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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六二五話 一回戦第三試合

 荒野である。何かにつけてよく利用する、通称『いつもの荒野』。

 ミコト杯一回戦第三試合、オルカ VS ソフィア戦。その舞台として選ばれたのがこの場所だった。

 つまるところ、ここは仮想空間にて再現されたいつもの荒野であり。

 そんな乾いた大地の真ん中に、ぽつんと佇んでいるのはソフィア。


 そこからずーっと遠くを眺めれば、望遠鏡の類を駆使してやっとこさ満足に捉えられる距離にオルカの姿があり。

 今回の試合は開始時点に於ける彼我の距離を、とにかく長く設定してある。

 それというのも、ソフィアは後衛を役割とする魔術使いであり。対するオルカは、隠密のスペシャリスト。

 生半可な距離に於いては、はっきり言って一瞬で勝負がつくことすらあり得た。

 よって彼我の距離は遠く、数キロメートルは確保されており、しかも荒野という見晴らしの良さ。

 まぁソフィアに有利なフィールドである。だが。

「問題ない。それでいい」

 とはオルカの言。


 事前の話し合い時に、距離を遠くする代わりに障害物のあるフィールドにしようか、という提案も勿論出たのだ。

 ところが、障害物一つでオルカは一気に有利を得る。距離によるアドバンテージなんて簡単にひっくり返してしまうほどに。

 よって、ソフィア有利のフィールドとなれど、オルカはこれを了承したのである。

「これで万が一負けようものなら、流石に格好がつきませんね」

 なんて苦笑したソフィアだったが、冗談というわけでもない。

 鏡花水月に於いて唯一、ソロで特級冒険者の肩書を持つ彼女が、ハンデまで貰ってB級のオルカに負けたなどとあっては、いよいよ沽券にかかわろうというもの。

 普段からそういったことなどは特に意識しない彼女ではあるが、ここまであからさまでは意識しないほうが難しいだろう。


 それ故、内心ソフィアは真剣であった。

(嫁も見ているんです。敗けるわけには行きません……!)

 円形に光る初期地点の中で、きゅっと口元を結ぶ彼女。視線には普段以上の鋭さを乗せ。


 そうして、いよいよ試合開始の合図が成された。


 同時に、両者それぞれがアクションを見せる。

 オルカは黒繭を展開。スーパーオルカへの変身に取り掛かった。

 一方のソフィアは、勢いよく天空へと飛翔する。

 というのも、オルカは影を操るのだ。地に足をつけていれば、それだけで自身の影という大きな弱点を常にぶら下げているようなもの。

 なれば、空に逃げるのが最もシンプルかつ効果的な対処であろう。

 黒竜の飾翼を駆使し、忽ち上空より地上を睨むソフィア。

 オルカの変身には幾らかの時間が掛かる。その暇に魔術を展開し、布石を打ちに掛かった。

 と同時、ストレージより取り出すは長弓。連射性よりも一撃の強かさと射程距離に重きを置いた、彼女の得物が一つである。


 狙うは変身直後。

 単なるアーツスキル如きがあのオルカに通じるとは思えない。

 よって彼女はギチギチと弓を引き絞った後、鏃の寸前に魔法陣を展開した。

 そして、オルカの黒繭が解除されるその直前に、特別製のその矢をバスンと解き放ったのだ。


 魔法陣を潜り抜け、付与された魔術はもともと矢に仕込んであった魔術と相互増幅を起こし、悍ましき殺傷能力を孕んだ一条の雷と化した。

 黒繭が解け、ようやっとその中より姿を見せたスーパーオルカへ対し、絶妙なタイミングにて襲いかかるそれ。

 長大なる距離を刹那に埋めて飛来する閃光は、無論常人には防御も回避も許されない必殺の一撃に十分だろう。

 直後、耳を劈かんほどの轟音がビリビリと大気を揺るがし、着弾箇所には大爆発が生じた。 

 大地には悍ましいばかりの雷がのたうち回り、激しく抉られた地面にはクレーターすらこさえられた。

 これほどの威力を、然程の溜め時間もなしに叩き出せるようになったのは、彼女の魔術研究が日々着実に進んでいる証左に他ならない。それも、尋常ならざるスピードで。


 だが、そんな必殺級の一撃を見舞ったにも関わらず、ソフィアの表情に緩みはなく。

 あらゆる状況を想定しながら、今もせっせと魔術による布石の配置に余念がなかった。

 すると、案の定である。

 のたうつ雷すら届かぬ、離れた地面の中よりニョキニョキと、頭にケモミミ、お尻にフサフサの尻尾を生やしたスーパーオルカが、次々と飛び出してくるではないか。

 そう、次々と。たくさん。


 相変わらず彼我の距離は何キロメートルも離れているが、ソフィアの優秀な視力はその光景をはっきりと認めていた。

 予想していたこととは言え、何をしても死にそうにないオルカの様子に小さく怖気を感じながらも、次いでソフィアは魔術を放った。

 現れた大量のオルカ一体一体を追尾する、無数の風の矢である。

 不可視のそれは捉えることすら困難で、その威力にしても申し分ない。

 これで幾らかオルカの分身を減らせれば、という思いは確かにあった。あわよくば本体を射抜ければという期待も、まったく無いわけじゃない。

 だが。


(でしょうね……!)


