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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六六九話 圧倒

 私が構えを取ったのに応じ、スイレンさんが最初の音を鳴らそうとした。

 私には強烈なバフを。骸には凄まじいデバフを施す強力なサポートだ。

 が、しかし。


 骸の対応はあまりにも早く、そして予想外なものだった。


 骸の目に、果たして私の仲間たちが見えているのかは不明だ。もしかすると私以外の目に骸が映らないように、骸の目にも仲間たちの姿は映らないのかも知れない。

 ばかりか、骸の振るう武器は皆を素通りする可能性だってある。丁度、妖精が大人の人に干渉できないみたいに。

 けれど、スキルなどが齎した現象であれば相互干渉は可能で、それはこれまでの戦いで実証されている。

 だからだろうか。骸が真っ先に、スイレンさんを潰しにかかったのは。

 だからだろうか。イクシスさんがそれに勘付き、護ろうとしたのは。

 何れもが盤外の行動。目に見えない何かを読み、察知し、そしてぶつかった。


 結果。


 イクシスさんの構えた得物は断たれ、骸の振るった刀はイクシスさんの身体を深々と斬り裂いたのである。

 だが、あまりの太刀筋。あまりの速度。血液が吹き出すのには一拍の猶予があり。イクシスさんにはまだ、痛みすら無いだろう。

 だから私は、彼女を消したのだ。

 ストレージの中へしまい、スイレンさんも、他の皆も、同じく一斉にその場から消し去った。

 理解したからだ。こいつは、この刀を携えた骸は、サポート組にも躊躇なく牙を剥く。

 自身の不利を敏く感知し、優先して潰しにかかる。そういうやつなのだと。

 しかもその動きは私の反応速度を凌駕し、イクシスさんのとっさの防御すら歯牙にも掛けず斬り裂いてしまう。


 想定を超える強者。間違いなく、これまで対峙した中で最強の骸だ。


 奴の動きに対応できない以上、悠長にしていては瞬く間に細切れにされてしまう。

 私は急ぎ、黒宿木を発動した。そして唯一この場に残ったゼノワも、成竜モードに変身して本気の構えだ。

 これにより、ようやく私は骸の剣筋に対応できるようになった。とは言え、それでも尋常ならざる速度だ。

 謂うなれば、ツツガナシを抜いて僅か一秒間だけ得られる、強烈なバフ。アレを常時身に纏っているような、疾く鋭く重い。そんな動きをするのである。

 そして何より、巧い。


 当たり前の話だが、私の万能マスタリーもまた、スキルの一種だ。

 そして私は知っている。スキルは、育て方によってその性能を変えることを。

 この骸は、この私だったものは、きっと刀に特化させて万能マスタリーを育てたに違いない。それも、超常的なレベルにまで。

 完全に技量で押し負けている。力でも速さでも技でも負ければ、必然防戦一方がやっとである。

 しかも呆れたことに、私の取り柄である魔法をけしかけてなおこの結果。

 確かに魔法の扱いに関しては、私に分があるらしい。それは分かる。だが、彼女は最低限の魔法で私の魔法を打ち消し、いなし、やり過ごし。

 そうして目にも留まらぬ太刀筋を幾重にも見舞ってくるのである。


 忘れてならないのは、私が用いているのは黒宿木を駆使した精霊魔法だってこと。

 通常のスキルでは干渉できないはずのそれを、スキルの余波や副次的な効果を利用して、ものの見事に捌いていくのだ。

 神業。芸術的とも言えるほどの戦い方。言わずもがな、即興で行われるそれは、曲芸の域すら凌駕していて。

 幼稚な意味合いに於ける魔法、或いは奇跡の所業のように私には思えた。

 純粋な憧れすら懐きそうになる。勿論、そんな場合でないのは百も承知してはいるのだが。


 ビッと、鋭い痛みが時折身体を蝕む。

 浅くではあれど、斬られているのだ。防戦一方どころか、ジリ貧である。黒宿木をもってして尚、刀の骸は私の力を凌駕していた。

 その結果、身体の至る所に傷が増えていく。だが、幸いなことに私の装備には自己修復の特殊能力を持つものが多く。

 完全装着のスキル効果により、自己修復の恩恵を私の肉体にも及ぼすことが出来る。

 結果として、受けた傷はすぐに修復されるわけだ。あまりダメージを負うことのない私は、今ほどこの効果を実感したことも無い。いや、VSモードの中でならあるけれど。

 しかしこれは実戦。負ければ、死ぬ。

 でも死んだらきっと、またコンティニューするのだろう。時間を遡り、この世界のどこかでまた、ミコトとして始まるのだ。


 けど、だからといって。私は死ぬことを許容できない。

 だってそれは、仲間たちとの別れを意味するのだから。

 築き上げた絆を無かったことにするのだ。そんなのは、決して我慢ならない。看過できない。

 だから、敗けるわけには行かない。


 ゼノワが骸の死角よりちょっかいを掛ける。得意の派手な光魔法だ。

 細い光の線が骸の身体を貫かんと、横合いよりパッと差し込まれる。が、そこには既に骸の姿など無く。

『ギャッ』

 と短い念話が届いた頃には、その頑強で立派な鱗に一本の刀傷が刻まれているではないか。

