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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六五三話 鍵のページ

 今後もキーオブジェクトの収集は行うのか否か。延いては、アップデートに携わっていくのか。

 イクシスさんからのそんな問いかけに対して、皆は熟考した。勿論私も。

 そんな中にあって、最初に口を開いたのはソフィアさんであり。

「私は今後も、キーオブジェクトの収集及び、モノリスの捜索を実行するべきだと考えます。何故なら、さらなるスキルの追加が見込まれるためです!」

 という、何とも彼女らしい主張を発したのである。皆からは苦笑いが起こるが、当人は至って真面目。

 それに、『さらなるスキルの追加』という点には根拠もあるようで。


「ミコトさんの持つ黒いスキルオーブは、未だアンロックされず黒いまま。目覚めの時を今か今かと待っているのですよ。スキル愛好家として、私にはそれを目覚めさせる義務が、使命があります!」

「ああ、言われてみたら確かに。黒いスキルオーブがあるってことは、アップデートでまたスキルが追加される可能性も十分考えられるか」


 私がそのように補足すれば、皆もふむと納得を覚えた様子。

 実装スキルが増えるということは、人類にとって有益なアップデートが控えている可能性を示唆することになる。

 とは言え、私たちだけの判断で世界全体に影響を及ぼすようなアップデートを、再び実行していいのかって言うと、常識的に考えて論外だろう。

 今回のアップデートはまだ、世界に影響が出るだなんていう確証もなかったため、実験のような側面もあった。それでもかなり身勝手な判断ではあったと思うけど。

 しかし次回以降は、影響の規模が分かった上でのアップデートとなる。

 幾ら勇者イクシスさん擁する私たちのチームとは言え、もしも勝手にアップデートを行ったことが知れ渡れば、流石に糾弾は免れないはずだ。

 ソフィアさんに続き口を開いた皆の意見も、結局は消極的なものばかりとなった。

 だが。


「アップデートってものを発見して、しかも現状秘匿しちゃってる以上、他の誰かがうっかり同じ道筋を辿らないよう、キーオブジェクトは出来るだけ目の届くところに置いておいたほうが良いんじゃない?」


 レッカの意見である。

 一瞬これには、一体他の誰があんな難しい試練を突破してモノリスへたどり着けるんだ、という疑問が出はしたものの。

 さりとてそうならないと断言することは、きっと誰にも出来ないだろう。特にこれからの世界には、ワープポータルなんてものが実装されたのだから。

 ダンジョン攻略が以前よりも安全に挑戦可能になった以上、これまでより力をつける者は増え、そして力ある者はより強大な実力を手にするに違いない。

 それほどまでに、ワープポータルの有用性は大きいのだ。転移スキルを常用しているこの私が言うのだから間違いない。

 そうなれば、やがてモノリスへと至る冒険者なんかが現れても不思議ではないだろう。

 流石にそんな人たちの冒険を妨害することは出来ない。なれば、アップデートの鍵であるキーオブジェクト。これを先に押さえておくというのは、私たちにこそ課せられる義務、なのかも知れない。

 それこそ、私たちのように身勝手にアップデートを実行してしまわないように。


「集めたキーオブジェクトはどうするのだ?」

「む? そうだな……。現状一番安全なのは、ミコトちゃんのストレージにでも入れておくことじゃないだろうか。厳重に管理したところで、何がどう転がって流出するとも限らない。それに、もしもいざアップデートを望む声が高まった時、簡単には動かせなくなるというのも問題だからな。であれば少なくともしばらくは、ミコトちゃんのストレージが保管には適しているように思う」

「盗まれる心配もないし、ストレージの存在を知っている人自体殆どいないものね」


 そんな具合に、取り敢えずキーオブジェクトの収集に関しては続行、と言うより今後はより力を入れていくことになった。

 ただ、モノリスの捜索については保留である。発見しさえしなければ、モノリスの在り処という情報は発生せず。誰かが勝手にアップデートを実行してしまう可能性も、その分だけ下げられるのだから。

 話がそのように進んだところで、不意にイクシスさんがこちらを見る。自然と目が合ったなら、彼女は不意に小さく肩を落とし言うのである。

「アップデートから遠ざかる方向で話を進めてはいるが、ミコトちゃんにはやはり不都合だったよな。骸の残したヒントを追ってここまでたどり着いたというのに、想像を超える事の大きさに足を止めざるを得ない有様だ。すまない……」

