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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六一八話 山を撃つ

 アメンボ女の宿ったこの弓に、私は『ムゲンヒシャ』と名付けた。

 由来は弦が無いことから『無弦』。それでも問題なく強力な矢を飛ばせることから『飛射』。

 というのが一つ。

 もっと単純に『無限』に飛ぶ射撃って意味もあれば、際限なく移動できる将棋の『飛車』をイメージしてもいたり。

 まぁ、色々と意味を詰め込んだ結果、『ムゲンヒシャ』という名前に落ち着いたわけである。


 そして事実この弓は、それらの意味を体現せしめるだけの力を有しており。


 私はムゲンヒシャを構えると、目の前に連なる山の一つへ向けて、狙いを絞った。

 的が大きいので、外す心配などはしていないけれど。それでも、使用テストと思えば真剣にもなる。


 この弓の運用には、二つの方法がある。

 一つは普通に、用意した矢を番えて撃ち放つ方法。

 もう一つは、矢を番えずに魔法を矢として撃ち放つ方法だ。

 いや、運用という意味に於いてはそれらの使い分けこそが、正しい運用方法であると言うべきだろうか。


 今回は、魔法ではなく実矢を番える。

 とは言え番えるべき弦は無く、初めてこれを目にする人にとっては、不思議に見えるかも知れない。

 こんなことならリアクション上手なスイレンさんでも呼んでおくべきだっただろうか。

 残念ながら、この場で試射に立ち会うメンバーは皆何度も目の当たりにしているからね。今更驚きもあったものじゃない。

 それを少々寂しく思いながら、私は静かにストレージより一本の矢を取り出し、弓を引き絞りに掛かった。

 では、矢の最後尾たる『筈』が噛むのは何なのか。弦がなければ何をそこに引っ掛けているのか。


 答えは簡単。『見えざる弦』である。


 弓を弓たらしめる弦。私はそれを、持ち前の魔道具作りの技術を駆使して補った。

 考えてみれば当然の話で、弓が上下に分かれて双剣になるというのなら、合体して弓形態に戻す度に弦を張り直す必要が出てくるだろう。

 それをオレ姉の素敵ギミックでカバーしても良かったのだけれど、敢えて私はそこに魔道機構を仕込ませてもらった。

 これにより、魔力にて紡いだ弦を必要な時にのみ生成することが出来る、というカラクリだ。

 また、魔力の込め方次第で弦をより強く張ることも可能である。まぁ職人や弓を得物にしている人からしたら、邪道もいいところだろうけどね。


 魔法を矢として放つための仕組みというのも、この魔道機構が肝となっている。

 弦を引くことで、魔力の矢が生成され番えられるわけだけれど、射撃系魔法が自動的に矢の形へ加工されるという仕組みを採用しているため、前提として対応する魔法を習得していなければ使い物にならなかったりする。