 驚くべきことに、この骸はゼノワにすら刃を届かせることが出来るらしい。

 幸い傷は深くないようだけれど、慣れぬ痛みに狼狽え飛び退るゼノワ。私は急ぎカバーに入るべく、骸へと斬りかかる。魔法もしこたまバラ撒いた。

 だが、これまた見事な対応でもって私の攻撃をやり過ごし、再度一方的な展開を構築してくる骸である。


 劣勢だった。

 攻撃を捌くのがやっと。いや、正確に言えば捌き切れてすらいない。

 時折肌を撫でる刃の痛みに、段々と精神的な苦痛が蓄積していくのを自覚する。痛みに対する拒絶反応を覚えそうになる。

 それを嫌って無理な動きをしたが最後、一気に勝負を持って行かれかねない。

 だから私は、努めて無心で攻撃を捌いた。痛みに対しては何も思わないことにした。

 その代わり、突破口を探す。このままじゃ敗北の未来を免れないから。

 幸いなことに、手札の豊富さには自信があるのだ。だからこそ絶望感は薄い。斬られたイクシスさんやゼノワの心配なんかをしている余裕まであるくらいには。


 さりとて、そんな余裕を抱えていられたのも、本当に束の間のことだった。

 私が何か手札を切るよりも先に、優勢を独占していたはずの骸が動きを見せたのだ。

 それも、決して看過してはならない危険な動きを。


 唐突に、パッと面前より姿を消す骸。驚くほどに思考を読ませない彼女の行方には、危険なことに見当を付け辛く。

 すわ再びゼノワへ襲いかかったのかと、引き続き遠距離より補助してくれているゼノワへ視線を向けてみるも、しかし空振り。骸の姿は見当たらなかった。

 ならば何処へ消えたのかと、注意深く気配を探ってみたならば、背後。それも随分と離れた場所に彼女は居り。幾重にも視界を遮るように立ち並ぶ青竹の向こうで、彼女は不気味に佇んでいる。


 強烈に嫌な予感がした。


 何の理由もなく骸が、私だったものが、距離を取るはずなど無い。しかも遠距離は、魔法が得意なこちらの領分である。

 それを承知した上で、彼女は距離を取ったのだ。

 何か、するつもりだ。

 そのように確信を覚えた直後である。骸から、真っ赤なオーラが吹き上がったではないか。

 それは衝撃となり、竹の葉を無数に舞わせ、私の服をも強くはためかせた。と同時に精神的な負荷となって私の怖じ気を強烈に煽った。

 彼女を最初に目にした時感じられた、背筋が粟立つような言い知れない感覚。

 それを爆発的に膨らませたような、今にも腰が引けてしまいそうな恐ろしさが彼女の身よりデタラメに発せられたのである。


 こんな時に、とは思うのだけれど。どうしようもなく脳裏を横切っていくのは、『界◯拳じゅぅべぇだぁぁぁ!』というイメージと音声。

 そして実際、彼女はそれを我が身で実現したに違いない。




 振り切った状態で、彼女が目の前に立っていた。何をって、勿論刀を。

 何も見えなかった。

 気づいたら彼女は、私の目の前で愛刀を振り切っていて。

 そしてその刃は、間違いなく私を捉えたのである。


「あ……あぁ……」


 斬られた。

 斬られてしまった。

 死んでしまう。終わってしまう。


 と、思ったのも束の間。

 彼女は骸らしからぬ調子で、残心を解かぬまま不思議そうに大きく首を傾げたではないか。

 そんな様子を見て、確信する。あ、このリアクションは確かに私だ、と。

 ついでに言えば、遠くではゼノワも同じく首を傾げており。

 そして私もまた、一緒になって首を傾げてみる。


 骸は再度、えげつない速度で刀を振るった。何度も何度も。多分、何重という剣閃がいっぺんに走ったのだろう。

 さっぱり見えなかった。

 なのに、彼女はまたもピタリと動きを止め、大きく首を傾げたのだ。


 極めつけとばかりに、骸が刀を突き出してくる。刺突だ。

 狙い過たぬ神速の一撃は、的確に私の心臓を捉えていた。

 なのに。

 不思議と私の身体に傷はない。


 にまぁっと、仮面の下で思わず口角がつり上がってしまう。


 だってそうだ。やっと、コレが実戦で活躍したのだもの。

 ずっとこっそり練習していて、ようやっと使いこなせるようになった、そんな秘蔵のスキル。

 めったに怪我をしない私にとっては、半ば死蔵にも等しかったそれが、満を持して意味を示してみせたのである。

 さながら、大事にとっておいたカードが、この上ないタイミングで役立ったような感覚。これが痛快でなくてなんだというのか。


 そうさ。

 刀による斬撃だなんて『物理攻撃』を振るう相手にとって、これほど厄介なスキルもないだろう。

 絶対真似ろと目を血走らせたソフィアさんには、今更ながらに感謝の念を懐いてしまう。


 数多ある私の模倣スキルの中でも、別格と言っていいほどに再現の難しかったスーパースキル。

 即ち、【物理無効】がようやっとその力を見せつけたのである。


 さて、ようやく私のターンかな!

 誤字報告いただきました! 適用済みです。感謝ぁ!

 誤字報告を見ると、読者様はまだ絶滅していなかったんだなぁと実感します。

 ありがてぇ。

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