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ゲームのような世界で、私がプレイヤーとして生きてくとこ見てて!  作者: カノエカノト


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第五九六話 苦い経験値

「匂います匂います。こっちの方向から、隠れ潜んでいる人の気配がしますぞ~」


 私がそのように小声で宣い、武装した男たちを先導したなら、皆ヒソヒソと声を潜め、足音と気配を必死に殺しながら後ろをついてきた。

 そうして私は現在、ベイダの町の中をあっちこっち移動しながら、マップを頼りに生き残りの人を探し回っている最中だった。

 それというのも。


 モチャコたちと一旦別れた私は、ベイダの町近郊へとワープにて飛んだ。

 その後、ベイダ周辺にて警戒に当たっていた人たちにコンタクトを取り、協力を申し出たのである。

 慣れない弁を必死に振るい、自身を『気配探知の達人』であると頑張って売り込み、なんなら町の入口から最も近い場所に身を潜めている人の居場所を言い当てる、というパフォーマンスを披露したことにより、苦労しつつも信用を獲得。


 結果、どうにか数人の人手を借り受け、逃げ遅れの救出作戦、及び町の中の調査という任を請負って、ベイダ入りを果たしたのである。

 そうしてそこからは、大活躍を演じているというわけだ。


「おお、本当に居たぞ!」

「これで何人目だよ?!」

「凄いなあんた!」


 だなんて称賛の声を浴びながら、私たちはテンポよく救出作業に従事したのである。

 すると。


『ミコト、言われた通り逃げ遅れた子どもたちを一箇所に集めておいたよ! ついでに一緒に居た大人もついてきてるっぽい。見えないけど!』

『グラグラ!』

『おっけー、ありがとね。それじゃ私も今からそっちに向かうよ!』


 別行動で子供の救出に動いてくれていたモチャコとゼノワ。

 彼女らは、親とはぐれたり、或いは親や保護者と一緒に隠れていた子どもたちを拐かし……じゃない、誘導して、一つ所に集めてくれたのだ。

 これなら子どもたちの不安も緩和できるだろうし、探し回る手間も省ける。


 未だカオスラットが町の何処かに居ると強く警戒している皆を引き連れ、私は不自然にならぬようコソコソと居もしない脅威から隠れるように移動しながら、

「こっちで~す、こっちから複数の人の気配がしま~す!」

 と、何とも安定しない口調で皆を先導しつつ、モチャコたちとの合流ポイントへ向かうのだった。



 ★



 結局、そうした救助作業にはまるっと二日を要した。

 ただでさえ仮面をしていて怪しい上に、身バレを恐れての下手くそな演技。

 よくもまぁそんな奇妙な人物を信用したものだと、感心とも心配ともつかない気持ちを懐きつつ、私はいよいよ皆へ向けて、こう述べたのだ。


「おかしいでゲス。この二日間、町中を歩き回りましたが、問題のモンスターが何処にもいやせん! あちしの気配センサーにさっぱりと引っかからんのです! っちゅーか多分、既にこの町にはいませんぜ! あと、逃げ遅れてる人ももういやせん!」


 二日間で、ブレにブレまくった口調は、とうとう奇天烈なものへと変貌を遂げてしまったけれど、まぁ今更である。

 皆には見えていないけれど、頭上ではバカにするようにゼノワがベシベシ頭を叩いてくる。やめなさい。

 モチャコに至ってはゲラゲラ笑ってるし。


 するとそんな私へは、当然の疑問が寄せられ。

「ほ、本当に逃げ遅れた人や、動けなくなってる要救助者はもう居ないのか?!」

「モンスターが居ないだって?! なら一体何処へ行ったっていうんだ?!」

「デタラメを言ってるんじゃないだろうな!?」

 これだから、人と関わるのは面倒なのだ。


「残念ながら、あちしにはその……亡くなった方までは見つけてあげることが出来やせん。もしかすると何処かから何方かのご遺体が見つかる可能性はありやすが、現時点であちしの気配センサーに引っかからないということは、既に……。それと、モンスターに関してはあちしに訊かれてもシリヤセン! デタラメだと思うなら、後は勝手にしてくださって!」


