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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六二四話 焔化

 そう言えばこの前、レッカにせがまれてゴルドウさんのところへ彼女を連れて行く、なんて出来事があった。

 それというのも、どうやらある日の特訓でジャイアントキリングを果たしたらしく。

 何とその戦利品として心命珠を入手したというのだ。


 幾らイクシスさんやスイレンさんが見守っていたとは言え、格上の相手に真っ向から向かって行くだなんて。

 まったく命知らずなレッカである。

 まぁ、おかげさまで心配する側の心境ってものを少しは理解できたのだけれどね。

 そして当然の如く、心命珠は愛剣に使用したいというのがレッカの願いであり。


 誰よりも自分の愛剣ってものを大事に扱うのがレッカだ。

 剣を見て、それをすぐに理解したのだろう。ゴルドウさんは彼女のことを気に入ったらしい。

 問題なく愛剣はゴルドウさんの手によって進化を果たし。

 さりとて、一体どんな力を得たのかと問えば、彼女は「へっへっへ……ミコトには内緒!」の一点張り。

 思えばあの頃から、この一戦を見越していたのかも知れない。

 何せ仮面ボウケンシャーには必ず借りを返すと、公言して憚らなかった私である。


 で、あるからして。


 かつて無いほどに力ある焔を宿したレッカの愛剣。

 そして自らの身を焔と変えたレッカ。

 きっとそれは、件の心命珠により得た力に他ならない。

 背後より迫る強烈な熱量と気迫に、否応なく再び発動した自動回避スキル。テレポートにて今度は地面に降り立つ私。

 けれどその目前には、既に焔と一体化したレッカが迫っており。


(敗ける……?!)


 否応なく脳裏に、そんな想像が過ぎった。

 と同時、それは『自身の積み重ねた努力がレッカに及ばなかった』と認めるも同義であると知り。

 悔しさが、爆ぜるように湧き出した。


 先程レッカに弾かれたツツガナシは、既にストレージの中。ご丁寧にメラメラと燃やされたままである。

 だが、既に私自身が絶賛大炎上中なのだ。物理的にね。

 であれば燃えていようがなんだろうが、握るのに今更躊躇いなど無い。

 MP残量は残り僅か。このままでは、あと一〇秒程で尽きてしまうだろう。

 そうなれば熱無効スキルが効果を発揮できず、晴れて焼死体の出来上がりである。

 しかもなまじ熱耐性スキルなんて持っているもんだから、きっと普通に焼け死ぬより余程辛いに違いない。

 うぅ、想像だに恐ろしいとは正にだ。


 だが。一〇秒もあるならまだ戦える!

 レッカが奥の手をてんこ盛りにしてきたんだ。受けて立ってやる!


 正面から迫る紅蓮の袈裟斬りを、ストレージより取り出したツツガナシにて受ける。

 と同時、刃の接触面にアクアボムを仕込んだ。火には水だなんて大原則が、果たして破茶滅茶な今のレッカに通じるとも思えないけど。

 しかしながら、そうは言えども質量攻撃である。幾らレッカでも無視は出来まい。

 それに心眼は見て取ったのだ。私の防御を見て、ニヤける彼女の感情を。

 即座に思い至る。焔と化した今のレッカには、物理的な障害物なんて意味を成さないんじゃないかと。

 鍔迫り合いを狙った瞬間、ツツガナシをすり抜けて私を斬りつけに掛かるんじゃないだろうか。

 それは如何にも、覚えのある感覚だ。


 故にこそ、水を用いるのである。

 爆ぜるアクアボムは指向性を持ち、紅蓮剣と一緒にレッカの体を打ち据えた。

 やはりと言うべきか、それで苦しむような素振りはない。ジュっとすぐさま気化させてしまう辺り、尋常ではない熱量らしい。

 だが、それでもすり抜けは叶わず、あまつさえレッカの身体を背後へと押し退けたではないか。

 悔しげな色を浮かべるレッカ。

 対照的に、勝機を見る私。


 瞬間、レッカを取り囲む数多のアクアボム。

 と同時、鋭く切り込むツツガナシ。

 だが。


 紅蓮は転じて、忽ち白蓮へと様変わりしたのである。

 即ち、冷気を放つ白き炎。

(白蓮でも変わらず焔化を維持してる!?)

