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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六一七話 かっこいい弓

 何処かでカンカンと、金属を叩く音が聞こえる。

 BGMと呼ぶには些か忙しない音だ。

 けれど隣に座るイクシスさんなんかは、むしろ目を閉じてその甲高い音を楽しんでいるように見えた。

 流石は武器愛好家というだけある。筋金入りだ。


 私は出されたお茶で軽く喉を湿すと、ぼんやり窓の外を眺めた。

 時刻は昼下がり。天気も良く、日差しはいかにも優しげで、これみよがしに眠気を誘ってくる。

 しかしこんなところで眠ったのでは、ヨルミコトが何をしでかすか分かったものではないので、私は小さく頭を振った。


 外に見える緑は、心做しかくたびれたような色味をしており、季節の移ろいを感じさせる。

 こうしていると、何だかつい回想などを始めてしまいそうになるけれど。

 それを阻止しようというわけでもないだろうが、ようやっとこの部屋へ近づいてくる人の気配を感知。

 私は小さく居住まいを正し、彼、彼女らとの対面に備える。

 するとすぐに部屋の扉が開き、三人の人物が入室してきたのだった。


「すみません、お待たせしました!」

「おぅミコトに勇者様も、この間ぶりだね!」

「ふん、来おったな」


 姿を見せたのは、Aランク冒険者のチーナさん、鍛冶師のオレ姉、そしてこの工房の主でオレ姉の師匠であるゴルドウさんだ。

 そう、私たちは今ゴルドウ工房にやってきている。例によってここはその応接間だ。

 何だかんだで今は、この工房で過ごしているチーナさん。彼女が来訪した私たちをここへ通してくれ、オレ姉とゴルドウさんを呼んできてくれた形である。

 では、何故私とイクシスさんがここを訪れたかと言えば、そんなのは当然決まっている。

 制作を依頼した武器の受け取りに他ならない。


 私たちは手短に挨拶を交わすと、早速対面する形でソファへ腰を下ろした。

 すると勿体ぶるでもなく、オレ姉が手ずから携えてきた横長の箱を、静かにテーブルの上に置き。

「しっかり調整しておいたよ。確かめてみておくれ」

 と、私へ査収を促してくる。


 一つ頷きで返した私は、やや緊張しながらも、徐に箱へ手をかける。

 すると何故か、私以上に隣のイクシスさんがソワソワしており。

「は、はやくっ。早く開けて見せてくれっ」

 なんて急かしてくるじゃないか。

 案の定呆れたようにゴルドウさんがぶつくさ言ってくるが、そんなものはどこ吹く風。視線は箱に釘付けである。

 私は小さく苦笑すると、いよいよ箱の上蓋を開け、その中身を改めたのだった。


 姿を現したのは、一張の奇妙な弓。


 大きさで言えば長弓に分類されるだろう。

 それも、シンプルで美しい、弓道に用いられるような弓とは異なり、アーチェリー用のそれに近い。

 いや、オレ姉のギミックを仕込んであるっていうんだから、見た目はアーチェリー用の弓より余程ゴテゴテガシャガシャしている。

 一般的に見たらまぁ、邪道だと怒られそうなものだけど。個人的にはどうしても、ときめきを覚えてしまう設計である。


 しかしまぁ、それより何より、だ。

 この弓の最大の特徴は、そんなギミックにあらず。

 最も特筆するべきは、何とこの弓……弦が存在しないのである。

 弓の命とも言える弦のない弓。それこそ邪道中の邪道だ。

 が、勿論本当に存在しないわけではない。ちょっぴり特殊なものを採用しているだけで、一応ちゃんと弦はあるのだが。

 しかし見た目には、そんなもの何処にも見つけることが出来ないわけで。

 初見の人はきっと、眉をひそめて首を傾げるに違いない。


 私は早速そんな、一風変わった弓を箱から取り出し、簡単に具合を確かめてみる。

 瞬間、弓から私へと思念が流れてきた。

 素材として用いられた、心命珠の思念である。

 この弓には、以前中間報告会の際に私が倒した、アメンボ女の心と力が宿っているわけで。

 謂うなればこれはクラウの聖剣同様、『意志を宿した武器』ということになる。

 

 更にはオレ姉ならではのギミックや、ゴルドウさんが太鼓判を押すほどの品質、私の魔道具作りの技術を詰め込んだ魔道機構に、用いた素材より引き継いだ特殊能力まで抱え込んだ、ウルトラ豪華な仕様となっており。

