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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六六〇話 アルタと奇妙なPT

 Aランク冒険者アルタは、目の前の現実を上手く受け入れることが出来ないでいた。

 自身がやっとの思いで至った、石柱のダンジョン一五階層。

 そこまでの道程を、今回は驚いたことに、僅か丸一日足らずで踏破してしまったのだ。

 昨日の夕方前に潜り始めたのが、ポータルも使わずにもう一五階層。現在時刻は正午を少し過ぎた頃。

 呑気なもので、ここまでの道程をともに駆け抜けた彼女たちは、疲れた様子もなくワイワイと昼食の準備に取り掛かっているではないか。

 一体これは何なのだろうかと。何が起きているのだろうかと、アルタは静かに回想する。


 事の起こりは一昨日。


 ダンジョン攻略に行き詰まり、気分転換にとお気に入りの場所で読書に耽っていたアルタ。

 自然公園の中央に聳える、この町で一番の大樹。その根本に腰掛け、木漏れ日やそよ風を感じながら文字を追いかける。

 こうしていると、愁い事も鳴りを潜め、夕が訪れる頃には気持ちも不思議と前向きになるものだ。

 身体以上に、心を癒やす休養日。アルタにとって、よくあるお休みの過ごし方である。

 けれど、その日はいつもと違っていたのだ。


 はじめに感じたのは、視線。

 自身に向けられた何者かの視線を受けて、アルタは僅かに眉をひそめた。

 敵意こそ感じられなかったが、職業柄こうした気配には敏感であり。相手がどういうつもりにせよ、アルタにとっては寛いでいたところに水を差されたような気さえしたのだ。

 すると程なくして、視線を向けてきた当人たちが、こちらへとやってくるではないか。

 くつろぎの時間を邪魔されたくなかったアルタは、少しの罪悪感を懐きながらも、スキルを一つ発動した。【威圧】である。

 よくあるデバフ系スキルの一つで、戦闘に用いれば相手を怯ませたり、それによってミスを誘うことも出来たりと、地味ながら役に立つスキル。

 今回のような場面では、所謂『話しかけてくるなオーラ』のようなものを発揮する、ボッチ御用達の技能となっている。尤もアルタは、ボッチというわけではないけれど。しかしプライベートな時間は大事にするタイプなのである。


 しかしてところが。

 威圧を受けたはずの彼女たちは、だと言うのにそれを全く歯牙に掛けもせず。まるで変わらぬ様子で近づいてきたのだ。

 威圧の効果は、格下にこそよく効くし、同格であっても無視なんて出来ようはずもない。

 なれば必然、彼女たちの力が自身を大きく上回っているか、或いは威圧に気づかないほどの鈍感かの何れかだろうと当たりをつけるアルタ。

 勿論、十中八九前者なのだろうけれど。それにしては初めて見る顔ぶれだった。


 少し話をしてみる。

 想像以上に変な娘たちだった。格好も変。名乗りも変。それでいて同業者というのだから、気づけば彼女たちに対して興味が芽生えていた。

 特に、そう。仮面の少女。名をミコトと言うらしい。彼女には不思議と警戒心が湧いてこない。そのことが奇妙で、そのくせ嫌な感じはなく。

 思い切ってアルタは、町の案内を買って出ることにした。

 そして気づけば、自身が宿泊している宿を彼女たちに紹介していた。自分は余程彼女たちを気に入ったらしいと、高揚とも不安ともつかない感情を懐きつつ、同時に打算もあった。

 ギルドで知った彼女たちのランク。なんと、AランクとBランクのメンバーで構成された、強豪PTだったらしい。道理で威圧を無視できるわけだ。

 彼女たちと組む事が出来れば、行き詰まったダンジョン攻略も捗るかも知れない。


 石柱のダンジョン攻略は、Aランク冒険者の義務である。アルタはそう感じていた。

 この町の付近で最も強力なのが、石柱のダンジョン。これ以上放置を続けては、やがて誰の手にも負えなくなってしまう。そうなっては最悪の場合、イースリーフの町がモンスターに呑まれてしまいかねないのだ。

