第五九八話 進路の気づき
次の町へ続く道を外れ、一直線の最短ルートを走る私たち。
途中森を突っ切ることになるけれど、たらたらと時間を掛けるよりはずっと良い。
ってことで、次の目的地であるジータの町へ向かう道中。
プチゼノワの飛行速度に合わせ、現在は普通に草原をランニングしている私。
モチャコはプチゼノワの背に乗っかっている。負荷をかけてより効果的な鍛錬をしたいのだと、ゼノワから頼んだようだ。
しかしまぁ、プチゼノワは全長10センチ程度。
モチャコが跨ると、流石に……って、あれ?
なんか、微妙にサイズアップしてるような……。
まぁいいか。
それはそうと、問題なのは私の新技開発である。
固定ダメージスキルの中から、連射に適しそうなものを選定しようとあれこれ試してみた結果、想像以上にどれもこれも使いづらいことが分かってしまった。
「これなら!」って感じのスキルは結局見つからず、精々が「これならまぁ、マシかな……」程度のものが幾つか。
しかも、そういうのに限って低威力。与えられる固定ダメージの値だって、一桁のものばかりである。
到底通常のスキルとしては、使い物にならないだろう。
数を当ててなんぼだと言うのに、肝心の連射が利かないって言う。まぁ、こう言っては何だけど……ハズレスキルと言わざるを得ないような、哀しいスペックの初級スキルである。
まぁでも、たとえ1のダメージ値でも、一万回ヒットさせれば1万ダメージである。
もしもそれを、通常の攻撃と遜色ない速度で実現させたなら、晴れて防御無視の大ダメージスキルへ大化けするって寸法だ。
が。肝心なのは、それを可能にする仕組み作りであり。
今のところさっぱり見当がつかない、というのが正直なところだ。
正に絵空事。現状は、私の妄想の域を出ない夢の技術となっている。
さて、どうしたものか。
いきなり壁に当たってしまったぞ。
「むぅ……」
一先ず普段の鍛錬を維持しつつ、一人思案に耽る私。
走る私たちの横を、並走するように飛ぶ数匹のウロボロス。って言うか連鎖魔法。
魔法の残滓を的確に、しかも複数いっぺんに捉える訓練として、複数のウロボロスを飛ばすのは有効なのだ。むしろ基礎練とすら言える。
更には単純に、ウロボロスを構成する魔法一つ一つの熟練度を上げることにもなるから、一石二鳥だしね。
すると、そんなウロボロスを眺めていたモチャコがふと呆れたように問うてくる。
「ミコトって四六時中スキルや魔法を使いまくってるけど、一体何処を目指してるのさ……」
「何処をって……何処……む……? ドコ……」
モチャコのそれは、なんてこと無い呟きのようなものだったのだろう。
けれど私は、そこに何か引っかかりを覚えたのである。
何処を目指しているのか。
術者である私が?
いや、私のことはこの際置いておくとして。
気になったのは、そう。
熟達するスキルに、目指すべき方向性というのは存在するのか、という疑問。
私は魔力調律を駆使することで、一時的にではあれどスキルレベルを、理論上最大と言ってもいいレベルにまで引き上げて行使することが出来る。
の、だけれど。
「? なにさ、どうかした?」
「……ちょっと考え事してる……」
首を傾げるモチャコには悪いけれど、私は更に思考を深めていく。
私は確かに、魔力調律で一気にスキルレベルを引き上げることが出来る。
けれど、そこには一つの疑問があった。
それというのは、
『果たして普通に努力しレベルを上げたスキルと、私の再現するスキルの間に、差異は生じないものなのだろうか?』
という疑問。
私独自の考えにはなるけれど、スキルレベルというのは『魔力のカタチ』と密接な関係にあるのだと思う。
数多あるスキルには、それぞれ原点となる魔力のカタチがあり。
人がスキルを使う際、MPは自動で魔力へ変換され、変換された魔力は発動したスキルに応じ、これまた自動で魔力のカタチを変化させる。
変化した魔力はスキルの原点に近しいカタチへ変わるが、完全に再現することは困難で。
原点に近ければ近いほど、スキルを行使する際に魔法の威力は上がり、消費MPも低減する。
原点にどれ程近づけたか、というのがつまりは『スキルレベル』であると私は認識しているわけだ。
スキルは使い込めばその分だけ、原点のカタチを再現しやすくなる。それが、スキルレベルアップ。熟練度の上昇。
だから、魔力調律によるマニュアル操作にて、その原点へと自らの魔力のカタチを寄せられる私は、理論上最高レベルと言っても過言じゃないスキルを行使できる、と。
私はこれまで、そのように考えてきたわけなのだが。
しかし、本当にそれが全てなのだろうか?
