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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六九九話 新プロジェクト始動

 翌朝。

 イクシスさんによる四天王ガルグリフ戦から一夜明け、時刻は午前九時。

 昨日の余韻も微かに残る中、集ったのは馴染みの鍛錬室。


 既に皆、自分用のベッドというものを定めているらしく、誰が何を言わずともすんなりとバラけてそれぞれの寝台へ腰を下ろした。

 会議室でもそうなんだけど、こういうのって自然と『いつもの席』が決まりがちだよね。

 かくいう私にも、一応そういう席はあり。

 部屋の最奥、一つだけ特別席が如く据えられたベッドこそがそれだった。

 というのも、謂うなれば私はミコバトの本体、みたいなところがあるわけで。

 ミコバトがあってのこの鍛錬室だ、と言われたなら、こんなぽつんとした特別席という名のボッチ席にも甘んじる他無かった。

 あと、誰が私の隣になるか、でちょっとしたアレコレが勃発したのも理由である。


 そんなわけで私も自身のベッドにドサリと腰を下ろしたなら、なかなか見ないような面白い光景に半笑いが浮かぶ。

 鏡花水月に蒼穹の地平、レッカやスイレンさん、そしてイクシスさん。

 いつものメンバー全員が揃いこうしてベッドの上に座っているっていうのは、ふと冷静になってみると、何とも奇妙なシチュエーションではないか。さながら超一流冒険者だらけのパジャマパーティーだもの。

 とは言え、勿論私含め当人たちは至って真面目である。だからこそシュールに思えもするのだが。

 尤も、すっかりミコバトに染まってしまった皆は、この光景に今更何かを感じるでもなく。

 何時になく真面目に、イクシスさんが口を開くのをおとなしく待っていた。


 そう、今回皆でここに集まったのは他でもない、昨日CPU対戦モードに起こった変化に関して、ちょっとした話し合いをするためだった。

 皆の視線が自身に向いていると認めたイクシスさんは、居住まいを正してから徐に口を開く。

「えー、では改めて。おはよう諸君、昨夜はよく眠れただろうか。私はちょっぴり寝不足だ」

 なんて他愛ない挨拶に始まり、二つ三つ言葉を挟んだ後、いよいよ本題へ。


「今日皆に集まってもらったのは、ミコバトに於ける目標を一つ、私から提案したかったためだ」


 目標。昨日の今日ということもあり、そこはかとなく妙な胸騒ぎを覚えるその言葉に皆が小さくざわつけば、代表してクラウがオウム返しに問いかける。

「母上、目標とは何のことだ?」

「ああ、それを発表する前に、先ずは前置きをさせてくれ」

 そうしてイクシスさんは、コホンと一つ咳払い。

 皆を軽く見回し、改めて述べ始めた。


「皆も知ってのとおり、昨日CPU対戦モードがまたレベルアップを果たした。これに伴い、ミコトちゃんのモンスター図鑑のみならず、我々各人が過去に遭遇したモンスターをも、対戦相手として呼び出すことが可能になったわけだ」


 それは昨夜のこと。

 イクシスさんVS四天王ガルグリフという、勇者ファン垂涎の対戦を目の当たりにした皆の盛り上がりは大層なものだったけれど、さりとてワイワイと宴を終えた後は流石のミコバトラーたち。

 CPU対戦モードに起こった変化についての、細かな検証が早速行われたのである。

 その結果、幾つかのことが判明した。


・各人が過去に出会ったモンスターを、対戦相手として呼び出すことが出来る。その際、そうしたモンスターは図鑑には青字で表示される

・一度でも呼び出された青字モンスターは、ミコトのモンスター図鑑にも正式に登録される

・登録されたモンスターは他者による呼び出しも可能となる


 そう。即ち、イクシスさんがガルグリフを呼び出したことにより、現在私たち全員が彼の四天王が一角と仮想空間にて対峙可能であるという、とんでもない状況が発生しているわけだ。