 だから、そうなる前に自分が攻略を果たし、破壊しなくちゃならない。

 同じ宿を勧めたのは、そうした活動への協力を要請しやすくするためでもあった。

 果たして彼女たちは、協力を請け負ってくれるだろうか。その日は柄にもなく緊張して、普段より眠りの浅かったアルタである。




 翌朝のこと。想像していたよりもあっさりと、ともに石柱のダンジョンを攻略することが決まった。


 食堂で彼女たち鏡花水月と朝食を一緒にすると、トントン拍子に話は決まり。その後大した準備もなく、ギルドに顔だけ出してダンジョンへ潜ることを告げた後、忙しなく町を後にしたアルタたち。

 今にして思えば、ダンジョンへ向かう道中からして予感はあった。

 休憩もろくに取らず、ハイペースで走り続ける体力も然ることながら、エンカウントしたモンスターを蹴散らすその手並みも尋常ではなく。

 通常早くても丸一日は掛かる移動距離を、半日で終えて石柱のダンジョンへ着いてしまったのだ。


 そして始まったダンジョン攻略。本当に驚かされたのはここからだった。

 斥候が優れているのだと述べる彼女たちだったけれど、それにしたって異様である。

 まるで最初から、次の階段の場所もトラップの位置も全て分かっていたかのように、真っ直ぐ突き進んでいくのである。駆け足で。

 アルタなんて、自身の戦い方を示すためにチラッと戦ったきり、殆どやることもなく。行ったことと言えば、皆に遅れないよう必死にマラソンを続けたくらい。

 それで、十分だった。


 そして現在。

 回想をしている間に昼食が終わり、軽い食休みを挟んで動き出した彼女たち。アルタも遅れないよう立ち上がる。

 この階層は、前回これ以上の進行を無理と判断し引き返した、アルタにとっての最高到達階層である。

 アルタの実力ならば実のところ、仲間さえいれば突破できる程度の脅威度でしかないのだけれど、さりとてその仲間がなかなか見つからない。

 前回行動をともにしたPTは強かったが、それでもここまでが限界だった。アルタの力は、イースリーフでも頭一つ飛び抜けていたのだ。

 けれど、そんな彼女でもソロでここを攻略するのは不可能に近く。

 この一五階層はアルタにとって、越え難い壁としてでんと立ち塞がっていた、忌々しき階層なのであった。


 エンカウント。

 厄介なことに、遭遇したのは三体のガーゴイル。自身の体を硬質な石に変え、あらゆる物理・魔法攻撃を撥ね退けてしまうという厄介なモンスターだ。この階層で足止めを食らう、一番の原因と言っても過言ではない。

 アルタが表情を固くする、その傍らで。いつものように、スッと流れるように戦闘態勢へ移行した鏡花水月。

 直後だった。

 強烈な物理攻撃力を有する、ココロ。彼女が一人砲弾のように飛び出したかと思えば、瞬く間に三体のガーゴイルを石化した肉体ごと粉砕してしまったではないか。

 さながら、脆い土塊でも蹴飛ばすような気軽さでもって成された蹂躙劇。彼女はヒーラーではなかったのか……?

 そして出番がなかったとやや残念がる他の面々。


 アルタはついに混乱した。



 ★



「もっ、ど、もっ、もぅ、ど……?!」


 一五階層。下り階段目指して、これまで同様元気にランニングをしていると、突然アルタさんがそんなことを言いだした。ああいや、何かを言おうとして言葉がうまく出てこない感じだろうか?

