第六〇〇話 多段化
新しく習得した強化系スキル、【多段化】を掛けたアクアボムを使用してみた結果。
その見た目も威力も、通常のそれと何ら変わりがないことが分かった。
「え……あれ……?」
流石に少し困惑。
不発、だろうか? いや、確かにアクアボムに多段化のスキルは乗っていたし、発動自体は出来ていた。はず。
であるなら、アクアボムっていうチョイスが間違いだったのか、或いは……。
「見た目には分からないだけで、効果はちゃんとあった……?」
そも、多段化のスキルに期待した効果というのが、『ヒット数の増加』である。
もしもこの効果を正しく内包したスキルだというのであれば、文字通りの追加効果がアクアボムに付加されているはず。
問題はそのヒット数の増加って現象が、どの様な形で表れるのかということだ。
予想としては二つ。
一つは、見た目は変わらずとも、被弾すると数回分の衝撃が襲ってくる。摩訶不思議な魔法へと変じている可能性。
もう一つはもっと単純に、ダメージが複数回分発生する。即ち、固定ダメージ系スキルと似た効果が発生している可能性。
若しくは、予想外の効果もあり得るか。
とにかくもっと調べてみる必要がありそうだ。
前者でも後者でも、一先ず有用であることに違いはないのだから、焦らずしっかり確かめねば。
というわけで、急遽そこら辺を徘徊しているモンスターにも協力してもらい、あれこれと多段化スキルの検証を行った。
結果、どうにかスキルの効果が判明したわけである。
「まさか、前者だったとは……」
何度か野良モンスターに、多段化した攻撃スキルを受けてもらい、幾つかのことが分かった。
簡単にまとめると……
・一回の攻撃で、二回の被弾が生じた。
・ダメージに際し、攻撃がヒットした箇所に同様の攻撃が再度生じる仕様となっている。
・一回あたりのダメージに、威力の低減が見られた。通常のおおよそ半分ほど。
・二回目のダメージは、一回目と連続して発生する。
・消費MPは、多段化させるスキルに関係なく、一定。
・多段化を掛けても、見た目の変化は生じない。が、魔力の質は変化するため、多分気づくやつは気づく。
・負傷した箇所に二回目の攻撃が入るので、実質二回目のダメージは一回目を上回る。
と言ったところか。
正しく、ゲームで言う多段ヒットを現実で再現したような効果だと言えるだろう。
そして更に、である。
「このスキルを育てていけば、その性能をヒット数重視やダメージ重視、或いは消費MPの低減に偏らせることすら可能なはず……!」
スキル育成という概念を用いることで、多段ヒットはより理想的なスキルへ進化を遂げるだろう。
まぁ、スキルは思い通りの育成が可能である、という私の仮説が正しければって前提は付くけれど。そこは検証の意味も込めて信じてやってみる他ない。ダメならその時また考えよう。
それにもしもこれが上手く行けば……。
「ここに、【スキル分裂】を併せて使うことで……! ふ……ふふふふ……」
「ちょ、ちょっと大丈夫なのアレ?」
「ガル……」
一気に超連射スキルの完成形が見えてくるじゃないか……!
というかこれはもう、固定ダメージスキルに限った話ではない。
あらゆるスキルに応用の利く、第三の戦闘スタイルと言っても過言じゃないだろう。
「あー、テンション上がってきたー!」
モチャコたちの警戒するような視線を背に受けながら、私はその後も暫くスキルの習熟に打ち込むのだった。
★
「──などと、ミコトさんがまた奇妙なことを始めたそうで」
「お、おぅ」
「元気そうで何より」
「流石ミコト様です!」
屋敷の特級ダンジョン、三三階層。
朝食の席にて、ミコトを除く鏡花水月の四人の間で話題に上ったのは、この場に居ない彼女のことだった。
とは言え、それも今日に限った話ではない。
「連鎖魔法、ユニークモンスターと来て、次は超連射スキルですよ! しかも固定ダメージスキルに注目するとは、やはり目の付け所が違います! 更にはスキル成長の個人差にまで気づくとは!! はぁ、はぁ、い、今すぐ直接会って詳しくお聞きしたい……っ!! どうしてミコトさんはこの場に居ないんですかっ!?」
「あー、また始まったか……」
「元気そうで何より」
「流石はミコト様です!!」
中間報告回を終え、それぞれに活動を再開して暫く。
殊更ソフィアにとっては、日々更新されるミコトの日記に書かれた内容は、強烈な刺激に富んでいた。
特に先日、連鎖魔法でユニークモンスターを追い詰めたという内容を目にした際などは、
「信じられますか?! 自己の発した魔力の残滓を起点に、別の魔法を発生させるとか! なんですかその離れ業?! それも連続での行使?! あまつさえ実戦投入まで!! あああ見たいぃぃ実物を拝見したいぃぃぃ」
などと目を血走らせ。
その狂気じみた様に、仲間たちは盛大にドン引いたのだった。
そして今日、またも齎された奇っ怪な情報。
スキルの成長や、新たに得た二つの強化スキル、それらを駆使して目指す驚くべき新スタイル。
