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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六六五話 骸ガチャ

 イースリーフを朝一番に出て、人目につかない森の中。

 例によって転移を発動した私たちは現在、イクシス邸の食堂にて少し遅めの朝食を摂っていた。

 時刻は午前一〇時前。食堂内にはイクシスさんやレッカたちの姿もあり、イースリーフでの活動内容は正に今、食事をしながら皆へ語って聞かせたところである。

「ってことがあったんだよー」

「グラー」

 などと締めくくれば、感心した様子を見せるイクシスさんたち。


 そして、話題の中心は自ずとマップへ移っていき。


「骸のアイコンが出現した、か。どうやら【失せ物探し】のスキルは、本当にキーパーソンを見つけ出すことの出来るスキルだったようだな……」

「試行回数は少ないけど、多分間違いないだろうね。ちなみにコミコトでリリたちのことも見てみたんだけど、やっぱり光って見えたよ」

「骸……お話には聞きますけど、本当に実在するんですね~」

「まぁ今回は、ミコトにしか見えないだろうけどね。そのアルタって人は攻略に誘わないって話だし」


 宿でアルタさんを部屋に送り届けた後、私たちは皆でマップを確認した。

 その結果、新たな骸の居場所を示すアイコンの出現を確認することが出来たのである。

 これにより失せ物探しのスキルが、キーパーソンを見つけ出すために有用なスキルである、ということが概ね判明したと言って良い。

 そしてレッカの言うとおり、今回骸と戦うのにアルタさんを誘うことはしなかった。

 事情はいろいろである。

 彼女を面倒事に巻き込むのも気が引けたし、諸々の秘密を知る人間は一人でも少ないほうが良い、というのもある。

 もっと単純に、説明する手間を嫌ったっていうのもあるけど。兎にも角にも、今回協力を要請するつもりはない。

 が、しかし。


 協力を要請しないということは、即ち私と骸のタイマンって構図が出来てしまうという話でもあり。

 骸の力にもよるけれど、これは非常にリスキーなことでもあった。


「骸は『いつかのミコト』の成れの果て。どれくらいの力を宿しているのか、蓋を開けてみるまで分からない」

「ココロはその点が心配なのです……」

「そうだな。凄まじい力を持っている可能性も十分に考えられるのだ。それはもしかすると、今のミコトをも凌ぐものかも知れない」

「恐いのは、アルタさん以外にどんなメンバーとPTを組んでいたのか。それが分からないということです。もしもその中に英雄クラスのメンバーが居たとすると、最終的にミコトさんが蓄えた力が絶大なものだった可能性も現実味を帯びてきますから」

「グル……」


 私たちが行き着いた仮説が正しいとするなら、骸とは『別の周回で命を落とした私』だということになる。

 つまりは死した私の遺留品というか、死体というか、残留思念というか。そういった類の何かが化け物化した存在。それがつまりは骸なのではないか、と睨んでいるわけで。

 なれば、その周回の私が最終的にどれほどの力を蓄えたか、というのが骸の強さに直結してくるのは道理。

 例えば当時のPTメンバーにイクシスさんみたいな人が居たとするなら、きっと私は長く生きて、強大な力を身につけたに違いない。

 今回はアルタさんしかPTメンバーが判明していないため、骸の力を推測するには心許ない情報しか得られなかった。

 アルバムスキルを調べたなら、何処かに他のメンバーに関するヒントを移した写真なんかが紛れている可能性はあるのだけれど、今や写真の数も動画の数も膨大。その中から一枚を探し出すだなんて、流石に無理のある話だ。

 そうは思えど当時のPTメンバー、或いはPTバランスや相性、活動方針なんかによっては、長く活動して実力を磨いた可能性もある。

 決して侮って良いような相手ではない。それが、骸というものである。

 なれば、膨大なアルバムのデータに戦いを挑むのも、選択肢としては有力ではあるのだが。


「まぁ尤も、その逆で弱い可能性もあるんだけどね」


 もしも無茶をして早々に命を落としたり、或いは何かしらの不運に負けて命拾いできなかった場合なんかは、その分弱いままの骸となり。戦ってみたら拍子抜け、なんてことだって十分考えられるのだ。

