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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六四〇話 伸るか反るか

 モノリスより表示されたメッセージウィンドウ。

 それを右から左へすいっとスワイプしてみれば、何と次のページが表示されたではないか。

 モノリスの周囲を取り囲んで、変わったものはないだろうかと調べ回っていた皆が、素早く集合して変化したウィンドウへと視線を注ぐ。

 そこに書かれていた内容はと言えば。


──────

当モノリスと対となるキーオブジェクト


・王者の銀杯

──────


 私たちが求めていた情報、ズバリそのものだった。

 というか、それより何より……。


「お、おい……これ……」

「王者の銀杯、ですか。何だか心当たりのある響きですね……」

「姉さまに譲り受けたオーパーツが、正にそんな感じだった」


 皆の視線が、スッと私へ向かい。当の私はストレージ内より、それをパッと手元へ取り出したのである。

 私たちが見つけた、オーパーツと呼ばれる用途不明のアーティファクトが一つ。

 正しくは、オルカのお姉さんが寂れた骨董店から掘り出し物として購入し、それをモンスターの卵と引き換えに譲ってもらったという代物だけれど。

「すごいです! やっぱりオーパーツがキーオブジェクトだったんですね!」

「まだそうと確定したわけじゃないけど、その可能性はすごく高いよね」

「こんな偶然ってあるんですねぇ~」

 スイレンさんの言うとおり、もしもこの銀色の杯が『王者の銀杯』とやらだったとすると、なかなかに無い偶然だと言えるだろう。

 とは言え、確定でないというのもまた事実。


「ど、どうするんだミコトちゃん? 確かめてみるのか?」

「うー……ん。難しい問題だよね。確かめようとしたら、問答無用でアップデートが適用される可能性がある以上、そこは慎重になるべきだと思う」


 確認メッセージが出ると思ってポチったら、そのまま実行されてぎゃー! なんて、意外とあるのだ。通販の購入時に踏ん切りがつかない時とかさ。

 今回も、この銀色の杯が本当にモノリスと対になるキーオブジェクトなのかって確かめるため、アレコレいじっていたらアプデがきた! なんて、大分シャレにならない。

 そんな事になったなら、一体どんな事態が生じるとも予想がつかないんだから。


「っていうか、肝心のアップデートの内容について不明なのも問題なんだよね。なにか事前に情報があると良いんだけど」

「ミコト、次のページがあったりしない?」

「ん? どうだろ……」


 オルカに指摘され、私は再度ウィンドウをすいっとスワイプ。

 すると彼女の予想したとおり、またも次のページが現れたではないか。先程の焼き直しが如く、皆の視線が再びメッセージウィンドウへと突き刺さる。


──────

アップデート内容


・ダンジョンに於ける新機能の実装

・新たなジョブの実装

・新たなスキルの実装

・新たなアイテムの実装

……etc.

──────


「今すぐアップデートを実行しましょう!!」


 ソフィアさんの言である。声量がバカみたいに大きい。

 しかしまぁ、『新たなスキルの実装』だなんて一文を目の当たりにしては、彼女が居ても立っても居られないのは当たり前の話で。

 一先ずそんなスキル愛好家のソフィアさんからの一票は横に置いておくとして、皆は各々小さく唸った。

「ア、アップデートを行うと、ここに書かれたことが現実に起こるのです?!」

「むぅ、にわかには信じられんな……」

「規模はどうなんだろう? 新たなジョブやスキルの実装っていうんなら、個人レベルの話かも知れないけど。でももしかしたら世界中で起こるってこともあり得るのかな……?」

「ひぇ、ま、まっさかぁ~」

 早速意見が飛び交うが、私にしても頭を抱えたい思いである。


 だってそうだ。もしレッカの言うように、これが世界規模で起こる変化のトリガーとなるのであれば、私たちの活動がそれだけ大きな影響をこの世界に及ぼしてしまうってことになる。

