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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六六一話 憑依合身!

 階層が深くなれば、モンスターの脅威度も上がってくる。

 四・五つ星ダンジョンともなれば、深層には偶に五つ星モンスターなんてのも出現するもので、流石にそれらを瞬殺するのはどうなのだろうかと小さな念話会議がこっそり開かれたけれど、『連携戦法なら大丈夫』という結論に至った私たちは、アルタさんの見ている前でサクサクとエンカウントしたモンスターを処理し、ダンジョンマラソンを続行したのだった。


 そして現在。石柱のダンジョン三日目にして、三〇階層到達。

 途中すっかり口数の減ったアルタさんだったが、何処かのタイミングで吹っ切れたらしく。

「ふはは! 圧倒的じゃないか鏡花水月は!!」

 と、謎にハイな状態となっていた。走りすぎたせいだろうか? ランナーズハイってやつだ。

 とは言え、もう走る必要すら無いのだけれどね。何故なら……。


「ボスフロアですね」

「フィールド型ダンジョンのボスフロアは、ボス部屋も扉もないから落ち着かないのです」


 そう、石柱のダンジョン三〇階層は、ダンジョンボスの待ち構えるボスフロアであった。

 時刻は午後六時を過ぎ、流石に疲労もあって今日はこの辺にしておこうか、というタイミングでのボスフロア到達である。

 マップを見れば、広いフィールドフロアにボスアイコンが一つ。動きはないため、セーフティーエリアは有効と見ていいだろう。

 鏡花水月組だけならこのままボスと戦っても問題ないのだけれど、とは言え慢心は良くないし、何よりそれでは意味がない。

 何故なら、私たちの目的はこのボス戦で、アルタさんにキャラクター操作を使うことだから。


 三日も一緒に走ったのだ。流石にPT欄にも名前は追加されており、やろうと思えば既に様々なスキルが共有化可能な状態にあった。

 そして勿論、キャラクター操作の使用条件だって整ったことになる。あとは彼女が了承すれば、晴れて目的達成というわけだ。

 であるならば、せっかくだしボス戦で実行しようじゃないか、という魂胆である。

 問題はそのための口実なのだけれど。さて、アルタさんに何と言ってキャラクター操作を説明したものか。

 いや勿論、事前にプランは用意してあるのだけれどね。

 アップデートにかこつけようというわけである。即ち、新たに実装されたスキルであり、せっかくだから秘匿したいとかなんとか言っておけば、結構どうにかなるんじゃないかと。

 新実装スキルだなんていうのは、考えてみれば私のへんてこスキルにとって、とても都合のいい隠れ蓑である。

 従来は、「そんな馬鹿げたスキルがあるもんか!」って異端視されたり、危険視されたり、利用されたりってことへ警戒しなくちゃならなかったけど、アプデが行われた今の世なら「新しく実装されたんです」で、少なくとも異端視はされづらくなった。

