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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六二八話 挑戦

 クラウの首が、綺麗に刎ねられた。

 ソフィアさんの時は遠慮してたのに、今回はオルカも余裕がなかったのだろうか。

 いつの間にか画面の中心で佇む彼女の手には、青銀に輝く頭髪を力なく垂らす生首が一つ抱えられており。

 身体の方はと言えば、ドサリと力なく倒れたのである。

 観戦モードに表示されているクラウのHPバーは一瞬で空になり、誰の目にも明確に決着を知らせたのだった。


 そして、そんな様子を観戦していた私たちはと言えば、誰が声を発することもなく。

 ただ、息を呑むような音が短く鳴っただけだった。

 と思いきや、ドサリと何かが倒れる音。クラウの首無し胴体が倒れた音に似たそれは、イクシスさんが泡を吹いて倒れた音であった。

 だがそんな様子を見ても尚、皆は我に返るでもなく青い顔をしており。


 特にこの次、決勝戦で首チョンパを成した張本人たるオルカとの試合を控えている私は、自らの首に手を当て身を縮こませた。

 お、おっかないんですけどぉぉぉぉ!

 いや、勝ち方にケチを付けるわけではないのだけれど、クラウ相手にそれを成してしまえるその事実が、兎にも角にも恐ろしかった。


 などとソファの上でぷるぷる震えていると、跳ねるように起き上がったのはクラウである。あれほど『飛び起きる』って言葉がぴったりな起き方もないだろう。

 そんな彼女は血相を変えて自分の首筋を触って確かめ、五体満足であることを念入りに確認すると、ようやっとベッドへ崩れ落ちた。

 そして小さく丸くなると、しくしくとべそをかき始めたではないか。


「ぐす……ブレイブクラウの出番一瞬だった……」

「いやそこなの?!」


 思わずツッコんだのはレッカである。

 しかしこれにより、ようやっと皆の顔色も正常に戻り始め。

 ポツポツと観戦組の間で感想が交換されたり、倒れたイクシスさんをココロちゃんやスイレンさんが介抱したりと、衝撃的な試合の余韻から立ち直り始めたのである。

 オルカもムクリと起き上がり、何事もなかったかのように皆の輪へ加わる。それはそうだ、首切りは確かにすごいインパクトではあったけれど、ちゃんとルールに則った勝ち方だもの。それをとやかく言うような分からず屋が、この中に居ようはずもなかった。

 無論それはクラウやイクシスさんとて例外ではない。

 目を覚ましたイクシスさんは、遺恨を抱くでもなく「準決勝第二試合、勝者オルカ!」と宣言したし、負けたクラウも拍手でそれを認めた。


 そんなこんなで準決勝は終わり。残るは決勝戦のみとなったのである。

 オルカが連戦となるため、再度休憩時間が設けられてからの決勝戦という形が取られるらしい。

 早速皆の間では感想や雑談などが交わされ、勿論決勝戦にての勝敗予測なども話題に上がった。

 しかし今回はイクシスさんがインタビュアーまがいのことをするでもなく、皆との雑談に混じったりしており。


 そんな中オルカはといえば、次の試合に向けて一人精神統一を行っている模様。

 どうやら次の試合、余程気合を入れて臨むつもりのようである。

 しかして対する私はと言えば。


「棄権……とかしちゃダメかな……?」


 完全に萎縮していた。

 だってそうだろう。あのクラウが、それもブレイブクラウが完敗したのだ。そんなのビビらないはずがない。

 誰に言うでもなくつぶやいた言葉は、しかしイクシスさんの耳に届いてしまったようで。

「なに?! ミコトちゃん棄権するつもりなのか!?」

「え、あ、えーと……」

 大きな声で拡散されてしまい、しどろもどろになる私である。


 すると、聞こえてしまったのだろう。途端にオルカが何だか悲しげな表情で、じっとこちらへ視線を向けてくるではないか。

 居た堪れなくなって目を泳がせると、そこで動いたのはココロちゃんだった。

 彼女は肩を落とすオルカへ向けて、問いかけたのだ。


「オルカ様はミコト様と戦いたいんですか……?」


 私と戦いたくないあまり、今大会で唯一棄権を選んだココロちゃんである。

 どうやらオルカも自分と同様、ミコトと戦うことに積極的ではないだろうと予想していたココロちゃんは、オルカのしょんぼりとした様子が意外だった様子。ゆえの純粋な疑問だったのだろう。

