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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六九話 行くか戻るか

 鬼が出現するダンジョン、というのはとても珍しい。

 というのも、元来鬼がポップする場所はここより遥か東の地。故にこの辺りでは、普通に目にすることなどまず無いモンスターである。

 しかしダンジョンは、時として遠方を生息地とするモンスターを気まぐれに出現させることがあるらしい。

 今回、私達が拠点とする街から比較的近い位置に、鬼の出現するダンジョンが生成されたというのは、まさしく奇跡的な偶然のなせる業であり、それを二度三度だなどとは望むべくもない。

 つまりは、この機会を逃したなら、鬼と再びまみえるためには遠く東の地を目指さなくてはならないということ。

 千載一遇の好機を、しかし今まさに手放すかどうかの瀬戸際に立たされているわけで。


 このダンジョンの深部に赴くには、試験という形で仲間であるオルカやココロちゃん、それに担当受付嬢であるソフィアさんへと力を示さなくてはならない。

 そして現在、その試験もあと一歩でクリアという所まで来ているのだ。

 それなのに、よりによって道徳を試すようなこの選択肢は、あまりに無情というものではないか。


 モンスターパレードで、身も心もぼろぼろになり、気持ちが折れてしまっているお姉さん。

 彼女は今も、私達から一定の距離を置いて隅っこで小さくなって震えている。懺悔とも後悔ともつかぬ言葉が次から次へとこぼれ続けている。

 こんな状態の彼女をここに放置して行こうものなら、今度こそモンスターに殺されてしまうだろう。

 かと言って、彼女を連れて五階層へ向かうのかと言えば、それも憚られる。

 彼女のことを思うのであれば、一秒でも早くダンジョンから出してやるべきなのだろう。

 きっとダンジョン内にとどまること自体が、それだけで彼女を苛んでいるに違いないのだから。


 だけれどこう言っては何だが、見ず知らずのこの人のために、このダンジョンから手を引くのかと考えると、即断することは出来ない。

 これが純粋な私事であるなら、まだ諦めもつく。寧ろ躊躇うべくもないだろう。

 けれどこのダンジョンを真に調査したいのは、私ではなくココロちゃんなのだ。

 そうであるから、私の一存で引き返す決断というのは、やはり出来ないように思う。


「……仕方ない、か。私から一つ、提案があるんだけど、聞いてくれるかな?」

「な、なんですの?」

「…………」

「私の試験は、ここで失格でいい。だから、ここから別行動をしない?」

「「!?」」


 どちらも譲り難いのなら、折衷案を選ぶ。

 出来れば私も、ココロちゃんと一緒にこのダンジョンを攻略したかったけれど、どうやらそんな時間は残されていないみたいだ。

 何せ、このダンジョンには私達が試験を始めるより前に、Aランク冒険者が潜っているという話を聞いた。

 そうであるなら、私が再試験なんて受けている間に、ここは攻略されてしまうのではないだろうか。

 勿論、絶対ということはないけれど、その可能性が低いわけでもない。


 ならば、私はここで試験を諦め、試験官を務めてくれた二人とは今から別行動を取る、というのが一番合理的な選択に思えたんだ。

 私はこのお姉さんを街まで連れ帰る。

 二人にはこのまま、鬼のダンジョン攻略に本腰を入れてもらう。

 幸い荷物は私のアイテムストレージに詰め込んであるので、必要な装備や物資を彼女らに渡すことは出来るからね。