 要するにガチャである。骸ガチャ。蓋を開けてみるまで何が入っているかも分からない、とびきり危険なやつ。

 とは言え、私だって力を付けた。多分ちょっとやそっとの骸には負けないと自信を持てるくらいには。

 まぁ私、まだ活動を初めて一年ちょっとのペーペーなんですけどね。イキるにはまだまだ不足ばかりだろうけれど。

 さりとて、既に骸を二体取り込んでいる私である。なれば他の周回よりも力を得ている可能性はそう低くもないだろう。

 何れにせよ、骸との戦いに今のアルタさんが加わったところで、さしたる活躍が出来るとも考え難いわけだし。


「ふむ……それで、骸へは何時挑むつもりなんだ?」

 イクシスさんの問いかけに、私は仲間たちとちらりと視線を交わし。一先ず自身の考えを口にした。

「なるべく早くだね。何なら今日にでも行ってこようかって思ってるよ」

「今日って、また急だね」

「準備とかは大丈夫なんですかー?」

「特に揃えるような物も無いし、今更慌てて特訓するっていうのも違うしね。やるだけやってみるつもり」


 慢心って言葉が脳裏を横切る。

 骸のアイコンはすぐに消えるようなものでもない。なれば、消えるまでに特訓するっていうのも有意義だとは思うのだ。それを怠るのは慢心の表れなのではないか、とも。

 けれどそれではまた、クマちゃんから出される依頼の達成に支障が出てしまいかねない。ただでさえ一週間近くもイースリーフへ赴いていたのだし。

 私たちが依頼を滞らせたことにより、一体どんな被害が生じるか。

 思い起こされるのは、これまで見てきたモンスター被害の実例。

 最たるところは厄災級アルラウネだろうか。アレは、私たちの参戦がもう少し遅かっただけで、被害はもっとずっと甚大なものになっていただろう。

 旅の途中で戦ったカオスラットもそう。私たちが通りかからねば、何処まで被害が広がっていたか。

 クマちゃんからの依頼がそこまでの脅威とも考え難いけれど、それでも被害者はいるし、脅かされているものもある。

 ならば特訓だ何だと、責務を放り出すようなこともあまり言っていられないのだ。


「ソフィアさん、クマちゃんからの特級依頼って今何件くらいある?」

「現在は一三件ですね。しかし緊急のものはありません」

「思ったよりは多くないな」

「でも、なかなかの量」

「ダンジョン攻略の依頼まで含まれてるのです」

「グル」


 世界は広く問題は尽きない。まぁ、転移スキルなんてものを明かした手前、並の特級冒険者とは比較にもならないほどのノルマを課されているのは間違いないだろうけれどさ。

 そう考えると、転移なしで活動していたイクシスさんには頭が下がる思いだ。常に世界中を自力で飛び回り、各地で強力なモンスターを倒しまくっていたって言うんだから。

 逆に言えば、それで事足りていたってことでもある。であれば私たちに回されている依頼って、脅威度的にはまだおとなしい、所謂『これまでは手が回らず保留されていた山積みの依頼』ってことなんじゃないだろうか。

