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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六二六話 準決勝第一試合?

 お腹を擦りながら目覚めたソフィアさん。

 手を当てているのは、仮想空間にてオルカの影やりが突き出た部分であり、流石の彼女も肝を冷やしたのだろう。って言うか今も顔色が悪い。

 一方のオルカは何でもない風で。

「一回戦第三試合! 勝者オルカ!」

 というイクシスさんの声を受けても、飄々としたものだった。あれが強者の余裕というやつだろうか……クールだ。


 他方で控えスペースにて試合を観戦していた私たちはと言えば、前評判通りの強さと、恐ろしい戦い方を披露したオルカに対し、みんなして恐々としていた。

 何せ一度掴まったが最後、体の内側に入られ串刺しにされるのだ。何なら八つ裂きかも知れない。

 そんなのホラー映画でだってきっと、なかなか見かけない酷い死に方だ。しかも映像どころか自分が体験するっていうんだから、本当にシャレにならない。

 とは言え、見事な戦いぶりを見せてくれたこともまた事実。

 私たちはそんな彼女たちへ、惜しみない拍手を送るのだった。



 そうして一頻り戦闘や観戦の余韻に浸り、皆でワイワイとした後。

 折を見てイクシスさんが口を開いた。


「さて、残ったクラウはシード枠にて自動的に二回戦……というか準決勝へ駒を進めるため、一回戦の試合は全て消化したことになる。やはりと言うべきか、君たちの試合はあっという間に片がつくな。開会からまだ三〇分ほどしか経過していないぞ」


 言われて時計を確認してみれば、確かに時刻は午前一〇時を回って少しした頃。

 ここまで既に三試合を消化しているにも関わらず、と考えると確かに順調な進行だ。

 きっとこのまま進めば、午前中の内にミコト杯は閉会まで行くだろう。

「これって防御面に課題があるってこと?」

 気になったので、ポロッと質問してみる。

 生前のフィクションでは、『彼らの壮絶な戦いは三日三晩にも及んだ──』なんて表現を偶に見かけたもんだけど。

 この世界でもやっぱり、強者の力比べっていうのはそんな感じになりがちなんだろうか?


「いや、そんなことはない。どんなに守りに長けていようと、策が上手く機能すれば簡単に突破されるだろう。だが、決定力がなければ決着まで持っていくことはなかなか難しい。つまり、皆が優れた決め手を持っていることの証左と言って良いだろう」

「おお」

「逆にグダグダと長引くような試合は、攻撃よりも防御や回復能力に長けた者同士の戦いに於いて起こりやすいな。そうでなければ、火力が足らん半端な戦士同士の試合か」

「な、なるほど」


 つまるところ、防御が疎かと言うよりは、上手く攻撃をヒットさせて一気に試合を決めてしまう、その決定力が素晴らしいと。

 イクシスさんの言う『あっという間に片がつく』とは、賞賛の意味として捉えて良いようだ。

 それにしても回復力か。そう言えば、よく再生能力を持つ強敵にぶつかる私である。紫大蛇戦なんか正に、苦肉の策に踏み切らねば長期戦の末に敗北していたのは間違いないだろう。

 そういう意味では、私ももっと堅さと再生能力に重きを置いてみるっていうのもありなのかも知れない。

 と言うかそれで言うと、鏡花水月の盾担当であるクラウなんかは、正しくその分野のスペシャリストじゃないか。

 彼女とオルカの対決。一体どうなっちゃうんだろう……。


「とまぁ、そんなわけで。次の準決勝第一試合開始まで、休憩を挟もうと思う。肉体的な疲労は無いと言っても、試合をすれば精神的に疲れるだろう。勝ち進んだ皆はコンディションを整えて次の試合に臨むように」