 血気盛んなメンバーたちは、早速これに挑戦。

 そして、目も当てられない結果に終わったとかで、彼女らは朝からテンションがおかしかった。凹んでいるような、興奮しているような。心眼持ちからすると、まぁ気持ち悪いったら無い。

 そんな皆の不安定な情緒を横目にしつつ、私は引き続きイクシスさんの言に耳を傾けた。


「現状皆は、成長限界への到達という目標を掲げて、日々鍛錬に邁進していることと思う。決してミコバトが楽しくてやめられないとか、そういうんじゃない。ないったらないよな!」

 うんうんと、息ぴったりに首を縦に振る面々。そしてチラチラとこちらに飛んでくる視線。

 はい、そういうのは良いから。

「だが、成長が頭打ちになってそれでお終い、というんじゃあまりに味気ない。何なら哀しい。私がそうだったからな……なので、ここで本題だ」


 イクシスさんはじっくりと溜めを作り、私たちを焦らす。

 かと思えば、ようやく意を決したかのように「すぅ」と小さく息を吸い込むと、とんでもない爆弾を投下したのだった。



「皆で、魔王を倒してみないか?」



 ────唖然、というのだろうか。

 驚くほどの静寂が、降って湧いたかのように鍛錬室を満たしていた。

 たとえ全員が仮想空間にダイブ中だったとて、もうちょっと物音がするはずである。

 それが、正に水を打ったような静寂。

 さながら時間でも止まってしまったかのように、誰一人身じろぎ一つしない。

「……え? あれ?」

 とは、そんな中にあって一人、爆弾発言を成したイクシスさんの困惑だった。


 しかし、たっぷり一〇秒もしたなら流石に皆息を吹き返し。

 さりとて全員が全員動揺している様子。唯一勇者の冒険譚に疎い私だけは、皆を俯瞰する余裕があるけれど。

 って言うか、未だによく分かっていないのだ。その魔王っていうのが、具体的にどれ程ヤバい奴だったのかって部分が。

 だから、イクシスさんの言にも皆ほどには驚かなかった。

 寧ろ、私はいずれエンドコンテンツに挑戦するつもりなのだ。

 ならば魔王くらいは当然超えなくちゃならない。良い目標設定だと、寧ろイクシスさんの提案を支持したいくらいだった。


 けれど他のみんなにしてみたなら、それはどうやらとてつもなく恐れ多いことのようで。

 特にスイレンさんの顔色なんて、随分と真っ白になっているじゃないか。血の気が引く、というやつだ。今にも白目を剥きそうで少し心配なんですけど。

 そのように、ザワザワとする鍛錬室。

 しかしイクシスさんは空気を読まず、さっさと話の続きを口にする。


「それでだな、差し当たっては四天王超えを当面の目標としてだな」

「いやいや待て待て待ってくれ母上!」

「え?」


 堪らずクラウによるストップがかかるも、イクシスさんの惚け顔である。

 そんな彼女へは、一斉に抗議が殺到する。


「流石に無茶だ。幾ら再現とは言え、魔王を我々の手で? 目標というにはあまりに遠すぎる!」

「そ、そうですよ勇者様! 第一魔王はロックされていて呼び出せないのですよね?」

「やめて下さい死んでしまいます~……」

「せめて最弱設定とかだよね? だよね?」

「魔王のスキル……ごくり」

「ちょ、ソフィアさんそういうのはシャレにならんのです!」

「差し当たって四天王超えとか聞こえた気がするわ……」

「はい、解散解散」

「はっ、夢かぁ。よかった」

「ミコトがやるなら私もやる」


 なんか、次第に混沌としてきてるけど。

 皆の取り乱し様を見て、イクシスさんは困ったように頭を掻いている。

 とは言え、案外予想外の反応ってわけでも無さそうで。

 彼女はやれやれと言った具合に、ベッドの上で徐に起立すると、皆を睥睨。

 そうして改めて述べたのだ。


「ダメだ。みんなで魔王を倒すぞ!」


 それ、提案じゃなくて決定じゃん……。

 なんてツッコミも憚られるくらい、凄絶な空気が場に流れた。

 皆目を白黒、口をパクパクさせ、陸に上がった魚の如し。かつてない光景を珍しがる私である。

 そんな彼女らを諭すように、言を継ぐイクシスさん。

「いやいや、皆少し冷静になって考えてみてくれ。確かに魔王は、業腹だが恐ろしい相手だ。だが、成長限界に達した者が、しかもアップデートによる限界の緩和によって当時の成長限界より尚高いステータスを有する皆が、束になって挑もうというんだぞ? しかも、敗けたところで何度でも再挑戦が出来る。ならば勝てない道理も無いと思わないか?」