 確かに。アップデートから手を引くってことは、ここまで辿ってきた調査の流れをぶった切ることも同義。

 つまりは、私が一体何者なのか、という謎を追うための道筋が途切れてしまうことを意味しているのである。

 そう考えると、確かにちょっと困ったことにはなる。

 けれど。


「まぁ、私にとってもアップデートだなんて言うのは想定外だしね。個人的な謎の追求が世界を巻き込む大事になるっていうんだから、流石に我を通すわけにも行かないよ」

「むぅ、ココロは無念でなりません……!」

「ココロさん以上に私のほうが無念ですよ! あぁ、本当なら今すぐにでも全ての眠れしスキルたちを開放して差し上げたいところなのに!!」

「なにをぅ?! ココロのほうが無念ですし!! ココロ以上に無念なのはミコト様だけですしっ!!」

「ガウラ……」


 またバチバチとやり始めた二人は置いておくとして。

 私は皆の発言が途切れたのを見計らい、徐に口を開いたのである。

「ところで、皆に一つ報告があるんだけど。聞いてもらえるかな?」

 そのように切り出し、私はアルバムウィンドウを展開した。

 既に見慣れたアルバムのメニュー画面には、幾つもの項目が並んでおり。それらをタップしたり項目の決定を念じることで、次のページへと進むことが出来るわけだけれど。

 しかしそこで私は、普段はやらないスワイプ操作を行ったのである。

 すると、画面はスルッと右から左へ流れていき。そうして表示された隠しメニューには、『???』という項目が一つ。


 昨晩のことである。大いに盛り上がった魔法少女トーナメント。就寝前にそのバトルログでも見直そうかとアルバムを立ち上げ、誤操作したのが発見のきっかけとなった。

 とは言え、似たような操作ならこれまでに何度かやっているため、恐らく隠しメニューの追加は最近のことだと予想されるが、詳しいことまでは分からない。

 が、何にせよ大事なのは、『???』という如何にもな項目のその内容である。

 私はそれをポンとタップしページを表示させるなり、「先ずはこれを見てほしい」の言葉とともに、皆へとその画面を共有化したのだった。


「? ミコト、これって……?」


 隣に座るオルカが首を傾げる。皆も驚いたり不思議がったりと、概ね同じようなリアクションだ。

 そんな皆へ向けて、先ずは軽くそれを発見した経緯を伝え。

 そしていよいよ、その中身へと触れていく。


 アルバムウィンドウに表示されたのは、三つのアイコンだった。

 何れもが錠前の形をしており、何かのロックを示しているのは確かだろう。

 しかもそのうちの一つが、何と解錠されている状態で表示されていることも注目するべきポイントである。

 だが、何の説明もなくこんなものを見せられたところで、皆がキョトンとしてしまうのも当たり前のこと。

 さりとて発見の経緯と、これが正体不明の新しいページであることを告げたなら、皆の表情には一気に真剣味が宿るのだった。


「これが何時頃追加されたものなのか、そして何を切っ掛けに錠前が一つ解錠されたのか。何れもが判然としないのだけど、如何にも怪しいと思って。せっかくだからこの会議の場を借りて、みんなに意見を聞こうと思ったんだ」


 何せ『隠しメニュー』に『???』である。ゲーマーとしては、心ときめかずには居られないだろう。

 けれど同時に、万が一アップデートだなんて大げさ極まりない事態にまで再び発展しないとも限らないと思えば、不気味さだって感じてしまうわけで。

 昨日からこれについて、一人であれこれと調べたり考えてみたりしたけれど、結局詳細は不明なまま。他に隠しページが見つかるようなこともなかった。

 けれど皆と一緒に考えれば、何かの手がかりや、今後の方針を決める切っ掛けくらいは得られるんじゃないかと思い、こうして情報の共有を行ったわけである。

 すると、これに対して皆は。


「鍵があれば開けたくなる」

「これまた意味深ですね~。また変なことになったりしませんよね~……?」

「この錠前を全て解錠することで、ミコト様の情報が得られるのですね!」

「いえ、強力なスペシャルスキルの封印かも知れません。何がなんでもアンロックせねば!」

「なんで既に一つ開いてるんだろう?」

「なにか特別なアイテムを使用した、というわけではないのだよな?」

「うーん。覚えはないけどなぁ」

「グルゥ」

「となると条件か? 何かの条件を一つ満たしたから、既に鍵が一つ開いていると」


 早速皆から、様々な意見や考察が飛び出してきた。

 しかし残念ながら、その何れもが既に一人で一度思案した内容であり。なかなかこれという新しい発想は出てこなかったのである。

 するとそんな中。

「もしかして、アップデートか? アップデートを一回したから、一つ鍵が開いた。だとするなら、あと二回アップデートをすれば他二つも開放されるのでは……」

 クラウがそのように可能性を唱えたのである。皆もなるほどと耳を傾けるが、その表情は複雑だ。

 もちろん私も、その可能性は考えた。それ故に、口を開く。


「確かにその可能性もあると思う。けど、仮に一つ目の鍵がアップデートを条件にしていたとしても、残り二つもそうだとは限らないと思うんだ」

「三つの鍵には、それぞれ全く異なる解錠の条件が設定されてるってこと?」

「そういう可能性もあるって話だよ」


 私の示唆に、ますます眉根に力の入る皆。

 そんな彼女たちへ、私はさらに言葉を継いだ。

「それともう一点。そもそもの話にはなるんだけど、骸から得た『隠しコマンド』ってヒント。果たしてそれが、本当にキーオブジェクトやモノリスを指していたことなのかどうか、っていう点も疑問に思ってるんだ」