 まぁ、相変わらず危険視されたり利用されたりってことへの警戒は必要だけれど。そこはこれまで通り気をつけていれば大丈夫だろうし。

 万一怪しまれても、それを何とか出来るだけの力はつけたつもりだ。


 なので、アルタさんからもしも情報が何処かへ漏れたとて、最悪パワーでなんとかするぱわ。

 イクシスさんっていう後ろ盾もあることだしね。


 問題は、切り出し方だ。

 ボス戦の最中、突然このスキルを使おう! とか言っても、そりゃ警戒されるだろうし。

 ならば事前に伝えておくのが一番か。でも、嘘が下手なんだよなぁ。

 やはりここは、ソフィアさんに任せるのが良いだろうか。

 なんてことを、念話でこっそりやり取りしつつ、ちゃっちゃか整う夕飯の準備。


 そうして今日も、皆でオルカの作ってくれた晩御飯を囲う私たち。

 アルタさんの見ている手前、流石にストレージから新鮮な食材を取り出して調理、というわけには行かないため、保存食に手を加えた程度のものにはなるのだけれど。

 しかしオルカの手にかかれば、そんな食材も美味しい料理へ早変わり。ステータスどころか料理の腕まで上がっているとか、流石過ぎた。

 なんでも、いつの間にか料理系のスキルまで生えてきたそうで。最早器用とかいうレベルを越えている。


 そのように皆でオルカの手料理に舌鼓を打っていると、しかし一人浮かない顔をするものがあり。

 誰あろうアルタさんが、何だかしょんぼりとしているではないか。

「もしかして、口に合わなかった……?」

 心配げにオルカが問いかければ、彼女はハッとしてそれを否定。誤魔化すように良い食べっぷりを披露してみせた。

 けれど、空元気なのは誰の目にも明らかで。

 皆の視線に、誤魔化しきれないことを悟ったアルタさんは、徐に内心を吐露し始めたのだった。


「情けないな、と思ってね。これでも、それなりに腕に自信はあったんだよ。イースリーフでは屈指の冒険者だという自負もあったし、今回の攻略でももっと活躍する気でいたんだ。ところが、蓋を開けてみたらこのザマさ」


