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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六二七話 準決勝第二試合

 時刻は午前一〇時半を回り、休憩時間は終わりを告げた。

 ベッドには既にオルカとクラウがそれぞれ横になっており、意識は無い。

 皆が観戦モードのスキルにて眺める先には、人の背丈よりも大きな岩がゴロゴロとそこかしこに転がる、荒々しいフィールドが映っており。

 そして彼女らの姿もそこにあったのである。


 休憩時間の後半には、しきりに彼女らの試合展開を予想する声が飛び交い。

 結果としておおよそが、長い試合になるだろうという見方でまとまった。

 それというのも、こと攻撃を受けないことに関してはミコトとタメを張らんばかりのオルカ。

 一方で鏡花水月随一の防御力、耐久力を誇るクラウもまた、安々とダメージを通すはずもなく。

 回避と防御に長けた二人の試合なれば、千日手の様相を呈するのではないか、と考えるのは自然なことだった。


 そんな皆の予想が立つ中、いよいよオルカ対クラウの試合が始まる。



 ★



 自分はシードにて勝ち上がったからと、選ばれたフィールドはオルカに有利な障害物の豊富な岩場。

 しかし少し体重をかければ、靴の下で小石の擦れる音が簡単に鳴ってしまうこの場は、必ずしもオルカにだけ有利かと言えば、きっとそうでもないのだろう。

 譲った風でありながら、なかなかに抜け目のないフィールド選択。気配の捉え難いオルカへ対する、ささやかな対抗策である。


 そんな不安定な足場にて、彼我の距離は三〇メートルほど。

 闘志を漲らせるクラウの視線を、涼しげに受け流すオルカ。その様は二人の気性の異なりを如実に表しているようですらあった。

 そうして程なく、カウントダウンは尽き。

 二人の足元で、初期地点を示す輝きが弾け飛んだ。試合開始の合図である。


 初動は同時だった。

 クラウの足元、自らの影より鋭く伸びるはオルカの影帯。

 それはクラウの足を這い上がるように発生し、彼女を早速捉えに掛かった。

 だが、これを見越していたクラウは光魔法を発動。

 全身からまばゆい光を放つこの術は、欠点として自らの視界すら白で染め上げてしまうというデメリットも有り。


 一時的に視覚を失ったクラウへ、これみよがしにオルカが躍り掛る。

 彼女とて得意の影魔法を封じられては、取れる選択も幾らか狭まろうというものだが。しかし強気な姿勢である。

 そんなオルカの接近を、さりとて見えぬままに察知するクラウ。

 彼女には【オートガード】や【メナステイカー】という強力な防御スキルがある。

 前者は自身に迫る攻撃を、盾が自動で受けてくれるというスキル。

 後者は逆に、敵の放ったあらゆる攻撃を、自らの盾へ強制的に集めるというスキルだ。

 更には視界に頼らぬ鋭敏な感覚により、見事襲いくるオルカの攻撃を捌いてみせるクラウ。


 だが。

「っ!」

 辛うじて頸動脈の損傷は免れたが、際どい切り傷が首筋に走る。

 完全に察知外からの一撃。何れのスキルも反応を示さなかった。


(オルカはスキルにすら気取られず行動できるというのか……!)


 背筋に冷たいものが伝う。

 分かってはいたことなれど、やはり恐るべき相手。こと対人戦においてオルカの強さは常軌を逸している。

 加えて言えば、その抜かりなさも大きな脅威で。

 傷を受けたと悟った瞬間、クラウはアーツスキルを発動していた。

 用いたのは【カウンターリセット】。全方位へ向けて強烈な衝撃波を放ち、自身に近づく全てを強制的にノックバックさせるスキルだ。

 更には自己治癒効果もあり、首の傷はもとより、そこに仕込まれた麻痺毒の効果さえも瞬時に打ち消した。


 これによりオルカの強襲は退けられた。のだが。

(くそ、完全にロストした!)

 視界を隠す白は晴れ、代わりに影からの脅威に晒されはするものの、視界を断って戦える相手ではないと判断して警戒を巡らせるクラウ。

 今度は影も形も見当たらず、何時何処から襲ってくるかも知れない状況を作られてしまった。

 無論、闇雲に攻撃を放ったところで意味など無いだろう。

 ソフィアのように空へ逃げることも考えるが、それも無駄なことだと知っている。


 已む無く守りを固め、オルカの再襲来に備えるクラウである。

 防戦は得意なはずだが、その胸中に余裕などあるはずもなく。

 慎重に意識を研ぎ澄まし、僅かな手がかりも見逃すまいとアンテナの感度を最大まで高めた。

 すると。


 音もなく、いつの間にやら獣の耳と尾を携えた彼女が、正面からゆっくりと歩いてくるではないか。

 さながら幻影の如く、いつの間に現れたのかさっぱり分かりやしない。

 ますます顔を強張らせながら、さりとて力み過ぎず構えるクラウは流石であった。

(それにしても、正面から来るとは何のつもりだ……?)

