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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六三〇話 決勝戦決着?

 モザイク無しにはとても見れないような、オルカの断たれた下半身。

 ミコトは感情を殺し、無言でそこへ手を伸ばした。

 が、その時である。


 自動回避のスキルが発動し、ミコトの身体をその場から大きく飛び退かせた。

 何事かと視線を走らせれば、彼女へ向けて飛翔する物体があるではないか。

 光を反射するでもなく、静かに回転しながら迫る漆黒のそれに、ミコトは見覚えがあった。

 手裏剣である。

 以前屋敷のダンジョンにてオルカが入手した、大変厄介な代物だ。


 何せこの手裏剣、オルカの持つ黒苦無同様に増殖するばかりか、独自の特殊能力として尋常ならざる追尾性能を発揮するのだ。

 試しに障壁で弾いてみるも、手裏剣は障壁を器用に迂回して襲ってくる。

 何があっても諦めず飛んでくるこの手裏剣。その名もズバリな『ド根性手裏剣』である。

 そして、そんな物の相手をしていれば当然、タイムアップがやって来て。

「くっ」

 瞬間、大爆発を起こすオルカの下半身。

 そう、これもまた分身体に過ぎず、決着はまだついていないようだ。


 ミコトは再び転移にてその場を離れると、今度こそ慌ててMPを回復した。勿論裏技で。

 幸いこちらを警戒してか、再びオルカが影から飛び出してくる、なんてことはなく。

 しかしその代わりに、夥しい数のド根性手裏剣が飛来するのを認め、ミコトは堪らず表情筋を引き攣らせたのだった。


 ド根性手裏剣の厄介さは、その追尾性能だけにあらず。

 たとえ撃ち落とそうとも、勝手に飛び上がって飛翔を再開するし。

 破壊したとしても、自ら修復して何事もなかったかのように飛び立つ。

 何かを盾にして、自分の身代わりにそこへ手裏剣が刺さったとしても、車輪のように回転して盾の表面を回り込み、結局はターゲットと定めた対象を追い回す。

 更には、ターゲットにヒットして刺さったなら刺さったで、今度は横回転、即ちスピンを始めて傷を抉りながらめり込んでいくのだ。


 最早狂気の代物である。ホラーだ。絶対に逃げられない系の惨殺人形に負われている気分になるし、実際人形か手裏剣かという差しかそこにはない。

 そんなド根性手裏剣が、大量発生したコウモリが如く群れをなして迫ってくるのである。

 直撃すれば、当然死は免れ得ない。それも、とびきりスプラッターな感じの惨殺だ。


 ミコトは盛大に背筋を冷やしながら、手裏剣の群れへと躊躇いなく左手をかざした。

 すると直後である。

 飛び出したのは無数の白き枝。

 即ち綻びの腕輪が特殊能力、『光の白枝』に他ならない。


 触れたものを問答無用で粒子状へと分解してしまうその能力でなら、如何に強烈なガッツを持つド根性手裏剣とて修復は不可能。

 これ以上無い程の適した迎撃手段であると言えた。

 それにである。オルカ相手に出し惜しみなどしている余裕があろうはずもなく。

 光の速さで飛び出した白い枝たちは、正しく瞬く間に無数の枝分かれを繰り返し。

 そうして気づいた頃には、全てのド根性手裏剣へと接触していたのである。


 すると、何の抵抗もなく一斉に分解の効果が発動。

 悍ましき脅威は、呆気ないほどに一瞬で無力化されたのである。

 だが。

 それを成した張本人には、信じ難い異変が生じていた。




 かつて真・百王の塔にてオルカは、その一〇〇階層特典部屋の宝箱から、一足の靴を得ていた。

 名を『時止の靴』という。

 この靴が持つ特殊能力は、靴裏に触れた物の時間を停止させる、という恐るべきものであり。

 これを駆使することで彼女は、空すら自由に駆けることが出来た。

 ただし、勿論使用には制限がある。

 最大連続稼働時間は三〇分。再使用は充電方式であり、時間経過で稼働時間を回復することが出来る。

 しかしながらフルチャージに六時間しか掛からないというのだから、とんでもない壊れ性能であると言えるだろう。


 そんな時止の靴を履き、頭には獣耳、尻には尾を垂らし、漆黒のマフラーをたなびかせるオルカが。