 そうすれば、ココロちゃんはこのダンジョンを自由に探索できる。オルカが一緒なら尚安心だし。

 私も、脱出するだけなら簡単だ。お姉さんを護衛しながらでも問題はないだろう。


 ココロちゃんの力になるって宣言したのに、結局私が彼女のダンジョンアタックを妨げてしまっていた。それがずっと心苦しかったんだ。

 だから、悔しくはあるけれど、この選択に躊躇いも後悔もない。

 ――ということを、二人に話して聞かせた。

 すると。


「「却下」」

「な……」


 一考の余地すら貰えず否決されてしまった。

 しかしそれは、納得がいかない。


「な、なんでさ! これが一番合理的な選択でしょ?」

「ミコトは、本物の護衛依頼でもそうやって、護衛対象を投げ出すつもりなの?」

「進むにせよ、戻るにせよ、最後までみんなでやり遂げなくては意味がないのですよ、ミコト様」

「でも、だって! 私が同行することにさえこだわらなければ、ココロちゃんはこのダンジョンの奥へ行ける! 私さえいなければ……」

「ミコト様が一緒でないのなら、ココロはこんなダンジョンになんて怖くて居られません!」

「っ!」


 思わずこぼれた私の弱音を、しかしココロちゃんの言葉が遮った。

 その言葉でまず思い起こされるのが、初めてここで下級鬼と対峙したときのこと。

 戦闘はあっさりと終わったけれど、ココロちゃんは鬼が倒れる様を見て、気分を悪くしてしまったのだった。

 そして彼女は打ち明けてくれたのだ。鬼という存在は、もともと亜人であり、モンスターなどではなかったと。

 けれど鬼はいつしかモンスターに成り果てた。自身もいつか、そうなってしまうのではないかとココロちゃんは怯えていたのだ。

 このダンジョンで鬼と戦い、理解を深めることは、即ち鬼に近づくことでもある。深い階層へ足を踏み入れるにつれて、鬼というものをより身近に感じてしまうかも知れない。それが彼女にとっては、自身が少しずつ化け物に近づくような、そんな錯覚に思えてしまうのかも。

 確かにそれは恐かろう。とても進んで奥へ行きたいだなんて思えない。


 だけれどココロちゃんはこうも言ったのだ。私達と一緒なら、戦えると。

 それはもしかすると、私達と一緒ならこのダンジョンの奥へも踏み込んでいけるという、そんな意味も孕んでいたのだろうか。

 そうだとするなら、私は……。


「ミコト、もう一度訊くよ……これから、どうしますの?」

「…………はぁ」


 私は仮面を外し、しっかりとオルカとココロちゃんの顔を見た。

 二人とも、力強い瞳で見つめ返してくれる。

 だから告げる。


「ごめん。私はこのお姉さんを、ここに残していくことも、五階層へ無理に連れて行くことも出来ないよ。二人が許してくれるなら、一度街に戻りたいんだけど、いいかな?」

「まったく……仕方ありませんわね。わたくしは構いませんわよ」

「うん。ココロも、それでいい!」


 こうして今回のダンジョンアタックは、目標達成ならずで、失敗が確定した。

 正直悔しい。遣る瀬無い思いはある。けれど、こればかりは仕方がないとも思う。

 私は今回、ベストを尽くした。その自負はあるのだから、落ち込んでいたって何にもならないのだ。

 そんな暇があるなら、素早くリカバリーする方法を考えたほうが余程いい。と、いうことで。


「ありがとう二人とも。それでさ、ちょっと相談なんだけど……今回の試験はとりあえず失敗が確定しちゃったわけだ。なので、ここからはスキル解禁ってことでいいかな? このお姉さんを一秒でも早く、街まで送ってあげたいし」