 場合によっては、それで不幸になる人も出てくるかも知れないわけで。

 万が一そうであるならば、これは無責任に決めて良いような問題ではないはず。


「もっと詳細な情報はないんですか?! 具体的にどんなスキルが追加されるのか、とか!」

 鼻息荒く、自身でウィンドウを操作しにかかるソフィアさん。

 けれど残念ながら、これ以上の情報は特に無いらしく、どれだけスワイプしても、タップを試みても、詳細や他のページなども存在しなかった。

 そんな彼女が、勢いそのままに銀色の杯へ掴みかかってきては大変なので、私はそれをそっとストレージの中にしまっておく。勿論PTストレージではなく、私個人のアイテムストレージの方へ。

 そうしたなら、皆で円になって話し合いだ。緊急会議である。


「さて、困ったことになったな。一旦真偽の程は別として、皆はどう思う? アップデートとやらを実行するべきだと思うか?」


 例によってイクシスさんがそのように話を振れば、先ず口を開いたのはソフィアさん。うるさいので割愛。

 次に手を小さく上げたのはオルカで。


「アップデートの内容が、必ずしも人間にだけ都合が良いとは限らない。モンスターにも新しいスキルや、もしかするとジョブが追加されるかも」


 という、恐ろしくも鋭い意見を述べたのである。

 これには流石のソフィアさんも、思わず黙ってしまうくらいにはインパクトがあった。


「言われてみたら確かにそうだな。何せ情報が曖昧で、アップデートの実行に伴う変化があまりに未知数。やはり軽率に手を出すのは危険だろう」

「そ、そうですよ~、得体が知れなさすぎです~」

「で、でもこの機を逃せば、ここへやって来るのにまた王龍と戦う必要が出てくるかも知れませんよ?」

「いや、むしろそれで済むのなら、一度持ち帰って考えるのもありだと思う」

「ここを出たが最後、この場所へは二度と来られない、という可能性もあるのでは?」

「モノリスを調べないと対のキーオブジェクトが分からない以上、くり返し足を運ぶことは可能だと思うよ。まぁ、断言は出来ないけどね」

「何にせよ、こういうものが存在するという情報は得られた。戦果としては十分だと思う」


 確かにそうだ。私たちはそも、情報を得るべくここへやって来たんだ。

 であるならば、アップデートというものがこの世界に存在することを知れた。それだけで十分過ぎる成果であるはず。それほどの大発見なのだから。

 皆の意見としてはやはり、慎重になるべきという考えが強いように思われる。

 だが、納得しないのがソフィアさんだ。

「だったら何時ですか! 何時アップデートするんですか! 私の新スキルは何時実装されるんですかっ!!」

 などと駄々をこね始める。


「何時、か。仮にこの話を持って帰って、慎重な判断の末アップデートに踏み切るとなると、十年単位の準備期間が必要になるかも知れないな」

「!! ま、待てません!!」


 イクシスさんの見立てに、絶望するソフィアさん。

 けれど実際問題、十年単位っていうのはきっと大袈裟でもなんでも無いはずだ。

 世界にどんな影響が出るとも知れないと予め分かっているのなら、どんな影響が出ても大丈夫なように可能な限りの準備を整えなくちゃならないだろう。

 世界規模の根回しが必要になるのは当然だ。そんなの、時間がかかるのは火を見るより明らかで。

 下手をしたら、そんな得体の知れないものは永久に封印してしまえ! なんて展開に転がったって、全然不思議ではない。

 ただでさえ人類は、モンスターの脅威に頭を悩ませ続けているのだから。これ以上状況が悪化する可能性に手を出すなんてあり得ないはず。


「つまり、ここでアップデートをしなかったら、最悪の場合永遠に機会は失われるかも知れないってことか……」


 そのようにボソリと呟けば、ソフィアさんは顔を真っ青にし、皆も一層難しい表情となった。

 すると、一転して今度はじわじわと顔を赤くさせ始めたソフィアさん。握った拳はプルプルしており。


「よく考えてもみてください! 我々は試練を乗り越え、王龍を下してここに立っているのです! 思い返してみてください、王龍はドロップアイテムを落としましたか? なにか見返りをくれましたか? その見返りが、アップデートなのではないですか!?」

「!」

「そんな見返りが、人類をさらなる窮地に陥れる。果たしてそのような事が本当にあるのでしょうか? いいえ。むしろこのアップデートは、人類にとっての強い力となる! 私はそう確信しています!!」


