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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六五五話 探しものは

 いつの間にやらスキル欄に追加されていた【失せ物探し】という新スキル。

 早速その効果の程を確かめてみれば、どういうわけかぽわんと淡い光を放ち始めたレッカたち。

 光は私の目にしか映っていないようだけれど、果たしてこの現象が何を示しているのか。詳しく調べるべく、一先ず彼女たちへ声を掛け、失くし物で困ってはいないかと質問してみることに。


「失くし物? 急に変なこと訊くじゃん」

「あ、私は靴下を片方何処かにやっちゃいました~」

「そういうのでいいんなら、私もお気に入りの手袋が片方だけ何処かに行ったね」

「お、おぉぅ。えらく地味な失くし物だなぁ……ん?」


 するとどうしたことか、突如視界の隅っこに可視化マーカーがポンと表示されたではないか。

 驚きマップを確認してみる。イクシス邸の中にマーカーの示す場所はあるらしく、それも二点表示があった。何れも同じ部屋を指しているようだ。

 私は不思議に思い、皆へと問いかける。

「ねぇ、今誰かマーカー立てた?」

 皆はキョトンとして、ふるふると首を左右に振る。ということは、このマーカーは自動的に現れた?

 もしかすると【失せ物探し】と連動しているのだろうか?

 だとするとこのマーカーが示しているのは……。


「みんなにもこのマーカーは見えてるよね? 多分だけど、これが示す場所にレッカとスイレンさんの失せ物があるんじゃないかなって思う」


 私の言葉に、皆は各々マップを確認し、そして真っ先に声を発したのはレッカ。

「え、これ私とスイレンが泊まってる部屋だよ」

「あ、ホントですね~」

「マーカーの位置は、ベッドの下を指してるっぽいね」

 3Dマップなので、部屋の内装までバッチリ見えてしまう。プライバシーの侵害も甚だしいが、そういうスキルなので仕方がない。

 ともかく、本当にマーカーの示す場所に失せ物が存在するのか。それを確かめるべく私たちは皆で席を立ち、二人の部屋へぞろぞろと向かうのだった。


 結果。


「うわっ、ほんとにありましたよ~!」

「私の手袋もあった! すごいね、なんで分かったの?!」


 どうやら失せ物を探し当てるスキルの力は本物らしい。

 しかも自動でマップスキルと連動する辺り、確かにへんてこスキルの一種って感じがするけど。

 それにしては何だか、効果が地味である。や、便利なのは確かだけどさ。探しものクエストとかにメチャクチャ重宝するとは思うけど。

 などと首を傾げて困惑していると、そこへイクシスさんが声を掛けてきた。

「ミコトちゃん! それなら私の失くし物も見つけてはくれないか!」

 意外なほどの食いつきである。顔を見てみれば、その目は真剣そのもので。

「そりゃ、別に構わないけど」

 と返事をするなり、あれよあれよと彼女に手を引かれ、私はイクシスさんのプライベートルームへと連行されたのだった。


 意外、と言っては何だけれど、そこはぬいぐるみなどがチラホラ飾られた、乙女趣味の垣間見える部屋だった。

 そう言えばクラウの自室もそんな感じだったっけ。流石親子、ギャップは遺伝だったらしい。

 まぁそれはともかく。イクシスさんがドタバタと部屋の棚から抱えてきたのは、上品な装飾の施された綺麗な小箱。大きさは両手で皿を作ったなら、そこに無理なく収まる程度である。

