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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六一〇話 グランリィスと再会

 聳える白の街壁は、そこらの建物の倍以上も背が高く。

 私はこういった頑丈な壁を目にする度、決まって首を傾げるのだ。

 だってそうだろう。大きな街には人が集まる。冒険者だって例外じゃない。

 そうすると街の近くではダンジョンが育たない。

 だから、フィールドを徘徊するモンスターも弱いんだ。


 だって言うのに、大きな街ほど壁が立派だったりする。

 一体この壁は、何から街を守っているんだろうね。

 もしかして権威の象徴、みたいな意味合いを持っているんだろうか?

 人間のすることって、時々よく分かんないよね。今度その辺の事情も誰かに尋ねてみようか。本で調べてもいいけど。


 なんて、ぼんやり高い壁を眺めていると。

 傍らで、ゼノワの背に跨っているモチャコが珍しく静かなことに気づいた。

 その表情を窺い見れば、いつになく寂しげで。

「とうとう、着いちゃったんだね……」

 なんて、小さな呟きを零していた。


 現在私たちは、グランリィスを囲う街門の前に立っており。

 目の前の門を潜り抜けたなら、いよいよ旅路に終止符を打つことになる、という所まで来ていた。

 当然、その胸中は複雑だ。

 旅の終わりを惜しむ気持ち。寂しさもあり、それでいてようやく次のステップに進むことが出来るのだという期待感も。

 仲間たちと再会を控えたドキドキもあれば、レッカたちに負けた悔しさだって尾を引いている。


 モチャコにしたって、この門を抜けたならおもちゃ屋さんでの日常に帰っていくわけだ。

 それを思えば、その胸の内にはどんな思いが広がっていることか。

 ゼノワが、そんなモチャコを気遣わしげに「グゥ」と鳴く。

 モチャコはそれに、ペンペンとゼノワの頭を軽く叩いて応えつつ。

「ありがと、ダイジョブだよ」

 と、微笑んでみせた。

 強がりというわけではないらしい。なぜなら、ようやくここまでやって来たという達成感もまた、紛うことのない本物だからだ。


 それに、今夜はイクシス邸でもおもちゃ屋さんでもパーティーである。

 そのためには、ここでまごついてもいられない。


「それじゃ、行こっか」

「うん!」

「ガウ!」


 モチャコたちの小気味良い返事を受け、私たちは街門へ向けて歩を進めたのである。



 ★



 時刻は午後一時を過ぎた頃。


 街門での審査をクリアし、トンネルが如く薄暗い門の下を潜り歩む足は、何時になくふわふわしていて。

 何だか落ち着きのないモチャコやゼノワと一緒に、私はいよいよ門の下よりグランリィスの街中へと、足を踏み入れたのだった。



 薄暗い門の下より、陽の光のもとへ歩み出た私たち。

 眩しさに一瞬目を細める。

 そうして。

 視界に飛び込んできたのは、白を基調にした清廉なる街並み。

 英雄ヲタクの集う、文化と才能の街の姿だった。

 この街には古今東西より、書物や詩、演劇に絵画など、英雄にまつわるあらゆる作品が集う。

 それと同時に、英雄を志す才能ある若者までもが集い、切磋琢磨し合う。そんな場所でもあった。


 そんな、世界的に見ても一風変わった雰囲気を持つ街、グランリィス。

 私たちはようやっと、その地へと自らの力で至ったのである。

 自然と、得も言われぬ感情が胸にぶわりと浮かび。

 ふと脳内に、旅の始まりの光景が浮かびだしたが最後、火がついたようにここまでの旅路がフラッシュバックを起こした。


 感極まる、とはこういう事を言うのだ。

 ぐいっと、謎の力で口がへの字に力み。湧き上がる感情は、涙腺から涙となって溢れてしまった。


「う……ぅぅ……」


 我慢できず、小さな嗚咽が漏れる。

 仮面の下がまたカピカピになってしまうが、今はそんなことに構っていられない。

