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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六六六話 跳ねる骸

 ヨーシゲッタ大森林。

 この国でも屈指の巨大な森であり、その奥地は魔境とも神聖な場所とも言われている、冒険者ですら寄り付かない秘境なのだとか。

 そんなもの、特級危険域に指定されているに決まっていると思ったのだけれど、どうやらそうでもないらしく。

 定期的に行われるモンスターの脅威度調査によれば、その結果は長らく安定し、大きな変動は見られないのだそうな。

 尤も、近年は徐々にそれが崩れ始めているらしいけれど。何にせよ特別な森であることは間違いないようだった。


 そんな巨木が立ち並ぶ深い森の中に、私たち鏡花水月はやって来ていた。

 目的は勿論、骸と戦うためである。


「それにしても、すごい名前の森だね」

「話によれば、この国デッケーゾを名付けた初代国王が付けた名前だそうですよ」

「その名のとおり、よく茂っておるのです」

「グラグラ」


 時刻は午後二時過ぎ。昼食を終えた私たちは、飛行を駆使してこの森までやってきた。

 重力魔法で身体を軽くし、空間魔法で固めた足場を蹴るっていう従来の超速飛行に、通常の飛行スキルまで乗っけた新生の飛行である。

 ついでに実験がてら、今回はストレージ移動や転移などを駆使すること無く、メンバー全員で空を飛んでやって来た。

 従来の方法では、確かに私とエンジン役の二人なら短時間で長距離を移動できるものの、他のメンバーが同じく長距離を移動している事実に対して、それが可能な理由が説明できかねたのである。

 つまりは転移以外の方法で皆を遠くへ素早く移動する手段が、転移スキルを隠蔽するために必要だった、というわけだ。

 本当ならもっと早くに開発しておくべきことだったのだけれどね。なんとも我が事ながらガードの甘い話である。


 ちなみに今回用いた移動手段は、細長く変形した卵のような形状の大きな障壁に乗組員を詰め込み、重力魔法や風魔法などをてんこ盛りにして負荷の軽減を適用。

 推進力はパワーアップしたココロちゃんキックに、『圧縮』したバフを掛けて爆発的に推進力を増強。

 結果として、以前より断然短い時間で大空を駆け抜けることが出来た。技術は日々進歩するのである。

 尤も、あまりの速度に皆顔を真っ青にしていたけれど。空の旅を楽しむのには向いていないようだった。

 まぁ確かに、あんな勢いで地面に落下しようものなら、流石に全員木っ端微塵。即死だもの。恐がるのも無理はないのかもね。

 勿論着陸には細心の注意を払ってあるため、事故だなんてことにはならない。

 ……絶対にとは言えないけども。

 人一倍顔を青くしていたクラウ曰く、「短時間で移動できることは証明されたのだ。必要がないのなら、二度とやらんぞ!」とのこと。

 他の面々もゼノワ以外必死に首を縦に振っていた。不評だったらしい。


 とまぁ、そんなこともありつつ。

 エンカウントしたモンスターを適当に狩りながら大森林を歩くこと暫く。私たちの向かう先に見えてきたのは、落差一〇〇メートル近くもありそうな断崖絶壁と、そこに大口を空けた巨大な洞窟の姿であった。


 正しく絶景。皆が息を呑んだのがよく分かる。勿論私もまた、目を見開き言葉を失っていた。

 洞窟の入口は、高さにして崖の中程を越えるほどに巨大で。人間とサイズ差を比べてみたなら、その対比だけで笑えてくるほどのスケール感だった。

 奥は深い影に覆われていて見通せず、それがなんとも言えない根源的な恐怖を呼び起こすようじゃないか。

 大自然の偉容とでも言うべきか。そんな景色を目の当たりに出来ただけで、ここまでやって来た価値は十分にあったと言えるだろう。


 が、しかし。

 勿論私たちの目的は、そんな観光まがいのものではなく。


「──マップでは、この辺りで間違いないようです」

「分かった。それじゃ、ちょっと探してくるよ」

「周囲の警戒は任せて」


 マップはこの巨大洞窟の入口に、骸が眠っていることを告げているのだ。

 私たちの目的は、その骸を目覚めさせ、新たなヒントを貰うことにあった。出来れば『鍵のページ』に関する情報がほしい。

 骸の強さも然ることながら、そうした情報を得られるかどうか、と言う意味合いに於いても運である。正に骸ガチャ。

 こればっかりは試してみないと分からないことであり、私は期待と不安を胸にいつもの欠片を探し始めたのである。

 これまでに出会った骸は、今の私と同じく仮面をしていた。きっと異なる周回の私も、この顔に悩まされて仮面をつけていたってことだろう。

 だから今回も、探すのは仮面の欠片だ。それに触れることが、骸を目覚めさせる切っ掛けとなるはず。

 或いは仮面以外の何かって可能性もあるけれど、それは欠片が見つからなかった際に考えれば良いことである。


 オルカたちにモンスターへの警戒を任せ、硬い地面の上に目を凝らし続けること暫く。

 なかなかそれらしい物が見つからないことに、やや焦れ始めた私は、そこで一つのひらめきを得た。


(あ、そうだ。もしかしてここでも【失せ物探し】が役立ったりしないかな?)