この理屈で言うと、最終的に一つのスキルを突き詰めた者は、みんなおしなべたような性能に行き着くはずだ。
威力も消費MPも、発動速度や連射性、射程に軌道と、あらゆる項目が均一であるはず。
しかし、もしもそこに差異が生じるとしたらどうだろう。
AさんとBさんを例に出して考えてみようか。
Aさんファイアボールレベルマックス。
同じくBさんファイアボールレベルマックス。
従来の私の考えであれば、この二人のファイアボールはまったくの同性能のはず。
けれど、もしもそうでなかったら。二人のファイアボールに、『異なる特徴』が存在するとしたなら。
それはつまり、魔力のカタチとは『異なる要因』も、スキルの成長に関係しているという事になるはず。
即ち、スキルには成長に伴う進路の自由が認められている、と。
そして魔力のカタチだけを調整する私のレベルマックススキルは、不完全である、って事にもなるのではないか。
そしてもしかすると、これが固定ダメージスキルの超連射に役立つかも知れない。
「ふむ……もしそうなら、誰かに話を聞いてみるのが早いか。ソフィアさん……は、流石にダメだから、イクシスさんかな……」
「わぁ、なんかブツブツ言ってる」
「ガウ」
居ても立ってもいられず、早速念話にてイクシスさんへと連絡を試みる私。
『ごめんイクシスさん、今大丈夫?』
と声を掛けてみれば、ちょうど戦闘中だったらしく。
さりとて、どうやら余裕はあるらしい。話は聞いてくれるとのこと。
ならばと遠慮なく、私は早速今しがた思い至った仮説を彼女へ語ってみた。
そして問う。同じスキルを高いレベルで扱う、異なる二人が、件のスキルに違った個性を発現させた例を知らないだろうかと。
すると、少しの間。の後。
『おお、言われてみれば確かに、そういう例もあるな。サラのやつとクマちゃんなんかは良い例かも知れん』
『って言うと?』
『サラのスキルはやたらと出力が大きくてな。火力が凄まじい』
『サラステラさんらしいね……』
『一方のクマちゃんは、テクニック重視だな。出が速かったり、コントロールに長けてたり』
『!』
『二人のじゃれ合いなんかを見てると、その辺は顕著だぞ。同時に出したスキルが、正面から相殺し合う場面のほうが稀な程だ』
有力な情報であった。
私はイクシスさんにお礼を告げると、早々に念話を切り。
そして更に思考する。
思った通り、スキルの熟達にはどうやら術者の個性や理想が反映されるらしい。
パワー重視であるサラステラさんのスキルは、最大火力特化って特徴を得て育っていくみたいだし、テクニックに重きを置くクマちゃんのスキルは、出の速さや扱いやすさに秀でた成長を遂げるらしい。
ってことはつまりだ。
「連射性を重視してスキルを使い込んで行けば……?」
上手く行けば、連射に適した成長を遂げてくれるはず……!
だが、果たしてどの程度性能の改善が見られるものか。そこはちょっと気がかりだ。
ちょっぴり連射性が上がった程度じゃ意味がないもの。出来れば劇的な連射が可能になれば言うことなしなんだけど。
いや、だとしても。
「それでも、他のスキルと遜色ないダメージを叩き出すには、まだ弱いか……」
想定しているスキルが初級のものであるせいもあるのだけど、だとしても、可能な限り高いDPS(単位時間あたりの火力)を目指したいじゃないか。
そのためにはきっと、単純にスキルを育てるだけじゃ足りないのだろう。
「もっと何か……何か工夫をしなくちゃ……」




