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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六〇三話 パフォーマンスと人間離れ

「改めて、特級ダンジョンクリアおめでとう! みんな見違えるほど力を付けたね……!!」


 特典部屋を出て、私は皆へ向けて再度祝辞を述べる。

 勿論、お世辞などでは一切なく。彼女たちから感じられる気配はあからさまな変化を遂げていたし、心做しか顔つきも、一層引き締まったように見えた。

 すると。


「な、なぁミコト、そろそろその……自分のステータスウィンドウを確認したいんだが……共有化してくれないか?」

 という、何時になくもじもじとしたクラウのおねだりが飛んできた。ぐ、これがギャップ萌え……!

 無論二つ返事で承諾、いや快諾した私は、すぐさま共有化を切っていたステータスウィンドウを彼女らと再共有化。

 途端に嬉々として、虚空へと視線を走らせ始める彼女たち。


 そうして、自分たちの能力を示す数値を前に、一喜一憂してみせる四人である。

 喜ぶのは分かるが、時折皆の表情に浮かぶ憂いはなんだろうかと、一人首を傾げていると。

「ミコトも見て。私の変化を知って」

 というオルカの言が掛けられ。

 これに続くよう皆からも許可が貰えたので、早速みんなのステータス値をチェックする。


 結果。


「全員見事に超越者入りしてる……!!」


 軽々とステータス値100の壁を飛び越える面々。

 どうやら特級ダンジョンが彼女らへもたらした試練は、私の想像を遥かに超えるようなものだったらしい。

 死物狂いで戦い、極限の状態で力を渇望してこそ、ステータスはぐんぐん伸びると。

 そのように説いたイクシスさんの論は、どうやら無事にその正しさが証明されたらしい。


 けれど、である。

「正直な話、これであの王龍を打倒できるのかと言えば、難しいかも知れませんね」

 というソフィアさんの言う通り、確かに王龍の強さは超越者に至って尚、十分な戦力を揃えられたとは言えない、正に規格外のそれだった。

 力も堅さも速さも遙か高みにあり、さながらカードゲームの最新デッキに、十年以上前の老デッキで挑むような無謀さが感じられる。

 こう言っては何だけど、たかだか数ヶ月必死に鍛えたくらいで追いつけるような、そういう力の差ではないように思えた。


 皆もそう感じていればこそ、その表情には憂いが混在したのだろう。

 だが。

「それでも、奴との差は着実に埋まってる。みんなが驚くほど成長したことは誇るべきことだし、喜ぶべきことだよ!」

「! ミコト様……」

「それに、私だって対王龍戦に向けて技を開発しているもの」


 そうさ。特に固定ダメージスキルを駆使した超連射スキルが、正にそれだ。

 強固な龍鱗に護られ、まともな痛痒を頑なに認めない王龍。

 さりとて、直接HPを削られては、鱗も意味を成すまい。

 まぁその場合、メタメタに私へヘイトが降ってきそうだけど。


 なんて軽い脳内シミュレートを行っていると、ゴンと額に衝撃を覚え。

 気づけば視界いっぱいに、ソフィアさんの顔があった。ドアップどころの話じゃない。

 仮面越しに額をゴリゴリ押し付けられ、何なら両手もガッツリ握られてる。新手のセクハラだろうか。

 なんて。


「その話が出るのを待ってました!! さぁ、さぁ早く実践を! 実践をして見せて下さい!!」

「あぁ、はい……」


 やっぱり相変わらずのソフィアさんである。

 仮面のすぐ向こうに、猛烈な鼻息と熱気、それに女子特有のいい匂いを感じ、気圧されるように後ずさる。

 が、放してくれないソフィアさん。

 すると突然、そんな彼女の首にシュルリと何かが巻き付き、強引に私から引っ剥がしてくれた。

 何事かとよくよく見てみれば、オルカがガッツリとソフィアさんの首を極め、スリーパーホールドを掛けているじゃないか。

 ついでにココロちゃんはソフィアさんの脇腹へ、軽い貫手を「デュクシデュクシ!」と繰り出しており。

 珍しく苦しげに悲鳴を上げるソフィアさん。呆れるクラウ。無表情でおっかないオルカとココロちゃん。

 どうでも良いけど、その『デュクシ』は一体何処で覚えたんだ……。



 気を取り直して。

 何事もなかったかのように、キラキラと煌く瞳で見つめてくるソフィアさんの視線を背に受けながら、広いボス部屋のガランと開けた空間へ向け、私は意識を集中する。

「それじゃ、連鎖魔法から見せようかな」

「お願いします!!」