 物は試しである。早速スキルを発動して欠片を探し始める私。

 すると、地面がチラホラと光って見えることに気づいた。それはよく見ると、失せ物探しでアルタさんを見た時の光とよく似ていた。

 確信にも近い感覚を胸に、駆け足で光の下へ近寄る私。そうして地面に目を凝らしてみれば、確かに小さな白い欠片が小石に紛れて落ちているじゃないか。

 恐らくこれがそうなのだろう。

 私はすぐに皆へ声を掛け、発見を知らせた。

 そうしたらいよいよ、戦闘準備である。これまでの経験上、欠片に触れたならすぐにでも骸が現れるに違いない。

 ならば今のうちに準備を整えて、激戦に備えなくてはならない。


「大丈夫、ミコトなら勝てる」

「念の為に母上たちも召喚しておこう」

「ガウガウラ!」

「念入りにリジェネ系魔法を盛っておくのです!」

「魔法少女化しましょう。それが確実ですよ!」

「いや、うん。それは奥の手にしようかな……」


 幼女の提案をそっと横に置きつつ、精神集中を始める私。

 するとストレージ経由でイクシスさんやレッカたちも駆けつけ。ことさら張り切っているのはスイレンさんだ。

「演奏でガッツリ盛り上げちゃいますよー!」

 と、何時になく頼もしい言葉をくれるじゃないか。実際彼女の演奏は強力なバフになるので、非常に重宝する。戦力の底上げにはもってこいである。有り難く頼らせてもらうとしよう。


「我々は見守ることくらいしか出来ないが、最低限スイレンちゃんに火の粉が掛からないようにはするから安心してくれ」

「ヤバい時は言ってね。弾幕くらいなら張れるからさ!」

「とても剣士の言葉とは思えないけど、頼りにしてるよ」


 今のレッカは【飛炎剣】の派生スキルで本当に弾幕が張れちゃうからね。必要になったらお願いするとしよう。

 勿論それは、他の仲間たちにも言えることだ。私以外の攻撃じゃ、確かに有効打にはならないけれど。しかし怯ませることくらいは出来る。筈。

 サポート組の用意もバッチリ整ったところで、いよいよ私は足元の小さな欠片へと向き直り、腰を屈めた。


「それじゃ、骸を呼び出すよ!」

「グラァ!」


 高まる緊張感。

 伸ばした指先が、ちょんと白い欠片へと触れた、その瞬間だった。

 欠片は突如弾かれたように宙へ飛び上がると、同じようにあっちこっちから飛んできた別の欠片たちと寄り集まり。

 そうしてあっという間に、一つの仮面を形作ったのである。

 どうやら毎回、微妙に登場演出が異なるようだ。


 今回はピンピンと仮面が宙を跳ね回り、立体的な動きを始めたではないか。

 私は舞姫を構え、腰を落として次の事態に備える。すると。

 跳ね回っていた仮面に、スッと身体が現れたのである。今回は何と、足が四本もある異形。

 ぱっと見の印象からして『跳ねる』のが得意な骸なのだろう。携えている得物は短杖のようだ。


(まさか、骸の元になった私も足が四本あった、なんてことはないよね……?)


 幾らかの動揺と懸念を胸中に感じながら、当たり前のように空中を蹴って跳ね回る骸に対して、早速舞姫を二本けしかけてみる。先手必勝というか、様子見だ。

 放たれた矢のように、鋭く骸へ向けて飛翔する舞姫たち。

 私の意思に応じて自在に空を躍動する二振りの剣は、奴の動きに惑わされるでもなく的確に斬り掛かって行った。

 さりとて。

 バチンと、突如見えざる何かに弾かれ、軌道を乱されたではないか。

 ばかりか、私が立て直しを図るよりも早く、続け様に弾かれる舞姫たち。切っ先は何とこちらを向き、信じ難い勢いで跳ね戻ってきたのである。


 このままでは直撃を免れない、見事なコース。速度も威力も申し分ない。

 けれど私は迫る二振りを、ストレージにしまうことで事なきを得る。と同時、理解した。

 奴の得意技は跳ねることだけでなく、『跳ねさせること』でもあるのだと。


 クラウの得意な盾スキルに、似たような技がある。相手の攻撃を倍にして跳ね返すという、反射技だ。

 あの骸が得意としているのもきっと、そうした類のスキルなのだろう。叡視スキルで見た結果もあって、そのように確信する。

 確かに厄介な能力である。が、しかし。


(あまり脅威には感じないかな……そも、ここで力尽きたってことは……)


 この場所は、特級危険域というわけでもない森の中。

 道すがら戦ったモンスターの脅威度も、最大で五つ星。赤には届いていなかった。

 確かに脅威度は高いけれど、平均で言えば四つ星くらいだ。今の私なら、たとえ一人で彷徨いたって力尽きたりはしないだろう。

 そんな場所で命を落としたって言うんであれば、ひょっとするとそれ程強大な力は有していないのかも知れない。

 が、必ずしもそうであると言い切れないのも事実。なればこそ、侮るわけにはいけない。


(探ってみるか)


 繰り出したるは一発の火球。バレーボール大のそれは、相変わらずご機嫌に跳び回る四足の骸めがけて鋭く飛翔した。

 若干の軌道修正もあり、直撃コースである。だが。

(やっぱり魔法も跳ね返すか)

 予想していたとおり、物理だけでなく魔法も弾いてしまうらしい。

 見えざる壁に撥ね退けられた火球は、しかし先程とはまた異なる軌道を見せ。

 何と、中空にて幾重にもバウンド。さながらピンポン玉のように複雑に跳ね回った。


 その光景は離れて眺めるサポート組にも見えており、驚きの感情が伝わってきた。

 幸いと言うべきか、様子を見るためにスイレンさんによる演奏サポートは今の所控えてもらっているため、火球の威力は最低限……だった、はずなのだけれど。

 それがどうしたことか、一度バウンドする度に火球に込められた火力はぐんと上昇し。

 今なお空中で跳ねるそれは、次第に手のつけられないような、恐ろしい威力の魔法へと成長していくではないか。


(これが、奴の戦法か……!)


 そうしていよいよ、私を殺すのに足るほどの力を得た火球は、満を持して凄まじい勢いを宿し、真っ直ぐこちらへと飛来したのである。

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