 囮か何かだろうかと警戒する。何せオルカは呼吸するように分身などをしてみせるのだ。

 であれば目の前のこいつが、オルカ本体とも限らなかった。

 けれど分身体であるとも言い切れず。彼女の狙いなどは、さっぱり読めないでいる。その時点で不利であることは明白だが、かと言って打開策があるわけでも無し。


(正面から来るのなら、真っ向から斬り伏せるのみ!)


 結局は脳筋である。

 ジリジリとオルカとの間合いを詰め、そして立ち合う。

 だが、次の瞬間にはもう舌打ちが出た。何せオルカの行動ときたら、クラウが最も嫌がるそれであったからに他ならない。

 あろうことか彼女は、斬撃でも打撃でも射撃でもなしに、組み付こうとしてきたのだ。

 盾使いにとって、こうした敵の行動は厄介極まりない。何せ、盾の有利が活かせないのだから。

 あまつさえそのまま盾を引っ剥がされようものなら、一気に不利を被ることになる。


 対策として、そうした相手は叩くか弾くか斬り伏せるのが常のクラウ。

 だが、オルカの回避能力は尋常ならざるものであり。信じがたい身のこなしでもって、クラウの振るう聖剣やシールドバッシュすら、ひらりひらりと避けてみせるではないか。

 ばかりか、隙あらば飛びつこうと狙ってくるのだから質が悪い。

 これでは盾など機能するべくもないと、已む無く背に回して剣に集中する。


 すると案の定、そんなクラウを嘲笑うかのように、どこからかもう一人オルカが現れるではないか。

 増えたからと言って、どちらかの動きが悪くなるでもなく。同等の動きを見せるオルカが二人がかり。

 これには流石のクラウも嫌気が差そうというもの。

 にも関わらず、更に増えるオルカ。しかも同一人物なれば、チームワークも完璧で。

 剣を空振ったその瞬間、レスリングよろしく胴に強烈なタックルを受けるクラウ。鳩尾を打つ強かな衝撃に、肺の空気が吐き出され。

 これ見よがしにオルカの攻勢が加速する。


 飛びかかる複数のオルカたち。足元からは影帯が這い上がり、きっと一秒とせず詰んでしまうことだろう。

 忌々しげに奥歯を噛み締め、クラウは再度全身を発光させ、更にカウンターリセットも併用した。仕切り直そうというのである。

 効果は覿面。

 自分にしがみついたオルカたちは、その尽くが一気に吹き飛ばされ。足元の影帯も光によって消し飛んだ。

 代償として視界は再び白に染まったけれど、これにて窮地は脱したはず。


 そう思ったのもほんの一瞬のことだ。

 見えぬ視界の中、しかし目の前に感じる微かなその気配は、紛うことなきオルカのそれ。

 気配の感じからして、どうやら踏ん張ってカウンターリセットによるノックバックに、力づくで抗っているらしいと分析したクラウ。

 しかしまさかあのオルカが、そんな無理矢理なことをするものかという固定観念が、己で割り出した分析結果を否定しに掛かる。

 だが裏をかくというのなら正にではないか、という思いもあり。

 悩んだクラウは逡巡を嫌い、ここで奥の手を出すことに決めたのだった。


 それはこの半年にも及ぶ特訓の成果。

 かつて無いほどの輝きを放ったのは、長年苦楽をともにしてきた彼女の愛剣である聖なる剣。

 ともすれば光の奔流にすら例えられん程の圧倒的な聖光の中、聖剣の主たるクラウに、驚くべき変化が生じたのである。

 本来プラチナブロンドのその髪が、青銀色のまばゆい光を放ち、その瞳には抜けるような空色を灯したのである。虹彩はキラキラと七色に煌めき、凄絶なまでのオーラを身に纏ってみせた。

 携えた聖剣すら、その形を持ち主好みに変形させ、同時に切れ味をも飛躍的に引き上げている。

 クラウ待望の変身系能力であり、そんな彼女の新たな姿を、誰が呼んだか『ブレイブクラウ』。

 誰もが認める次世代勇者の偉容であった。


 虹の掛かった神秘的な空を思わせる彼女の瞳は、既に自身の放つ光に眩むこともなく。

 目の前で歯を食いしばって踏ん張るオルカの姿を、確かにしかと捉えていた。


 が故に、一閃。


 凄絶な衝撃が辺り一帯の巨岩を転がし。

 図らずもその剣圧の凄まじさを、これでもかと観戦組の皆へと知らしめたのである。


 だが。どうしたことか、振るった聖剣は何故か目の前のオルカを切り裂かず、素通りしてしまったではないか。

 疑問符が過ぎったのは一瞬。それが、それこそが『気配ある幻影』であると察した時には、そう。

 何もかもが遅かったのである。


 誰かが後ろからそっと、クラウの目を両の手で塞いだ。

 今にも耳元で「だーれだ?」なんてセリフが聞こえてきそうな、そんな目隠しだった。

 さりとてクラウには、それがとても恐ろしいことのように思え。反射的に悪戯の主を振り払おうとした。


 だが、気づけばそれを成すための術がないではないか。


 身体が、首と繋がっていなかったのだ。

 動かすべき身体は何処に行ったのか。目隠しを振りほどけ無いクラウには、それを知るすべもなく。

 直後に襲ってきた鮮烈な痛みの中で、クラウは抗うべくもなく意識を手放したのだった。

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