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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六五六話 ぶらり街歩き

 食堂にて【失せ物探し】に関してあれこれと話し合っていると、そこへ戻ってきたイクシスさん。

 第一声は、「何だ、皆まだここに居たのか」というキョトンとしたもので。

 ふと時計を見たなら、軽く三〇分以上は話し込んでいたことに気づく。

 それだけ失せ物探しと言うスキルの効果に驚いた、という証左でもあるわけだけれど、それより何より。

 一度皆に目配せすると、私は先程見つけたとある可能性について、イクシスさんへと報告することにしたのだった。


「なに、私がキーパーソン?!」

「失せ物探しのスキル効果が私たちの見立通りなら、そういうことになると思う」


 スキルを発動すると、特定の人物に限って光って見える。ついでに異様な存在感も感じ、目が惹きつけられるような不思議な感覚を覚えるのだ。

 では光る人物とそうでない人物の差は何か、と考えた時、最もそれらしいと感じたのが『キーパーソンか否か』という基準だった。

 光って見えたのは、今の所ソフィアさん・レッカ・スイレンさん、そしてイクシスさんの四人だ。

 この内ソフィアさんたち三人は、既にキーパーソンであったことが判明している。現に骸も出現したし、念の為にとレッカやスイレンさんにキャラクター操作を使って確かめたりもした。

