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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六〇二話 屋敷の戦利品

「念入りに! ココロ、清浄化魔法は念入りにかけて!」

「はいオルカ様、心得てます!」

「私もお願いします。何と言っても久しぶりに嫁と会うわけですからね!」

「お前らなぁ……私も頼む」


 ダンジョンボスの打倒に成功し、特典部屋の扉が出現したのを確認したのも束の間。

 姦しい彼女たちは偉業を果たした余韻に浸るのもほどほどに、わらわらとココロの魔法へ群がったのである。

 清浄化ならクラウも使えると言うのに、彼女曰く「ココロの清浄化のほうが効果が高い気がする」とのこと。

 幸い数多の死線をくぐり抜けてきたココロは、MPの最大値もぐぐっと伸ばしており。

 思いがけない形で特訓の成果を発揮し、自身を含めた乙女たちや、その装備品に至るまで片っ端からきれいきれいしていくのだった。



 そうして、念入りに清浄化を施した四人。

 オルカの手には、スマホによく似た手のひらサイズの黒い板が握られており。

 プルプルとやや震える手でそれを操作すれば、黒い板には『ミコトと連絡を取りますか?』という確認の一文が浮かび上がる。

「つ、ついにこれを使う日が……!」

 ゴクリと、大袈裟に生唾を飲み込むオルカ。


 彼女が手にしているそれは、緊急時にミコトを呼び出すための通信機として渡されていた、お助けアイテムである。

 一度しか機能しないというそれを、今の今まで大事に保持していたオルカ。

 これまで何度、ミコトの声聞きたさに無駄遣いしそうになったかも分からない。

 何なら、日記でミコトが無茶をやらかしていると知った時、皆で話し合って使用寸前まで行ったほどだ。

 それでも、ぐっと我慢してここまで使わずに来た通信機である。


 それを、ダンジョンの攻略達成報告という最良の使い方でもって使用できる。

 そこには当然、万感の思いとすら言える程の感慨があり。

 手先が異様に器用な彼女を以ってしても、手の震えを抑えきれないほどであった。

 さりとて、いつまでもそうしてはいられない。


「それじゃ、連絡するよ」

 皆にそう告げれば、静かな頷きが返り。

 板に表示された確認の問へ、オルカはとうとう『はい』の返事をタップしたのである。


 次の瞬間だった。


「どうしたの! 何かあった?!」


 通信機越しに聞こえると予想していたその声は、さりとて思いがけず別の方向から聞こえており。

 ギョッとして皆が振り向けば、そこには一人緊迫感を漂わせた仮面の少女の姿があり。

 ガチガチの装備で身を固めた彼女は、油断なく周囲の様子を確認しているところだった。

 が、不意にオルカたちと視線が交差し。


「…………え、あれ?」


 いまいち状況が理解出来なかったのか、首を傾げてみせる彼女へ。

 オルカたちはやや虚を突かれながらも、感情が追いつくより早く一斉に群がったのだった。



 ★



「というわけで、みんな大好き特典部屋だ!」

「「「「わー!」」」」


 クラウの掛け声にテンション高く反応を返す仲間たち。

 そこには当然、仮面の少女ことミコトも加わっており。

 場所はボスを失ったボス部屋から、ダンジョンの真の最奥とでも言うべき特典部屋内へと移し、豪奢な宝箱を前にしている彼女たち。

 駆けつけたミコトを巡ってのアレコレは一通り済ませ、ようやっと落ち着きを取り戻した皆とともに、この場所へやって来たという運びである。


 とは言え、このダンジョンに於いては何ら活躍をしていないミコト。

 よって今回は、皆が新たなアイテムを入手する瞬間を見届けることが、ここに同席した目的となっており。

 ここまでの道のりを振り返り、再び感慨深さに意識を沈める彼女たちを暖かく見守りながら、ミコトは静かに宝箱開封の時を待つのだった。

