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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六三八話 終わりと白

 結論から言えば、王龍は自らへ向けて降って来る雫を、回避した。

 イクシスさんが瞠目し、思わず全力の防御態勢を取る程の代物である。となれば無論、王龍がそれを感知し警戒しないはずもなく。

 奴は上半身を派手に凍結させられ、オルカによる厳重な拘束を受けて尚、どうにかこうにか身をよじってその一雫を避けてみせたのである。

 だというのに。


 ぴちょんと、水平に落下したその雫は、何かにぶつかって砕けた。

 いや、何もない空間にぶつかって、砕けたのである。


 不可解な現象。

 解説してくれたのは、それを成したソフィアさん当人で。

『避けても無駄です。終わりの雫は、因果を辿る』

 などと、意味の分からないことを言い。

 さりとて事実として、王龍がつい今しがたまで居たその場所にて跳ねた雫は、正しくその効果を発揮したのである。


 王龍の身体が、影帯の内側でポロリと崩れ落ちたのだ。


 線香の灰の如く力なく、氷結してなお凄まじかった威圧感すら嘘のように消え去り。

 影帯の中から、黒い塵だけがドサリと床に落ち、舞い上がったのである。

 何がどうしてそうなったのか、なんて理解するべくもない。何故ならソフィアさんの魔術は、難解に過ぎるのだから。

 だから私たちが納得するには、起こった事実を認める他無かったんだ。


 王龍は【終わりの雫】により、強制的に黒い塵へ変えられてしまったのだ、と。


 そして。

 そこには隠しフロアを消滅させる程の衝撃も、網膜を焼き尽くさんばかりの眩しさも、鼓膜どころか脳を殴りつけるような爆音も、何もなく。

 ただ静かに、静謐の中にて成され、終わったのである。


 そう、終わったのだ。


『……え……お、おわり……?』


 急ぎ皆をイクシスさんの後ろに一斉テレポートで集め、クラウとイクシスさんによる最強無敵の盾へ身を隠しながら、そっとそのように念話をつぶやいてみれば。

 皆も同じようにおっかなびっくり、現状の確認を開始する。

 当然、説明を求める声が集中したのは、フィニッシャーを務めたソフィアさん。

 対する回答はシンプルなもので。

『ええ、終わったと思います。あの魔術を受けて存在を保てるような生き物など、それこそ存在しないはずですから』


 そのように語る彼女の顔色は悪く、どうやらMPの全てを込めた術だったらしい。

 急ぎストレージからMP回復薬を取り出し、グビグビと嚥下している。

 その間にも、奴が復活したり、さらなる形態変化を起こすような気配もなく。

 恐る恐るオルカが影やマフラーを引っ込めてみたなら、そこにはやはりと言うべきか、王龍の姿など存在していなかったのである。

 が。


「! ドロップが始まるみたいだよ!」


 レッカが逸早く述べた通り、ギュルギュルと黒い塵が玉座の元へと集い、何かの形を成そうとしているのである。

 それはさながら、ジャイアントキリングを成した際の現象に近いもので、通常のアイテムドロップとは異なる特別な演出のように思えた。

 尤も、あれ程の強敵である。常ならぬドロップが生じたとて、それを不思議になどは誰も思うまい。

 そしてドロップが生じたということは、要するに。


「本当に、勝った……ということなのです……?」

「と見せかけてドーン! とか無いだろうな?」

「グル……」


 流石に警戒心の強い皆。ゼノワも含めて、まだ緊張の糸を緩めやしない。スイレンさんも演奏を止めないままだ。

 けれど否応なく、ドロップへと意識が吸い寄せられるのも冒険者の性というもので。ましてあの王龍が何をドロップするのだろうかと気にならない者など、居ないはずがないのだ。