 再開は一〇時半から。

 というわけで、休憩に突入するなりワイワイと談笑を始める面々。

 特に敗北組は気楽なもので、リラックスした調子で戦闘の感想などを言い合っていた。

 対象的に、試合を控えたメンバーの様子はといえば。

 何ともマイペースに、お茶を嗜んでいるオルカ。いよいよ戦えるとあって落ち着かない様子のクラウ。

 レッカと激戦を演じた私はと言えば、勿論暇さえあれば鍛錬鍛錬。

 そしてそんな私の、次の対戦相手であるところのココロちゃんだが。


 びっくりするくらい顔が真っ青だった。思わず二度見したくらいだ。

 青っていうか、白である。脂汗もダラダラかいてるし、そんなの誰が見たって心配になるだろう。

 これにいち早く気づいたソフィアさんが声を掛けている。


「どうしたんですかココロさん、そんな死人のような顔色をして」

「だ、だだ、だだって、次のココロの対戦相手は、ミ、ミミミミコト様なのです……無理です、ミコト様に武器や拳を向けるだなんてココロには出来ません!!」


 あー……まぁ、体調が悪いとかではないらしい。その点は一安心である。

 けれど、そっか。そうなるのか。

 私としても、あんなに恐縮しきってるココロちゃんと戦うというのは正直忍びないと言うか、非常に心苦しい。

 とは言え、試合となればそんな事も言っていられないけれどね。

 何せ私は、レッカを負かして勝ち上がったのである。勝ったからには、レッカに恥じぬ戦いぶりを見せなくちゃならないだろう。


 なんてこっそり心に火を灯して鍛錬に力を入れていると。

 暇を持て余した主催のイクシスさんが、私が貸し出しているカメラ片手にクラウへと近づいていった。

 何をする気かと視線を向けてみると。

「えー、それではここで、クラウ選手に次の試合への意気込みを聞いてみましょう。如何ですかクラウ選手」

 なんて茶番を始めたではないか。


 水を向けられたクラウはと言えば、一瞬やれやれと呆れたふうな様子を見せはしたものの、存外ノリも付き合いも良い彼女。

「そうですね、やるからには優勝あるのみ。相手が誰であろうと勝ちを譲る気はない!」

「対戦相手は、一回戦で見事な試合を見せたオルカ選手ですが、どのように戦われるおつもりでしょう?」

「彼女の恐ろしさは、PTメンバーであるがゆえによく理解している。とにかく多彩な術に翻弄されぬよう冷静に立ち回り、確実にオルカ本体へダメージを与えていくつもりです」

「なるほど。普段は肩を並べ同じ敵へ立ち向かう仲だからこそ、互いの手の内を把握した者同士。注目の一戦になりそうですね! クラウ選手ありがとうございました!」

 ヘコっと会釈で返事するクラウ。


 ノリノリのイクシスさんは次に、一人静かにお茶をすすっていたオルカへと近づいて行き声を掛ける。

「ではオルカ選手にも話を伺ってみましょう。オルカ選手、一回戦を戦ってみての感想をお聞かせください!」

「空中に上がられると打てる手が限られてくる。なかなか工夫が求められる試合だった」

 そつなく勝ってみせたようで、その実結構大変だったらしい。

 普段から表情があまり変化しないことで知られるソフィアさんだけれど、もしかするとオルカのほうがポーカーフェイスには長けているのかも知れない。


「次の試合について、意気込みをどうぞ」

「クラウの守備は脅威。それを如何に攻略するか……私にとってもチャレンジの意味合いが強い。きっと価値ある一戦になると期待している」

「オルカ選手もまた、クラウ選手を強力なライバルと認識しているようですね。これはますます準決勝、目が離せません! オルカ選手ありがとうございました!」


 すっかりアナウンサーになり切ってらっしゃる。

 しかしまぁ、そのおかげで存外興味深い二人のコメントが聞けたわけだけどさ。

 調子づいたイクシスさんは、続いて私の方へとやって来る。

「ミコト選手!」

「あはい!」

 うぐ。こういうのあんまり得意じゃないんだけどな。


「一回戦の試合、お見事でしたね!」

「あ、ありがとうございます。新武器がなければ、正直危なかったですね」

「先程の試合では接近戦に拘っていたようですが、次の試合も同様でしょうか?」

「いえ、次からはバンバン遠距離も使いますよ。安全に勝つのが私のモットーなので!」

「なるほど、あまり見応えのない試合になりそうですね!」

「辛辣!!」


 言うだけ言って去っていくイクシスさん。

 そ、そりゃ観戦する側からしたら、遠距離から魔法をブッパするだけの試合だなんて面白みに欠けるだろうけどさ。

 確実に勝ちを拾うには適した手段だと思うんだけどな。

 でも今のはもしかすると、暗に見応えのある試合を演じろっていうメッセージっていうか、圧力だったのかな……?

 うぅむ。屈するべきか否か……判断の難しいところである。


 するとやりたい放題なイクシスさんは、最後にココロちゃんの元へと向かった。

 が、直ぐにその尋常ならざる様子に気づき。


「どうしましたココロ選手! 顔色が大変なことになっていますが!」

「ふぅ……ふぅ……その、次の試合、ミコト様と対戦させて頂くということで、あまりにも恐れ多く……ふぅ……ふぅ……」

「非常に緊張しておられる様子ですが、意気込みをお聞かせ願えますか?」

「意気込み……? はい、えっと、頑張って何が何でも棄権します!」

「き、棄権ですか?!」

「ここで万が一にでもミコト様と対峙しようものなら、アグネムちゃんやクリスティアさんに顔向けできません。何より、重大な背信行為です!」


 などと、何だかとんでもないことを言い始めるココロちゃん。

 これは冗談では済まなそうだと察した私たちは、慌てて寄ってたかって彼女の説得へ取り掛かった。


「そんなことないよココロちゃん! 折角の機会なんだから戦おうよ!」

「そうだぞココロ! 成長したお前の力を見せる絶好の機会じゃないか!」

「ミコトの懐はそんなに狭くない」

「そうですよ。私の嫁を信じなさい!」

 と、鏡花水月の面々。

 そしてレッカたちも。

「ミコトとのバトルは楽しいよ! やらないなんて勿体ないよ!」

「ココロさんの勇姿には期待しています~!」

 と言を投げた。


 だが。

「無理なものは無理なのです!!」

 ココロちゃんはひたすらに頑固だった。

 とうとう鬼の角までニョッキリと生やし、全力で嫌がるココロちゃん。

 こうなってはもう、彼女の棄権を認めるしかなかったイクシスさんである。


 斯くして、不本意ながら私は不戦勝にて決勝戦へと駒を進めることになり。

 次に行われる試合は、唯一の準決勝。オルカ VS クラウという運びとなったのである。

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