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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六〇六話 力試しの誘い

 ギラリと照らす太陽、乾いた土と風、荒涼たる大地が漫然と広がるここは、そう。

 お馴染みの『いつもの荒野』である。

 ついさっきまでグランリィス近郊にて、謎テンションのレッカたちに振り回されていた私たちは、成り行きからこんな場所へやって来ていた。勿論転移で。


 こちらから五〇メートルほど距離を空けて対峙するレッカたちは、ストレッチ風の準備運動をしており、見るからにやる気を漲らせている。

 というのも、これより始まるのは例のやつ。

 節目節目で行われる私たちの力試し。即ち、模擬戦である。



 遡ること二〇分ほど前。



 ド派手な名乗りに圧倒された私たち。

 仮面ボウケンシャーなどとポーズ&爆発付きで登場してみせたにも関わらず。

 さりとてそんな茶番はいとも容易く引っ込んだのである。


 やるだけやった二人は、スンと我に返り。

 さっさと仮面を外すと、何事もなかったかのように仕切り直したのだった。

「はい、というわけでね。やぁミコト、久しぶり! 元気にしてた?」

「はぁ、はぁ……お久しぶりです~」

 ってなものである。


「あぁ、うん……っていうか今のは何だったの……?」

「え? そりゃぁ正体がバレないようならそのまま話を進めて、後で正体を明かすっていう段取りだったんだけど」

「即バレでしたね~」

「むしろ何故バレないと思ったし……」


 さして気にした様子もなく、そのように語る二人。

 そりゃ髪も装備も魔力の感じも、それに声も。バレる要素てんこ盛りだもの、流石に一目で気づくだろう。

 しかしまぁ、どうやら変装自体に大した意味は無かったようで。本当にちょっとした茶番だったらしい。


「ってか、二人はわざわざどうしたのさ? もしかして迎えに来てくれたの?」


 そのように問いかけてみる私。

 わざわざここまで猛スピードで駆けつけて、まさか一発芸を披露しに来た、なんてことはないだろう。

 であれば一体、何の用があってわざわざやって来たのだろうか。

 すると問を向けられたレッカたちは、浮ついた空気を徐に引っ込め。

 何処か挑戦的な微笑みを浮かべると、切り出してきたのである。


「さすがにオルカたちを差し置いて、そんな事はしないよ。私たちがみんなより一足早くミコトに会いに来たのは……」

「力試し、のためです~!」

「!」


 ピリリと、ヒリつくような迫力を仄かに漂わせながら、そう述べる二人。

 腕試し。即ち、模擬戦である。

 私がそのように理解したのを察し、レッカたちは更に言を継いだ。


「ミコトの成長については聞いてるよ。連鎖魔法に連射スキル……中間報告会から一月足らずで、おかしな戦法を二つも編み出したそうじゃない」

「翻って私たちも、中間報告会以降もりもり力を蓄えているんですよー、急成長というやつです~!」


 勿論知っている。

 コミコトを通して、目覚ましい成長を続ける二人の様子は、しかと見させてもらっている。

 何だったらその手の内さえ、実はよく知っているわけで。

 模擬戦というのなら、情報の観点から見て私のほうが優位に立っていると言えるだろう。

 が、コミコトに関してはあまり詳しく説明したくない。何せ妖精の技術にガッツリ関わることだからね。

 しかしそれではフェアではないし……まぁ、当たり障りのない程度に伝えるべきことだけは伝えておこうか。


「私も二人の成長については、一応知ってるよ。どんなスキルに目覚めたのか、とか大凡はね」

「! へぇ、やっぱり『コミコト』っていうのが関係してるのかな?」

「ミコトさんの『もう一つの身体』、でしたっけ~……」

「まぁ、そんなところかな」


 流石に、コミコトを持ったイクシスさんが、私の持つ転移系スキルを毎日のように使いまくっていたのだ。ならばそこに何かしら感じ取るのは自然なことだろう。

 が、コミコトに関してはトップシークレットであると事前に言い含めてあるためか、彼女たちがそれ以上深く突っ込んでくるようなことはなかった。


「知ってるのなら話は早い。お互いの成長を実際に確かめ合うためにもさ、一度手合わせをしてみない?」

「最初はお伺いを立てるまでもなく、仮面ボウケンシャーとして、強引に『ここを通りたくばー!』って感じで仕掛けるつもりだったんですけどね~」

「それはもはや通り魔の所業だよ……」


 正体を隠して模擬戦を仕掛け、決着と同時に『実は私でしたー!』っていうプランAが存在したらしい。