 ずんと肩を落とし、ジメッとした陰気を吐き出すアルタさん。

 分かりやすく凹んでおられる……。どうやら私たちは、手加減が足りなかったようだ。

 とは言え、あからさまな加減なんてそれはそれで厭味ったらしいものね。難しい問題である。


「このままではボス戦でも、きっと僕の出番はないのだろうね。それが、とても情けないのさ……」

「アルタさん……」


 今にもしくしくと泣き出しそうな彼女。つま先で地面を弄び、イジケているようにも見える。

 なんとも言えないずっしりとした空気が場に漂った。

 するとそんな中、すっくと立ち上がった者があり。彼女は重たい雰囲気を気にもとめず、力強い声でアルタさんへと投げかけたのである。


「今回のボス戦で、活躍したいですか?」


 ソフィアさんからの問いかけだった。

 俯いた顔を上げ、幼い彼女の姿を視線に捉える。問いかけには徐に。

「……ああ。勿論、それが叶うのであれば」

 と、正直な答えを返すアルタさん。

 すると満足げに頷いたソフィアさんは、勿体つけるように言を継いだのである。


「よろしい。ならばそんなあなたへ、とっておきを教えて差し上げましょう」

「とっておき……? それはつまり、僕がボス戦で活躍できる方法があるということかい?」

「そのとおりです」


 ソフィアさんの肯定に、訝しみつつも興味の色を示すアルタさん。

 落ちた肩が少し上がり。先程より幾分、聞くのに相応しい姿勢を整える彼女。

 それを認め、ソフィアさんは話を続けた。


「アップデートをご存知ですね? 先日起きた大異変のことです」

「ああ。そこのワープポータルが出現するようになった、アレのことだろう。ご多分に漏れず僕もあの時は意識を失い、夢を見たよ。皆と同じ夢を」

「ならば知っていますね? アップデート以降、新たなジョブやスキルがこの世界に追加されたことを」

「……あの夢の内容がデタラメでないとしたら、そうだね」

「よろしい。ならば、刮目して下さい」


 そうしてソフィアさんは、アルタさんの目の前で、ついに変身を解除してみせたのである。

 まじかる☆そふぃあから、通常のソフィアさんへ変貌を遂げる彼女。アルタさんにしてみたなら、寧ろそれこそが変身に見えたことだろう。

 急に大人の姿になったソフィアさんを目の当たりにして、すっかり間抜けな表情になってしまったアルタさん。

 そんな彼女へ、ソフィアさんは続けた。


「これが、私本来の姿です。ああいえ、違いました。本来の姿は魔法少女の私です」

「ソフィアそれややこしいから」

『ガル』

「……。ともかく、私はこの世界に新しく追加された【まじかる☆ちぇんじ】というスキルを駆使して、変身することが出来るようになったのです」


 ソフィアさんの齎した情報に、目をまんまるにするアルタさん。正に吃驚仰天。開いた口の閉じ方も忘れたようである。

 インパクトは十分。そう判断したソフィアさんは、続いて私の方へと水を向けてきた。

 述べた言葉は。


「私と同じく、新たなスキルを獲得した方がいます。私の嫁、ミコトさんです」

「さらっと余計な嘘を交えるなです」

「彼女が……嫁?」

「いや、重要なのはそこじゃない。あと嫁云々はソフィアが勝手に言っているだけだ」


 一言余計というのはこういう事を言うのだろう。アルタさんが本題を履き違えそうになっているじゃないか。

 重要なのは、私も新しいスキルを持っている、という認識を与えることにある。

 クラウのツッコミにより軌道修正は成り、改めてアルタさんの視線が私を捉えた。


「ミコトくんも新しいスキルを持っている……もしやそのスキルが、ボス戦での僕の活躍に関わっているということかな?」

「察しが良いですね。そのとおりです」

「ほぉ……!」


 ソフィアさんのパフォーマンスが効いたのだろう。今度こそ興味をその表情にしかと表し、彼女の次の言葉を待つアルタさん。

 下地は整った。満を持して、ソフィアさんは語るのである。

 私のへんてこスキル【キャラクター操作】……ではなく。名前だけ偽った存在しない新スキルのことを。


「スキルの名は【憑依合身】。ミコトさんが他人に憑依し、その身体を操るという驚くべきスキルです」

「ミコトくんが、憑依する? と言うともしかして、ミコトくんは幽霊か何かなのかい!? だから仮面をして……そそ、その仮面の下には青白い顔が……」

「ちょっと、勝手に殺さないで欲しいんですけど。見たいなら仮面取ってみせようか?」

「い、いやいい! 眠れなくなりそうだからね、はは!」

「えぇ……」

「ミコト様のご尊顔を拝しては、確かに眠れなくなってしまうのです!」

「うん。間違いない」

「ほらやっぱり!」

『グラァ……』


 何か、盛大に勘違いされてるんですけど。すっかりオバケ扱いなんですけど。

 何だか腹が立ってきたので、仮面を取って見せてあげた。

 嫌だやめろとギャーギャー騒いでいたアルタさんが、ピタリと停止し、静かに鼻血を流し始めた。

「か、可憐だ……」

 どうにか捻り出したのはその一言だけ。その後は、すっかり口数が減ってしまい。時折チラチラっとこちらへ視線を寄越すようになるアルタさん。まるで恋する中学生だ。やっぱり罪深い顔面である。

 その横では仲間たちが、「こらミコト、無闇に仮面を取るんじゃない!」「眠れなくなってしまいます!」「顔面凶器」「はぁ、はぁ、ミコトさん……ごくり」などと騒いでおり。ゼノワには後頭部を尻尾でしばかれてしまった。顔面コンプレックスになりそうである。


「ミ、ミコトくんと、合身……ごくり」

「ちょっとアルタさん。人の嫁を相手に邪なことを考えてませんか?」

「ばっ!? バカなことを言っては困るなぁソフィアくん! 僕ぁ至って健全だよ!」

「鼻血を拭いてから言うべき」


 何だかいつかの悲劇が脳裏を過るんですけど。ソフィアさんにキャラクター操作を使った時、解除を拒まれて無茶苦茶消耗したっていう出来事。今となっては笑い話だけれど。

 だけど念の為、一応エルフ繋がりってことで、アルタさんにもその辺り警戒しておいたほうが良いのかも知れない。

 私たちは彼女へ、偽りのスキル【憑依合身】のメリット・デメリットやタイムリミット等に関する説明をしかと行い。

 その後、明日のボス戦に備えてゆっくりと休養を取るのだった。

 いよいよ明日、【失せ物探し】がキーパーソンを見つけ出すスキルなのかどうかがハッキリする。

 それに伴い、新たな骸が出現する可能性も。

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