 驚くべき点は幾つもある。

 例えば、爆ぜる直前のアクアボムが、全て氷塊へ変わり爆ぜたこと。

 その爆発は、白いレッカをすり抜け、意味を成さなかったこと。

 ばかりか、むしろ私にこそ牙を向いたこと。


 とっさの判断にしては素早すぎる。きっとこの展開も、前もって予期していたに違いない。

 存外頭が回るんだよね、レッカって。今はそれが忌々しいばかりである。


 迫る氷の破片たち。

 それに乗じて、いよいよとどめを刺さんと渾身の一振りを見舞いに来るレッカ。

 対する私は白枝で氷片を迎撃しつつ、突っ込んだ。


 そして。


 レッカの紅蓮が、私の胴をヌルリと引き裂いたのである。


 ドサリと地に落ち、土を叩く剣。それもそのはず、見れば周囲の草花はとっくに灰になっている。焦土とは正にこのことか。


 彼女へ向けて、私は静かに問うた。


「……まだやる?」


 答えは簡潔。


「いや。私の敗けだよ」


 見ればレッカの腕は、手首から先が失われており。それに伴い焔化が解けてしまっているではないか。

 そうさ。地に落ちたのは、私のツツガナシではない。レッカの愛剣だった。

 というか、今私の手に握られているのはツツガナシではないのだ。


 ムゲンヒシャ。

 接触の寸前にて換装した、今回のとっておきである。


 これの持つ『浸透』の能力は、物質を透過してのすり抜けを可能にする。

 けれどそれは何も、攻撃にしか使えないわけではない。

 完全装着を有する私は、自らの身体に浸透の力を適用することが出来る。

 するとどうだ。迫りくる斬撃をすり抜けるだなんて芸当が出来てしまうではないか。


 一方で攻撃面だが。

 浸透とは純粋なすり抜けにあらず。たとえ実体のない相手にだって、ムゲンヒシャの刃は『浸透』するのだ。

 即ち。触れたくないものはやり過ごし、触れたいものには触れることの出来る能力。

 それこそがきっと、浸透の真価なのだろう。


 斯くして私は、実体を持たないレッカの腕に刃を立て、紅蓮剣をその手首ごと切り離し。そうして彼女の無力化に成功したのだ。

 そのまま首を刎ねることだって出来るには出来たけれど、流石に友だち相手にそんなことはしたくない。

 だからこその問いかけ。

 だからこその返答である。


 その言葉の真を示すように、ごうごうと燃える私の身体はようやっと鎮火し、火だるまよりの解放を得たのだった。

 そうして。


「やったー! リベンジ成功!!」

「ぐぁああーやられたー」


 私たちの意識は仮想空間より離脱し。

 瞬く間に、ベッドの上にて帰還を果たしたのである。

 私たちが目覚めたのを認め、高らかにイクシスさんの判定が鳴った。


「第二試合! 勝者ミコト!!」


 ワッと控えスペースより上がる歓声。

 なまじ白熱した試合だったために、その盛り上がりも大きく。特にレッカの戦いぶりには皆よりたくさんの賞賛が寄せられた。

 対する私には、「まぁ、ミコトが可怪しいのはいつもの事だからな」とか、「さすがにあの武器は反則なのでは~?」というような、何とも冷静な感想ばかりがあり。

 これも一つの、試合に勝って勝負に負けたってやつなのかも知れない。解せん。あと反則じゃないですし。

 などとこっそり不満を抱えていると、そんな私へレッカが言うのである。


「私に勝ったからと言って、気を抜くのは早いんじゃないかな。何せ仮面ボウケンシャーはもう一人居るんだから! ね、スイレン!」

「むむ! そう言えばそうだった!」

「ひっ、ちょ、なんでこっちに振るんですかぁ~!?」


 そんなこんなで一笑い。

 斯くして私は、二回戦へと駒を進めたのである。

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