第六〇四話 再会へのカウントダウン
連鎖魔法に続き、
これが連射スキルだー!
わー、すげー!
……っていう件も一通り済ませた屋敷のダンジョンボス部屋。
魔法をぶち撒けたせいで、すっかり廃墟のように様変わりしてしまった元豪邸の大広間が如き空間を前に、幾らかの罪悪感に見舞われる私である。
他方で仲間たちは、興奮冷めやらぬ様子で未だ、披露した二つの技術に関する感想を言い合っていた。
特に印象的だったのは、
「凄まじいな連鎖魔法……ソフィアの、『私なりに連鎖魔法を実現させてみましたよっ!』などと言って、二連鎖をドヤ顔で披露していたアレとは比べるべくもないな……」
「ちょ、何さらっと暴露してるんですか! やめて下さい!」
珍しく顔を真っ赤にして、クラウの首を絞めに掛かるソフィアさん。
以前よりコミュニケーションがバイオレンス寄りになった気もするけれど、どうやらダンジョン攻略を通して仲は深まったらしい。
その分私、ちょっと疎外感……。
っていうか、ソフィアさんも二連鎖なら出来るんだ。日記に解説を記したのが役立ったのなら何よりだ。
とまぁ、そんな一幕もありつつ。
私の技術お披露目会は済み、十分に彼女たちを驚かすことが出来たようだった。
しかし、実のところ驚いたのは私も同じである。
先ほど貰ったばかりの、ロック味を漂わせるドクロの指輪。
これの効果が、私にとって非常に有用だったのだ。
リッチなリッチが落としたというこのレアドロップアイテム。
秘めたる特殊能力はと言えば、なんと『消費MP半減』という、RPGにはありがちな超有用な能力だったのである。
スキル、魔法、秘密道具の使用に至るまで、ことMPを消費する行動の全てに対し働く、コスト半減化の能力。
一番の恩恵はやはり、何と言っても連射スキルにあったと言えるだろう。
なにせ現段階で発射できる最大弾数が倍加したようなものなのだから。
これは、固定ダメージスキルの連射で与えられる最大ダメージの倍増も意味しており、言ってしまえば私の最大火力が倍になった、と言えなくもない大変なことであった。
やはり、特級ダンジョンのレアドロップはとんでもない力を宿しているらしい。
それもあって、皆の前で連射魔法を普段の倍ばら撒いた結果、ボス部屋が廃墟と化したわけだけど。ボス討伐後だから再生機能も死んでるし。
最悪、このままではいつかみたいにボス部屋の天井が落ちてくる恐れすら感じられた。
そこはかとなく皆の顔も青い。
「えっと、それじゃ取り敢えず地上に出ようか」
と提案すれば、特に名残惜しさを見せるでもなく、こくこくと全員が頷きを返し。
そうして私は、オルカたち四人を伴って屋敷のダンジョンを脱出したのだった。
例によって、パッと切り替わる視界。
ボロボロのボス部屋は唐突に消え去り、景色を塗り替えたのはだだっ広い草原のパノラマであった。
後ろを振り返れば、両開きの扉が一つ。即ち、今しがた脱出を果たしたダンジョンの入口だ。
周囲の様子を確かめてみれば、特に人の気配もないため、透明化や気配遮断の類を解除し、皆で一息つく。
するとオルカたち四人は、やはり長らく潜っていたダンジョンの扉に思うところでもあるのだろう。
見納めと言わんばかりに、暫し無言でそれを眺めており。
そうしてようやっとこちらを向いた彼女たちは、どこかスッキリした顔に見えた。
釣られるように、私の顔も小さく綻ぶ。
「さて、それでみんなはこの後どうする予定なの? やっぱり危険域の調査続行とか?」
特訓にようやっと一区切り付いた彼女たちへ、取り敢えずこの後のことについて確認する。
場合によっては私が転移で運ぶことになるだろうからね。
すると、代表するようにクラウが口を開いた。
「それなのだが、ともあれ先ずは休息日を挟もうと思っている。流石に疲労も溜まっているからな」
ということで、行き先はイクシス邸で良いようだ。
私はそれを了承すると、少なからず名残惜しさを覚えながらも、彼女らを転移させに掛かろうとした。
が、これに目ざとく反応したのはオルカで。
「もしかして、ミコトは一緒に来ないの?」
と鋭く問うてくる。
「あー、うん。連絡があってすぐに駆けつけたからさ、ゼノワやモチャコを待たせてるんだ。みんなを送ったらすぐ戻らないと」
「確かに、通信機を作動させて直ぐでしたもんね、ミコト様がご降臨なされたのは」
「……ミコトさんにお聞きしたいことが沢山あったのですが……」
