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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六一九話 ミコト杯開催のお知らせ

 時刻はやがて午後六時を回ろうという頃。

 私とイクシスさんは、度重なるムゲンヒシャのテストを終えた後、ようやっとこのイクシス邸転移室へと戻ってきた。

 すっかり見慣れたくつろぎスペースには、残念ながら今は誰もおらず。

 時々メンバーの誰かがここでまったりしていたり、お菓子をつまみながら雑談に興じていたりするのだけれど。

 どうやら現在は、皆まだ帰ってきていないらしい。もう夕方だっていうのに。

 しかしまぁ、それはともかくとして。


「お疲れ様だったな、ミコトちゃん」

「流石に、事前に見繕っていたモンスター全部を倒す羽目になるとは思わなかったよ」

「はは、だがその甲斐はあっただろう」

「そうだね……」


 勿論、良質なドロップアイテムを回収できた、とかいう話ではない。いや、それも大事だけども。自動回収のおかげで、全部ストレージに収まっているけれども。

 私は手元にムゲンヒシャを取り出すと、感慨深くそれを目線の高さまで持ち上げ、眺めた。差し込む西日に照らされて、一層素敵に見える。


「とうとう完成したんだ……!」


 王龍戦に向けた専用武器の開発を依頼して、かれこれ四ヶ月近くにもなるだろうか。

 あーでもないこーでもないと、オレ姉たちと話し合って、試作を繰り返し、そうしてようやっと結実したのがこのムゲンヒシャである。

 その性能の程は、今日のテストでしかと思い知った。文句なしに強力な武器である。

 なんてったって、『ミコト専用最強武器制作プロジェクト』の系譜に連なる逸品だもの。弱いはずが無いのだ。


「なぁなぁミコトちゃん、いい加減私にも触らせてくれよ。いいだろ? ちょびっとだけ! ちょびっとだけでもいいからさ! な?」

「何か顔がいやらしいよイクシスさん……」


 感慨に耽っている私にお構いなく、セクハラオヤジめいた表情とハァハァとした息遣いで、にじりにじりと近づいてくるイクシスさんである。

 私が顔を引き攣らせて後ずさっていると、そこに。

 ぱっと、突如生じた人影が複数。転移してきたのだ。

 顔ぶれは鏡花水月とレッカ・スイレンさん組、そしてゼノワとコミコトという、まぁすっかり見慣れた面子だった。

 現れて早速こちらへ気づいた彼女たちは、各々がリアクションを取り始める。


 まずはゼノワとココロちゃんだ。

 コミコトを背に乗せたゼノワは、例によって私の頭へへばりつき。ココロちゃんはサッとイクシスさんと私の間へ割り込んだ。

 オルカはさっさとお茶の用意をし始め、クラウは母であるイクシスさんの様子を胡乱げにし。

 そしてレッカ・スイレンさん・ソフィアさんは目ざとく、私の携えたムゲンヒシャへ目を向けて、食いつきを見せた。


「ガウガウ」「むむ、ミコト様ににじり寄るとは何事ですか!」「お茶っ葉お茶っ葉」「母上……」「い、いや違うんだこれはだな!」「ミコトその手に持ってるのって!」「例の新兵器ですか~!?」「新たなスキルの予感がしますよ!」


 一気に賑やかになるとは、こういう事を言うのだ。

 っていうか、誰もただいまを言いもしないし。

 ワイワイガヤガヤと唐突にうるさくなった転移室内。しかし不思議と居心地は悪くなく。

 私たちはしばし、混沌とした時間に甘んじたのだった。



 ★



 お風呂と夕飯を終え、時刻はやがて午後九時を回ろうという頃。

 招集を受けた私たちは、現在皆でいつもの会議室へと集まったところである。

 すっかり皆定位置らしきものを見つけており、私もまた座り慣れた席へ腰を落ち着ける。

 すると程なくして、マジックボード前に立つイクシスさんにより、話が始まった。


「今回集まってもらったのは他でもない。予てより対王龍戦に備えたミコトちゃんの武器が、ついに完成したことを報せるためであり。また、これを受けていよいよ王龍リベンジの詳細を詰めるためである」