 最強武器の試作品として、非常に高い完成度を誇る逸品と相成った。

 既に数度の細かな調整を経ており、今回この後の試用にて十分な性能を発揮すれば、晴れて完成となる。


「この子が完成すれば、いよいよ準備が整う……!」


 そう。この弓は私専用の最強武器という以上に、『対王龍戦』に備えた特攻武装という意味合いが大きい。

 まぁ特攻を謳うには、王龍の弱点分析なんて全然出来てないんだけどさ。

 それでも、この武器なら奴へ効率的にダメージを通せるはず! というコンセプトで制作のなされたものである。

 奴との再戦に於いて、きっと大きな力になってくれることだろう。


 私は期待を胸に腰を上げると、皆とともにこの弓『ムゲンヒシャ』のテストへと向かったのだった。



 ★



 今から約、三ヶ月前。

 モチャコやゼノワと一緒にグランリィスへ到着し、皆と離れての活動に終止符を打った私である。

 ところが、そこである事実が判明した。


 成長した皆と比較して、私の力が見劣りしてしまっていたのだ。


 それはレッカたちに敗北したことからも明らかであり、そうでなくても皆の総力を結集したところで、果たして王龍に勝てるかというのは難しいところだった。

 故に、私たちはそこから更に戦力増強へ注力したのである。

 皆は引き続きステータスアップに努め、他方で私はより強力な装備を求めて奔走した。

 と同時、綻びの腕輪の育成にも力を入れ。

 そうして基礎戦力をモリモリ高めていったのである。


 ムゲンヒシャの開発は、それらと並行して行われたプロジェクトだ。

 勿論縛りなどは全面的に解除していたため、念話にて連絡をもらってはイクシスさんとともに度々工房を訪れ、アイデアを出し合ったり試作品を試したり調整を施したり。

 そうこうしてようやっと、ここまで形にしたのだ。




 ゴルドウ工房より転移して、場所は険しい山岳地帯の只中。

 標高は高く、見晴らしも良い。眼下には絶景が広がっており、登山家が好みそうな山々が連なるように立ち並んでいる。

 そんな空気の薄い現地へ一緒についてきたメンバーは、イクシスさん、オレ姉、チーナさん、ゴルドウさんという、応接間に居た全員だ。

 早速皆でマップウィンドウを眺め、今回テストの相手として選んだモンスターの確認をする。

 余談だが、晴れてゴルドウさんにもマップスキルの共有が可能になったので、文字通り皆でマップを眺めている。


 マップには、赤の三ツ星が禍々しく表示されており。

 相手が生半可なモンスターでないことを、はっきりと知らしめていた。

 確かに恐るべき強敵だ。が、こいつに通じないようでは、きっと王龍戦での活躍だって見込めないだろう。

 私はムゲンヒシャを握りしめ、一人前へと歩み出た。


 しかしながら、マップでなく肉眼で辺りを見渡してみると、件の赤の三ツ星モンスターらしき姿は何処にも見えず。

 マップにしたって、漠然と私たちの前方にモンスターを示す巨大なアイコンがあり、そこに星が付いているだけ。

 後ろではオレ姉たちが不思議そうに首を傾げていた。

 けれど奴は確かに居るのである。現に心眼は既に、奴の居場所を捉えているわけで。


「まぁ取り敢えず、直接攻撃を仕掛ける前に先ずは、『双剣モード』から試してみようかな」

「よっ! 待ってました!」

「お、早速かい」


 ムゲンヒシャのメインはあくまで弓。双剣モードとは、敵に接近された場合に対応するためのセカンダリ的な位置づけにある形態だ。

 とは言え、勿論十分な性能は持っており、舞姫やツツガナシなんかと比較しても引けを取るようなものではない。

 ただ、些か個性に欠けるというだけの話である。


 私はムゲンヒシャを弓柄の部分から上下に分け、一対の剣へと変形させた。

 ガシャコンという心ときめくギミック音とともに、双剣形態へと形が変わる様は、何度体験してもウキウキしてしまう。

 これにはイクシスさんもニッコリだ。


 アメンボ女の力を宿した双剣。

 その効果は『浸透』であり、簡単に言ってしまえば物質をすり抜ける効果を有している。

 なので、ムゲンヒシャによる斬撃を得物で受けようとした場合、私は任意にそれを素通りし、相手を直接斬りつけることが出来たりする。

 もっと言えば、鎧なんかも意味を成さない。硬い表皮も何のそのである。

 そして多分、王龍の鱗ですら。


 ただ、王龍を相手に近接戦闘というのは……うん。

 あの巨体である。ダメージ効率はよろしくないだろう。

 相手次第では強力な武器になるのだろうけれどね。残念ながら双剣モードは、多分王龍とそれほど相性が良くないだろう。


 なので、本命は弓なのだ。

 私はしばらく、皆の前でブンブンと剣舞さながらに双剣を振るってみせ、ある程度使用感を試してみた。

 そこらの岩へ浸透を仕掛け、問題なく機能することも確認した。バッチリである。

 剣身は岩を傷つけること無くヌルリとすり抜け、何とも奇妙な手応えを返してきた。

 なるべくしてなった事とは言え、やはり不思議なものである。

 ともあれ、満足した私は試用を終え、双剣の柄尻同士を噛み合わせて弓モードへと合体変形させる。

 このパーツがガシャリと組み合わさる感じがまた気持ちいいのだ。


 一通りオレ姉たちへ双剣モードを振るってみた感想を伝え、イクシスさんの「私も触ってみたいぞ!」という要望を一旦スルーし。

「さて、それじゃいよいよここからが本番だ」

 皆が注目する中、私はマスタリースキルの導きに従い、ムゲンヒシャをゆっくりと構えた。

 果たして、この武器は赤の三ツ星に通用するのか。


 やや緊張を覚えながら、私は静かにムゲンヒシャへと魔力を流し込むのだった。

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