 また、魔法自体の出力も火力に影響したりするため、物理攻撃力と魔法攻撃力の両面を求められる、なかなかに使い手を選ぶ仕様となっていたり。


 それと、そもそも魔法を直接打ち出せるって言うんなら、何のためにわざわざ実際の矢を打ち出す必要があるのか、という話だが。

 勿論、そこにも重要なメリットがあり。単純な実体弾が云々という以上の意味がある。

 簡単な話、魔法の矢にはこの弓の最大の強みである『浸透』が効果を及ぼさないのだ。

 しかし実体を持った矢は違う。浸透の効果を、打ち出すそれへと乗せることが可能なのである。

 故にこそ、魔法の矢と実体を持つ矢の使い分けが、このムゲンヒシャを運用する上で重要なわけだ。



 てなわけで、魔力由来の弦を筈に引っ掛け、グググと引っ張る私。

 銃と違って、一つ射るのも大変な武器である。

 精神を落ち着かせ、意識を集中し、鏃へ丁寧に魔法を込めていく。


 そうして、鏃に私の魔法を詰め込んだなら……。

 ──バシュン。

 満を持して、私は力いっぱい引いた弦を解き放ち、一本の矢を目の前の山めがけて発射した。

 弓の持つ特殊能力の効果を受け、威力や速度に大幅な上方修正を受けた矢は目にも止まらず、発射とほぼ同時に目的の場所へと到達。

 即ち、山の『内側』だ。

 浸透の効果を受けた矢は、さながら水面にでも潜り込むように、何の抵抗もなく硬い岩も砂利も土塊も素通りしてみせた。

 そうして、矢は唐突に浸透の効果を失い、山の内側にて『肉』を斬り裂き埋没したのである。


 そうさ。あの山こそが、今回ムゲンヒシャのテスト相手として目星をつけた相手。とどのつまり、バカでかいモンスターだ。

 赤の星を三つも冠するそいつは、何とその巨体を周囲の山そっくりに擬態させ、風景の一部へと溶け込んでいたのだ。

 しかし、イクシスさん以外は今だその事に気づいていない。それほどに完璧な擬態である。

 或いは、そのスケール感があまりに馬鹿げているが故に、理解が及ばないだけか。

 何せ山一つがモンスターだもの。こういうのは、巨大化出来るココロちゃんが得意とする相手だろうけれどね。

 今回は私と、このムゲンヒシャが相手である。


 とは言っても、上手く行けば既に勝負あったわけだが。


 瞬間、奴の体内で盛大に矢が爆ぜた。

 呼応するように地震。奴が身を震わせれば、必然それだけで大地は揺れる。ただでさえ標高高く心許ない足場である。登山家御用達の絶景には、相応の危険性が伴うものだ。

 この中で唯一、戦闘面に於いて素人に近いオレ姉が、危うくひっくり返りそうになっているけれど。

 しかし巌のようにどっしりと構えたゴルドウさんが、それをそっと支えてみせた。

「のわぁぁ、何だ何だぁ?!」

「まったく、しっかり立たんか。情けないのぉ」

 なんて、微笑ましい師弟のやり取りである。


 山に擬態していたモンスターの正体。

 それは、こういう場合お約束のアイツである。

 即ち、超巨大な亀だ。

 分厚く固く、どこまでもタフな甲羅は本来なら、攻撃が通るような代物ではない。と言うか、通そうとする事自体が愚行だろう。

 しかし浸透の効果は、そんな障害も何のその。

 分厚い地表も、その内に立ちはだかる頑強な甲羅も素通りし、直接肉……というか内臓へと突き刺さったのである。

 そして、爆ぜた。


 更に、ウロボロス。


 たとえモンスターの体内だろうと、私の魔力の残滓が感じられたなら、そこを起点に別の魔法を繋げることが出来る。

 この三ヶ月間、更に磨いた連鎖魔法には造作も無いことであった。

 山亀の内臓を、私の魔法がドッカンバッカンと蹂躙する。

 爆熱で爛れさせ、風の刃で斬り裂き、氷の槍で貫き、電撃で痺れさせ。

 こうなっては山亀が如何に恐るべき力を有していようと関係ない。

 心眼が奴の攻撃意思を捉える度に、一際痛みの強い魔法を起こし、攻撃どころではない状態へと陥らせ。


 そうしてものの数分である。

 さながらやけに黒い山火事かと見紛わんほどの、大量の黒い塵が立ち上り。

 私たちの目の前で今、山が一つ消滅したのだった。


「うん、いい感じだね」

 満足して一つ大きな頷きをし、皆へと仮面の下で笑顔を作り振り返ってみせる。

 するとどうだ。心眼で分かってはいたことだけれど、盛大に引き攣らせた皆の顔が並んでいるではないか。

 まぁオレ姉たちは仕方ないとしても、なんでイクシスさんまでそんな顔してるのか。


「いやはや……専用武器とは正にだな。ミコトちゃん以外の誰が使っても、今ほどの結果は再現できまい」

「まぁ、心命珠を使っているからね。私以外に『浸透』は発動できないだろうけど」

「いやそういう意味ではなくてだな……」


 心命珠を素材に用い、意思を持った武器と化した品は誰にでも扱えるようなものではない。

 クラウの聖剣もそうだったように、武器自身が所有者と認めた者でなければ、その真なる能力を引き出すことは出来ないのである。

 何ともまぁロマン溢れる話ではないか。大好物だ。

 とは言え、アメンボ女を倒したのも私なら、心命珠を入手したのも私なので、今回の場合は選ばれるとかいう以前の話なのだけれどね。

 いや、ジャイアントキリングを成す際に、相手に力だか人格だかを認められることが心命珠ドロップの条件だ、なんて説もあるくらいだ。

 そういう意味に於いては、認められたからこそ心命珠を得ることが出来た、と考えるのが妥当なのかな。


 まぁともかく、今のところ私でなくちゃムゲンヒシャの力を引き出せないっていうのは間違いない。

 弓として扱うことは出来るけど、双剣としての一面もあるため弓のマスタリースキルでは多分、十分にスキルの力を乗せることが出来ないって理由も相俟れば尚の事だ。

 私しか扱えない武器とか、やっぱりときめくよね。

 なんてこっそりニヤニヤしていると、表情も身体も強張らせて言葉を失っていたオレ姉たちがようやっと復活する。


「いやはや……矢一本であんなのを倒しちまうとはね。今のを純粋に武器の力だと喜べないのが何とも……」

「そもそもあの山自体がモンスター、だったんですよね……? そんなスケールの可怪しいモンスターをどうやったら一撃で……ちょっと理解できません」

「ワシはもう驚かんぞ。呆れるばかりじゃ……つか、なにを一撃で倒しとるんじゃ! 試験じゃと言っとるだろうが!」

「あ」


 ごもっともである。

 ただ、内臓にダイレクトアタックを食らって地獄を味わってる山亀に、わざわざ余計な手数をかけて一層苦しませるような真似は避けたかった。

 同情もあるけれど、下手をするとそれでおかしな進化を促しちゃったりする場合も、無いわけじゃない。

 なので、テストとしてはもっとバカスカ矢を撃ちまくるべきだったとしても、勝ち方としてはこれで良かったと思う。

 まぁ、テストとして不十分である、と言われたらまったく否定できないけども。


「ええと……こんな事もあろうかと、他にもテスト相手は用意してあるもん。ね、イクシスさん!」

「まぁな。どの道双剣モードのテストには別の相手が必要だったし、ミコトちゃんならこういう事もやりかねんと思っていたから、準備に抜かりはないぞ」

「用意が良いと言えばいいのか何なのか……」


 難しい顔でため息をつくオレ姉。

 チーナさんは乾いた笑いを漏らしているし、ゴルドウさんに至っては無言で首を振る有様。

 おかしいな。みんなで作り上げた『対王龍用最強武器』の出来栄えに、もっと喜んでくれてもいいと思うのだけれど。

 やはり私のパフォーマンスが問題なんだろうか。


「よし分かった。次の戦闘では、もっと派手に戦ってみせるからね!」


 反骨精神により張り切った私は、早速皆を連れて次の現場へと転移。

 引き続きムゲンヒシャのテストへ精を出したのだった。

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