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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六八九話 ダウンロード配布

 曰く。

「おお!」からの「おおお!!」で、「うぉぉおお?!」だったとか。

 目を覚ました私へ、鼻息荒く語ってくれたのはレッカだった。語彙力を何処へやったのか。

 というか彼女は一体何の話をしているのだろうかと私が困惑していると、隣に座るオルカが解説してくれた。

 それは赤いミノタウロスを仕留めに掛かった時の、こちら側の盛り上がりを表した表現であると。


 緋色に染まった、如何にもヤバそうなミノタウロス。

 観戦側でも、その変化に際してはどよめきが起こったらしい。

 だが直後、奴の繰り出した攻撃を見事に捌き切る私を見て、どよめきはざわめきへ変じ。

 そうしてツツガナシがミノタウロスの片足を落とした際、「おお!」

 腕を切り飛ばした際に「おおお!!」

 で、呼び寄せた鉈が奴の頭をかち割った際、いよいよ立ち上がってまで声を上げる者が出たと。


 そこからの決着はすぐであり、ゆえに未だ興奮冷めやらぬ会議室である、とのこと。

 どうやら私の戦いぶりは、皆をそれなりに楽しませたらしい。

 まるで闘技場で見世物になったような気分だ。どっちかって言うと私は労ってほしいのだけれど。結構大変だったんですけど。

 もし私が皆のように、普通にステータスの上昇する体質だったなら、今の戦闘で絶対幾らか数値が上がったはずだもの。

 それくらい、赤いミノの攻撃を捌くのは大変だった。敵の全力を引き出させるっていうのは、慣れないせいもあってメチャクチャおっかなかったしね。

 まぐれ勝ちとは言わないけれど、極度の集中からどっと疲れたのは事実である。


 などと、密かに皆との温度差を感じている私へ、不意に隣のオルカが疑問を投げてきた。

「だけど不思議。刀の骸戦以降、ミコトが戦う機会は何度もあった。今日のフリーバトルもそう。だけどミコトのあんな動きを見たのは、今が初めて」

 確かに、刀の骸から引き継いだ能力や戦い方っていうのは、今の今まで皆には見せないままだった。

 それというのも、骸戦で無理をした反動により、一週間ほど寝込んでいたこともあるのだけれど。

 しかしそれより何より。

「そりゃ、温存してたもの。目立つ場でお披露目したほうが盛り上がるかなって思って」

「ミコト……」

 おっと、そんなジト目を向けないで欲しいものである。心眼さんが呆れ具合を見抜いてしまって、居た堪れなくなっちゃう。


 なんてやり取りをしていると、他で感想を言い合っていた面々が話に加わってくるじゃないか。

 アレがすごかった、コレはどうなってるんだ、どうしてあの時あんな事を、あの動きは何なのだ、他にどんな事が出来るんだ、などなど。

 ラジオのお便りよろしく、ご意見ご感想から疑問質問応援メッセージまで、様々な言が無秩序に押し寄せ。

 何らかのスキル効果によるものか、全て聞き取れはするものの、返答する口は一つだけ。

 思うように返事が来ないからか、わざわざ席を立ってまでこちらへやって来る者も少なくなく。

 結果としててんやわんやの揉みくちゃである。


 そんな様子を離れた位置から暫く見守っていたイクシスさんだったけれど、どうにも本題からの脱線が甚だしいと見るや、ようやっと動いてくれた。

「はいはい静粛に。みんな元の席に戻れー」

 パンパンと手を打ち鳴らしてそのように彼女が述べたなら、幾らか名残惜しそうに皆自分の席へと戻っていった。うん、学級会か何かかな?

 そうして皆が落ち着いたのを認めたイクシス先生は、コホンと咳払いをして改めて口を開いた。

「それではミコトちゃん、改めて【CPU対戦モード】を体験して得た感想や、気付きなどもあれば教えてくれるか?」

 促され、私は静かに起立。皆の注目をくすぐったく感じながら、小さく考えをまとめ、口に出していった。


「見てもらったとおり、CPU対戦モードでは私がこれまでに出会った、モンスター図鑑内に記録されたモンスターたちと戦うことが出来るみたい。だから鏡花水月メンバー以外には、初めて戦うことになるモンスターなんかも居ると思うよ」

