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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六五九話 石柱のダンジョン

 一夜明け。

 いつものように朝の諸々を済ませて宿の部屋へと戻ってみると、そこにはやや気まずそうなオルカとソフィアさん、そして何だかくたびれた感じのすやすやミコトがあり。

 昨夜行われたであろう激しい闘いの模様が、何とはなしに想像できてしまった。

 すやすやミコトはヌイグルミじゃないんだから、取り合いとかやめて欲しいんですけど……。


 一先ずすやすやミコトをストレージに回収した私は、二人とゼノワを連れてクラウたちと合流。その後、宿の食堂へと向かった。

 すると、そこには既にアルタさんの姿があり。お茶に口をつける様一つとっても、妙に絵になるというか気品を感じさせるあの所作が、自然と他の客の目すら集めていた。

 あれぞ美エルフ。悲しくなるから、もううちのハイエルフと比べるのはやめようと心に決めた。


「やぁ、おはよう。よかったら一緒にどうかな?」


 こちらに気づいたアルタさんが、綺麗な微笑みで同席を誘ってくれた。勿論否やはなく、私たちはぞろぞろと同じテーブルについたのである。

 そうして朝の挨拶に始まり、よく眠れたかだとか、ここのお茶はオススメだとか、そんな雑談を適当に交わしつつ、やがて運ばれてきた朝食に手を付けると。

 不意にアルタさんから、「それで今日はどうするのかな?」と予定を尋ねられた。

 答えたのはクラウ。


「そうだな、ギルドで何か依頼を受けるか、若しくはダンジョンにでも向かおうと思っている」

「ほぉ、旅の疲れもあるだろうに、随分と仕事熱心なんだね」

「仕事と言うより、うちには鍛錬バカが居るからな。じっとはしていられないんだよ」

「む」


 バカは余計である。鍛錬は確かに好きだけど、へんてこスキルっていう破格の能力を持った者の義務として、私はそれに見合う実力を手に入れようって必死なのになぁ。

 すると、アルタさんの視線がこっちを向く。何気なしに私もアルタさんを見る。

 そう言えば彼女としっかり向き合ったのは、これが初かも知れない。

 いつかの周回で仲間だったかも知れない人。だからなのかは分からないけれど、何とも言えない安心感のようなものを彼女からは感じる。

 正しく、頼れるお姉さんって感じ。確かにこの人となら、PTを組むのも楽しそうだ。

 なんて印象を懐いていると、心眼が彼女の内面を読み取った。どうやら向こうも、私に対して何やら特別なものを感じ取ったらしい。


「ミコトちゃんは鍛錬バカなのかい?」

「直球! いや、バカではないから。鍛えるのが好きなだけ!」

『ギャウラ』

「ほぉ。何だかちょっぴり、ミコトちゃんの実力が気になってきたよ」


 お。これはチャンスなのでは?

 するとすかさず、口を挟んだのはソフィアさん。


「でしたら、どうでしょう。今日は我々とご一緒してみませんか?」

「ふむ……」

「ご予定がおありなのです?」


 首をかしげるココロちゃんへ、アルタさんはやや逡巡しつつも事情を説明してくれた。


「昨日少し話したけれど、僕には今攻略途中のダンジョンがあってね」

「この辺りでは一番育った、石柱のダンジョン」

「そうさ。そこへ先日まで、とあるPTと一緒に潜っていたのだけれど。しかし残念ながら、攻略は途中で切り上げざるを得なくなってしまったんだ」

「なにかトラブルが?」

「いや、なんて事はない、実力不足だよ。臨時PTも解散さ。私個人としては、もっと攻略を進めたかったのだけれど。かと言ってソロで通用するかと言われたらそれも厳しくてね」