 忌々しいことに、スーパーオルカの集団はそれぞれが矢を構え、次々に撃ち放ったのである。

 放たれた矢は見事に、飛来する風の矢と打ち消し合い、ただの一矢とて彼女の分身体を傷つけることすら叶わなかった。

 ばかりか、即座に放たれたオルカの二射目は、完璧な曲線軌道でもってソフィアへ殺到するではないか。

 ステータスやスキル、それに装備の力があるとは言え、無茶苦茶な飛距離だ。

 障壁にてこれを受けて立つソフィア。

 だがしかし、その対処が甘かったと思い知ったのは、直後のことだった。


 あろうことか、矢の一本一本がドロンと変じて、スーパーオルカの群れへと化けたのである。

 これには思わず「ひっ」とスイレンのような悲鳴を上げそうになる。

 だが、動揺している場合ではない。

 案の定いとも容易く障壁を破壊し、襲いかかってくるスーパーオルカたち。

 生半可な手段でこれを排除することは出来ないと判断したソフィアは、先程仕込んだ魔術の一つを使用することにした。


 忽ち生じたるは、鋭い風の刃を内包せし竜巻である。

 流石のスーパーオルカたちも、これには成す術がない。あっという間に消滅する彼女たち。

 けれどそんなことでは到底安心など出来ようはずもなく。

 するとこれまた案の定。


 突如、恐ろしい勢いで身体が地面へ向けてギュンと引き寄せられるソフィア。

 何事かと素早く思考を巡らせ、直ぐに答えを導き出したのは、豊富なスキル知識があればこそだろう。

 オルカの持つ影魔法が一つ【影寄せ】。

 高く飛び上がるなどして、本体と影が離れた位置にある場合、本体を強引に影の元へと引き寄せるという効果を持つマジックアーツスキルだ。

 ソフィアの高度は高く、地に落とした影など無いに等しいはずだ。

 しかし、ほんの微かなそれをオルカは見つけ出し、術を掛けてきたのである。


 抵抗を試みるも、減速すらままならず。このままでは地面に叩きつけられて大きなダメージを負ってしまうだろう。

 しかしそこは流石のソフィア。これにも事前に対策を打っておいた。

 魔術の一つを発動し、強烈な光を放ったのだ。

 それは無論、自身の影を潰すための術。

 ところが、それと時を同じくしてのことだった。ふと、照りつける陽光を遮る何かが自身の頭上に現れたことを知る。


 慌てて空を仰ぎそちらを確かめれば、何と天幕が如く巨大な黒い布が幾重にも広がり、青空を遮ってしまっているではないか。

 すぐに思い至った。竜巻を生き抜いた分身たちが、こぞって自身のマフラーをあらん限りに拡大して展開したのだと。

 何のために? 決まっている。

 大地にあった自身の影を、この背中に貼り付けさせるためだ。


 そのように理解した時には、既に遅かった。

 影を消すために放った光の魔術は、皮肉なことに下方よりソフィアを照らし。その背には否応なく濃い影が生じてしまったのである。

 ソフィアの身体から、直接ヌルリと現れたオルカ。

 正しく悪夢が如き瞬間である。

 とっさに閃断を打ち込むも、見事な魔力制御にてあっさりとキャンセルされてしまった。

「っ……!」

 悲鳴を上げる暇すら無く、彼女のマフラーがソフィアをあっという間に簀巻きにし、その内側では影帯が更に厳重に拘束した。


 だが。

(今!)

 ソフィアは先程仕込んだ布石の、最後の一つを解き放つ。


 それは、傍から見たなら自爆以外の何物でもなかった。

 何せ彼女を中心に大爆発が生じたのだから、誰の目にもそのように映ったことだろう。

 けれどその実、これはソフィアにだけは一切のダメージを及ぼすこと無く、自身を中心にした全てを爆発に巻き込むという安全な自爆魔術である。


 するとどうだ。

 あまりの威力にマフラーは弾け飛び、影帯の拘束も失くなったではないか。

 天上を遮る布も消え、ソフィアはおっかなびっくり、さりとて素早く周囲の様子を確認する。


(手応えあり……でしょうか?)


 などと、ほんの少しだけ期待した、その直後である。

 ドスッ

 視線を下に傾けてみれば、自身の腹より突き出た漆黒の槍。見紛うはずもない、オルカの影槍だ。

 そして、自身の内側より気味悪く響く声。


「ソフィア、降参して」

「……はい」


 無論、否やなどあろうはずもない。

 断ったが最後、体の内側から蜂の巣にされるのは分かりきっていることなのだから。

 そう、オルカは既にソフィアの体内の影へと接触し、体の中へと潜り込んでいる。

 生殺与奪は彼女の手に握られており、降参を促すこの声はせめてもの情け。


 そうと理解していればこそ、ソフィアはそっとホールドアップし、告げたのである。


「降参です」


 その顔は、普段の彼女からは想像もつかぬほどに真っ青だった。

 斯くして、ミコト杯一回戦第三試合は、オルカの勝利という形で決着したのだった。

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