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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六三二話 フッ軽攻略

 百王の塔。一〇〇階層からなる、特殊ダンジョンである。

 見慣れたと言うほど通い詰めたわけではないけれど、それでもある程度馴染みを感じるそこには、正直なところ攻略に当たって幾つかの懸念があり。


 先ず、私たちが王龍から逃げ帰ってしばらくし、百王の塔が休眠期に入ったというニュースがあった。

 これは百王の塔の攻略が成された際に起こる現象で、過去に何度も確認されていた。

 しかしながら今回は、それがどうやら普段より長かったらしい。

 通常一月もあれば何事もなかったかのように、挑戦者を受け付けるようになる百王の塔。

 それが今回は、復活までに三ヶ月も掛かったというのだ。十中八九『もう一つの百王の塔』を一〇〇階層まで攻略したことが原因と考えられる。


 そして懸念というのは、この休眠に伴い百王の塔に変化があったのではないか、というものだった。

 例えばもう一つの百王の塔に入るための、合言葉。延いてはそれが隠してある場所が変わっていたりはしないか、と言った仕様変更を私たちは心配していたのだけれど。

 しかし幸いなことに、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

 試しに飛行のスキルにてひとっ飛びし、塔の天辺を見に行ってみると、彫り込まれた合言葉を発見。その内容も以前と変わらず『真なる王への謁見を求む』というものだった。


 予想通り、皆でダンジョン入り口の魔法陣へと合言葉を唱えたなら、魔法陣は赤色へと変わり。

 斯くして私たちは約半年ぶりに、もう一つの百王の塔へと足を踏み入れたのである。


 余談にはなるけれど、百王の塔は人気スポットだ。

 チラホラと冒険者の姿や、見物しにきた人なんかを見かけることも珍しくないため、塔の天辺を見に行くのにも気疲れしたし、合言葉を唱えるのだってコソコソっとしたものだった。

 ただでさえイクシスさんが一緒なんだもの、ボケっとしていたら目立って仕方がないのだ。

 攻略はこれからだっていうのに、余計な苦労をしたものである。



 攻略が始まってみれば、まぁテキパキとしたものだった。

 一〇階層おきに隠されているヒントと、それに準じたフロアボスの攻略というのも、以前と特に内容が変わっているわけでもなく。

 安堵しつつも、前回とは比べ物にならない速度で攻略を続け。

 戦力と数と勢いに任せて、私たちはテンション高く延々と塔を駆け上ったのだった。



 そんなこんなで夜もやがて九時を回ろうという頃。

 流石に幾らかの疲れを感じながら、イクシス邸転移室へ戻ってきた私たちである。

 驚くべきは誰もへばっていないことだが、それ以上に驚くべきはやはり、結局今日中に一〇〇階層まで駆け登ってしまったことだろう。

 勿論一〇〇階層のボスも仕留めてきた。

 しかしまぁ、流石に王龍もその調子で一気に! とはならず。

 一〇一階層へ続く階段の出現を確認した私たちは、特典部屋をワイワイと皆で貪るように漁り尽くし、ホクホク顔で戻ってきたわけである。

 とんだダンジョン荒らしだ。それだけ強くなったのだ、と考えると感慨深くもあるけれど、まぁ、うん。慢心だけはしないよう気をつけなくては。


「明日は作戦会議兼休養日とし、王龍との決戦は明後日とする。異論はないか?」


 イクシスさんの確認に、一応「また塔が休眠期に入るのでは?」という懸念が挙がったが、前回は休眠までに一週間ほどの猶予があったらしい。

 なのでその点は心配ないだろうという判断である。

 そんなわけで、他にはこれと言った異論も出ず。


「明後日は特訓の集大成を披露することになるだろう。皆しっかりと体を休め、英気を養い、当日に備えてくれ! あと、明日の会議もすっぽかさぬようにな!」


 そうしてその日は解散となったのだった。

 まぁ解散とは言っても、私以外みんなこの邸宅で寝泊まりしてるんだけどね。



 ★



 翌日。

 予定通り朝食後、欠員もなく会議室へ集合した鏡花水月とレッカたち。イクシスさんもいつもどおり、皆の前で司会ぶりを発揮していた。


「今日は先ず、そもそも『王龍とは何か?』について話し合っていきたいと思う」


 そのように提示された議題。

 差し当たって最初に、イクシスさんが大まかな知識を披露してくれた。


 曰く。

 王龍とは、龍の中にあって図抜けた力を持つ、進化個体のことであると。

 そも『龍』からして、特級の中でも上位の力を持つドラゴンの総称であり、その中で尚顕著な力を見せる彼らは、特級モンスターの中でも最強クラス。

 マップスキルの星で言えば、赤の五つ星は間違いないだろうという話だった。

 それこそ、厄災級に匹敵するような個体すら存在すると。


「ちなみに、イクシスさんは王龍と戦ったことってあるの?」

「ああ、あるぞ。PTでだがな……メチャクチャ苦戦したのを今でもよく覚えている」

「勇者イクシスの英雄譚でも人気のあるエピソードですよー。私もよく歌ったものです~」

「ほえー」


 吟遊詩人のスイレンさんが、これ見よがしに補足を入れてくる。

 流石専門分野だけあって、面白い角度からの情報である。っていうか相変わらずなかなかイクシスさんの冒険譚の全容に触れる機会のない私だ。まぁ鍛錬を優先した結果なので已む無し。暇ができたら調べてみるとしよう……暇ができたらね。