 残念そうに肩を落とすアルタさん。

 幸い帰りはワープポータルで一瞬だったそうだ。便利なものが現れてくれたものだと笑う彼女には、少しの強がりが見えた。

 そんな彼女へ、私は問う。


「つまり、アルタさんは今一緒にダンジョンへ潜れる人を探してる、ってこと?」

「まぁ……そうだね。さらに言えば、貴女たち鏡花水月にちょっぴり期待していたりもするかな。ふふ、何だか下心がバレてしまったようで少し恥ずかしいな」


 やや頬を赤らめ、苦笑するアルタさん。

 そしてそれとは対象的に、キュピンと目を輝かせる私たち。

 これぞ渡りに船。グランリィスでは残念な結果に終わったけれど、今回は良い流れに乗れそうである。

 私たちはアイコンタクトを行うと、コクリと静かに頷き合った。


「それってつまり、良い鍛錬場所に心当たりがあるってことだよね? だったら是非もないよ!」

『グラグラァ』

「土地勘もありませんから、ついでに町の外も案内して頂けると助かります」

「! 勿論、そのくらいお安いご用さ。だけど本当に良いのかい? こんな話をしておいてなんだけど、かなり危険な場所だよ?」

「ふ、むしろ望むところだ」

「問題ない」

「ですです。それに万が一何かあっても、治療ならココロにお任せ下さい!」


 皆が乗り気を示せば、アルタさんはやや恐縮しながらも笑顔を浮かべる。

 さりとてその裏側には、どうしたって懸念や不安もあり。けれどそれも仕方のないことだ。何せ昨日出会ったばかりのPTだもの、実力の程だって知れたものではないはず。

 それでも、難関ダンジョンに誘うくらいには評価してくれているらしい。昨日ギルドで、私たちのランクが知られたことも大きいのだろうけれどね。

 冒険者ギルドに於ける一般的な最高ランクである、Aランク冒険者。それを三人も擁し、残り二人もBランク。鏡花水月は今や、文句なしの高ランクPTと言って間違いない。

 肩書だけでもそれなり以上の実力は、期待されて当然というものだろう。


 斯くして、私たち鏡花水月はアルタさんに連れられ、一旦ギルドに顔を出した後件のダンジョンへと向かうのだった。



 ★



 ダンジョンへの移動は迅速に行われた。

 訊けばアルタさんもAランクの冒険者だと言う。であればなるほど、他の人と実力に差が出てしまうのも無理からぬ事だろう。

 目的地まではそれなりに距離があるらしく、出来れば今日中に着きたいからと駆け足で行われた移動にも、難なく付いて行った私たち。

 ソフィアさんだけはズルして低空飛行をしていたけれど。しかし私たちの中では現状、ぱっと見一番非力で体力も無さそうに見える彼女が、問題なく付いてこれていることにアルタさんは安堵したようだ。


