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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六一四話 お疲れ様パーティー

 私(本体)がイクシス邸で、皆とワイワイしている頃。

 コミコトもまた、おもちゃ屋さんで師匠たちとワイワイしている最中だった。


 モチャコやゼノワと帰った頃には、まだパーティーの準備中だった師匠たち。

 そのため私たちはしばらく時間を潰すために、地下の謎空間にて鍛錬の続きである。

 折角旅を終えて帰ってきて、最初にやることがそれというのがまた、私たちらしいと言えば良いのか何なのか。

 それでも、ブーブー文句を言いながらも鍛錬に付き合ってくれる辺り、やっぱりモチャコは師匠なんだなと感じる部分だったり。

 ゼノワはゼノワで、絡繰霊起をもっと使いこなせるようにと、お箸で小さなビーズを摘み上げる特訓なんてやっていて、私もびっくりな器用さを身につけつつあった。


 ただ一点気になったのは、モチャコの表情がどこか浮かない感じだったこと。

 疲れているのかと言えば、そういう風でもないし。

 心眼には、何だか考え事をしているような様が見て取れ。気になりはしたけれど一先ずそっとしておくことにした。

 私は私で、レッカたちに負けたことをまだ引きずっていたからね。

 相談に乗るにしても、中途半端な気持ちで向き合うべきじゃないもの。



 そうしてしばし地下で、諸々の鍛錬に励んでいると。

「おーい、準備できたよー」

「お待たせしちゃったかしら。さぁ行きましょ」

 と、ユーグとトイが呼びに来てくれたので、私たちは鍛錬を切り上げてリビングへと向かったのである。


 私(本体)でもくつろげるようにと、いつの間にやら作られた広々としたリビング。

 普段は何だかんだで、大型の工作をするのに丁度いいからと、なんやかんやおもちゃの部品が転がっていたり。はたまた運動不足解消にと、師匠たちが体を動かしていたりと、多目的ホール的な場所として利用されることも多いリビングスペースである。