 高らかにそう唱えるソフィアさん。迫真の演説である。

 しかし言われてみたなら、確かにそうだ。試練を乗り越え、あまつさえ鍵まで必要な宝箱の中に、厄災が詰まっているだなんてこともないだろう。

 であるならば彼女の言うことは存外、的を射た意見であると納得を覚えざるを得ない。

 それは私だけでなく、皆も同様のようだった。イクシスさんも腕組みをして考え込んでいる。

 そんな皆へ向けて、ソフィアさんは言を継ぐ。


「それに、世界にどのような影響が出るにせよ、ここに至った以上アップデートを実行したとて、それは当然の権利を行使したまでのこと。誰に咎められる謂れもないはずです!」

「なんか物言いが悪者臭いです」

「黙らっしゃい!」


 ココロちゃんのツッコミをピシャリと撥ね退けるソフィアさん。

 が、彼女の言い分にも確かに一理ある。試練を突破してここまでやって来たのは他でもない私たちだ。他の誰も、それを止めることも咎めることも出来やしない。

 しかしそう考えると何だか、恐ろしい話である。アップデートの規模がどの程度かは依然として判然としないし、そもそも真偽の程すら定かではない。

 けれどもしも、本当に世界を揺るがすような何かが起こり得るのならば、それを起こすか否かの岐路に、私たちは今立っていることになる。

 嫌でも責任ってものを感じざるを得ない。どんな理論で武装したところで、アップデートを実行したなら結局は思い悩んでしまうのだろう。それはきっと今後一生に渡って付き纏う、厄介な悩みだ。

 悪いことが起こる度、「もしもあの時アップデートなんてしなければ」とか思うに違いない。

 それを背負う覚悟もなしに、この判断は下しちゃダメなんだろう。


 うん。はっきり言って荷が重い。責任が重すぎる。

 とは言え、その逆だって考えられる。


「モンスターを相手に、人類は劣勢を強いられています。力ある者は、さりとてほんの少しのミスで命を落とし。そのくせそれに代わる戦力は安々とは育たない。反対にモンスターは幾らでもポップし、ダンジョンという大本を叩かねば力を増す一方。はっきりと言ってしまえば、ジリ貧です」

「……アップデートが、そんな現状を変え得ると?」

「もしかしたら、そんな可能性を秘めているかも知れないという話です。ここでその可能性を放棄し、将来ようやっと準備と踏ん切りをつけた人類がアップデートへ踏み切ったとして、内容を鑑みるに人類を一朝一夕で劇的に強くするものとは考え難い。新たなジョブもスキルも磨かねば真価は発揮出来ないでしょうし、アイテムも新機能とやらも、調査や普及には相応に時間がかかるでしょう」

「早いに越したことはない、か」


 ここでチャンスを蹴ることが、却って大きな後悔を招き得る。それもまた事実なんだ。

 私の転移を使えば、確かに色んな場所へ一瞬で駆けつけることが出来る。ダンジョンの攻略速度にだって自信がある。

 だけど、どうしたって人手が足りないし、救えない人だってたくさん居るだろう。

 それに今後一生人助けのために、世界中を駆けずり回ってモンスターをひたすら倒して回るのかって言えば、そんなのはちょっとゴメンである。

 もしもアップデートで人類全体の力を底上げしたり、現状をどうにか好転できるのであれば、ソフィアさんの言うとおりこの場で実行しておくに越したことはないだろう。


 っていうか、新スキルが気になるっていう理由だけで、よくもまぁそこまで考えを巡らせるものだ。

 まぁ安直に、「一度帰って考える」なんて判断に進まなくて済んだのは、ソフィアさんのファインプレイによるものだろうけれど。

 しかしその分悩んでしまう。果たして伸るか反るか、何れを選ぶべきなのだろうか。


「ふぅむ……改めて皆に問うぞ。アップデートを実行するべきか否か。皆はどう思う?」


 イクシスさんによる再度の問いかけに、私たちは……。

 ふぉっふぉっふぉ、メリクリじゃよ~。

 プレゼント? 自分で買うのじゃ。

 今年も一年頑張った自分へ、プレゼントを買い与える権利をプレゼントなのじゃ~!

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