 それを彼女は大事そうに持ってくると、私へと見せたのだ。そして言う。


「この箱の鍵を探してほしいんだ。大切にしていたのだが、いつの間にか失くなっていてな……」


 どうやらその小箱には鍵が付いているらしい。となれば、サイズ的にかなり小さなものであると考えられる。

 それなら確かに、失くしてしまったとて不思議ではないけれど。イクシスさんでもそういううっかりはやらかすんだなぁ。

 なんて彼女の人間味に私が小さくほっこりしていると、後ろからひょっこり顔を出したのはクラウで。

 彼女はイクシスさんの抱える箱を見るなり、思い出したように声を上げた。


「む? 母上、それはもしや昔父上から贈られたという……」

「ああ、そうだ。私の宝物だよ。なのに鍵を失くしてしまってな……このイクシス、一生の不覚、の一つだ」

「一つって、それ一体幾つあるんだ母上……」

「生きていれば色々あるのさ」


 そんな母娘のやり取りを尻目に、「ガウ」とゼノワに催促された私は早速、失せ物探しのスキルを再度発動。

 すると途端にマーカーが出現。イクシスさんもそれに気づいたのか、急ぎマップを確認した。

「これは、コレクションルームの隠し部屋か……?」

 流石邸宅の主。パッと見ただけでマーカーの示す場所を特定したようだ。

 が、その表情には疑問が浮かんでおり。

「だが、何故そんな場所に……あ。ああああ!!」

 何か思い出したらしい。


 サッと脇に避けて道を開ければ、イクシスさんは「すまんっ」とだけ言い残してダッシュで去っていく。マーカーの示す場所へ向かったようだ。

 私たちもそれを追いかけるように、コレクションルームへと向かった。

 そうして武器がずらりと並ぶ部屋の中にて、彼女が戻るのを待つことしばらく。

 地下の隠し部屋へ続く階段を登り戻ってきたイクシスさんのその表情は、嬉しさや懐かしさや切なさの詰まった、今にも泣きそうなもので。

 心眼にてそれを直視してしまった私も、うっかりグッと来てしまうほどには大きな感情の揺れを感じ取ってしまった。

 そんな彼女の手には、どうやら小さな鍵がしっかりと握りしめられているらしい。


 その後聞かされたエピソードをざっくりとまとめると、

 件の小箱は、クラウが生まれるより前、イクシスさんが勇者PTで冒険を行っていた際、旦那さんにプレゼントしてもらったアクセサリーケースで、その中には戦闘とは関係ない装飾のための指輪やネックレスなどがしまわれていたそうな。

 そんな小箱の鍵は、どうやら隠し部屋に置いていたマジックバッグの一つから見つかったらしい。

 何故そんなところにあったのかと言えば、クラウが家出して暫くは情緒不安定だったイクシスさん。大切な思い出の小箱を心の支えにするべく、マジックバッグに入れて一緒に旅をしていたそうな。クラウを探したり、世界中を飛び回ってモンスターを倒したりっていう、今も続く彼女のお仕事のための旅だ。

 けれどクラウの家出から数年、気持ちも大分安定してきた頃、うっかり旅先で小箱が壊れたり、失くしてしまっては大変だと、ようやく思い直したイクシスさん。マジックバッグから取り出し、この邸宅の自室へ大切に飾ったのだそうな。

 そう、小箱だけをマジックバッグから取り出して。

 鍵はその際に、うっかり取り出し忘れたというわけである。失くし物の定番、『入れっぱなし』というやつだ。

 その後なんやかんやでマジックバッグは隠し部屋に収められ、鍵は何処へ行ったのかも分からぬまま、屋敷中をひっくり返す勢いで探し回っても見つからず、という人騒がせまでやらかしたらしい。使用人さんたちも大変だ。