 道中では勿論エンカウントなどもあり。

 丁度いいので私たちがそれらの相手を請け負うことにした。勿論、全力を出したりなどはしない。

 今や私のみならず、他のメンバーたちも大概おかしなことになっているからね。常識の範囲内で力を振るい、バッタバッタと立ちはだかるモンスターを薙ぎ払ったわけである。

 さりとて装備からして強力だもの、どんなに加減をしたところで苦戦などというものをする筈もなく。

 戦いぶりを目の当たりにしたアルタさんは、感心を通り越して顔を引き攣らせていた。まぁ、お眼鏡にはかなったことだろう。


 そうしてかれこれ半日近くも走り続けた結果、現在時刻は午後三時を回った頃。

 途中お昼休憩なども挟みつつ、日没まで随分余裕を残しての到着となった。

 背の高い木々がチラホラと立ち並ぶ林の奥、唐突に大きく開けた空間は異様な雰囲気を漂わせており。

 否応なく目を引きつけるのは、一本の巨大な石柱である。

 幅にして三〇メートルほどはあるだろうか。高さはその三倍以上。しかも圧し折れている様子。元々はもっと長かったのだろう。

 アルタさんの話によれば、どうやらもともとこの場所にあった遺跡らしく、それでいて由来は不明。一説によると、大昔天空から突然落ちてきたとかなんとか。

 だからイースリーフには、空の上には凄まじく巨大な城が存在していて、この柱はそこから落ちてきたものなのだと信じられているのだそうな。ロマンである。


 そんな石柱は深々と地面に埋もれ、斜めに突き立っているわけだけれど。そこにはひび割れと言うには不自然な、真っ黒な大穴が開いていた。

 どうやらこれが、ダンジョンの入口らしい。マップを確認してみれば、評価は四・五つ星。なるほどかなり育っているというのは本当のようである。

 今から潜ったのでは間違いなく泊まりになるだろうけれど、まぁすやすやミコトもあることだし問題はないだろう。

 少しの休憩を挟んだ後、私たちとアルタさんは早速ダンジョンの入り口を潜ったのだった。




「おお! まさかのフィールド型ダンジョン!」


 歪なトンネルめいた穴を抜けた先に広がっていたのは、不思議な景色だった。

 先ず驚いたのは、空があること。灰色の空だ。曇っているというわけでもないのに、随分と色味が薄い。

 地面は硬い土。さりとて膝丈ほどの雑草がそこかしこで茂っていて、下手をすると足を取られるかも知れない。

 後ろを振り向けば、見覚えのある巨大な石柱。不思議の国にでも迷い込んだような気分になる。

 そして何より、何の脈絡もなくそこら中に、気まぐれのように立っている大小様々な石柱の数々。それが一種独特な空気を醸し出しており、不思議と終末世界でも目の当たりにしたかのような、奇妙な空虚さを感じさせた。

 皆もそうした景色を前に、思い思いに感嘆し、興味深げに周囲を眺めている。

 すると不意に、ココロちゃんが一際大きな声を上げ。

「あ、見て下さい。ポータルがありますよ!」

 と、出入り口たる石柱の直ぐ側に設置された、白い石碑を指差してみせたのである。


「そう言えばアルタさんは、結局何階層まで潜ったの?」

「一五階層だよ。そこまで行くと、流石に敵が強くてね……僕一人の力じゃそれ以上は無理そうだった」

「ふむ。それではどうする? アルタだけ先に一五階層で待っていても良いんだぞ?」

「セーフティーエリアで待っててもらえれば、ココロたち走っていくのです!」

『ガウガウ!』


 以前一五階層まで潜り戻ってきたというアルタさんなら、このポータルから彼女だけはそこまで一瞬で転移することが出来るはず。

 ならばクラウたちの言うとおり、先に行ってゆっくりと待っていてもらっても、私たちとしては何ら問題ない。

 けれど、それを冗談だと思った彼女は苦笑を浮かべ、「そんな寂しいことを言わないでおくれよ。迷惑でないのなら、僕も皆と一緒させてほしいな」と大人な対応を見せたのだった。

 そういうことであればと、私たちもそれを了承。とは言え、たかが四・五つ星ダンジョンにのんびり時間を掛けるのも嫌なので、加減をしながらもスピード攻略で一気に一五階層まで降りてしまおう、ということで話はまとまった。


 そして。


「ち、ちょ、なんてペースで進んでいるのさ?! もうちょっと警戒とかしないのかい? 足取りにも全然迷いがないけど?」

「大丈夫だよ、うちの斥候はとびきり優秀だからね!」

「えっへん」

「疲れましたか? なら何処かで休憩を挟みますが」

「い、いや、それは大丈夫だけど……」

「ならば行こう。ほらミコトがこんな階層では鍛錬にならんと不満そうじゃないか」

『グルガウ』

「それは一大事なのです! ミコト様のためにペースアップですよ!」

「ほ、本気で言ってるの……??」


 目を丸くするアルタさんを引き連れ、私たちは一五階層までハイペースにて一気に駆け下りたのだった。

 フィールド型は邪魔な壁とか無いから、一直線に階段を目指せてとても快適である。

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