 何だかブラックな臭いをそこはかとなく感じるんですけど。

 ともあれ、やはりのんびり特訓している場合でも無さそうだ。


「それじゃ、お昼からちょっと骸と戦いに行ってこようかな」


 お昼までは依頼の消化である。

 そうして朝食を終えた私たちは、腹ごなしがてら転移室へと向かうのだった。



 ★



 眩しいお日様の照らす高原。

 体育座り、別名で三角座りや安座とも呼ばれる格好で、ぼんやりと眺める空には白い雲がのほほんと横切っていく。

 少し視線を下に落とせば、元気にはしゃぐ幼女が一人。新しいおもちゃ(石化光線)でモンスターをいたぶっているところだった。

 無邪気な笑い声は狂気を滲ませていて、全力で他人のフリを決め込みたい衝動に逆らえそうにない。

 視線を青い空へ戻し、ぼんやりと呟きを零す。


「それにしても、今回はとうとう実績らしい実績を残しちゃったね」


 アルタさんに諸々押し付ける形で帰って来はしたけれど、それでも記録としてダンジョン攻略メンバーに私たち鏡花水月の名も連なることだろう。

 それを思うと、これまで守ってきたルールを犯したような気持ちになって、ちょっぴり気分が落ち着かなかったりする。


「だ、大丈夫なのです。辺境のちょっとしたニュース止まりが精々ですよ!」

「まぁ、そうかも知れんな。だがそうと言い切ることも出来ない。少なくとも、これから同じような活動を繰り返していくのだから、やがては鏡花水月の名前も売れて広まることだろう」

「問題ない。もしもミコトに対して良からぬ考えを抱くやつが居るなら、私が片付ける」

「ギャウ?!」

「オルカなら本当にやりかねないよね……」


 同じくぼんやり日向ぼっこをしている面々が、各々意見を返してくれる。

 しかしオルカにそんな危険で汚い仕事はさせたくない。もしやるなら私自身の手でなんとかしようと思う。

 今のところ、流石にそんな覚悟は持ち合わせていないけどさ。

 だけどもしかすると、骸の中にはそういうようなことをしてきた者だって居るのかも知れない。

 人の悪意に触れて、人殺しをせざるを得なかった周回の私、なんてものが居たって不思議じゃないんだ。

 それを思うと、何ていうか……底の見えない暗闇のような、途方も無い漠然とした不安感が、フッと胸中に漂ってくるようで。

 思わず背筋がゾッと冷たくなった。


 悪意云々を抜きにしたって、もしかしたら戦争に巻き込まれたり、なんてこともあるかも知れないしね。

 実際この世界でそういうことをしている国も少なからずあるらしいし。このデッケーゾって国だって例外じゃないんだ。

 どっかの国境では緊張状態が続いてるとか何とか。本当に嫌になる。

 そんな元気があるなら、特級危険域にでも突っ込んでくればいいのに。

 人の業ってどうしようもない。世界が変わってもそういうものなのかも知れないな。


「【失せ物探し】でキーパーソンが見つかると分かった以上、今後は今回と同じように、いやもしかするとそれ以上に派手に動くこともあるかも知れないな」

「大胆に動くと決めた手前、そこは覚悟するしか無い」

「ですけど、注意しなくちゃいけない部分もあるのです。特に転移スキルに関しては絶対に伏せなくちゃなりません!」

「グラグラ」


 私が嫌な想像を胸中で眺めている横で、仲間たちの話は続いていた。

 確かに私たちはこれまで以上に大胆に動くことを決めた。それが押し通せるだけの力を得たからだ。

 けれど、だからといって何でもかんでも解禁したわけではない。ことさら転移スキルは特大の爆弾だもの。

 それこそ戦争に用いたなら、気まぐれにポンと大将首を取ってこれるような、正しくチートツールになりかねない。

 無論、そんなことに手を貸すつもりなんて無いけれど。


 でもさ、例えば私の転移スキルが何処かから広まって、それを巡って戦争が起きたらどうするのって話だ。

 実際ありそうな話だから困りもので、そうなったら私はどう動けばいいんだろう?

 声高に民衆の不安を煽る人を片っ端から拉致して、無理やり一つ所に押し込むような荒業でも使う?

 それこそ、力を見せつけるような行為だ。一層大勢の人に危険視されてしまうだろうか。

 だったら誰にも見つからない秘境にでも姿を隠す? 不自由な生活を強いられちゃうのかな。

 あぁダメだ。想像しただけで憂鬱な気分になっちゃうよ。

 ココロちゃんの言うとおり、ことさら転移スキルは注意して運用していかなくちゃならない。

 それが世のため人のため、何より私自身のためってものである。


「あ、終わったみたいです」

「よし。では次に行こう」

「今度は私の番」

「ギャウラ!」


 無事にモンスター討伐を終えたソフィアさんと合流し、私たちはそれからお昼まで、引き続き依頼の消化に励むのだった。

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