際して要求されるMPが、少ないはずがない。

 まぁ具体的なことは、実際使用してみないことには分からないのだけれど。


 であるならば、思案するより試してみたほうが早いだろう。

 再びオルカとココロちゃんの手を取った私は、しかしここで一つのことに思い至る。

 ワープするのはいいとして、一体どこに飛ぼうかと。

 当然人目につかない場所の方が好ましくはあるだろう。何せ転移スキルだなんて、本などを見た限りでは伝説級の代物だったはず。

 歴史に名を残すような昔の賢者が、転移魔法らしきものを使っていたとか何とか。

 そういうレベルの、眉唾めいた代物なのだ。

 それが本当のことなのか、或いは誇大広告めいた大袈裟なのかはともかく、何れにせよそれを私のような三流冒険者が、似たようなスキルを持っていますだなんてことになれば、目立つどころの騒ぎではなくなってしまう。それは困る。

 なので、出来ればこっそり使用したいわけで。出現場所というのにはそれだけ気を配らねばならない。


 なんて、こんなにあれこれ気を揉んでおいて、肝心のワープってスキルが短距離専用だったらとんだ取り越し苦労だろうけれど、まぁそれならそれでいい。

 とにかくもしもに備えることは、冒険者として当然の配慮だから。

 ということで、ワープ先は街から少しだけ離れた場所にしようと思うのだけれど、果たしてそんな細かい位置調整なんて出来るのだろうか?

 もしもこれが某○ーラと同じような仕様だったなら、具体的に街のどの辺りにワープしたい、だなんて調整は望むべくもないだろう。

 それに、もしそれが可能だったとしても、しっかりとその場所を思い浮かべる必要がある、というのがこの手のスキルにおいてお約束だろう。

 私、そんなに細かな地形までは覚えてないよ。覚えていたとしても、何らかの理由によって地形が変わっていたりしたらどうするんだ。

 記憶を頼りにワープだなんていうのは、どうにも確実性の上で心配に思えて仕方がない。


 と、そこでふと考えた。

 具体的に位置を指定すると言えば……マップウィンドウに、丁度それらしき機能が追加されたばかりじゃないか、と。

 私は急ぎマップを開くと、アルカルド周辺を参照。残念ながら探知範囲外であるため、モンスターや人の存在を察知することは出来ないけれど、街門からも街道からもちょっと離れた、丁度人目につかなそうな位置をマークする。

 そうしたら後は、この場所に飛んでくれと念じつつ、ワープのスキルを発動するだけである。


「よし、準備が出来た。それじゃ唱えるよ?」

「ドキドキしますわね……」

「いつでもいいじょ!」

「せーのっ、ワープ!」

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