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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第六〇一話 屋敷の主

 三四階層へ一旦引き返し、丸一日を連携訓練に当てたオルカたち四人。

 そうして翌日、時刻は午前九時。


 昨日ぶりとなる豪奢な大扉の前に、再度並び立った彼女たちの姿がそこにはあった。

 これより始まるは、あまりに長かったダンジョン攻略の締めくくり。

 ボスの打倒という一大事である。

 さりとて、そこに緊張や恐れを抱くような者は一人としておらず。

 代わりに、何だか不穏な気配を漂わせる者が三人ほど。


「ボスを倒せばミコトに会える……ボスを倒せばミコトに会える……」

「ミコト様ミコト様ミコト様ミコト様……」

「連鎖魔法……連射スキル……実物を……早くこの目で……」


 そして、そのように目を血走らせる彼女たちを、一歩引いたところから眺めるクラウ。

 胸中には一抹の不安が漂っており。

「気ばかり焦って足を掬われなければ良いのだが……」

 などと呟けば、途端に三人の視線が一斉に彼女の方を向いた。


「クラウさんこそ、足並みを揃えてください!」

「そうです! テンション低いですっ!」

「クラウはミコトに会いたくないの?!」

「そ、そうは言っていないだろ! 分かったよ、私こそ足を引っ張らぬよう合わせるとしよう」


 事の起こりは昨日の連携訓練。

 久しぶりに四人での連携を確かめ、新たなチームワークなどもじゃんじゃん試していると、不意に誰かが言ったのだ。

「ここにミコトを交ぜたら、凄いことになるに違いない」と。

 それを機に、とうとうオルカのホームシックならぬミコトシックが堰を切り。

 ココロが釣られて暴発。

 ついでにソフィアも、連携にミコトの技術をどう取り入れようかと考察を続ける内に、戻って来られなくなった様子。


 そんな三人の狂いっぷりを見せられては、嫌でも冷静になろうというもの。

 自分がしっかりせねば……。

 そのように気持ちを改め、ここに来て再度チームワークやまとめ役の何たるかを思い知ったクラウである。


 そして今。

 事前打ち合わせと戦闘準備を済ませた四人は、小さく頷きあって、ついにボス部屋へ続く大扉に手をかけ、それを押し開いたのである。




 バタンと、背後で扉が閉じたのは、四人の足が部屋の中心部付近を踏んだ頃だった。

 それと時を同じくし、彼女らの視線の先、一際豪奢で広大な空間の最奥に、黒い塵が渦巻き始めたのである。モンスターのポップ現象だ。

 渦の数は五つ。

 玉座めいた、装飾のゴテっとした椅子を中心に巻き起こる、他より大きく力強い渦がきっとダンジョンボスだろう。

 そしてそれを守護するように、前面へ並んだ渦が四つ。さながら四天王か何かだろうか。


 そんなポップ現象を前に、彼女たちはと言えば。

「ポップ刈りだ! 何もさせずに殺せぇぇぇ!!」

「「「ヒャッハーーーっ!!」」」

 何時にも増して、ハイだった。


 ここまで、散々……それはもう散々、死闘を演じ続けてきた彼女たちである。

 ハッキリ言って、お腹いっぱいだった。

 その上、昨日の連携訓練で確信を得たのである。

 間違いなく、ボスには苦戦する余地もないと。

 ソロとPT戦闘の違いを、震えが出るほどに実感した彼女たち。ここまで違うのかと、改めて思い知った。

 その結果、慢心でもなんでもなしに、このダンジョン程度のボスではもう、自分たちは負けようがないという結論に至ったのである。


 であれば話は単純だ。

 ボスを相手に中途半端な苦戦を演じるより、さっさと終わらせて帰る。ミコトに会う。

 だから、戦い方は『いつもどおり』で行こうと。



 数多の死線をくぐり抜けた彼女たちは、ポップ現象が終了し、モンスターが顕在化する正にその瞬間を、極めて正確に見極めた。

 ここまでの戦闘では、ポップ現象など無く敵は無防備を晒さない。一撃を叩き込むのにも骨の折れる戦闘ばかりだった。

 生き馬の目を抜くような正確無比の強力な攻撃を繰り出せねば、生存の危ぶまれる戦いだって幾らでもあったのだ。

 故に。

 ほんの僅かに早くポップを終わらせた四天王の一体が生を得たその瞬間、世界というものを正常に知覚するその前に、彼女らはそれを屠り塵へと還したのだ。


 ある者は核を穿たれ。

 ある者は微塵に切り裂かれ。

 ある者はぺしゃんこに潰され。

 そしてある者は、魔法で消滅させられた。


 四天王はさながら、発生にエラーでも生じたかのように。或いは、初めから存在しなかったかのように。

 初動を起こすよりずっと以前の段階で、その存在を葬られたのだった。

 そして、それを成した彼女たちの視線の先。

 玉座を囲うように生じた、他より明らかに大きな黒い渦が、いよいよ一体のモンスターを形成し終わろうという頃。

 虎視眈々とその瞬間を狙った彼女たちは、しかし。


 待ちわびたその時、突如発生した強大な衝撃波により、一斉に撥ね飛ばされたのである。


 被害が少なかったのは、後衛で距離もあったソフィア。

 しかし他の面々も、持ち前の方法で事なきを得る。

 防御が得意なクラウは言うに及ばず、オルカもマフラーの能力を駆使してノーダメージ。ココロに関しては純粋なフィジカルで、ふっ飛ばされて壁に激突しようともケロッとしていた。

