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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六三四話 雪辱戦

 広大にすぎる玉座の間に、ただ一つ。

 ぽつんと据えられた王の腰掛けは、ともすれば滑稽ですらあった。

 私の脳裏などには、無駄に広いトイレの個室などがイメージとして横切るけれど。

 さりとてこの王を前にすればそんなシュールな光景も、どこへなりと吹き飛ばされてしまう。


 荘厳にして厳粛。

 仮にこの場で巫山戯てみせたとて、誰に叱られたり咎められたりするわけでも無し。

 にも関わらず、背筋の伸びるこの雰囲気はなんだ。

 これから戦闘に入ると分かっているからこその緊張感故か、はたまたこの王の威圧感がそうさせるのか。


 しかし何にせよ、ここで気後れするわけには行かなかった。

 それにまんざら虚勢というわけでもない。

 少なくとも以前相対した時よりかは、幾分心に余裕もあり。

 私は皆の中から数歩前に踏み出すと、代表して口を開いたのである。


「ごきげんよう」

「…………」


 相変わらず、キーワード以外には反応を示さないNPCめいた王様である。

 いっそ顔にラクガキでもして反応を確かめてやろうかという、悪戯心と言うか、好奇心が疼きかけるも我慢我慢。

 私は意を決し、その言葉を口にしたのである。


「キーオブジェクトについて、教えてもらいに来たよ」


 ギョロリと、反応は顕著。力強い瞳が私を捉え、巌のように硬い口がようやっとゆっくり開かれた。

 だが、何を言うのかは分かってる。

「汝が求むるは」

 だから私は、被せるように言うのだ。


「私たちは深淵を求める!」


 ピタリと止んだ王様の声。

 どうやら、決められた音声を吐き出すだけの存在、というわけではないらしい。

 それか若しくは、台詞の途中でボタンを押して、無理やりカットしたような扱いになったのか。

 彼が本当にNPC的な存在だとするのなら、それもまた有り得そうなことである。

 そして王様は、そんな私の眉唾めいた想像を裏付けるように、以前聞いた言葉とまるで同じそれを厳かに吐いたのである。


「ならば力を示せ」


 直後、玉座よりゆるりと腰を上げ、王龍へと変貌を始める王様。

 弾かれたように飛び退き、一斉に戦闘態勢を整える私たちである。

 目前にてみるみるうちに、さながら巨大怪獣が如き恐ろしい龍の姿へと成り変わる。

 無論そこへ、不躾にちょっかいを掛ける私である。

 隔離障壁にて奴を箱に閉じ込め、自滅を誘ってみるも。さりとて障壁を破り王龍へと変わり果てる王様。


 以前はただただとんでもないパワー故かと恐れ慄いたものだけれど、しかし違う。

 よくよく注視してみれば、何やら干渉を妨害するような力が働いているように見えるではないか。

 変身の妨害を阻止するための、未知のスキルか何かだろうか?

 何にせよ、無作法は通じないらしい。

 念話にて皆へ、そうした情報を素早く共有。

『なんですかそれは! ミコトさん是非真似してみてください!』

 と、お約束の反応がソフィアさんより返るが、それには『余裕があったらね』の定型句で答えておく。

 そうして。


『さぁ、皆準備はいいな。戦闘開始だ!』


 クラウの力強い念話が飛び、皆の心に薪が焚べられた。

 しかして、始まりを告げる音色は熱さに反する穏やかなもの。

 スイレンさんが鳴らした旋律は、姿も気配も痕跡も、全てを覆い隠す深い霧が如き神秘の楽曲だった。

これにより私たちの姿は景色の一部へと溶け込み、王龍の認識からも綺麗に外れたようだ。

 無機質な奴の感情からも、幾らかの怪訝さは伝わってきており。さりとて驚くでもなく、すぐさまあらゆる手段を用いて探りを入れてくる辺り、何とも機械めいた淀みない対応に思える。