 おお……! と、皆から声が上がる。

 そこには待望の色もあったが、同時に不安や緊張感も含まれており。

 正しく武者震いの一つも起こりそうな心持ちとともに、皆の目の色が変わる。

 そんな皆の様子を一通り眺めたイクシスさんは、さりとて「しかし」の言葉を挟み込んだ。


「作戦を立てようにも、先ずは皆の戦力がどの程度にまで至ったのかを改めて精査する必要があると考える」


 打って変わって、静まる会議室。

 尤もだという納得と、例によってまたテストかという考え。それに一部からは、もしかしてという期待が沸き立ち。

 そんな皆へ向けてイクシスさんは、このように述べたのである。


「よって明日、第一回ミコト杯を開催しようと思う!」


 ざわ。

 大半のメンバーが一様に、『それはなんぞ?』と眉根を寄せて首を傾げた。

 が、察しの良いハイエルフさんは、ガタッと席を立ったのである。

「そ、それは、まさかっ!」

「これだけで察したか、流石ソフィア殿だな。詳細はこれより述べるので、まぁ座っていてくれ」

 こくこくと頷いたソフィアさんは、おとなしく腰を下ろしてソワソワとし始める。

 かくいう私も、何となく察しは付いているのだけれどね。てか、ミコト杯て。


 ざわりとする皆へ向けて、咳払いを一つ。

 早速イクシスさんは、ミコト杯なるものの詳しいところを語り始めたのだった。


「皆は既に知っているだろう。ミコトちゃんが最近得た新たなスキル、【VSモード】のことを」

 激しく首を縦に振るソフィアさん。

 他のみんなも、この情報は既知のものであるため、さしたる驚きはない。

 が、この情報が出たことで皆、ミコト杯が如何なるものかにパッと想像が至ったらしい。

 イクシスさんは続ける。


「VSモードは、ミコトちゃん特有の所謂へんてこスキルの一つだ。意識のみを仮想空間へと飛ばし、そこで同じくVSモードを使用した者と怪我や命の心配をすることなく全力で戦うことが出来る、という模擬戦に特化した不思議なスキルだな」


 マッチングの仕組みは通話や念話のチャンネルのようになっており、タイマンマッチングの他にチームマッチングなども勿論可能である。

 仮想空間内は非常にリアルで、はっきり言えば現実との見分けはつかないものと思っていいレベルだ。

 五感全てが滞りなく働き、何なら第六感さえ機能する。受けた痛みや苦しみだって本物と相違無い。

 注意点としては、VSモードに参加中の場合、本体が意識を失っているため無防備になること。

 それに、ダメージは残らずとも記憶や感情は持って帰ることが出来るため、トラウマを植え付けるような戦い方は原則禁止として、今のところは細々と設定をいじりつつ運用していたりする。


「このVSモードを利用して、明日は皆でトーナメントを行ってもらおうと思う。それがミコト杯だ!」


 おおお! と、今度こそ大きな声が上がった。

 特にクラウ、レッカ、そしてソフィアさんが立ち上がってまで反応している。

 ただ一人、スイレンさんだけは怯え散らかしているが。まぁ彼女の場合は、後衛サポートだからね……。


「対戦形式はシングルバトル。つまり個人戦だな! 戦闘の様子は同じくミコトちゃんのスキル【観戦モード】にて皆で眺めることとする!」


 観戦モードは、文字通りVSモードで行われている対戦を外部から鑑賞するための、観戦用スキルである。

 専用ウィンドウでの観戦が可能で、画面には参加者のHP・MPバーが表示され、一目で戦況が把握できる仕様となっている。

 その他状態異常などもアイコンで表示されるため、はっきり言って観ているだけでも楽しめる。

 その上対戦ログはアルバムスキルに保存されるらしく、過去の試合をアーカイブスとしてチェックすることも出来るという、至れり尽くせりだ。


「そこらのモンスターと戦うより余程歯ごたえのある戦闘を体験することが出来るはずだ。対人戦にはなるが、各人修行の成果を存分に発揮し、思い切り力を示して欲しい」


 イクシスさんの言葉が、皆の闘志に火を灯し、薪を焚べていく。

 血の気の多いメンバーなどは、既に鼻息荒くしているし。何ならこの後すぐ、練習をしたいと言い出しかねない雰囲気だ。

 かくいう私だって、こと対戦っていうんなら負けるわけには行かない。ゲーマーとしてね!


「良い機会だ。これを機に、この中で対人戦最強が誰なのか。それをハッキリさせてみようじゃないか!」


 その煽り文句に、いよいよ皆が気勢を上げる。

 ひょっとしたらこの会議室で過去一の盛り上がりなんじゃないだろうか。

 スイレンさんを除く全員が、ふんすふんすと闘志を燃やしていた。

 そんな中、私は一応確認の問いを投げておく。


「ところで、勿論イクシスさんは参加しないよね?」

「え?」

「え?」


 やいのやいの盛り上がっていたのが嘘のように、唐突に静まり返る会議室。

 それも当然だ。幾ら修行して強くなったって言っても、イクシスさんは相変わらず別格である。

 そんな人に参加されたのでは、まぁ個人戦じゃ彼女が無双するだろうさ。

 全員でかかればワンチャンあるかも知れないけどね。


「母上」

 凍りついた現場に、クラウの咎めるような声がポツンと鳴り。

 イクシスさんは大慌てで、手をブンブンと振って返した。

「も、もも勿論、私は観戦するだけだぞ! 何なら実況か解説でも受け持ってやろうじゃないか!」

 うん。確認しておいてよかった……。


 ともあれ。

 斯くして明日は、修行の成果を試すトーナメントの開催である。

 会議後から就寝までの時間、みんながみんなこぞってVSモードで対戦し、そのくせ手札は温存しつつ、明日の本番へ備えたのだった。

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