 さりとて、出鼻をくじかれた遺憾はあり。


 四人が睨みつける、厳しい視線の先。

 果たして顕現を果たしたダンジョンボスの姿が、そこにあったのだ。



 それは、一言で言い表すとするならば……『成金スケルトン』であった。

 金色の骨で構成された身体。

 身には如何にも上質な黒のローブを纏い、ジャラジャラと大きな宝石の嵌ったアクセサリーを複数身につけている。

 そして極めつけが、携えているその杖だ。一抱えほどもある巨大な宝石を核に据えた、売れば幾らの値がつくとも知れない長杖。

 その出で立ちからして、ただのスケルトンでないことは明らかだった。

 発する気配も、迸る魔力も、特級ダンジョンのボスであることも、全てがそれを裏付けている。


 リッチ。

 不死という大願へと至った魔法使いの成れの果て、というのがその出自として実しやかに囁かれている。

 果たしてそれが真か否かは不明なれど、さりとて。

 アレをただのリッチだなどとは、誰も思わない。

 何故なら、ただのリッチであれば一般でも知られるモンスターである。

 確かに強力な魔法を操る、恐るべき強敵ではあれど、しかし。

 リッチはこんな、金ピカではないのだ。


 であれば必然、このボスの正体にも当たりがつこうというもの。

 リッチの上位種、或いは特殊個体の何れかであると。

 しかしながら、なるほど。

 この屋敷のダンジョンの主を務めるには、如何にも相応しいやつであると。

 彼女たちは皆がある種の納得を覚え、自然と共通の呼称がその脳裏にポンと浮かんだ。


『リッチなリッチ』


 ある者はその名が浮かんだ自身のセンスを、天才なのかも知れないと自賛し。

 またある者は、しょーもないとゲンナリした。

 ともあれ、そのような思考の間は半瞬にも満たず。


 まるで呼吸でも合わせたかのように、彼女たちはすぐさま行動を開始したのである。

 敵は間違いなく、強大な魔法使い。

 さりとてそれは、近接戦闘を嫌う後衛型であるということも意味しており。

 それを裏付けたのが、先程瞬殺した四天王たちだ。


 とどのつまり、懐に潜りさえすれば優勢は確定する。

 更に言うなら。

「ココロ!」

「あい!」

 クラウの呼び声に、突っ込む足をピタリと止め、魔法の行使を始めた彼女。


 そう。ココロの通り名は、『野良シスター』。

 これでも一応は聖職者である。少なくとも、当人はそのつもりだ。

 そして何より重要なのは、事実彼女に聖魔法の心得があるということ。

 アンデット系モンスターには聖魔法。今も昔も変わらない、冒険者の常識である。


 故にこそ、リッチなリッチが真っ先に警戒したのもまた、修道服を身に纏うココロであった。

 莫大な熱量を宿した紫色の火球が、瞬時に生成されて彼女へと躍りかかる。

 一方でココロの聖魔法は、リッチなリッチを中心に円柱状の聖なる空間を形成。リッチなリッチの魂ごと滅しに掛かったのである。

 だが、飛来する紫炎より彼女を護るものはなく。瞬く間に目前へと迫ったそれが、あわやココロを燃やさんとしたその瞬間。


【スワップ】。

 仲間と自身の位置を入れ替える、クラウの転移系スキルが発動。

 ココロの聖魔法は確かに奴へとダメージを与えたけれど、それ以上にヘイトを得るためのちょっかいだったわけだ。

 そんな彼女に代わり、迫る紫炎はクラウの盾が見事に受け止め、吸い込んだ。

 直後、クラウの携えし聖剣に紫色の炎が灯る。擬似的な魔法剣である。


 瞳のない眼窩に瞠目を浮かべ、僅かに驚きを顕にするリッチなリッチ。

 さりとて、驚いている場合ではなかった。クラウと位置を入れ替えたココロが、信じ難い速度でもって既に目と鼻の先に迫っていたのだ。

 鋭く伸びたその手は、ガシリと黄金の頭蓋骨を掴み。そしていとも容易く粉砕したのである。

 が、まだ滅びない。


 ココロがひらりと一歩、右にステップを踏めば。

 その後ろから、紫炎を纏った斬撃が飛来した。

 それは狙い過たず、頭を失ったリッチなリッチへ直撃。その体をローブごと両断しながら、紫色の炎にて焼き始めた。

 が、何とこれでも塵に還らない。


 なればやはり聖魔法にて滅ぼす他ないかと、クラウが僅かに眉を顰めていると。

 突如、奴の腰掛けていた玉座が盛大に爆ぜたではないか。

 だが、驚きはない。何故ならそれが、オルカの仕業だったから。

 彼女はさも初めから知っていたかのように、跡形もなくなった玉座の残骸から紫色の『核』を取り出すと、それをひょいと空中に放ってみせた。


 それで、終いだった。

 何故なら、それを待ちわびていたソフィアが、魔術を帯びし矢の一射にて、宙を躍るその核を容易く消滅させてみせたのだから。


 斯くして。

 彼女たちは、これまでに経験した中で最も長かったダンジョン攻略に、ようやっと終止符を打ったのだった。

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[良い点] みんなミコトが大好き
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