 しかしそれでも、スイレンさんの演奏は私たちを見事に隠し、奴の探知を欺いてみせたのである。


 だが、それならそれで構わないとでも言いたげに、奴は方針をあっさりと切り替え。

 乱暴に放ったのは、人の背などより遥かに幅のある大樹が如き尻尾の薙ぎ払いだ。

 ぶんと払ったなら、それだけでお手軽な広範囲攻撃となる。

 以前の私たちでは、そのあまりの速度に反応どころか目で捉えることすら困難だった、威力も速さもデタラメな一撃。

 が、しかし。


『任せろ!』


 先陣を切ったのは、クラウ。

 瞬く間の出来事である。

 大気を叩き割ったかのような轟音とともに、大きく撥ね飛ばされたのは果たして、奴の尾の方であった。


『クラウ!』

『問題ない、ノーダメージだ!』

『なら一気に突っ込むよ! スイレン!』

『心得てますよ~!』


 ジャカジャン! と、神秘的な曲から一気に曲調は変わり、熱い戦闘用BGMが全員のステータスを劇的に引き上げた。

 思い起こされるのは仮面ボウケンシャーとの戦闘。レッカはこんなにも強力な支援を受けていたんだと思うと、「ズルい!」と文句の一つも言いたくなるところだけれど、しかしそれが今は私を含めた皆に力を与えている。

 事前に掛けた諸々のバフも相まって、皆の戦闘力は平常時の数倍にまで上がっているはずである。無論、それらのデータは事前検証が済んでいるため、折り紙付きだ。

 その代わり、曲の変更に伴って私たちの隠れ蓑も消え失せた。

 が、問題ない。作戦通りである。


 姿を隠して初撃を誘い、クラウの防御スキルによって逆に奴の体勢を崩す。今ここ。

 そして生じた隙につけ込み、火力を叩き込む!

『ミコト!』

『おk』

 レッカの声に応え、真っ赤な焔を愛剣に纏わせた彼女を、ストレージ転移にて王龍の眼前へと移動させた。

 そうさ眼前も眼前、奴の巨大すぎる右目のその真ん前にだ。


 前回レッカが、自ら大火傷を負ってまで焼いたのが、奴のその右目であった。

 けれどそれがどうだ、今はその名残すらなく綺麗に元通りになっているじゃないか。

 それは果たして奴が超回復系の能力を有しているからか、はたまた塔の休眠に伴いリセットされたのか。

 いずれにせよ。


『再会の挨拶なら、これ以上のものはないよね!』


 奴が爬虫類式の瞬きを行うよりも早く、突き出された紅蓮の愛剣は深々と眼球へ突き刺さり。

 そして。

「だぁあああああああ!!」

 裂帛の気合とともに、剣を伝って膨大な熱量が王龍の瞳へ注がれた。

 かと思えば引き際も鮮やかで。奴のリアクションに巻き込まれるより僅かに早く、彼女は自らをPTストレージへとしまい込み。

 直後に私が、それを安全圏へと取り出した。

 ストレージを駆使した疑似転移は、私たちのチームワークに於いて非常に有用かつ、強力な攻防一体の技として用いられる。

 無論、この日のためにたくさん特訓も重ねたさ。


 レッカの焔は消えることを知らない。

 一度焼かれたが最後、彼女を無力化するまで延々と燃え続ける、厄介極まりない根性のある焔だ。

 流石の王龍もこれには声を上げて仰け反った。

 心眼で見る限り、何とも奇妙な様だ。何せ、そこには感情が乗っていないのだ。

 痛みという脳の発する警鐘に従い、否応なく生じた反応がそこにあるだけ。

 奴の思考は冷静そのものだ。非常に読み難い平坦。真っ平ら。前回も思ったけれど、やはり心眼と相性の悪い相手である。

 だが。


『ココロ、行きますっ!!』


 痛みに仰け反った奴の頬を、巨大な拳が恐ろしい勢いでぶん殴った。

 そう、巨大化したココロちゃんである。

 巨大化は消耗が激しいため、ほんの一瞬大きくなってぶん殴るという手段を取るココロちゃん。

 敵が大きければ大きいほど、効果的に機能するこの戦法。バカデカい王龍相手にはピッタリであった。


 これには否応なく、大きく吹き飛ばされる王龍。

 予め皆へ施していた、一定以上の音量を遮る遮音の魔法が役立った。

 ビリビリと肌を叩くほどの空気の振動。そして衝撃。

 まともに浴びていたら、それだけで戦闘に大きな支障をきたしていたかも知れない。少なくとも鼓膜は簡単に破壊されていただろう。


 そうして、そのあまりに巨大な身体を大きく後退させた王龍へ向けて、これ見よがしに追撃が叩き込まれる。

 ソフィアさんによる魔術矢だ。

 強かに引かれた弦は弾かれ、飛び出した矢は宙に描かれた魔法陣を潜り抜け、一条の光となって王龍のその身に風穴を開けた。

 間違いなく、与えたダメージは小さくない。


 確かな手応えがある。喜びもある。

 けれど誰一人として浮つきはしない。

 リベンジマッチはまだまだ、始まったばかりなのだ。

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