 そんな内容を、嬉しいやら恥ずかしいやらでソワソワしながら語ってくれたイクシスさんだった。

「まぁ、お役に立てたのなら良かったよ」

「良かったな母上」

「うぅ、ありがとう、ありがどう!!」

 最後に大げさな抱擁までされてしまった。余程嬉しかったらしい。


 と、そんなちょっとしたサブクエストなどを挟みつつも。

 場所を再度食堂へと移した私たちは、検証の続きを行うことにしたのだった。

 改めて失せ物探しのスキルを発動し、のんびりお茶を啜っているレッカやスイレンさんの様子を見てみる。

「どうですかミコトさん?」

「グラ?」

「うん……光ってるね」

 結果は先程と変わらず、体からぽわぽわと謎の光を放ったままだった。ソフィアさんも当然のように光ってる。って言うかまだ魔法少女のままだし。

 さて、これは一体何を意味しているのだろうか? 仲間たちが難しい顔で意見を述べる。


「確かに失くし物を見つけ出すっていう能力は本物だった」

「ええ。ですがもしかすると、それ以外の用途があるのかも知れませんね」

「マップと勝手に連動したってことは、きっと普通のスキルではないのです!」

「母上のはともかく、レッカたちの失くし物は然程重要なものでもなさそうだったしな。失くし物の重要度で光って見える、というわけでもなさそうだ」

「グルゥ……」

「んー……あ。そうだ、みんなはどうなの? 光ってないけど失くし物ってある?」


 皆へ問いかけてみれば、PTストレージがあるから、失くし物とはすっかり無縁だという返事があり。

 他三人はともかく、ソフィアさんに失くし物がないというのは、いよいよ『光ってる人は失くし物をした人』って予想の破綻を示していた。

 と、ここで何かを思いついたらしいクラウが徐に口を開き、成程な提案を寄越してくれた。

「ならばミコト、私が幼い頃に使っていた木剣の在り処なんかは分かるだろうか?」

 問われ、直ぐにスキルが反応。失せ物探し発動中は、オートで動いてくれるらしい。

 今回も問題なくマーカーが主張を始め、マップを見てみるとどうやら倉庫を指しているようだった。クラウの思い出の品だからだろうか、捨てられずに今も保管されているらしい。

 ともあれ、これで光っていない人の失くし物でも問題なく探せることが分かった。

 となると……?


「いよいよ一部の人が光って見える理由が不明ですね」

「なにか共通点があるんじゃないか?」

「イクシス様たちの共通点……ソフィアさんを除けば、半年ほど行動を共にされてましたね」

「グラァ」

「……もしかして」


 ハッとしたように、突如顔を上げて動きを止めるオルカ。

 その様子に皆が彼女の表情を窺ったなら、オルカは驚くべき可能性を提示してきたのである。


「キーパーソン……つまり、いつかの周回でミコトが一緒に旅をしたPTメンバーだった人なのかも」


 言われ、瞬時に静まり返る食堂。

 確かにソフィアさん、レッカ、スイレンさんの三人は、いつかの周回でPTを組んだメンバーだったらしい。

 アルバムには今も、当時の出来事が記録として更新され続けているし。

 なので一瞬、納得しかけたのだけれど。

 しかし、である。


「待って……ちょっと待って。もしそれが正しいとなると……」


 その中に、とんでもない人が一人紛れてるんですけど……?

 確か以前、イクシスさんにもキャラクター操作のスキルを試したことはあった。

 けれどその時は、力の差がありすぎたようで不発に終わってしまったのだ。だから、彼女がいつかのPTメンバーである可能性は、今のところ否定できないというのが事実ではある。

 だけどもし、キャラクター操作に成功して骸を呼び出せたとしたら、きっとそれは大変なことだろう。

 だってそうだ。イクシスさんとともに活動した周回の私なんてものが、本当にあり得たというのであれば、それは一体どんな骸として顕在化するっていうんだ。

 間違いなく、怪物だろう。

 骸についてまだまだ手探りで調べていた当時、うっかり戦いにでもなっていたなら、きっと私は今ここに居ないに違いない。

 もしかしたら、イクシスさんですら……。


 当のイクシスさんは今、自室でアクセサリーケースとの旧交を温めている最中であるわけだけれど。

 そんな彼女へ向けて、私たちはまさかという思いを馳せたのだった。

 この予想が当たっているにせよ、見当外れにせよ、彼女に再度キャラクター操作を使用して検証を行う、というのはやめておいたほうが良いだろう。

 何せ呼び出される骸は、間違いなくイクシスさんのもとで何年も何年も腕を磨いた私の成れの果てってことになるのだから。

 万が一本当にそんなものが出現しようものなら、きっと今の私の手には負えない。


 失せ物探しのスキルが齎したのは、そんな驚くべき可能性だったのである。

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[気になる点] イクシスママ妖精さんのおもちゃ屋さんでもらったぬいぐるみ見つけなくてよいのかしら。 これだけ肩入れしてくれてるイクシスママならキーパーソンの可能性は高そうやなぁ。おばぁちゃんやサラさ…
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