 静かに、ミコトの肩を踏み佇んでいたのである。


 さながら彫像のように、微動だにしないミコト。

 靴の効果により、時間が停止しているのだ。いや、本当に時間が停止しているのか、それとも単純に動けないだけなのかは定かじゃない。

 だが何にせよ、ミコトは左手を突き出したまま完全に停止している。

 靴裏に感じる布の感触すら石のように硬い。


「……完全装着が裏目に出たね。本当なら肌の一部を踏まなくちゃ、服を着た生き物の動きなんて止められないのに」


 ミコトがド根性手裏剣の迎撃に動き、それを成した正にその瞬間。

 意識の間隙に、最大級の隠形でもって潜り込んだオルカは、まんまと時止の靴によってミコトの動きを止めてみせたのだ。

 だが、彼女はここで手を抜いたりしない。

 このまま攻撃したところで、時の止まったミコトへダメージを及ぼすことは叶わない。

 それ以前に、自動回避が働く恐れがある以上、慎重さが求められた。


 攻撃と認識されぬようゆっくりと、忍者刀をミコトの首筋へ当てる。

 刃はその首筋に触れ、あまりの忌避感にオルカの顔が苦しげに歪む。

 さりとて、これが自らの有用性を示すための試練だと思えばこそ、オルカは心を殺して呼吸を一つ。


(この靴底が離れた瞬間、ミコトの首が落ちる)


 深く覚悟を決める。

 そして。


 次の瞬間、オルカのこめかみに風穴が空いたのである。


 何者かによる狙撃。

 すぐにそう理解できたのは、このオルカもまた分身体だったからに他ならない。

 だが、誰が、どこから撃ってきたのかまでは把握できなかった。


 慣性に抗えず、彼女の靴がミコトから離れる。

 そこからの出来事は、残念ながらいよいよオルカの理解の範疇を越えていた。


 動き出したミコトは、さぞ混乱したに違いない。

 なんてオルカの予想を容易く裏切り、彼女は一切淀みのない動きでもって、最短最速にてオルカの分身体を引っ掴んだのだ。

 思えば先程も、ミコトは分身体へ手を伸ばそうとしていた。

 何をしようとしていたのかまでは分からないオルカだったけれど、そこには言い知れぬ不気味さがあり。

 そして今、その感覚が危機感由来のものであったことを知る。


 ミコトが行ったそれの正体は、連鎖魔法ウロボロスが応用。

 即ち。


 オルカの魔力を辿って、本体もろとも全ての分身体へ直接魔法を叩き込んだのである。


 瞬間、あちらこちらで凄絶な光の柱が真っ直ぐと天へ向けて立ち上り。

 オルカは自らの身に何が起きたのかも分からぬまま、敢え無くその閃光に身を焼かれ、意識を途絶えさせたのだった。

 彼女がこの仮想世界で見たのは、視界を覆い尽くす白。

 最後に感じたのは、無念であった。



 ★



 ぱっと、目を覚ます。


 目を覚ますというか、現実へ帰還したと言うべきか。

 仮想空間での出来事は、現実の肉体に影響を及ぼさない。そのはずなのに、心臓がバクバクして冷や汗がすごい。

 流石に負けたかと思った……。それに、オルカに首を落とされそうになった時の絶望感は、尋常なものではなかった。

 恐ろしかったのもそうだし、もっと単純な話、試合とは言えどオルカに殺されそうになったのが思った以上に精神的にきつかった。

 かくいう私もまぁ、オルカを散々攻撃したんだけどさ。それはそれでやっぱり、しんどいよ。


 なんてベッドに横たわったまま、高い天井を眺めつつしばらく放心していると。

 いやに周りが静かなことに気づく。

 そう言えば、みんなからもうちょっとリアクションとかあって良いようなものなのに、どうしたことだろうか?


 不思議に思いようやっと上体を起こして、皆の居る控えスペースの方へ目をやってみると。

 丁度、イクシスさんが徐にこちらへ歩み寄ってくるところだった。

 何だか表情の硬い彼女。心眼にはどうにも訝しんでいるような心が見て取れ、私がやや身構えてみせると。

 彼女は何時になく平坦な声で、こう問うてきたのである。


「ミコトちゃん……今の試合、何か不正をしなかったか?」

「…………えぇぇ」


 まさかの一言であった。

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