「それって当然、赤星のモンスターも選べるのよね?」

 リリの問いに、私は頷いて答える。

 モンスター図鑑には、寧ろ種類で言えば赤星モンスターのほうが多く載っているのではなかろうか。

 それだけ、ここ暫くの間に特級危険域を飛び回ったもの。ダンジョンの高速攻略の術も得たし、オルカのスキルで隠し要素も高い確率で発見できるようになった。

 まぁ、近頃は攻略速度を優先していたせいで、探索は結構おざなりだったけども。

 それでも脅威度のより高いダンジョンでは、きっちり隠し部屋探しも行い、入念に攻略を行ったものである。

 なので、通常のボスから隠しボスまで選り取り見取りなのは間違いない。

 とは言え。

「ただ、厄災級は呼び出すことが出来ないみたいだったし、もしかすると他にもロックされてる奴が居ないとも限らないから、そこは注意してほしいかな」


 この話を受け、血の気の多いメンバーは早速胸を躍らせている模様。子供のように目を輝かせているじゃないか。

 そんな彼女らへ、私は追加の情報を提供する。

「更に、呼び出すモンスターの強さは調整することが可能みたい。『CPUレベル』と『難易度』っていう二つの要素があるみたいで、前者は技量面、後者はステータス面を上下させるものだと思う。これを利用すれば……」

「もしかして、めちゃくちゃ強いゴブリンだとか、おバカなレイスだとか、弱体化したミノタウロスなんかを呼び出せるわけか?」

「そういうことだと思う。詳しくは自分で確かめてみてほしい」

 ますます興味を唆られたのだろう、いよいよ落ち着かない様子でソワソワし始めるクラウである。


 他のみんなも、すぐにでも試してみたいと言わんばかりの様子。

 思い起こされるのは、新作ゲームを買いに店頭に並んだ昔の記憶。まだ私が小さな頃、どうしてもパッケージ版の限定特典が欲しくて、親と一緒に夜とも朝ともつかない時間帯からゲーム屋さんの前に並んだものである。懐かしい思い出だ。

 みんなにとっては、ある意味このCPU対戦モードはゲームのようなものなのかも知れない。

 であれば、あまり勿体つけるのも申し訳ないか。

 でもこういうのって、勿体つけたからこそ感慨が深まる、みたいな所あるよね。

 なのでもうちょっと語らせてもらうとしよう。


「あと、トレーニングモードと併せての運用はお勧めしたいかな。トレモで磨いたテクニックや、効率的なダメージの出し方、巧い立ち回り。そういうのを直ぐに戦闘で試せるっていうのは、CPU対戦モードの醍醐味の一つだって思うよ」

「なるほど! スキルの研究を行ってからの、スムーズな実戦運用テストが可能というわけですね!」

「実戦って言って良いのかは微妙なところだけどね。でもその場合は、VSモードの対人戦が有用だと思う。CPUより対人戦のほうが実戦に近いからね」

「おぉぉ!!」


 ソフィアさんもすっかり興奮状態だ。特に彼女の場合、魔法少女のリミテッドスキルでいろんなスキルを使い放題だもの。

 トレモもCPU対戦もVSモードも、彼女にとってはすこぶる利便性の高いものとなるのだろう。


「それから、さっきの対戦で察した人も多いと思うんだけど──」

「な、何だミコトちゃん、まだあるのか? いい加減私も実際に試してみたいんだが!」

 イクシス先生……。何気に皆に負けず劣らず、何なら人一倍好奇心の強い彼女である。

 いよいよ辛抱が難しくなってきたらしい彼女。他のみんなも、少しずつイライラしてきているようだ。

 そろそろ話をまとめないと、誰かしらキレ始めるかも知れない。


「じゃぁ、最後に一つ。CPU対戦モードは、仮想空間での戦いだから落命のリスクがない。確かにこれに慣れるのは危険だと思うけど、でもそういう仕様だからこそ、相手の全力を気兼ねなく引き出す事が出来る。安全マージンを無視した戦闘を試すことが出来る」

「む……確かに、そんな真似をリアルに出来るのはサラくらいだものな。CPU対戦モードでは誰でもそれを低リスクないしノーリスクで実現できるわけか」

「そう。だから、より自身を追い込むようなシチュエーションを作りやすいと思うんだ。何より、『負けるのが悔しい、勝つための力が欲しい』っていう純粋な渇望を懐きやすいのかなって思う」

「なるほど……現実での戦闘では、激戦になればなるほど様々なことに気を払わなくてはならないからな。純粋に勝ちだけを望む戦いというのは、存外に難しい」

「だからこそ、ステータスアップに繋がりやすいんじゃないかって予想してる。まぁ、この点に関しては私が言っても説得力はないだろうし、これも実際みんなに試してみて欲しいポイントだね」