分かりやすく肩を落とし、しょんぼりするソフィアさん。
他の面々も、途端に寂しげな顔をしてくれる。別れを惜しんでくれるのは嬉しいけれど、私だって寂しい気持ちは同じである。
まぁでも、きっと絆されてイクシス邸までついていくと、ソフィアさんに延々と質問を投げつけられて拘束される未来が容易に想像できるので、それを思うと胸中はやや複雑だ。
とは言え。
「そんな顔をしないでよ。大丈夫、私の方もグランリィスまではだいぶ近づいてるんだ。多分あと二日三日あれば到着すると思う」
そのように情報を明かせば、途端に皆の表情に灯りが戻った。
そう、モチャコとの旅ももう終盤に差し掛かっており、グランリィスへの到着を寧ろ惜しむように、修行に打ち込んだり寄り道をしたり、モンスターと戯れたりしている。
それでも、恐らく残り二日、長く見ても三日あれば旅程を消化し切るはずだ。
するとこの情報を得て、クラウが嬉しそうに述べたのだ。
「そういうことなら、ミコトのお帰り会を催さねばならないな!」
これには目を丸くし、しかし皆もすぐに同調を始めた。
「それ、すごく良い!」
「式典! 式典ですね! 盛大なものにしましょう!!」
「嫁の帰りを暖かく迎える妻の図。ふふ、確かにすごく良いですね……!」
「……うん。ツッコミどころは用意しなくていいから」
まぁでも、イクシスさんのことである。クラウがこんなことを言い出せば、みんなのダンジョン踏破記念も併せて、また宴を催すのだろう。
であればおもちゃ屋さんの方でも、モチャコの帰還を祝う会でも催してみようかな。他の師匠たちにも相談したりして。
うん、それなら何だか、旅の終わりに感じる寂寥感も緩和できる気がする。
流石は頼れる仲間たちである。良いアイデアをくれた。
そうして、別れのしんみりはすっかり鳴りを潜め、近日中の再会を約束した私たちは、再度の別行動へ移ったのである。
イクシス邸の転移室へ四人を送ったなら、直ぐに無事到着したという念話が届き。
それを認めるなり、私も私でモチャコたちの元へと戻るのだった。
「急なんだけど! 急にいなくなるからビックリしたんだけど!」
「ガウガウ!」
「あぅ、ごめんって」
転移で戻るなり、モチャコとゼノワから早速お小言が飛んできた。
場所はとある標高の高い山の頂上。
観光と鍛錬を兼ねた寄り道ということで、こんなところまでやって来た私たち。
これもまぁ、旅の終わりを惜しんだ結果である。
そんな場所に彼女らを放置して、パッと姿を消したんだ。そりゃビックリもするだろう。
私は丁寧に事情を説明し、グランリィスで一足先に仲間たちが待ってくれていることまで語った。
ついでに。
「おもちゃ屋さんでもさ、グランリィスについたらお祝いをしようよ。モチャコにとっても結構な旅だったもんね」
と提案してみれば。
「アタシはまぁ、毎晩帰ってるけど……でも、面白そうじゃん。だったら派手にやろう!」
「グラグラ!」
ということで、乗り気を示してくれた。
斯くして私たちは、この山を登ってきた時同様の移動モードへと移行する。
ここ数日、一生懸命成長しようと頑張ったゼノワは、努力の甲斐あって絡繰霊起の媒体が通常のゼノワと遜色ないサイズにまで急成長しており。
その事実はモチャコばかりか、おもちゃ屋さんの師匠たちまで面白いほどに驚かせた。
元気にすくすく育つゼノワは伊達じゃないのだ。
そんな一抱えもある肉体を有したゼノワは、当然ぐっと重量が増しており、いつもどおり頭に乗せたのでは色々と支障をきたすわけだ。
が。
そこを敢えて私の頭に乗っかり、フードをギュッと握るゼノワ。
そして、パタパタと小さな翼で羽ばたけば。
重力魔法で軽くなった私は、ふわりと地面より靴底を浮かせるのである。
そうさつまりは、私が頭に乗せてゼノワを運ぶ普段とは逆に、ゼノワが私の頭を掴んで運搬する、という新たな移動方法が確立されたわけである。
ついでに彼女の背中にはモチャコが乗っている。
おかげさまで連鎖魔法や連射スキルの鍛錬に打ち込めるため、非常に助かっている。
注意点としては、高く飛びすぎては飛行スキルを使用したのと同義に捉えられかねないため、努めて低空飛行を維持してもらっている。
その結果。
鍛錬と称して周囲に魔法を撒き散らす仮面の女。
を運ぶ謎の小さな竜とその背に乗った妖精。
っていう謎の構図が出来上がるわけだけれど、まぁ人目に触れさえしなければ良いのだ。
深く考えてはならない。