 言って、私は口を閉じて下がった。

 これにてボランティアは終了である。後の復興だの何だのというのは、流石に私の出張る分野ではないので。

 まだ何か言いたげな人たちを無視して、私はそそくさと人の輪から抜けたのだった。


 正直、カオスラットとの戦闘なんかより、こういった事後処理のほうがずっと面倒だし疲れる。

 けれど、得てして脅威には被害がつきもので、冒険者への依頼の裏側には、いつだって大なり小なりこういった面倒が寝そべっているのだ。

 今回は存外、そういった部分に触れる良い機会だったのかも知れない。

 まぁ、あまり嬉しくはないけれど。



 そうこうして気配を殺し、人気のない場所まで移動しつつ、モチャコたちと念話を交わす。

『それで、ヨシダちゃんについてはなにか分かった?』

 モチャコへ向けてそのように問うてみれば、思いがけず良い返事があった。

『ふふん! もっちろん!』

『ガウ!』

『え、ホントに?!』


 何せ人間とは子供としか交流の持てないモチャコである。

 おまけに今回は、トラウマ級に酷い出来事を体験した、逃げ遅れの子どもたち。

 そんな彼らから情報を聞き出すというのは、さぞ困難を極めるだろうと望み薄に思っていたのだけれど。

 さりとてモチャコからの返事は、想像以上に明るいもので。

 改めてその内容を問うてみれば、彼女は詳細を語ってくれたのだった。


『実は子供たちの中に、ヨシダちゃんと仲の良かった子が居てね。色々と話を聞くことが出来たんだ!』

『! そっか、同じ町の子だもんね。そういうこともあるか……それで、その子はなんて?』

『うん、実は……』


 正直、ちょっと訊くのが恐くもあった。

 だってそうだ。ひょっとするとこれより語られるのは、聞くに堪えない悪い情報かも知れない。

 もしそうなら、折角頼ってくれたウエダちゃんに、なんて報告していいか分からない。

 それを思うとどうしたって、モチャコの言葉には身構えてしまう。


 が、しかし。


『ヨシダちゃん、カオスラットが現れる前に引っ越していったみたい。何処に引っ越したのか、場所までは分かんなかったけど、でも無事なのは間違いないと思うよ』

『!』

『ガウガウ!』


 あっけらかんと語られたそれは、朗報だった。

 正に私の懐いていたものは、杞憂だったというわけだ。

 しかし、まさかの引っ越しである。


『あぁ……でも、考えてみたらそっか。ウエダちゃんへの手紙が途絶えたタイミングとカオスラットの出現タイミングを考えると、確かに……』


 タルファの町に住むウエダちゃん。

 文通をしているヨシダちゃんへ手紙を書いて送ったなら、普段は大体二週間ほどで返事が届くのだと言っていた。

 けれど今回は、一月を過ぎてもそれが届かなかったと。

 そして代わりに届いたのが、隣町がモンスターに襲われたという噂。


 私たちは、ヨシダちゃんがその事件に巻き込まれたんじゃないか、と懸念していたわけだけれど。

 しかしあのカオスラットが、そう何日も町に生き残りを許しておくとも思えない。

 現にボランティアの最中聞いた情報によれば、奴が現れてから約一週間ほどしか経っていないと言う。

 なれば、ヨシダちゃんが手紙を返さなかった、返せなかった理由はカオスラットの他にあると考えるのが自然だろう。


 そしてつまるところ、それというのが『急な引っ越し』と考えると、辻褄が合うのではないだろうか。

 予めその予定を把握していたなら、前もって手紙にその旨を書き記しておくだろうし、それが出来なかったというのはつまり、それだけ引っ越しが急だったということの証左に思える。

 まぁ、これ以上は根拠不足で推測にしかならないからやめておくとして。


 兎にも角にも、ヨシダちゃんはどうやら無事らしい。それだけは間違いないだろう。

 ただ、引っ越しの途中で面倒事に巻き込まれていないとも限らないのが、この世界の常なのだけれど……。


 ……ん?

 面倒事って言ったら、この前モンスターに襲われて立ち往生していた馬車を助けたような……。

 いや、まさかそんな偶然なんて無いだろう。


 何にせよ、取り敢えず後はこの件をお手紙にでもしたためて、ウエダちゃん宛に送れば依頼達成である。

 報酬は先払いで貰ってるからね、その点はしっかり報告義務も果たさないと。

 とは言え、ベイダの町のギルドが営業を再開するまでには、今暫く時間がかかりそうである。

 となると、適当な町に寄ってギルド便を利用するっていうのが確実だろうか。

 いや、一番確実なのは一旦報告をしに、タルファの町へ戻ることなんだけどさ。

 流石に、目指すべきグランリィスとは反対方向のタルファへ引き返すのは、正直憚られた。



 時刻は午前一〇時過ぎ。天候は程良く晴れ。

 ボランティア活動中、特に良くしてくれた女冒険者さんにヒラヒラと手を振り、私たちはコソッとベイダの町を離れた。

 モチャコは何気に子供たちへおもちゃを配っていたし、ゼノワはゼノワで瓦礫の下に埋もれた遺体の場所を見つけてくれたりもした。

 ボランティアをしている時から、残留した毒や疫病の発生については警戒を促していたため、その点も心配はいらないと思う。解毒系スキルを持った人も何人か居たしね。

 私たちにやれることは、出来る限りやったつもりである。まぁだからといって、完全に安心できる状態でないのは当然なのだけれど、しかしあとは残った彼らに委ねるべきだろう。

 段々と小さくなっていくベイダを時折振り返りながら、私たちは寄り道を終えたのである。


 突発的な事件ではあったけれど、学びもあった。

 勿論、もっと早くベイダに到達できたなら被害を抑えられたんじゃないか、とか、もっと上手な立ち回りがあったんじゃないか、なんて思うこともある。苦い気持ちだ。

 それでも、これもまた糧になっていくんだろう。人生の経験値、というやつだ。

 私たちは得難い経験を胸に刻みつけ、そうしてグランリィスを目指す旅を続けたのだった。

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