 そうして、ようやっと話を締めくくった私が着席すれば、待ってましたとばかりにイクシスさんが早口で司会を進行する。

「ありがとうミコトちゃん、非常に興味深い話だった。それでは早速とはなるが、実際に皆でCPU対戦モードを体験してみようじゃないか!」

 話が早いとはこのことか。無駄な語りなどはするつもりがないようで、教師よろしく注意事項だなんだと述べたりすることすら無いままに、急かすように私へスキルの共有を求めてきた。

 そう、トレーニングモードの時のように、また皆がワラワラと仮想空間へ雪崩込んでは、折角進化した剣術をお披露目する場が台無しになるってことで、実はまだ共有せぬままに居たのだ。

 けれど頃合いである。皆のギラついた瞳に晒されながら、私は要望に応える形で急ぎCPU対戦モードを皆へと共有したのだった。

 気分はさながら、いつぞやの開店準備に取り掛かるゲーム屋の店員さんが如し。あの時のお姉さんもきっとこんな気持ちだったんだろうなぁ。


 途端に、小さな歓声が鳴り。

 それこそ新しいおもちゃを手にした子供のように、皆ウキウキとした様子でウィンドウを呼び出し操作し始めたではないか。

 その様子があまりに眩しくて、私はつい会議室内に羽つきカメラを飛ばし、皆の様子をこれみよがしに撮影しておくことにした。

 さりとて誰もそれをどうこう言うでもなく、そんなことより早く試さねばとウィンドウをポチポチ。

 そうして次々に、意識を飛ばしていく面々である。

 うん。何も事情を知らない人から見たら、大分ヤバい光景だけども。


 しかし私だけ現実に取り残されるというのも寂しいものだ。

 って言うか、何だか流行に取り残されそうな焦りもちょっと感じる。

 乗るっきゃ無い、このビッグウェーブに! ってやつだ。

「というわけで、私も行ってくるよゼノワ。お留守番よろs」

「ギャウラァ!!」

「ああ痛い痛い、やめれぇ! 分かった、ゼノワも一緒に行こう、ね?」

 ってわけで、私はプチゼノワを伴ってのダイブである。


 幸いだったのは、仮想空間の中でもゼノワは無敵……というか、誰に害されることもなかったことか。

 仮想空間内での彼女は、どうやら大分特殊な存在のようで。

 言うなればただ観測するだけの存在、みたいな。なんか中二的でかっこいいな。

 その気になれば当たり判定を自ら消すことが出来るらしい。まぁ精霊だものね。特に不思議には思わなかった。


 そうこうして何戦か戦い、休憩がてら現実へ戻ってみると。

 相変わらず机に突っ伏して意識を飛ばしているメンバーが過半数を占める中、レッカとスイレンさんが

「次は一緒に戦ってみようか?」

「待ってましたー! サポートでしか輝けない存在が居ることを教えてあげますよ~!」

「それ胸張って言うようなことじゃないから。って言うかスイレンだって普通にちゃんと戦えてるから!」

「成功体験の差、っていうんですかねー……周囲に居る人たちがおかしすぎてぇ~……」

 なんてやり取りをしながら、また潜っていった。


 ちらりと窓の外を見れば、すっかり月明かりの時間である。

 時計を確認してみる。午後七時も半ばを過ぎていた。

「これ、晩御飯って何時になるんだろう……?」

「グゥ」

 皆が戻ってくるのを待っていても良いっちゃ良いのだけれど、それはそれでプレイ時間に差がつきそうな気がして。

 それは、ゲーマーとして看過できなかった。

「よし、私たちも潜るよ!」

「ガウラ!」


 そんなこんなで、CPU対戦モードは大変な人気を見せたのだった。

 おもちゃ屋さんに戻ったのは、かなり遅くになってのことである。

 今回も誤字報告感謝です! 適用させていただきました!

 報告ラッシュもそろそろ落ち着いてくる予感……? おかげさまで見苦しい書き損じを大量に正すことが出来ました。ありがてぇ、ありがてぇ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] この「沼」深い。注意。 まさにゲームのようなスキルですよね。CPU対戦モード。 安全マージンを無視したステータス強化が出来るなら、まさしく対エンドコンテンツ用スキルだったと、これまでの話…
[良い点] 更新お疲れ様です。 案の定みんなCPUモードに夢中ですねww そういえばこのモードは敵の強さを調整出来ますが、VSモードもスキルレベルが上がる→有名格ゲーの対戦モードみたくハンディキャッ…
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