 元気の良い、無邪気な返事である。私なんかより余程女児っぽくないかこの人。


 ともあれ、鍛錬でアホほど繰り返した術である。注目を浴びて緊張した程度で失敗などするはずもなく。

 一先ずポンと前方に火球を一つ放る。射程を短く設定したそれが自然消滅したその瞬間、次の火球が発生。それが消えたらまた次が。

 なんていう、基本中の基本。中二っぽく言うなら、『ウロボロス:タイプ・スネーク』ってところだろうか。

「おぉ……」

 と、後ろからは小さな感嘆の声。いやいや、この程度で感心されてもなぁ。


「一先ず、これが基本。ここから派生して、色々出来るんだよ」

 と解説を入れれば、すかさず「色々とは?!」とソフィアさんから質問が飛んでくる。

 私は返答しながら、早速その一例を示してみせた。

「例えば……」


 バンと、火球が突如弾けてみせる。

 それはまるで打ち上げ花火のようで、無数の小さな火の玉を全方位へ小さくばら撒く、綺羅びやかなフレイムアート。勿論攻撃にも使える代物だけれど。

 大事なのは、ここから。

 無数に散った小さな火の玉。

 それらが消え入り、あとに漂うか細い残滓を鋭敏に感知し、そこから繊細な魔法の連鎖を紡いでいく。

 同時に、無数に。


「「「「?!」」」」

「こんな風に、分裂させることも出来るし」


 次は、大量に増えた小蛇たちを、徐々に育てるように、大きな火弾の連鎖へと変化させてみせる。

「威力の調整だって勿論出来る。それに」

 更には、無数の蛇たちを構成する魔法属性を、火から水や風、雷や土など、いろんな属性へバラけさせてみる。

「属性変化もお手の物。射程も長いんだよ?」

 無数の個性豊かな蛇たちが、広いボス部屋内をそれぞれ縦横無尽に泳ぎ回った。

 こうしてみると、何だかそれぞれがただの魔法の連鎖じゃなく、本当に生きた魔法生物みたいに見えてくるから不思議なものだ。


 なんて具合に暫くパフォーマンスを続け、流石にMP残量が怪しくなってきた頃合いで、それを終了する。

 最後は一度ひとまとめにした蛇を、大きく爆ぜさせ。

 飛び散った火球を更に爆ぜさせ、更に爆ぜさせ、更に……。

 そうして、今可能な限りの『分裂連鎖』を披露してみせた。一気にMPと集中力を持っていかれたので、ドッと疲労感が押し寄せてきたが。しかしこれも鍛錬と思えば心地の良い疲れである。


 ふぅと仮面を外して額の汗を拭い、裏技を使ってMPを補充しながら、何だか途中から急に静かになった皆の方を振り返ってみれば。

「「「「…………」」」」

 そこにはポカンと口を開いて固まる四人の姿が。

 どうやら驚いてくれたみたいだ。それでこそ頑張った甲斐があるというものだ。うんうん。


「んじゃ次、連射スキルね」

「ま、待て待て待て!!」


 と、いち早く我に返って制止してくるのはクラウである。

 換装にて、顔面に『?』のマークが刻んである仮面をつけ、大袈裟に首を傾げてみせると、「ふっ」と小さく吹き出すオルカ。ウケたようだ。

 しかし肝心のクラウは私の一発芸をスルーし、言葉の続きを述べてくる。


「な、何なんだ今のは!」

「え、連鎖魔法だけど。ウロボロスっていうカッコイイ別名もつけてるけど」

「た、確かにカッコイイ……じゃなくて! お前の魔力制御は一体どうなってるんだ?! あんなの人間業じゃ……」


 と、不意にここで言葉を切るクラウ。

 そうしてマジマジと私を眺めた彼女は、小さく首を傾げ。


「ミコト、お前は……人間、なのか……?」

「!」


 ついに、そんな言葉を口にしたのだった。

 私はなんとも言えない感情の去来を感じ、スゥと息を吸い込みながら腕組みをし、ハァと大きなため息をついてみせた。

 そして、言うのである。


「クラウもついに、そんな事を言うまでになったかぁ……」


 これで彼女も、超一流の仲間入りである。

 なにせ、これまで私にそのような疑問を投げかけてきたのは、寄ってたかってレジェンド級の人たちだったもの。

 するとどうだ。

 クラウのマネをして、ということではないのだろうけれど、皆も同じく首を傾げて、同じようなセリフを吐くじゃないか。


「確かに。なんか……ミコトは普通じゃない」

「ミコト様の神々しさが、今のココロには以前にも増してよく分かります!!」

「私の嫁が普通なはず無いじゃないですか。皆さん今更気づいたんですか? 遅れてますねぇ」


 そして一悶着。

 まぁ何にせよ、私も含めてみんな育ってるってことだろう。良かった良かった(遠い目)。

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