 ドロップは気になる。でも気を抜くのが恐ろしい。

 そんなジレンマを皆が抱える中、私は第三形態への変身を遂げた灰色のオルカ、通称ハイパーオルカへと問うた。


「オルカ、どう思う?」

「うん……私の感知に奴の気配は引っかからない。問題ないと思う」


 鏡花水月にとって、彼女の太鼓判ほど安心できるものはない。何せ自慢の斥候役である。

 オルカの返答に、一気に緊張を解く私たち鏡花水月メンバー。

 するとやや遅れて、逡巡しつつもレッカたちが肩の力を抜いた。変身も個々に解除していく。

 何とも言えない表情をしていたのはイクシスさんだ。何せ血相を変えて神気顕纏まで発動したのが、とんだ肩透かしに終わったのだ。無理からぬ事だろう。

 ともあれ、そのようにしてようやっとスイレンさんの演奏も鳴り止んだ頃。

 普段のドロップ現象などよりも余程時間をたっぷりと掛けて続いたそれが、ついに一つの形を成したのである。


 皆の期待が注がれる中、視線の先にて顕現せしめたそれは。

 さりとてどうやら、私たちの思う『ドロップアイテム』とはいささか以上に趣が異なっているようで。


「あれは、何なんでしょう~……?」

「ミコトさんのスペースゲートに似ていますが、だとすると何処に通じているのでしょうか?」


 スイレンさんとソフィアさんが首を傾げたとおり、玉座の前に現れたるはアイテムと言うより、現象と呼ぶべきものだった。

 形状で言えば、扉。いや、扉の嵌っていない入り口だろうか。正に私のスペースゲートと似たようなものである。

 そのくせ、ゲートの向こうに見える景色は白一色。

 雪の降る銀世界を比喩したような言葉などではなく、正しい意味での白なのだ。

 困惑し、顔を見合わせた私たちは一先ず、意見を交換することにする。


「あれを潜って向こうに行け、ってことかな?」

「何だか、得体が知れない……」

「結局王様は、深淵とやらについて何も語らず消えちゃいましたね」

「私は悪くありませんよ。役割を全うしたに過ぎません」

「あの向こうに、何かしらの情報があるのだろうな」


 鏡花水月がそのように考えを述べれば、次いでレッカたちも口を開く。


「何にせよ行ってみるべきじゃない? 流石に罠ってこともないだろうし」

「折角王龍を倒したのに、ここで帰ったのでは骨折り損ですよ~……ああでも、見てくださいー! 降りるための階段が復活してますー!」


 促され背後を振り返ってみれば、確かに私たちが上ってきた階段が出現しているではないか。

 このフロアに上がってきた時に姿を消した、一方通行と思われた階段である。

 密室型のボス部屋同様、フロアの主を倒したことにより帰り道が現れたということなのだろう。

 であるならば、あのゲートを調べること無く帰ることも、可能ではあるってことだ。

 それらを踏まえた上で、最後に考えを述べたのはイクシスさん。


「王龍は、深淵を求めるならば力を示せと言った。それに応えてみせた以上、やはりあの先にあるものこそが『深淵』に関わる何かなのだろう。何時まで存在するかも分からないゲートだ、行くのであれば決断は早いほうが良いだろうな。無論、用心するに越したことはないだろうが」


 イクシスさんの言に、一先ず私たちは各々消費したMPを補うべく回復薬を服用した。

 変身に伴い、身体に反動が来ているメンバーもチラホラある。MPが回復したとて、再度の全力戦闘は難しいだろう。

 けれどもしも再び戦闘になったとて、次はイクシスさんが大張り切りで活躍してくれるはずである。よって戦力的不安はそれほど重大ではない。

 ならば、ゲートの向こうへ踏み入れるのも、選択肢としては十分にありだと思う。

 何よりここで帰ったのでは、何のために態々ここまで再度足を運んだのか、という話である。


「……私は、進んでみたい。万が一そこに、私に関わる情報があるとするなら、確かめないわけには行かないもの」

「なら、私も行く」

「ココロもです!」

「嫁が行くというのであれば!」

「お前ら単純だな……私にも異存はないが」


 あっさりと私の意向に賛同してくれる鏡花水月メンバー。

 するとレッカたちも、ここで帰るつもりは無いようで。

「私も行くよ」

「ここで帰っては吟遊詩人の名折れです~」

「安心しろ、万が一何かあっても、次こそ私が皆を護ってみせる!」

 という頼もしい言葉とともに、同意を表明。


 小さく頷き合った私たちは、警戒しながらも玉座の前へと足を運び。

 そうして恐る恐る空間を引っこ抜いたような、そのゲートを観察したのである。

 近づいてみても、やはりスペースゲートとよく似た感じがする。

 であれば問題は、その奥だ。そっと覗いてみれば、何処から何処までが地面で壁で天井かも分からない、真っ白な空間が広がっているではないか。

 遠近感も何も定かではなく、広いのか狭いのかすら分からない。

 しかしそんな不思議な景色を前に、私の懐いた感想はと言えば。


(し、『白い空間』だ! みんな大好き白い空間じゃないか!!)


 漫画やアニメ、ラノベなどで時折登場する不思議な空間。

 死後の世界だったり、夢の中だったり、精神世界としても描かれたりする、ザ・不思議空間!

 それが今、目の前に広がっているのだ。トキメキと好奇心が急上昇である。


 それに、そんな白の世界にただ一点。

 よく見てみたなら、黒い何かがぽつんと置かれているじゃないか。

 遠視スキルにて目を凝らしてみると、それが大きな黒い板状の何かであることが分かる。まるで墓標や石碑、或いは巨大なドミノか。

 所謂『モノリス』というやつだろう。


 王龍との激戦を思えば、この先に再び何か恐ろしいものが待ち構えていないとも限らない。

 そう考えると恐くもあり、しかし同時に強く好奇心も刺激され。

 私たちは最後に一つ目配せし合うと、おっかなびっくりその真っ白な空間へ、足を踏み入れたのである。

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