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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六二九話 ミコト杯決勝戦

 仮想空間にて、草を踏むミコト。

 眼前に広がるはアルカルド近郊の、今となっては懐かしさすら感じる景色だ。

 不思議なもので、風の匂いにすら覚えがあるように感じ、ともすればここが仮想の場所であることすら失念しそうになっていた。

 けれど、自身を囲う初期地点を知らせる輝きを見れば、ここが紛うことなき仮想現実であることを思い知らされる。


 向こう五〇メートルほど先には、同じく輝きの中に立つオルカの姿があり。

 在って無きが如きその間合いに、警戒するはお互い様。

 着々と進む試合開始へのカウントダウンは、まもなく切れ。

 ミコトもオルカも、静かに構えをとってその時を待ったのである。

 そして。


 足元の輝きが弾けた。始まりの合図である。


(先ずは!)


 ミコトが最初に試したのは、マーキング。

 即ち、マップスキルを駆使してオルカへマーカーをくっつけてしまおうというわけだ。

 可視化マーカーであれば、マップウィンドウを介さずとも、視覚的にオルカの位置を把握できるはずである。

 という目算だったのだが。

(!)

 残念ながらその狙いは、敢え無く失敗に終わる。

 それというのも、オルカの位置を示すマーカーの光。それすら携えたままオルカは分身を果たしたのだ。

 ばかりか、よく見れば光が失せている個体すら見える。


 どうやらオルカは、その隠密の技にてとうとうマップは疎かマーカーすらも欺く術を得てしまったらしい。

 ニンジャナンデ! とでも叫びたい気持ちをぐっと飲み込むミコトである。

 一方でオルカはまんまと姿を晦まし、相手に自分(本体)の位置をロストさせるという、得意かつ有利な状況を早速手に入れていた。

 と同時、ミコトめがけて矢を射掛ける。


 分身体を駆使して、様々な場所から鋭く繰り出される幾本もの黒き矢。

 さりとて既に、先のソフィア戦にて『矢がオルカへ化ける』という奇術を目の当たりにしているミコトである。

 光魔法にて幾筋もの光線を打ち出し、自らへ矢が至る前に迎撃を図ってみせた。

 幸いその目論見の大凡は成功した。

 だが、一部の矢は奇妙な軌跡をたどって光を回避。まんまとミコトの目前に迫るなり、案の定その姿をオルカのそれへと変じさせたのである。


 携えしは忍者刀。この三ヶ月の特訓期間中に得た、オルカの新たな得物だ。

 有する特殊能力は、シンプルにして強力。

 狙った対象を、その光すら呑み込まんほどに黒い刀身へと問答無用で引き寄せる、『招き』の能力。

 オルカはこれを巧みに駆使し、時に相手の動きを崩させ、時に高速で接近するために利用し、非常にトリッキーな近接戦闘術を実現させていた。


 ミコトの構えた舞姫が、突如不可解な力により強烈にオルカへと引っ張られる。

 が、心眼にて大まかになれど狙いを読んでいたミコトに動揺はなく。

 引かれるままに飛び込み、オルカとの剣戟へと臨んだ。


 傍から見たなら、それはオルカの持つ忍者刀の能力など感じさせない、自然な打ち合いだった。

 ミコトの対応力も凄まじいが、一方で四本の舞姫を巧みに捌くオルカの動きも当然、尋常なものではない。

 さながら予め定められた殺陣の如き、いや、それにしたって凄まじい攻防を繰り広げるミコトとオルカ。

 当然の如く行使されたのは、オルカの影魔法だ。

 ミコトの足元より、身体を伝うように素早く這い上がる影帯。


 けれどどうしたことか、それはミコトを拘束する力を有さず。

 それもそのはず、ミコトもまた影魔法には心得があったのだ。ニンジャになったことで格の上がったオルカの術にこそ及ばないまでも、自らの影を御することくらいは可能である。

 即ち、ミコト自身の影はミコトに牙を剥かない。

 オルカにとっては何とも御しがたい相手と言えるだろう。


 さりとて。

(一対一ならともかく、多対一は無理!)

 そんなオルカとの剣戟もほんの束の間。続け様に強襲する彼女の分身体に、ミコトはあっさりと不利を悟り。


 故に、一も二もなく次の行動へ移ったのである。

 オルカの忍者刀を強かに撥ね退け、瞬間自らに迫る全てのオルカを、物理障壁の箱にて閉じ込めた。

 そして。

「ふんっ!」

 ぐしゃりと、手のひらを握り込む動作。

 同時、箱は一瞬にて小さく収縮し、中身のオルカたちを潰してみせたのである。

 だが。


(やっぱり全部分身体か!)