 しかしその線が、正体の即バレにより断たれたので、現在はプランB。即ち、普通に模擬戦の誘いを掛けてみる、という流れに移行したようだ。

 まぁ、それはいいんだけど。


「っていうか、なんでわざわざ戦うのさ。お互い成長してることが分かってるんなら、それでよくない? 私、対人戦ってそんなに好きじゃないんだけど……」


 事は致死率の高いスキルの飛び交う実戦である。模擬戦や試合と言えど、確実に生命の安全が保証されているわけじゃない。

 そりゃ特別な闘技場なんかでは、都合よく致死量のダメージが打ち消されたりするようなこともあるだろうけど、これは野良試合である。

 うっかり自分か相手のどっちかが死んじゃいました、なんていうんじゃシャレにもならない。

 まぁ、それを踏まえた上で私たちは、過去に何度も模擬戦をやらかしたりしてきてる訳なんだけどさ。

 それでも、そういった危機意識は決して薄れさせていいものじゃないだろう。

 しなくていい模擬戦なら、しないに越したことはない。

 というわけで、渋ってみせる私である。

 すると、これに対して二人は。


「実際戦ってみてこそ感じられる、お互いの成長ってあると思うんだよね!」

「これも一つの経験ですよー。大丈夫、危なくなったら直ぐに降参しますんで~」


 などと、目に炎を灯して熱血じみたセリフを吐くレッカと、前向きなのか後ろ向きなのかよく分からないことを言うスイレンさん。

 まぁでも、私とて正直なことを言えば吝かではないのだ。

 鍛錬には常に、その成果を試す場が付きものである。

 モンスター相手で事足りる、という気持ちもあれど、やはり切磋琢磨という意味では彼女たちと手合わせできる機会は貴重であり、有意義だ。




 とまぁ、そんなわけで。

 その後アレヤコレヤと幾つかやり取りをし、模擬戦のルールを打ち合わせた後、私たちは転移にてこの荒野へとやって来たのである。


 お互いに概ね準備は出来ており、後は開始を待つばかり。

 私はちらりと背後を眺め、ゼノワたちの様子を見た。

 ゼノワは今回、モチャコへの生実況に徹しており、見聞きしたことを可能な限りモチャコへそのまま説明している。

 一方それを受けてのモチャコは、直接観戦できないことをもどかしそうにしながらも、競馬の実況中継を聞くおじさんのような顔つきでこっちを見ているじゃないか。

 それならせめて、甲子園実況を聞いてるような面持ちで見守ってほしいところなんだけどな。

 まぁ、いいけど。


 私は一つ嘆息すると、換装にて装備を整え、試合の開始に備えた。

 軽くルールのおさらいをしておこう。

 今回の模擬戦に於いて、定められている規定は以下の通りだ。


・戦闘不能ないし、降参したほうが負け。

・反則を犯せばその時点で負け。

・相手に、致命傷ないし部位欠損級の大怪我を負わせてはならない。

・逃走は試合放棄とみなす。したがって実質降参したものとする。


 というのが原則。その他細かい部分はまぁ、常識に則った感じで。開始の合図前に攻撃してはならないとか、人道に悖る行為はやめましょうだとか。卑怯なのは駄目って話だ。

 そして更に、そこにプラスして。


・精霊術は使わない。

・超長距離からの一方的な魔法行使はズルい。

・転移スキルでいきなりスイレンさんを狙うのは……。


 別に禁止されたというわけではないけれど、イーブンな試合ゲームをやろうというのであれば、一定のラインというのはやっぱり設けて然るべきだろう。

 今回の趣旨はあくまで、お互いの成長を確かめ合うことであり、どんな手段を用いても勝てばよかろうなのだ! って類いのものではないのだ。


 とどのつまり、私の使える手札には『グレー』なものが幾つか含まれることになる。

 まぁなんとも、窮屈ではある。けれど、限られた手札で戦うからこそ楽しいのだ。

 それに見方を変えるなら、それだけ私のへんてこスキルが、レギュレーション違反になりやすいってことでもある。

 今回の旅を通して、私はそのことをしかと思い知った。

 だから自主的に制限を設けることには、特に思うところなどは無く。


 むしろこの試合は、私にとってもこの旅で得た技術を試す良い場だと思っている。

 へんてこスキルに頼るというのは、もとより論外だ。

 互いに努力の成果をぶつけ合う試合。実に胸躍る一戦になりそうじゃないか。

 まぁでも、二人の得た能力を知っている手前、やる前から苦戦の予感をひしひしと感じてもいるわけだけれど。

 もしかすると、制限なんて言ってられる相手じゃないかも……。


 なにはともあれ。

 私は準備万端な様子の二人へ、蛇腹剣を携え向き合い、試合開始に備えたのだった。

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