表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

607/1721

第六〇七話 無効

 開始の合図を請け負ったのは、私だった。

 公平を期すために、放り投げた火球が放物線を描き、地に落ちて爆ぜたのを模擬戦開始の合図としたのだ。

 地面で跳ねた火球が、見掛け倒しの派手な火花を大きく爆ぜさせる。さながら打ち上げに失敗した花火のようだ。


 そして。

 瞬間、スイレンさんが楽器の弦を勢いよくかき鳴らした。

 ジャカジャン!

 テンポの速いバトルBGM、しかもオンボーカルだ。否が応でも気持ちがたかぶろうというもの。

 ……なのだが。


「ぐっ……!」


 私に伸し掛かったのは、凄まじいデバフである。

 ステータスを軒並み大幅に低下させる、強烈なやつだ。

 殊更音楽っていうのは、精神を揺さぶるもの。従ってMNDは酷く圧迫されているらしい。

 普段なら熱い音楽にテンションが上って然るべきところが、音に受けた印象は逆さま。

 テンションが下がる、というのではないが、気圧されるような、流れを相手方に掴まれているような、問答無用に不利を強いられた感じである。

 単なるデバフと言うだけじゃない、気持ちにも作用するというのだから、音楽とは敵に回せば本当に厄介なものだ。


 忌々しげにスイレンさんを一睨み。

 けれど、彼女に気を取られている場合ではない。


 私と対照的に、レッカは演奏による支援スキルの効果でステータスを激増させ、放つ存在感が一回りも二回りも大きく感じられた。

 これだけで、既に十分すぎる脅威である。

 以前にも増して凶悪になったスイレンさんの演奏スキル。遮音魔法で遮ろうと貫通してくる、デタラメな仕様だというのだから手に負えない。


 だが勿論、彼女らの手札はこんなもんじゃない。

 スイレンさんはバフやデバフ以外の支援スキルも隠しているし、魔法もある。

 そして何より、レッカだ。

 とんでもない迫力で私を見据えている彼女は、愛剣に尋常ならざる炎を纏わせている。

 以前、自身の炎で大火傷を負った彼女は、特訓の果てに【熱無効】のスキル獲得に成功した。

 これにより、実質リミッターを解除したレッカ。彼我の距離にして五〇メートルはあるはずなのに、こちらまで紅蓮剣の熱量が届いているほどだ。

 はっきり言って、接近するだけで火傷を免れないレベルだろう。


 いっそ私も熱無効を獲得するべきだろうか?

 いや、それは今じゃないか。実戦ならともかく、試合でやるようなことじゃ……。


「いいよ、ミコト。【熱無効】真似しても」

「!」


 開口一番、レッカから飛んできたのはそんなセリフだった。

 眉をひそめる私へ、彼女は言を継ぐ。

「このままじゃ、近づけないからって魔法戦を仕掛けられそうだからね。それは私の望むところじゃない」

「……なるほどね。でも良いの? せっかくの強みなのに」

「ぽんぽんスキルを覚えるのも、ある意味ミコトの能力なんだから仕方ないよ。その上で、私たちが勝てばいいだけの話!」

「はっ! 言うじゃん!」


 小気味の良い挑発だ。

 思わず口角が上がり、私はレッカの魔力を集中して観察した。

 叡視のスキルで読み解き、魔力のカタチを模倣する。

 スキルシミュレーターで結果を予測し、目的のスキルを丁寧に探して。

 そして。


「うわっちょ!」


 スイレンさんの魔法による妨害を受けた。

 鋭い水の鞭が迫り、私はそれを紙一重でやり過ごす。

 熱無効を真似していいとは言ったけど、邪魔をしないとまでは言ってない。

 ズルい、けどそれも一つの作戦だ。文句は言うまい。


 すると、彼我の距離をほんの一瞬で詰めたレッカが、無遠慮に斬りかかって来るではないか。

 悪戯っぽい笑みが何とも小憎たらしい。って言うかめちゃくちゃ熱いんですけど!