 心眼には何だか、強烈に複雑な感情が絡み合って見える。

 私たちが不思議そうに首を傾げていると、一旦口をつぐんで気を改めた彼女は、ようやっと言葉を吐き出したのだった。


「もう、いい加減にしてくれ! 一体貴女たちの常識はどうなっているんだい?!」

「? どうとは。何か可怪しいことをしているだろうか?」

「してない。階段目指して走ってるだけ」

「ですです」

『グラグラ』

「アルタさんこそどうしたんですか? 状態異常ですか?」

「あぁ……私何となく分かっちゃったよ。これが常識のズレってやつかぁ」


 過去に散々ツッコまれたからね。痛いくらいに覚えがある感覚だ。

 どうやらみんなは、地獄の特訓を経たことによりすっかり常識を失ってしまったようである。

 このダンジョン攻略だって、思い切り加減をしているにも関わらずアルタさんのこの混乱ぶりだもの。きっと常識外れだったんだろう。

 とは言え、見せちゃいけない類のスキルは使ってないし、冒険者なら普通にやるようなことをやって来ただけなんだけどな。私にもアルタさんが何故そんなことを言うのか正直良く理解できない。


「はぁ……では訊くけど。まず、その無尽蔵の体力はどうなっているんだい?」

「皆鍛えているからな! 回復系の魔法も充実しているし、このダンジョンくらい一気に駆け抜けられるはずだぞ!」

「……。なら、どうして罠や階段の場所が分かるんだい? ここまで一切迷った様子なんて無かったけど」

「うちの斥候はとってもすごいからね!」

「えっへん」

「……。コ、ココロくんはヒーラーだったよね? それがどうしてガーゴイルを粉砕できるんだい?」

「ココロは力持ちなのです! 見て下さいこの力こぶ!」

『グラグラァ』

「…………それじゃぁ、ソフィアくん。貴女はどうして、微妙に地面から足が離れているんだい? 生きた気球か何かなのかな?」

「おや、気づかれていましたか。ならばお答えしましょう。それはなんと、私が魔法少女だからです」

「……………………」


 くしゃっと何とも情けなく顔を歪め、頭を抱えるアルタさん。ああ、彼女の常識が壊れる音が、ここまで聞こえて来るようだ。

 私のへんてこスキルも、きっと皆にこういう衝撃を与えていたんだろう。反省を禁じ得ないよ。

 それでもちゃんと、駆け足だけは止めないのだから大したものである。

 あ、エンカウント。

 オルカが一瞬姿を消し、二体のガーゴイルの首を刎ねて戻ってきた。何事もなかったかのように澄まし顔。

 アルタさんは、もうリアクションすらしない。


「どうやら我々が至って常識的だということが証明されたらしいな」

「ですね。ならば一気にボスフロアまで走るのです!」

「レッツゴ」

『ガウラァ』


 ……うん。あんまりにあんまりだ。

 見かねた私は、一応念話にて当人にこっそり許可を取ると、いよいよここが明晰夢の中なのかも知れないと疑い始めたアルタさんへ、とある情報を開示することにした。


「アルタさん、実はね。うちのクラウはとある人の娘なんだよ」

「……? とある人とは……有名な人物なのかな?」

「勇者」

「!」

「クラウは勇者イクシスさんの娘さんだよ」


 明かされた真実に、いよいよ目を丸くするアルタさん。

 さりとて、そこには確かな納得の色が濃く浮かび。


「あぁ、ああそれでなのか! つまり鏡花水月とは、次世代の勇者PTなんだね!! 道理で普通じゃないわけだ!!」

「いや普通だが」

「ははっ」


 どうやら自身とクラウの物差しが、決定的に異なることを理解したらしい。クラウの冷静な訂正も軽く笑い飛ばしたのである。

 しかし『次世代の勇者PT』っていうのは、よく考えたら確かにそのとおりかも知れない。

 だってクラウはイクシスさん公認の次世代勇者だものね。それが所属するPTなら、次世代勇者PTだなんて呼ばれ方も否定できない。

 まぁ、何にしてもそれでアルタさんから、要らぬ疑いなどを向けられる心配がなくなるのなら幸いである。

 私たちは以降も、延々とダンジョンマラソンを続けるのだった。

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