さながら、タワシで琴線をガシガシと引っかかれたような衝撃を受けたソフィアは、居ても立ってもいられずずっとセーフティーエリア内をウロウロと歩き回っている。
その上、酔っ払いよろしく同じ話題を何度も持ち出しては、鼻息荒く叫ぶのである。
うんざりするクラウに、軽く受け流すオルカ。そしてミコトの活躍に何度だって色褪せない「流石ミコト様です!」を繰り返すココロ。
総じて、朝から賑やかな食事となった。
だがここで、ふとクラウが冷静に語る。
「それにしても、わざわざ思いつきや発見、新しい技術を日記で解説してくれているのは、ミコトなりに私たちへヒントをくれようとしているのではないだろうか?」
「ん。私もそう思う。ミコトらしい」
「ああ、流石ミコト様です! 離れていても、ココロたちを導いて下さるのですね……!!」
「技術を独占すること無く、共有する……流石私の嫁。いえ、一求道者としても尊敬に値します!! やはりお返しに魔術のノウハウを提供せねば……!」
相変わらずテンションの高いココロとソフィア。
他方で落ち着いたクラウとオルカは、リアリズムを発揮し。
「我々でも応用できる情報も、確かに含まれているな」
「ミコトにしか出来ない人間離れした技術はともかく、スキルの育成。まだ仮説に過ぎないって話だけど、もし本当ならこれはかなり重要だと思う」
「同じスキルでも、何に特化させるかによって使い勝手は大きく変わってきそうですもんね」
「その点はどうか、私に相談して下さい!! 皆さんに最も適した育成方針を提示してみせますよ!!」
ココロとソフィアも、すかさず自身の考えを述べたのだった。
「ステータスが伸びない代わりに、ミコトは技術面で異様なほどの成長を遂げている。我々も負けじと、どんどんステータスを伸ばさねばなるまい」
クラウの言葉に、皆深く同意し。
斯くして彼女たちは、今日も今日とて特訓に精を出す。
図らずも、当初心配の種でしか無かったミコトの存在は、今や競争相手として意識すべき対象となり。
彼女たちの向上心に、時折危険な燃料を送り込むのだった。
★
一週間後。
屋敷の特級ダンジョン、三五階層。
あからさまに、これまでの階層と比べて装飾の豪華なそこは、その構造自体が異なっており。
幾重にも分かれ道の連なる、迷宮然とした傾向はすっかり鳴りを潜め。
代わりにあるのは、真っ直ぐに伸びた一本道。
そしてその最奥に待ち構える、一際大きく豪奢な扉が一枚。
とどのつまり、ボス部屋であり。
それ即ち、この階層こそがダンジョンの最深部、ボスフロアであることの証左であった。
そんな大扉を前に、佇む人影が四つ。
無論、オルカたち鏡花水月のそれである。
何せ険しく長い道のりであった。
途中、中間報告会を挟みはしたものの、そこから数えても既に三週間以上もダンジョンに籠もり、激闘の日々を繰り返してきた。
ミコトの助言もあり、安全マージンを幾らか取るようにこそしたけれど、それで戦いの質が落ちたなどということは一切なく。
むしろ安全を得た分だけ、思い切って危険に飛び込む彼女らである。
うっかり、大扉を見て頬に熱い雫が伝っても仕方がないというもの。
だが、そんな彼女たちだからこそ無闇にボス部屋へ殴り込もうなどとはせず。
「よし、連携訓練の後、ボスをフルボッコだ!!」
事前に話し合っていた予定通り、皆は来た道を引き返して三四階層へ。
すっかり損なわれた、連携しての戦闘の勘を取り戻すべく、その日は一日連携訓練へと費やしたのだった。
わぁ、六〇〇話だー!
ってことでお世話になっておりますカノエカノトです。
この作品を書き始めてから、約二年くらいですかね? 週六でせっせと更新し続けていたら、いつの間にかこんな話数に。
はじめは右も左も分からなかったし、今もあんまり分かっていませんが。
それでも一話一話、一文一文せっせとしたためていると、こんな量になるんですなぁ。
塵も積もれば山となるとはよく言ったものです。
ところで。
私は、趣味で書いてる小説だから、とあまり評価などは気にしないタイプなのですけれど。
しかしやっぱり偶には気になるもので。一人の読者様も居ないのに六〇〇回も更新したのか……なんてことになると、流石に凹みます。
出来れば一名……いや二名! そのくらいは読者様がついてくれていると嬉しいなと。常々そう思っておるのですよ。
だって一名では、身内に見せて自己満足している感じがするのです。
でも、二名以上の方に観られているとなれば、ちゃんと面白くせねば! って意識もしっかりしてきますからね。
なので珍しく、ブックマーク数などを確認してみたのですけれど……。
なんとその数、210!
二名も居てくだされば十分だというのに、その百倍以上です! 望外の喜びです!
喜びを通り越して、恐れ多いのです……な、なんでそんなにいるんだろう……何処から湧いてきたんだ?!
六〇〇話の節目と、想像以上にたくさんブックマークしてもらえていたよ!
という報告と感謝の後書きでした。
なかなか終わりの見えない今作ですけれど、今後ものんびりお付き合い頂けると幸いです。
明日もよろしくですよー!