 そんな場所が、今日は何とも賑やかに飾り付けされており、色紙などを用いたアナログな装飾ばかりか、魔道具を用いた立体映像による演出まで施された豪華仕様。

 おもちゃ屋さんだけあって、まぁ子供が大喜びしそうな夢の詰まった空間へと大変貌を遂げていたのである。


 並べられた料理も、師匠たちの主食である植物由来のアレコレを用いた甘味が揃っており。

 そういった意味に於いても、子供が喜びそうなセッティングだった。

 そしてこれを目の当たりにしたモチャコは、盛大にテンションを上げ。

 コミコトである私やゼノワは特に飲み食いはしないのだけれど、嬉しそうな皆の様子を見るだけで自然と気持ちが高揚した。

 幸せは伝播する、というやつかも知れない。素敵なことである。



 そのようにして幕を開けたお疲れ様パーティーは、面白いもので参加人数だけで言うとイクシス邸を凌駕していた。

 何せおもちゃ屋さんに住まう妖精たちは、何十人も居るのだ。

 イクシス邸にも使用人さんはたくさん居るけれど、彼ら彼女らはあくまで裏方だからね。

 一方でこちらは、みんなで準備をし、みんなで参加するというホームパーティースタイルだ。

 ワイワイガヤガヤと、耳に届く音の厚みは向こうの比ではなかった。まぁ勿論、比べるようなものでもないんだけどさ。

 小さなパーティーなのに、イクシス邸の豪華なお疲れ様会にも引けを取らないのが、なんだか面白いなって。そう思ったのだ。


 開始の挨拶を私・ゼノワ・モチャコで述べてからは、しばし歓談と食事の時間が続いた。

 人一倍賑やかなモチャコは、皆の輪の中心で旅のエピソードを調子よく語っていた。


 初日、リィンベルを離れた私と合流し、旅の一歩目を踏み出したこと。

 かと思えば次の日から、中間報告会に向かった私にがっかりしたこと。

 代わりにやってきたコミコトと、極力人目につかない無難な旅を数日送ったこと。

 戻ってきた私が早速、道の真ん中でモンスターに襲われていた馬車を遠距離魔法で救ったこと。

 そして。

 タルファでウエダちゃんと知り合い、依頼を受けたこと。

 依頼を果たすべく、ベイダの町に向かったこと。

 そこで遭遇した、事件の顛末まで。


 最初は楽しげに耳を傾けていた師匠たちも、シリアスな話の内容には真剣に聞き入っていた。

 何せ子供にも被害者が出た話である。そんな話を笑って聞けるような妖精たちではないのだ。

 幸い、依頼にあったヨシダちゃんは事件が起こる以前に引っ越したというオチで、張り詰めるような空気もだいぶ弛緩を見せた。


 そして、気を取り直すように語られる続き。

 道中鍛錬をしながら延々と移動を続けたこと。

 途中で依頼の達成報告をするべく、別の町に立ち寄ってウエダちゃんへ手紙を送ったこと。


 グランリィスを目前に、私が模擬戦で敗北したこと。

 グランリィスの路地の奥で、私が子供たちをビビらせたこと。

 最後に、勇者の家を遠目に見てきたこと。


 ざっくりとした語りではあったけれど、なかなかどうして聴き応えのある内容だった。

 移動ばかりの旅路だった印象が強いけれど、こうして思い返すと確かに、意外と色々あったものである。

 その移動に関しても、地味に裏エピソードがチラホラあるしね。

 案外充実した旅だったのかも知れない。


 そうして、一通りの語りを終えたモチャコだったけれど。

 しかし最後に、彼女は一つ思いを吐露したのである。


「アタシさ、思ったんだ。もっと子供たちのために、何か出来るんじゃないかって」

「……どういうことー?」

 ユーグの相槌めいた問い返しに、モチャコは言を継ぐ。

 他の師匠たちも、興味深げに耳を傾けた。


「アタシたちの知らないところでさ、やっぱり悲しい思いをしてる子ってたくさん居るんだよ。……もしかしたら、このお店に来てくれた子の中にも、大変な目に遭った子だっているかも」

「そう言えば、勇者だってそういう子の一人だったわね。幸い彼女は、今や子供たちの憧れの的にまで成ったけれど」


 その昔イクシスさんは、このおもちゃ屋さんでおもちゃを貰ったことがあるのだと、いつかそんな話をしてくれたことがあったっけ。

 それで言えば確かに、イクシスさんも幼くして大変な目に遭った子供の一人だった。

 そして大抵の子は彼女と違い、不幸に抗えず、そのまま命を落とすことだって珍しくないのである。

 この世界には、そんな脅威が幾らでも転がっているのだから。


「そりゃさ、悔しいけど全ての子を救うことは出来ないよ。アタシたちの手は、こんなに小さいんだもん。抱えられるものはちっぽけさ」

「グル……」

「モチャコ……」

「けどさ!」


 ぐっと、拳を握って瞳に強い光を宿す彼女。

 小さな体に見合わぬ、確かな迫力を放ち、モチャコは唱えたのである。


「アタシは、少なくともアタシのおもちゃを手に取ってくれた子くらいは、何があっても幸せに生きて育ってほしいって。そう思ったんだ!」


 ゴクリと、誰かが喉を鳴らす。

 そんな微かな音が耳に届くくらいの静寂だ。

 さりとて、それを静かだとは思わない。誰もがモチャコの言葉に、何かしら思うところがあったからだ。

 皆が皆、彼女の言葉を自分に当てはめて考えている。

 するとそんな中、トイの声が静かに響いた。


「なにか考えはあるの?」


 皆も気になるのだろう。再びモチャコへと集まる視線。

 そんな中、その問いかけにモチャコは頷くでも、首を振るでもなく答える。


「おもちゃに、いざっていう時持ち主の子を守ってくれるような、そんなギミックを仕込もうと思ってる。具体的なことはまだこれからだけど……」


 これまでのおもちゃは、ただ子供たちを楽しませるということにのみ特化し、そのことを追求して生み出されてきた作品ばかりだった。

 けれどモチャコはそこに、新しく『子供を守護するためのギミック』を仕込みたいというのだ。

 それはベイダでの体験や、昼間に私がやらかしたアレも踏まえてのことだろう。

 危機を目の前にして、子供たちはあまりに無力で。けれど時として勇敢で。

 そんな危険な勇敢さは大体の場合に於いて、彼らを更なる窮地へと追いやるのだ。


 本来護られて然るべき子供たち。

 さりとて必ずしも、守り手が十全に機能するわけじゃない。

 時には親の目の届かぬ場所で、危ない目に遭うこともあるだろう。

 あまつさえ、親のいない子だっている。

 あるいは、親でさえどうにも出来ない脅威が迫ることも。


 モチャコは、そうした子供たちを脅かすあらゆる危険から、彼らを護ってやりたいと。そう言ったのだ。

 自分のおもちゃが彼らの『お守り』になるようにと。


「それが、私たちとの旅を経て、モチャコが得た『気づき』なんだね」


 私の声に、力強く頷きを返すモチャコ。

 私たちが旅を経て成長したように。

 モチャコもまた、旅の過程で得たものがあったというわけだ。


 そして、これには他の師匠たちからの賛同も多く集まり。

 お疲れ様パーティーの最中ではあれど、このことをきっかけに新たなプロジェクトが立ち上がることになったのである。


『旅は子を成長させる』だなんて言って、最初は私の一人旅に猛反対した師匠たち。

 それが終わってみれば、私ばかりかモチャコも精神的に一回り逞しくなり。

 挙げ句周りを驚かせるようなことを言ったのだから、皆の危惧したこともあながち間違いとは言い切れないのかも知れない。


 ともあれ、斯くして思いがけない展開もありつつ、お疲れ様パーティーは更なる盛り上がりを見せたのだった。

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