「む、そうですわね……ちょっと待っていてくださいですの」

「緊急会議だぞ!」


 私の提案に対し、今度は即答ではなくオルカとココロちゃんの二人で話し合いが行われた。

 こちらに背を向け、何やらコソコソと意見を交わしているようだ。

 と、しかしものの一分ほどでそれは済んだ。二人はこちらへ向き直ると、結論を告げてくる。


「話し合いの結果、スキル制限の解除に関しまして……許可することにしましたわ!」

「おお」

「ただし! ココロたちは相変わらず護衛対象なのだ」

「家に帰るまでが遠足、でしてよ!」

「遠足って……つまり、スキルは使ってもいいけど、二人のこともちゃんと守りながら街に連れて戻れってことだね?」

「だじょ」

「了解だよ。それじゃ、早速準備しなくちゃな」


 ストレージにぱぱっとリュックごとしまい込むと、次は未だに縮こまっているお姉さんへ向けて魔法を発動した。

 使ったマジックアーツは、【スリープ】という。まぁ読んで字のごとく、眠りを付与する魔法だ。

 精神魔法の一種で、対象を眠りに誘うことが出来る。眠れない夜なんかには便利な魔法だ。

 色んなゲームで同様の効果を持つ魔法はあるけれど、実際扱ってみるととてつもなく危険な魔法だってことがよく分かる。

 と言うか、精神魔法はどれもえげつない。使い方次第では人の人生をメチャクチャにしたり、終わらせたり出来てしまうくらいにはえげつない。

 なので、普段はあまり使わないようにしているのだけれど、今回は特例だ。


「ミ、ミコトさん、どうしてその方を眠らせましたの?」

「ん? それは勿論、起きてたって心が辛いだろうから……っていうのと、あと運ぶのに都合がいいから」

「どうやって運ぶのだー?」

「リュックをストレージに入れたから、背負って走るよ。ウサ耳と重力魔法を併用して、猛ダッシュさ!」

「そ、それですと、わたくしたちはどうなるのかしら……?」

「勿論私が抱えていくよ。右腕にオルカ、左腕にココロちゃんの席を用意してあるからね!」

「い、嫌な予感がするじょ……?」


 ジリジリと後ずさる二人をよそに、続いて久しぶりのマップウィンドウを呼び出す。

 修行開始初期から封じて、もうずっと開かずにいたからね。もはや懐かしさすら感じる。


「んあっ!?」

「!?」

「ど、どうしましたの? トラブルですの?」

「今、久しぶりにマップウィンドウを開いたら、レベルが上ってた。それも多分、二つくらい?」


 マップの探知範囲が、以前よりずっと広がっている。多分四倍くらい、だろうか。

 確か前の探知範囲は、おおよそ半径五〇〇メートルくらいだったはず。一レベルアップでそれが倍の半径一キロになったとするなら、更に一レベルアップで半径二キロくらいかな?

 或いは、一レベルアップで一気に四倍くらい探知範囲が広がったと考えられなくもないが、そこは追々調べてみないと。

 っていうか、いい加減ステータスでスキルレベルの表記も見せてほしいものである。期待してるんだからね!

 しかしそれにしても、マップのスキルに関しては全然使っていなかったっていうのに、レベルアップしているだなんて驚きだ。

 手書きでマッピングを行ったり、そのせいで別途【マッピング】という手書き地図づくりを補助してくれるスキルが生えてきたり、後はモンスターの気配や罠を見破ったりしたのも経験値としてカウントされていた、ってことなのかも知れないな。

 なんて考えにふけっていると、オルカがウズウズして尋ねてきた。


「それで、どんな能力が追加されましたの?」

「ん? んー……ちょっとまってね……んーと……お?」


 オルカの問に応じて、チクチクとマップウィンドウをあれこれ弄ってみる。

 別に情報が追加されたとか、細かくなったということもないみたいだけど、だとすると何が変わったのか。

 と、何気なくマップをタップしてみたところ、そこにマーカーがくっついたではないか。

 しかも、私の視界に小洒落た矢印が映っている。

 これはもしかすると、この矢印を追いかけていけば目的地にたどり着ける、みたいなことなのだろうか?

 だとすると、ナビ機能ってことじゃないか。マップがカーナビに進化したと!? ああいや、カーではないが。

 ともかくまずは、試してみないことには確証もない。


「ちょっと試してみたい機能を見つけたから、二人の準備がいいなら早速出発したいんだけど」

「うー、ココロはおなか空いたぞー」

「わたくしも、空腹を感じますわ」

「うーん。食べると、酔って戻しちゃうかも知れないけど、それでもいいなら何かストレージから出すよ?」

「さ、さぁ出発しますわよ!」

「ミコトお姉ちゃんおそーい! ココロはいつでも準備万端だじょ!」

「さすがの危機察知能力か……」


 ともかく、私はマップ上の第四階層入り口にマーカーピンを刺し、視界に改めて矢印を出現させる。

 そして、背中にお姉さんを背負い、適当なロープで私の体に括り付けて固定した。

 更に右腕でがっしりオルカの腰をホールドして小脇に抱え、左腕で同じくココロちゃんを抱えた。

 頭にはウサ耳。足にはアルアノイレ。重力魔法だって準備よし。

 さぁ、急いでダンジョン脱出だ!

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