 すると、いち早く我に返ったソフィアの音頭で、ようやっとその時が訪れたのである。


「それでは皆さん、せーので行きますよ!」

「「「せーのっ」」」

「ちょま、早い!」

「息が合ってるのか合ってないのか……」


 そんなこんなで、ついに開かれた特典宝箱。

 ミコトも横からちょこんとそれを覗き込み、そして感嘆を漏らした。

 箱の中にはただならない威圧感を放つ、四つの武具がしかと収められていたのだ。

 それらは如何にも、オルカたち四人のために誂えられたような品であり。

 やはりダンジョン踏破者に合わせて、特典内容が決定するというのは事実のようであった。


「! いつも入ってる、仮面が無い……だと?!」

 などと瞠目するクラウ。皆も同様に、如何にも衝撃を受けたような顔をしているけれど。

「いやいや、当たり前じゃん。今回私、攻略には関与してないんだもん」

 とミコトが冷静にツッコめば、この件はすんなりと収束を見た。


 そんなことより、である。

 皆は特に話し合うでもなく、自分に最適な武具へ手を伸ばし、押し合いへし合い譲り合いが生じることもなく、それぞれの手に一つずつアイテムが行き渡ったのだった。


 クラウには、聖剣のサイズにぴったり合う鞘が。

 ココロには、とんでもない威圧感を放つ新たな金棒が。

 ソフィアには、取り回しを犠牲に威力に長けてそうな長弓が。

 そしてオルカには、手裏剣が。


 目をキラキラさせながら、それぞれが新たなアイテムを愛でる。

 その様を、少しばかり羨ましく思いながらも、一歩引いた位置から暖かく眺めるミコト。

 すると、思い出したようにオルカがふと我に返り、ミコトへと向き直るではないか。

 彼女は徐にマジックバッグを漁ると、皆へと目配せした。

 これを受け、気を取り直した皆も無言の頷きを返す。


 そうして、マジックバッグより取り出されたのは、指輪が一つ。

 金と銀で構成された、緻密な装飾の美しい、さりとてドクロモチーフのせいで禍々しい指輪だ。

 ドクロの口には見方によって何色にも見えるような、不思議な宝石が咥えられており。

 如何にもただならぬものだと感じさせる、ヤバ気な指輪。


 オルカはそれを、何とミコトへ差し出したのである。

「ミコトには、これを受け取って欲しい」

 そのように、何の真似かと問うまでもないよう、しかと言葉も添えられて。


「こ、これって……?」

 受け取る前に、問わねばなるまい。

 ミコトが指輪の由来を訊いたなら、皆は何でもない風に答えたのだ。

「ダンジョンボスのレアドロップ」

「リッチなリッチでした!」

「魔法を得意とするやつだったからな、であればミコトに最適な品だろう」

「これを装備して、早速例のやつを見せてくださいよ!」


 一瞬、「受け取れないよ!」なんて言葉が口をついて出そうになるミコト。

 けれどそれをぐっと飲み込み、逡巡を挟み込んだ。

 これは彼女たちが、きっと話し合って決めたことである。

 であれば、遠慮はそこに水を差すことも同義。

 何より、その気持ちが素直に嬉しかった。


 だからミコトは、躊躇いながらもそれを両手で受け取ると、仮面を外して皆に笑いかけたのである。

「ありがとう、すごく嬉しい……!」


 バタンと、鼻血を吹いて倒れるココロ。

 立ったまま気絶するオルカ。

 顔を真赤にしてそっぽを向くクラウ。

 そして、鼻息荒く飛びかかろうとするソフィア。


 やはり素顔は危険だと再確認して、急ぎ仮面をつけ直すミコトであった。



 ともあれ、こうして戦利品を得た鏡花水月。

 後は例によって特典部屋内の雑多なアイテムをガバっとPTストレージへ収納。

 取り残したものが無いかなど、一通りチェックを行った後、皆で特典部屋を後にしたのだった。

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