 箱の中から感じられる、異様な魔力の高まり。

 直後、カッと眩い光を放ったそれらは、凄絶な爆発を起こしたのである。障壁など持ち堪えるべくもなく。

 半径にして三〇メートル圏内の全てを炭化させる熱量。生じた爆風や衝撃は、美しい草原をごっそりと抉り取ってしまった。

 無論まともに受けては、一溜まりもないだろう。如何に熱無効のスキルを持っていようと、その衝撃だけで十分にすぎる脅威だったのだから。

 さりとて。




 爆発現場から、遙か二キロメートルほど先。

 まんまとテレポートのスキルにて難を逃れたミコトは、濛々と上がる爆炎を眺めて顔を引き攣らせた。

 だが、彼女が舞姫と交換して取り出したるそれもまた、間違いなくえげつない代物で。


「オルカ本体の位置がさっぱり掴めない。こうなったらもう、薙ぎ払うしか無いよね!」


 構えたツツガナシが、ガシャンガシャンと魔砲形態へ変形を遂げる。

 次いで、ミコトの魔力をごっそりと吸い上げたそれは、猛るように獰猛な輝きを溢れさせ。

「オーケーレッツゴッ」

 何の躊躇いもなく引かれたトリガー。

 同時、吐き出されたのはこの世界基準での巨大樹が幹周りに相当する、極太ビーム。

 遮るものさえなければ、地平線の彼方にだって容易く至り、あらゆる物を消し飛ばすとんでも破壊兵器。

 ミコトはそれを、「ふんぬぅぅぅ!」と乙女にあるまじき踏ん張りボイスと共に、左から右へと大きくスイングしたのである。


 結果。

 緑の美しかった草原は一瞬にして見る影すら失せ。

 先程の大爆発が、さも可愛らしいものに思える程の、凄絶な破壊が生じたのである。

 大地はその尽くが大きく捲れ、抉れ、焦げ付き。

 ミコトから見て約九〇度。目の前の大地が、末広がり式に消し飛んでいた。

 何なら遥か遠景すらシッチャカメッチャカの惨憺たる有様だ。


「ふぅ……やったか?」


 プシュウと放熱するツツガナシを携え、そんなフラグめいたセリフを吐いたのは他でもない。

 まだ勝負はついていないという、確信めいた予感があったからに他ならなかった。

 案の定、仮想空間から現実へ戻るようなことはなく、即ちそれは試合の継続とオルカの生存を意味していた。ダメージが通ったかすら定かじゃない。

 しかし何にせよ、戦闘は続く。今の魔砲でMPを大きく消耗してしまったミコトは、些か残存魔力に余裕がなく。

 故に、裏技の行使へ踏み切った。


 装備を換装にて切り替え、MP補正のまったく無い姿へ変わるミコト。

 素早くストレージよりMP回復薬を取り出し口をつけた、その瞬間だった。

 背後、ミコトの影よりヌッと飛び出した人影が一つ。無論、オルカである。

 ニンジャ式影魔法【影渡り】。文字通り影から影を渡る、疑似転移魔法だ。

 自身の影を御するミコトであっても、これは妨害が成らなかった。

 だが。


「!?」


 影から飛び出し驚いたのは、なんとオルカの方である。

 何せ、ミコトの背後を取ったと思ったら、どういうわけか視界に飛び込んだのは、まるで思いがけない景色だったのだから。

 オルカが見たのは、アルカルドの街並み。

 綺麗な石畳からひょっこりと上半身を出してみせた彼女は、もしもここが仮想世界でなければさぞ通行人を驚かせたに違いない。

 そしてすぐに、自身の身に起こった事柄を把握する。


 ミコトの空間魔法、スペースゲート。空間と空間を繋ぐトンネルを生み出すという、非常に珍しい魔法である。

 それを、自らの影の真上に展開したのだ。

 何故か? 決まっている。

 オルカがそこから飛び出すと、読んでいたからに他ならない。

 裏技にてMPを回復する、その瞬間を狙い襲ってくると予想していたのだ。


 オルカの背に冷たい汗がブワッと浮かび。

 瞬間、スペースゲートは彼女を逃すこと無く、閉じた。


 空間と空間を繋ぐスペースゲート。では、そのトンネルを潜り抜けている最中に、もしもゲートが閉じてしまったらどうなるか?

 答えは簡単だ。

 断たれるのである。ミコトはこれを、『空間切断』と呼んだ。


 斯くしてオルカの上半身は、アルカルドの街並みの只中へ力なく転がり。

 下半身は影の中より中途半端に抜け出し、ミコトの眼下へと留まった。

 そんなミコトの腕には、ちゃっかりと綻びの腕輪が備わっており。裏技を使う素振りすらフェイクだったことを、密かに示していたのである。


 そして。

(好機!)

 大変グロなオルカの下半身へ、ミコトは鋭く手を伸ばした。

 爆発してしまう、その前に。

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