 その結果、追加の骸が出現するようなことはなかった。このことから一周回辺り一体の骸しか生じないものと予想している。


 今の所この邸宅の中でしか失せ物探しを使用していないため、確証付けるにはデータ不足も甚だしいところではあるのだけれど、しかし有力な可能性だとは感じている。

 それもこれも、今一度イクシスさんへキャラクター操作のスキルを用いてみればハッキリすることではあるのだけれど。

 というような説明をざっくりと行ったところ。

「いや、それはやめておいた方が良いだろうな」

 彼女も危険性を慮って、そのように首を横に振るのだった。

 そうして経緯を理解したイクシスさんは、一つ小さな溜め息をこぼすと、軽く天井を仰いで考えを語り始めた。


「もしも私がキーパーソンだったとするなら、きっとミコトちゃんがその周回で出会った私は……クラウを失った私なのだろうな」

「!」

「……そうか。私がミコトたちに出会ったのは、生死の境目だった。あそこで皆に出会えなければ、間違いなく私は命を落としていただろうしな」


 クラウと初めて出会ったのは、とあるダンジョンのボスフロア。

 瀕死の重傷を負い、ココロちゃんが居なければとても治療できないほどの重体だった彼女。

 なれば必然、もし私たちがあのダンジョンに、あのタイミングで潜っていなければ、クラウは助かっていなかったのだろう。

 そうすればきっと、イクシスさんのことである。クラウが消息を完全に絶ったことくらいすぐに気づくだろうし、駆けつけた時には……。


「娘を失った私がミコトちゃんとPTを組んだとするなら、どうなっただろうな。ミコトちゃんを一切戦闘に出さぬよう立ち回ったか、或いは……」

「ミコトが命を落とすことのないよう、徹底的に鍛え上げたかのどちらかだろう」

「ガウ!」

「鍛錬大好きミコトさんですからね、間違いなく後者になると思いますよ」

「それが、骸化してるとすると……」

「ひぇ、そんなの人類には太刀打ちできませんよ~!」

「流石ミコト様です!」

「やっぱり呼び出すのは危険ってことだね」

「イクシスさんだけにはキャラクター操作使わないようにしとこ」

「そう言われると、それはそれでちょっぴり寂しい気もするな……」


 イクシスさんが本当にキーパーソンであるにせよ、違うにせよ、彼女を相手に検証を行うこと自体リスクなのは間違いないようだ。

 なれば先程まで話し合っていたとおり、他の方法で失せ物探しの検証を行うべきだろう。

 本当にキーパーソンを見分けることの出来るスキルなのかどうか、それを確かめるのだ。

 私たち鏡花水月メンバーは、折を見て話を切り上げ食堂を離れると、珍しくイクシス邸正面玄関を出て、そのまま駆け足でグランリィスの街へ向かうのだった。



 ★



 時刻は午後三時も半ばを回り、お日様もそろそろ息切れを起こそうかという頃。

 私たちはグランリィスの街角にて、行き交う人の流れをまじまじと観察していた。

 とは言え、どうやら失せ物探しのスキルはシェアリングの対象外らしく。それゆえ手分けをするわけにも行かない。

 なので一緒にやってきたオルカたちは、完全にただの付き添いでしかなく。

 思えば彼女たちにとって、こんな雑な時間の使い方は久々のことだろう。一緒に居ても特にやることなんて無いだろうに、皆妙に楽しそうにしていた。

 そんな中、一人キョロキョロと視線を忙しなく動かす私へ向けて、オルカが問うてくる。


「どう? 光ってる人いる?」

「うーん……見当たらないね」

「まぁそうだろうな。いつかの周回で仲間だった相手が、そう何処にでもいるとは考え難い」

「選ばれし者、なのです!」

『グラ!』

「捜索は気の長い話になりそうですね」


 失せ物探しスキルで特定の人が光る理由を、『その人が私にとっての失せ物だから』或いは『失せ物を持っている人だから』として仮説を立てた。

 それがつまるところ、骸を出現させるための鍵となる、キーパーソンというわけだ。

 けれどクラウの言うように、そんな人物がそこら辺にチラホラいるとも考え難い。

 こうやって沢山の人を視界に収めて失せ物探しをすれば、体よく見つかったりしないだろうかと思い、街中までやって来はしたものの。

 やはりと言うべきか、見込みが甘かったらしい。キーパーソンはとてもレアな存在だということだ。

 勿論、依然として『光ってる人がキーパーソンである』という説自体が間違っている可能性も残っているのだけれどね。

 しかしもし間違っているのなら、いよいよ光って見える人が何なのか、検討もつかないというのが正直なところである。


「取り敢えず、冒険者ギルドにでも行ってみませんか?」

「確かに、PTを組むなら冒険者」

「必ずしもいつかのミコト様が、冒険者として生きたとも限りませんよ?」

「とは言え、こうして雑に探すよりかは良いのではないか?」

「だね。それじゃ移動しようか」

『ガウー』


 白の街並みをのんびりと歩き、すれ違う雑多な人たちを大雑把に眺めながら進むこと暫く。

 人目を避け難い街の中っていうのは、やっぱりスキルや魔法を使った特異な移動方法っていうのも実行し難く、何だったら無闇に走ることすら他者の迷惑になりかねない。結果、移動にはそれなりに時間がかかるわけで。

 さりとて、フィールドを行くのとも、ダンジョンを進むのとも違う独特な感覚は、体感時間をぐっと短く感じさせるのだった。

 気づけばギルドの目の前。久々に来ると、やっぱりちょっと緊張する。


「依頼を受けに来たわけでもないのに、入って大丈夫なのかな……?」

「まったく、Bランクにもなって何を言ってるんですかミコトさんは」

「いえ、お気持ちはよく分かるのです。なにせ今のココロたちは子連れ。正しく女子供の集団なのです」

「ソフィア、いい加減魔法少女化は解いてって言ってるのに」

『ギャウラァ』

「もしかして私たちって、あんまり強そうには見えない集団なのか……?」


 クラウが何やら、すごく今更なことを言っているけれど、それは気にしちゃダメなやつである。

 まぁここにはシトラスさんっていう知り合いも居るし、依頼を受けなかったからって怒られたりはしないだろう。

 小さく覚悟を決め、扉を開けて中へ入る。すると、時間帯もあってか少なくない冒険者がロビーに居り、飲食スペースの席も幾らか埋まっていた。

 依頼の報告に戻ってきた人たちだろう。何だかこういう光景を目の当たりにすると、「そう言えば冒険者って、こういうんだったね……」なんて遠い目をしたくなってくる。それくらい、私たちの活動は普通とかけ離れているから。


 そんなロビーの喧騒から、聞き耳スキルが拾うのはやはりと言うべきか、例のワープポータルの話題である。

 冒険者たちは早速あれを活用して、順調にダンジョン探索を進めているようだ。正に話題で持ちきり、という印象を受ける。

 もしかするとギルド側は、ダンジョン外での依頼を受ける人が減って困っている、なんて事になってやしないか。ちょっぴり心配だ。

 アップデートを実行した者として、ついそんな事に気が行ってしまう。

 そんな私の後頭部を、ゼノワの尻尾がテンと叩く。勿論今は絡繰霊起を解除しているため、私にしか見えない状態だけれど。

 彼女に窘められ、気を取り直した私は早速ここを訪れた用件を済ませることにした。

 失せ物探しのスキルをこっそり発動し、さも人探しでもしている風を装ってギルド内を見回してみれば。

 しかし。


「むぅ……残念。やっぱり見つからないや」


 そのように結果を告げれば、仲間たちも小さく肩を落とした。

 が、元よりそう簡単に見つかるようなものでもない。と考えると、以前からキーパーソン探しというのは課題の一つとして皆に通達してはいたけれど、未だに結果が芳しくないのも已むからぬことなのだろう。

 何せ探す条件というのが、『ミコトと仲良くなれそうな人』だなんて酷く雑なものなのだから。無茶振りにもほどがある。

 って考えると、キーパーソンを探すためのスキルってものが存在するのは、ある意味当然のことだったのかも知れない。そうでなければ、見つけるのが困難すぎるもの。

 むしろそんな状態でソフィアさんたちやリリたちに出会えたのは、一つの奇跡と言えるのではないだろうか。

 ギルドの中を見回しながら、密かに私はそんなことを感じていた。


「何にせよ、パッと結果が出るのは良いことです。ここでの用は済みましたし、他を探しましょう」

「そうだな。ま、特別急ぎの用というわけでもないのだし」

「見落としの無いよう、しっかり探そう」

「ですです!」

『グラグラ!』


 そうして、受付嬢のシトラスさんに軽く挨拶をしてからさっさと引き返した私たちは、その後もグランリィスの街をブラブラしながら光る人の捜索を続行した。

 目的の人物というのは、なかなかどうしてさっぱり見つからなかったけれど、仲間たちとこういう時間を過ごすのは妙に心が穏やかになり、満たされた気分にもなる。

 それにしても、英雄ヲタクの街は歩いているだけで楽しいものだ。イクシス人形なんてグッズが普通に売られているのだから、思わず手に取ってしまうよね。

 物作りに携わる者としても、なかなかに興味深い街である。


 そんな具合に通りを歩いていると、やがて空の色もじんわりオレンジ掛かってきて。

 ぼんやりと、そろそろ帰る時間かなぁ。なんて隣を歩く見た目だけの幼女二人をチラ見しつつ考えていた。すると。

「最後にもう一度、ギルドへ足を運んでみませんか?」

 という提案が、その幼女ソフィアさんから飛び出した。理由を尋ねてみれば。

「この時間帯のギルドは出入りが激しいですからね。顔ぶれも先程とは大半が入れ替わっているはずです」

 とのこと。なるほどである。


 私たちはその提案を採用し、改めて冒険者ギルドへと足を向けたのだった。

 すると、その道すがら。

 同じ方向へ歩む人影を見て、何気なしにすっかり慣れた失せ物探しのスキルを行使した、その時だ。


「い、いた……!」


 とある女性のシルエットが、ぽわんと光を灯したのである。

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