 予てよりの疑問を述べてみれば、これまた皆から唸り声が聞こえ。

 暫し会議室には、深い思考により停滞した空気が漂ったのである。

 時折ポツポツと意見が鳴るも、なかなか話は前に進まず。そんな私たちを置き去りに、マイペースに歩むのは時計の針のみ。


 けれどそれでも、意見を出し合っていれば自然と収束へ向かうもので。

 結局お昼の時間を幾らか過ぎた頃、会議はようやっと結論を得たのである。


「では今後の方針として。先ず特訓期間は、王龍の討伐を以て終了とする。活動に関しては、これまでよりも積極的なキーオブジェクト、つまりはオーパーツの収集を行うものとし、しかしモノリスの捜索は行わない。万が一発見したとしても、情報は重要機密として管理することとする」


 イクシスさんのまとめに皆が静かな頷きで応えれば、彼女は続きを口にしていく。


「次にアルバムに現れたという新たなページについてだが。これに関しては今後、様々なアプローチで解錠を試みることとする。アップデートを試すのは、恐らく最後の手段となるだろう」


 やはり、アップデートが解錠の条件である、という可能性は拭えなかった。けれど、それを試し確認することも難しい以上、先ずは他に条件っぽいことを探して実行することが優先された。当然の帰結と言えるだろう。

 だが、時間を食ったのは次である。

「そして『隠しコマンド』についてだが」

 皆もやはり、アップデートに至ったことが、イコールで隠しコマンドというヒントの指し示したゴールである、とはいまいち納得出来ていなかったようで。

 しかしそうであるならば、隠しコマンドは何を意味しているのか? という疑問にも結局答えは出なかったのである。

 なので。


「ヒントが少ないのなら、足すしか無い。ということで、今後は骸探しにも力を入れることとする」


 骸は倒れる間際に、メッセージを残してくれることがある。と言うか、これまでは必ず何か言葉を残してくれたのだ。

 ヒントとしてと言うより、それはもしかすると残留思念のようなものなのかも知れないけれど。

 いずれにせよ、それが何らかのヒントとして機能する可能性はあるのだ。であれば、集めるに越したことはない。

 それに何より、私は『思い出』を引き継ぐって決めたんだ。ならば何れにしたって骸探しは必要な事である。

 けれどそれ自体は、これまでも機会を探していたことでもあった。

 残念なことに、新たなキーパーソンは今のところ見つかっていないわけだけれど。

 それというのも、やはり情報の拡散を避けるなら消極的な動きしか出来ない、という問題がつきまとっていたわけで。

 しかしそんな私たちへ、イクシスさんはこう述べたのである。


「キミたちは強くなった。今や、何を相手にしようともキミたちを脅かせる存在などは、そうそういないものと私は確信している。無論、今後も私はミコトちゃんをはじめとした皆を支援するつもりだしな。なんならクマちゃんもついている。後ろ盾というやつだ。であるならば、多少これまでより目立つ動きをしようとも、大きな問題には成りえないはずだ。よって、今後はこれまでのように目立つことを恐れる必要はない」


 勇者イクシスによるお墨付き。これほど頼もしいものもないだろう。

 彼女の言に、不思議と心が奮い立つようだった。慢心するつもりこそ僅かもないけれど、今の私たちをどうこうできる相手という方が稀であることは間違いないと思う。


「それに幸いなことに、アップデートによってこの世界には新たなジョブやスキルが見つかっている最中だ。今ならば、多少おかしなスキルを誰かに見られたとて、新たに実装されたものとして誤魔化すことも出来るだろう。ミコトちゃんはこれまでより、格段に動きやすくなったはずだ」


 確かにそのとおりである。

 実力を得、状況も上手い具合に整っている。新たな骸を探すのに、これほど好都合なこともない。

 イクシスさんへ向けてしっかりと頷きを返したなら、彼女もコクリと応じ。


「なればその自由を活かし、次の試練へ向けての情報集めと行こう。件の鍵が全て開いた時、また何が起こるかも分からないのだからな。各々鍛錬も怠らぬように!」


 斯くして、会議はお開きとなり。

 長かった王龍リベンジにまつわるあれこれも、ようやっと一つの区切りを迎えたのである。

 そのまま皆で遅めの昼食を摂った私たちは、早速食卓にてPT別での話し合いを行い、午後の予定について打ち合わせを行ったのだった。

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