 堪らずステップで距離を取るが、演奏のバフ・デバフで大きく溝を開けられたステータス差により、レッカの動きに私は対応できない。

 已む無く、使わないつもりでいたテレポートにて彼女の背後に飛ぶも、しかし彼女の反応が異様に速い。

 読んでいたとばかりに迫る紅蓮剣を、今度はテレポートで大きく距離を取りやり過ごす。

 が、次に飛んできたのは天駆ける炎の刃。属性アーツスキル【飛炎剣】だ。


 しかも、である。

 スイレンさんの奏でる音が変わった。コミコトを通して覚えのある曲だ。

 私は仮面の下で歯噛みし、試しに再度テレポートを試みる。


 不発。


 案の定の結果に舌打ちしながら、私は蛇腹剣にて迫る炎の刃を叩き落としに掛かった。

 だが、威力が尋常ではない。

 鞭のように伸びた蛇腹剣は、飛炎剣と一瞬の拮抗を見せた後、敢え無くその半ばから断ち切られてしまったのだ。

 しかし生じた一瞬の拮抗が、私にとっては重要だった。


 稼いだ刹那の間に、私は数度隔離障壁の展開を試みた。

 自身を外界より隔離するように展開しようとするも、失敗、失敗、失敗。

 けれど数度目のチャレンジにて、ようやっとそれは発動したのである。

 最強クラスの障壁は、間一髪のところで飛炎剣の脅威を見事に阻み。

 すかさず私は裏技にてMPを軽く補充する。


 ふと、スイレンさんと視線がぶつかった。

 苦い表情でこちらを睨む彼女。無理もない。

 今の一瞬で、スイレンさんは少なからずMPを浪費したのである。

 原因は、そう。

 私のスキル発動を妨げた、彼女の新たな演奏スキルにあった。


 特訓の中で彼女が新たに獲得した、演奏効果が一つ。

 演奏の届く範囲内にて生じる、あらゆるスキルの発動を任意に妨害するという、敵に回すと厄介極まりない恐るべき支援スキルである。

 ただしその代償として、発動を阻んだスキルに用いられるMPの、倍のMPを支払う必要があるらしい。

 例えば私がMP消費1のスキルや魔法を放とうとした場合、スイレンさんはそれを妨害するために倍の2を消費するという仕組みである。


 この情報を予め知っていた私は、比較的MPコスト重めの隔離障壁を繰り返し発動しようと試みることで、数度スイレンさんにMPを消費させたわけだ。

 なんならスイレンさんのMPを食い尽くす勢いで試行を重ねたため、それと察した彼女はおとなしく引き下がってくれたようだ。

 そうして私は、展開した隔離障壁内で使った分のMPを補充。

 対するスイレンさんは、半ば一方的にMPを削られたという格好である。


 そして。

 せっかく隔離障壁を張ったのだ。この機を逃すわけには行くまい。ここで熱無効をモノにしなくては。

 私はレッカを鋭く観察し……。


(ええい、無効系のスキルってなんでこんなに難解なんだ……!)


 苦戦を強いられた。

 以前百王の塔で、物理無効を覚えた時にも通じるものがある。

 いや、流石にアレと比べたならまだ易しいけども。しかし他のスキルのように、スムーズには行かない。

 眉根に力を込めて、ぐぬぬと熱無効スキルを模倣しようと頑張っていると、こちらに動きがないと見てスイレンさんがMP回復薬を呷り始める。

 レッカに至っては変顔をして煽ってくる始末。


 しかしそれも数秒のこと。

 イラッとする気持ちをどうにか抑え込み、ようやっと発動に成功した熱無効。

 これでようやく、レッカとまともに打ち合えそうだ。

 破損した蛇腹剣も、自己修復の特殊能力に加えて治癒魔法を用いたことで既に直っており、戦闘継続に支障はない様子。


 せっかくだから虚を突いてやろうと、私はテレポートを駆使して隔離障壁の中から転移。

 変顔煽りをするレッカの死角に躍り出て、蛇腹剣の一撃をその背に浴びせかけた。

 ところが。

「!」

 レッカの愛剣はしかと、私の斬撃を阻んでみせたのである。

 さながら、背中に目でも付いているのではないかと疑いたくなるような挙動。

 剣士として、大きな成長を遂げたレッカ。 

 更には再開されたスイレンさんの演奏で、再び生じる隔絶したステータスの差。

 幸い炎熱の影響は、私も無効化出来るようになったけれど、さりとて一つ気付きを得る。


(熱を無効化すると、引き換えにMPを削られる……!)


 スイレンさんのスキルキャンセリングに似た現象だ。

 熱による影響を阻む代わりに、相応のMPを消耗するらしい。

 が、その割に涼しい顔をしているレッカ。彼女の様子は、とてもMPを継続消費しているようには見えない。

 そこで、思い至った。


(もしかして、スキルの成長……?)


 スキルレベルの他に、スキルは使用者の理想に応じた変化を遂げていく。検証を繰り返した結果、私はその仮説に確証を得た。

 なれば必然、覚えたての私の熱無効はスキルレベルも最低で、当然成長による変化もあったもんじゃない。

 対するレッカの熱無効は、スキルレベルとともに消費MPも低く抑えられるよう進化したのではないか。

 あ。それに加えて熱無効の前身である【熱耐性】のスキル。これも相当に鍛えられているはず。

 二つ合わせれば、熱を打ち消すのに必要なMP消費なんて殆ど無いも同然か。

 そう考えると、なるほど。

 真似していいよだなんて、道理で軽く言えるものだ。


 甘く見ていたわけではないけれど、どうやら想像以上の苦戦を強いられそうである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