 しかし勇者PTがメチャクチャ苦戦するってレベルの力を有するのか、王龍というのは。

 そりゃ実際対峙したため、納得も覚えるのだけれど。我が事ながら、そんなのと戦ってよく生きていたものである。


 なんて今更肝を冷やしていると、そこでふとイクシスさんが一旦言葉を止めて真剣な表情を作る。

 空気の変化を察してか、皆の顔が僅かに強張る中、彼女は言うのだ。


「王龍と対峙した経験のある身から言わせてもらうと、やはり一〇一階層の王龍は普通の個体ではないように思う」


 そも、ダンジョンの奥にどんなモンスターが居るか、なんていうのは確かめてみないと分からないことで。

 その点は言ってしまえば、どのダンジョンにどんなボスが居たとしても、別段不思議なことはない。

 強いて言えば、ダンジョンボスはダンジョン内に出現するモンスターと近い種類の、上位のモンスターであることが多くはあるけれど、それも絶対ということはなく。

 まして特殊ダンジョンなら、どこの階層に何が出てもそれこそ不思議ではないらしい。

 であるならば、一〇一階層という特別な階層に、特別強いモンスターが配置されていようと、それは然程おかしなことではないように思う。


 けれどそれは、通常のボスであれば、という前提での話。

 百王の塔にて真なる王として待ち構えていた王龍は、とても通常のダンジョンボスとは思えない振る舞いをしていた。

 声を掛けるまでは戦闘が生じることもなかったし、そもそも人の姿をして言葉まで交わせた。

 イクシスさんが言うには、王龍ほどのモンスターなら、人の姿に化けること自体は造作もなく、人語を操ることも容易いだろうという話。

 しかしだからこそ、NPCの如き無機質さが解せない。


 脳裏に過るのは、以前出会った黒鬼のこと。

 鬼は大昔、人とモンスターの中間のような存在だったらしい。だからこそダンジョンボスとして対峙した彼が、人のように喋ったことには納得がいく。

 それで言うと、人ではない王龍が何故人語を操れるのかと考えると、これまた解せない話ではあるのだけれど。きっとそこには何か理由があるんだろう。

 何にせよあの王龍は人語を発した。きっとやろうと思えば会話だって出来るんじゃないだろうか。

 にもかかわらず、散々私たちがフロアをウロウロするのを黙して待っていた王龍である。それっていうのは、やっぱりおかしな事なんじゃないだろうか。

 さらに黒鬼は、モンスターには人間に対する強烈な攻撃衝動があるのだと言っていた。

 同じ空間内に居た私たちへ向けて、理由もなくそれを抑え込み、話しかけられるまで動かずじっとしているだなんて。たとえ王龍という他と道理の異なる存在だとて、やっぱり尋常なこととは考え難い。


 あとは、そう。

 どういう仕組みかは分からないけれど、あの王龍は一〇一階層のボスとして生み出された、或いは呼び出された存在なのだろう。

 けれどそうだとして、まるで番人が如きあの受け答えは何だったのか。

 何者かにそうするよう命じられ、任じられた? 或いは攻撃衝動すら調整されていたりとか……。

 何にせよ、きっと普通の個体では有り得ない。

 イクシスさんの言うように、やはり奴は通常の王龍とは異なる存在なのだろう。



 ──と、言うような内容を皆と交わした。

 すると必然、ただでさえ謎だらけのダンジョン、それももう一つの百王の塔。そこに不可解な謎が一個追加されたことになり。

 皆は揃って口を一文字に結ぶと、重たい息をついたのである。


「そもそも私たちは冒険者。その道の研究者じゃない」

 とはオルカの言。全くその通りである。

 これにはココロちゃんが便乗し、

「ですです、そのとおりです! 考えたって仕方がありませんよ!」

 潔く思考放棄宣言である。

 それで良いのかとは思う。けれど、答えの出ない謎に立ち往生すれば、時間だけが無為に過ぎていく。そんな暇があるなら、鍛錬に勤しんだほうが何倍だって有意義だとは私も思うので、一切異議なしだ。


 すると、口を開いたのはソフィアさん。

「では少し視点を変えましょう。彼の王龍は『深淵』がどうとか言っていましたが、結局アレはどういう意味なのでしょう?」

 そう。王龍は、深淵を求めるならば力を示せと、そのように言って突然襲いかかってきたのだ。

 それこそが奴を『番人』と思わせた一番の要因であり、これまた不可解な謎であった。


「奴ほどの強者が守護する何かが、あの場所には存在するのだろう。であれば当然、ただ珍しいアイテムということもなさそうだが」

「アイテムではないとすると、一体何なんですか~?」

「うーん……何か重大な『秘密』とか?」


 レッカの言に、ざわめく会議室。

 秘密とはまた、心躍る単語ではないか。同時に幾らかの不安も覚える、蠱惑的な響きだ。

 それに『深淵』という言葉との親和性も高いように思える。

 だが、もしそうなら一体どんな秘密が隠されているっていうのか。

 もしかするとそれは、私というへんてこな存在と何か関係があったりしないだろうか?


 ザワザワと様々な憶測が飛び交う会議室。

 さりとて結局の所、それらは憶測の域を出ることはなく。

 そうこうしてしばらく話し合った後、ともかく王龍は通常の個体よりもなお強力な可能性があるとし、一層の警戒を持って当たるようにという注意喚起に着地したのだった。


 そこからは、明日の決戦に備えた具体的な攻略方法についての話し合いがなされ。

 会議はなかなかどうして、白熱していったのである。

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