 そのように彼女が述べたなら、その言葉をじんわりと理解した皆。

 するとどうだ。なるほどと納得を示すものがチラホラ出てくるじゃないか。


 これをチャンスと見たか、唐突にイクシスさんの視線がこちらを向いた。ついでにそのまま水も向けてくる。

「ミコトちゃんはどうだ? 挑戦するのだろう?」

「何でやって当然みたいな言い方するのさ。……まぁ、やるけどね」

 そのように私が返したなら、スチャッと立ち上がったものが四名。

 オルカ、ココロちゃん、聖女さんにアグネムちゃんだ。

 私がやるならやると、先程から明言していたオルカはともかくとして、崇拝組の息の合った反応は流石としか言いようがない。

 四人は口々に参加の意思を表明し、キリッとした表情を作ったではないか。果たしてこれは、現金と言えば良いのか何なのか。


 すると、これに触発されたのか皆も次々に賛成へと意見を曲げていき。

 最後までイヤイヤしていたスイレンさんも、レッカにより強引に説き伏せられて半ば強制参加。

 まぁ、実際彼女のバフがないっていうのは、かなりしんどい展開になるだろうからね。是が非でも加わってもらう他無い。やったねスイレンさん、すっかり重要役者だ。


 そのようにして、どうにか思惑通りにことを運べたイクシスさんはホッと一息つくと、どかりと寝台へ腰を下ろし。

 そうしたら先程の強引さとは打って変わって、途端に現実味のある話題へと舵を切る。

「さて、それで問題はどうやって魔王のロックを解除するか、ということなのだがな」

 皆へ意見を求め、ようやっと話し合いは会議の様相を見せ始めた。


 ベッドの上での会議。勿論変な意味ではない。

 ソフィアさんはちゃっかり、画板のようなものをストレージより取り出しては、議事録をカリカリとまとめており、イクシスさんの慣れた司会役は皆より様々な意見を引き出した。

 そうしてその結果決まったのは。


・当面の目標は、全員が単独ないし少数の組にて四天王の何れかを撃破すること

・CPU対戦モード他、ミコバト各モードのレベルを上げることでのロック解除を狙うこと

・図鑑の充実がロック解除の条件という可能性を考慮し、皆で積極的に青文字モンスターを呼び出す。また、新たなモンスターをハントしにフィールド(ダンジョン)ワークも行うこと

・四天王をたくさんボコればロックも解けるかも知れない、ということで四天王には皆積極的に何度でも挑むこと


 と言った内容である。

 斯くして、思いがけず始まった打倒魔王プロジェクト。

 かつての勇者の戦いとは、びっくりするほど異なる趣ではあれど、さりとて私たちの魔王戦、その序章が幕を開けたのだ。

 果たして、私たちの力はかつての最強を凌駕することが叶うのか。恐くもあり、少しワクワクもしていた。

 いつもお世話になっております。本日もご報告いただいた誤字の修正、適用させていただきました。感謝でございます。はいー。

 とめどなく! とめどなく誤字! なんでぇ!?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 まぁイクシスさんが提案せずとも遅かれ早かれ最終的な目標は魔王でしたでしょうから、討伐経験がある彼女が早期に発破をかけてくれて良かったのかもですね。 メタいこと言うと…
[良い点] 勇者「一緒に魔王倒そう!」 みんな「おお!」 ※注 全員パジャマ姿でベッドの上です笑 てぇてぇ……挿し絵希望しときます [気になる点] この章?の到達点、見えてきましたね! 目標が決…
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