 どうにか荒ぶる感情を乗りこなそうと試みるも、それは如何にも難儀であり。

「あはは、何さミコトったら、泣いてんの?」

「グラグラァ」

 などとからかってくるモチャコやゼノワだって、そのくせ自分も目尻に涙を浮かべているじゃないか。


 私たちはしばし、街の入口で道の隅っこに捌け、氾濫した感情が落ち着きを取り戻すのを、街並みを眺めながら静かに待つのだった。

 すると。


「ミコトっ!!」

「っ!」


 ガバッと、唐突に何者かが私のことを強く抱きしめたのである。

 この私に気取られずにこんな事が出来る者なんて、世界広しと言えどもそうは居まい。

 なんて心の中でそれらしいことを宣いながら、私はまた溢れてきた涙も気にせず、彼女を強く抱きしめ返したのだった。


 オルカである。


 やや遅れて、そこへ他の仲間たちも駆けつけてきた。

 ココロちゃんがひしっと横腹にしがみついてきて、クラウが何だか微笑ましげに後ろで苦笑している。

 他方でソフィアさんはと言えば、モチャコと目が合ったのだろう。会釈をしているようだった。

 これによりオルカたちの姿が見えないモチャコも、状況を察し。一歩引いた位置から成り行きを見守る姿勢に入ったみたいだ。



 そうして、暫しそのように再会を喜びあった私たち。

 ようやっとそれも落ち着き始めた頃、徐に身体を離したオルカが、綺麗な微笑みとともに言ったのである。


「ミコト、おかえり」


 旅の終わりを示す言葉。

 途端にぐっと、胸中に込み上げる様々な感情。

 とっさに返事できず、私が声を詰まらせていると。

「あ、ズルいです! それは妻である私が言うべきセリフ!」

 なんて、ソフィアさんがそこへ噛みつき。

 更にはココロちゃんまで物申し始めたものだから、しんみりした空気も賑やかさに追い立てられ。

 すっかりお姉さん役が板についたクラウが、そんな彼女らをやれやれと諌めに掛かるものだから、私も苦笑を浮かべずにはいられなかった。



 ★



「モチャコたちと一緒に、この街を見て回りたいんだ」


 私のそんなお願いを、オルカたちは快く受け入れてくれた。

 先にイクシス邸に戻ってパーティーの準備をしている、ということで、皆と別れてグランリィスを散策することに。

 時刻は早くも午後一時を回り、昼食を終えた私たちは、街の通りをキョロキョロしながら歩いているところである。


 大人の人を認識できないモチャコでも楽しめる場所はないだろうかと、あっちこっちフラフラしながら街を散策していると、存外この街にはそういった物がチラホラ見つけられることに気づいた。

 例えば、本屋さんだ。

 英雄譚を中心に、様々な書物が豊富に揃えられた本屋さん。他の街と比べても、先ず軒数からしてずっと多いように思える。

 更にはお店毎にこだわりも見え、品揃えの偏りがそのまま個性として現れている。

 書物などの制作物であれば、子供云々関係なくモチャコも問題なく鑑賞することが出来るため、本屋巡りは彼女もなかなかに楽しめたようだ。


 同じような理屈から、服やアクセサリーなどの展示されたファッション系アイテムや、武具などの冒険アイテムも彼女の興味を惹きつけたらしい。

 それに何より、魔道具だ。以前訪れたタルファの町より充実したラインナップに、モチャコのテンションも急上昇である。

 そんな具合に、いろんなお店を眺めながら歩いていると。


「ガウ」

 ゼノワが何かを見つけたようで、不意に声を掛けてきた。

 彼女の指す方へ意識を向けてみれば、子供たちのキャッキャとはしゃいでいる声が、路地の奥から聞こえた気がした。

 これにはすかさず反応するモチャコ。

 ピューと飛んでいく彼女の背を追って、私たちもまた狭い路地へと入り込んでいったのである。


 日向の白い壁と、黒い影の対比は、夏が近いこともあって顕著で。

 何だかゆらりと遠ざかる現実味の中、私たちは路地の奥、開けたそこへと迷い込むように足を踏み入れたのだった。

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