 暗にそこには、「ミコト様に武器を向けて平気なのですか?」という問いが含まれているような気がした。

 これを受けてオルカは、僅かに逡巡した後、徐に口を開いた。


「確かに、ミコトに対して得物を向けるのには抵抗がある。本当ならそんなことはしたくないし、模擬戦じゃなきゃそんなことは絶対にしない」

「でしたら、ミコト様が棄権を仄めかしたことにどうして肩を落とされるんです? 戦わずに済むのなら、それで良いじゃないですか!」


 解せないと言わんばかりの問い返しに、さりとて怯むでもなく。

 オルカは確かな思いのこもった言葉でもって、その返答とした。


「ミコトと戦って、勝利すること。それがきっと、何より『ミコトの力になれる』ってことの証明になるって思うから。だから私は、ミコトに勝ちたい」

「!」


 それは、ココロちゃんとは真逆の発想。

 大事にしたいから戦えない彼女と、役に立ちたいと思うからこそ戦いたいと考えるオルカ。自身の有用性を証明するために、勝利を掴みたいと。

「そ、その発想はありませんでした……! 目からウロコなのです……!!」

 どうやら感銘を受けたらしいココロちゃん。

 納得したのか、オルカへの追求はそこで終わった。


 するとこれを受け、皆の視線は自ずと私の方へと集まり。

 いつの間にか静かになった会場の中、イクシスさんが問いかけてくる。

「ミコトちゃん、本当に棄権するのか?」

 その確かめるような問いに、私は改めて自らの思いを振り返った。


 先ず大前提として、オルカを役立たずだなんて思ったことは、これまでに一度たりとも無かった。きっとこれからだってそうだ。

 その点に於いては、今更証明してもらうまでもない事だと思う。

 けれど、である。

 それはきっと、私にとってはそうであると言うだけの話。

 オルカにとっては自身の価値を証明し、確信を得ることにこそ意味があるんだ。それで得られる自信にこそ、大きな価値がある。

 そう考えると、なるほど。彼女にとって、戦う理由は十分なようだ。


 ならば私はどうか。

 私は、オルカと戦いたいだろうか?

 確かにクラウの首が飛ぶ姿は衝撃的で、もしかすると自分もあれと同じような経験をすることになるのかと思うと、正直メチャクチャ恐ろしい。

 だが、一旦それは抜きにして考えてみよう。


 オルカは私にとって、命の恩人なんだ。

 この世界に来て間もない頃、恐ろしい目に遭った際駆けつけてくれたのが彼女だった。

 紛うことなき、私にとってのヒーロー。それがオルカという存在である。謂うなれば、憧れだ。

 そして今、私はそんな憧れの相手と競い合える機会を前にしている。


 それを本当に、棄権という形で棒に振ってしまっていいのだろうか?

 惜しくはないだろうか?

 なにより。ゲーマーとしての私は、それを良しとするのか?


 決まってる。

 そんなのは否である。そんな絶好のカードを放棄するなんて、あり得ないだろう。

 そりゃ首を飛ばされるのなんて、恐くて仕方ないけどさ。

 だけど問題ない。勝てばよかろうなのだ!


「ごめん、やっぱり棄権はしない。オルカと戦うよ!」


 棄権を撤回し、私は決勝戦へ参加する意思を表明した。

 皆からは感嘆とも安堵ともつかない声が小さく鳴り、それが少しばかりくすぐったい。

 そしてオルカ。その表情には小さな笑みがあり。

 その瞳には、どこか挑戦的な色が見て取れた。

 挑戦者は私の方だっていうのに、おかしなものである。


「いつか、オルカみたいなすごい冒険者になることが私の目標だった。今の私の力が、そんなオルカにどこまで通じるのか……試させてもらうよ!」

「ミコトを倒して、私はミコトの『影』になる。私が誰よりミコトを支えられる存在だって、ここで証明する!」


 バチバチと視線を交差させる私たち。

 思えばオルカとこうして闘志を向けあったことが、果たしてこれまでにあっただろうか。

 私とオルカはまだ休憩時間にも関わらず、早くもそれぞれベッドへ腰掛け、黙々と戦闘シミュレーションに没入していく。

 控えスペースでは皆が、声量を落として早速決勝戦の勝敗を予測したり、どちらを応援するかで盛り上がったりしていた。


 試合開始が近づくに連れ、徐々に高まる皆の期待。

 釣られるように緊張感も膨れ上がり、さりとて集中力もまた研ぎ澄まされていく。

 そうして時計の針が午前一一時を告げる頃、いよいよイクシスさんから声が掛かった。


「それではフィールドの設定を行う。二人とも希望はあるか?」


 問われ、私たちは示し合わせたかのようにとある場所を指定した。

 それは私たちが出会った場所。

 私にとってのはじまりの街、アルカルド。その外に広がる草原であった。


 この世界にやってきて、冒険者としての活動を始めてから一年と半分足らず。

 そう考えると、まだまだペーペーの新人上がりだけれど、それでも私なりに努力は重ねたし、強くもなってきたはず。

 その成果が今、試されようとしていた。

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